嫌顔告白 作:嫌告ξ紳士
四条帝は全国模試で常に一位を取る、日本で最も賢い少女である。
しかしそんな彼女だが、この私立秀知院学園に入学したのは高等部からだった。
双子の姉である、四条眞妃は幼い頃から秀知院に通っていたが、なぜ四条帝は高等部から入学したのであろうか? それには深いわけがある……。
中学校の頃。
彼女、四条帝はバレーボールが好きであった。
地元の友人とそれをするのが一番だった彼女は、成績を武器に、親を説き伏せて地元の公立中学校に通っていた。
帝は毎日朝早く起き、少しランニングをしてから登校し、放課後は部活に励んでいた。
時に体育館を駆け回り、時にコートに転がるボールを追いかける。
あざだらけの膝を笑い合う仲間たちとの時間は、彼女にとってかけがえのない思い出。
それほどまでに、彼女はバレーボールに情熱を注いでいたのだ。
だが……ある時からだろうか。
四条帝はバレーボールよりも、”とあること“が気になるようになり始めた。
それは、姉が帰ってくる度に、自分へと話し続ける“彼”の存在である。
「それでね?帝。彼ったら私とバッタリ出くわしてからこう言ったの『今日はイイ天気だね』って」
「それはもう何度も聞いたよ、姉さん。アレでしょ? その後、“彼”は姉さんの肩をサッと触ってきたってやつ」
「そうそう、それでね!」
「はぁ……“また”無限ループだよ」
「何か言ったかしら?」
「い、いえ何も」
あの冷静沈着だったはずの姉が、何度も何度も熱心に語ってくる、謎の“彼”の正体……それにとても興味が惹かれたのだ。
「あんたもコッチ来ればいいのにねえ」
姉の口振りはいつもどこか楽しそうで、妙にうきうきとした調子が見てとれる。
帝はそんな姉を横目で見ながら、次第に自分の胸の奥底がもやもやとするのを感じていた。
その時、四条帝は決心した。
高校からは秀知院に通うことにしてみよう、と。
彼、彼、彼、彼、彼、彼、彼…………彼。
”彼“を知るために――。
□■□■□
目の前の少女は、知る人ぞ知る、天才。
名門・四条家の令嬢であり、成績も全国一位。
そして高等部から入学してきた彼女……。
『四条帝』
そんな才女は、初対面のこちらに対して紫紺の瞳を向け、こんな提案をしてきた。
「この後、一緒にテスト勉強でもしない?」
こんな美人に口説かれてしまえば、男という性の生き物はうんと頷く他ないだろう。
ゆえに、了承する。
「良かった……。姉さんがお世話になっているみたいだから、お返しがしたくて……ね」
姉さん、とは四条眞妃のことであろう。
二卵性の双生児ながら、彼女とその姉は特徴を良く共有しているようだ。
ただ、姉と違うのはその豊満な双丘を抱えていらっしゃるということで……また、ポニーテールであるという違いも特徴的だ。
帝の身長がスラリと高いのも、『中学校の頃にバレーボールを』と自己紹介していたことに、きっと由縁するのだろう。
事実、それは合っていたようで。
「ふふっ、ボクがバレーボールをしていたって自己紹介……覚えていてくれたんだ。嬉しいよ」
皆さん、考えてみてください。
目の前の美少女から、「嬉しい」と言われた時の私の表情を。
……それは、きっとひどく喜んでいて。
まるで犬が元気に尻尾を振るようであったに違いありません。
「じゃっ、図書館に行こうか。二人で一緒に!」
---
そして、図書館にて……新学期ということもあり、人はさほど多くない。
そんな中、男女二人が仲睦まじく勉強をしている姿があった。
「じゃあ、ここから始めようか。君、数学が苦手なんでしょう? 姉さんがよく言ってたよ」
こちらの情報が、その姉さん経由で漏れていたことに、苦笑いを浮かべるしかない。
ともかく、帝は微笑みを浮かべながら、参考書を静かにめくった。
参考書をめくるとき、彼女は細い指先でページの端をそっと押さえた。
その動作はまるで本を愛でるように丁寧で、几帳面な一面を垣間見せていた。
男も視線を参考書へと落とし、帝の指先が問題文をなぞるのを見つめる。
「ここ、この式の変形がコツだね。難しそうに見えるけど、一度覚えたら簡単になるよ」
彼女の説明を必死に聞きながらも、すぐそばにあるその繊細な指先や、真剣な横顔に、ついつい意識が向いてしまう。
「ん、どうしたの? ボクの顔に何かついてる?」
四条が不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。
とはいえ素直にハイ見惚れていましたなんて言ってしまえば、唐突すぎてドン引きものだろう……ゆえに彼はこう答えた。
——教えるのが上手だな、って思って。
「ふふ……ありがとう。君は、本当に素直だね」
ニコッと華咲く笑みが送られる。
普通の男ならばここで卒倒していたことであろう……。
しかし大丈夫、長男だから耐えられた。
すると、今度は帝が男に質問してくるように言った。
「君ってさ、姉さんと仲がいいんだよね?
……じゃあさ、ボクと姉さんだったら、どっちの方がイイと思う?」
唐突――!
まさかにして究極の質問、当人を前にしての審判。
目の前の美少女から、その姉との比較を急に求められるなんて、予想外の出来事である。
頭の中で無難な選択肢がいくつか思い浮かぶものの、つい困惑してしまう。
「ねえ……どっち……?」
紫紺の瞳が男を覗き込んでくる。
初対面にしては距離感が近すぎて無防備じゃなかろうか。
というか、若干怖い……全てを掌握されているかの感覚だ。
「ふふ、冗談だよ。でも、君の反応、面白かったな」
彼女はそう言って参考書に視線を戻した。
……恐るべし、男を翻弄する美女。
勉強が進むにつれ、帝の態度に変化が現れ始めた。
彼女は時折、参考書から目を離すと、チラチラと見つめてくる。
「ねえ、君ってさ。姉さんとどんな話をしているの? ボクのこと、話したりする?」
紫紺の瞳が再びじっと見つめてくる。
「例えば、ボクがどんな娘かとか、好きなものとか……君、ちゃんと聞いてるよね? 興味ないなんて言わないでよ?」
その視線は柔らかくもありながら、どこか探るような鋭さを含んでいて、初対面のこちらには少しばかり圧倒的だった。
とはいえ、四条眞妃から、その妹の存在について知らされたことはある。
「ふーん、そうなんだ。姉さんってボクのことちゃんと君に教えてたんだね」
弧を描くような笑みが、美しくも恐ろしい。
すると、彼女がまた口を開いた。
それは驚くべき発言で、信じられないものであった――。
「じゃあさ、ねえ……。君、ボクの彼氏になってみないかい?」
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「ねえ、どう? ボクの彼氏の席、空いてるよ?」
四条帝は微笑みながら言った。
紫紺の瞳が男を捉え、逃がさない。
声は柔らかく、重い。
「姉さんが君のことよく話すんだよね。ボクと一緒の時も」
その言葉で意図が明らかになる。
帝の視線は穏やかさを装い、狂気を帯びていた。
「彼氏になってくれれば、君はボクを好きにできる。だから、どう?」
帝は参考書を閉じ、微笑んだ。
動作は丁寧だが、執着が隠せない。
彼女の目的はシンプルだ。
姉が“彼”を語るたび、歪みが膨らむ。
姉の話題は自分だけでいいと信じている。
帝は手を握ってくる。
冷たく熱い感触がひんやりと伝う。
「君がボクの彼氏なら、姉さんは君を絶対に口にしない。ボクが君を独占するからさっ!」
甘い声と鋭い瞳が脳裏を貫く。
そして耳元で囁かれた。
それは蕩けるような、溶けるような誘惑的な声で……。
誰しもが頷いてしまうような温かさ。
「……君は、ボクの彼氏になりたいよね?」
男は、それに対しつい。
首肯をして……して……しなかった。(迫真)
□■□■□
四条帝は、まさか“断られる”などという展開を想定していなかった。
だからこそ、思わず言葉が詰まったのだろう。
声はかすれ、珍しく焦りを滲ませていた。
「え? はっ……? ど、どういうことだい?」
それは、先ほどまで余裕たっぷりに笑みを浮かべていた彼女とは明らかに違う声色だった。
紫紺の瞳に一瞬だけ取り繕えない動揺が走り、テーブルに置いたままの手がかすかに震える。
図書館の空気が一気に張りつめるようであった。
ほとんど人影のない静かな空間で、彼女の呼吸音だけがやけに耳に届く。
帝は、ゆっくりと視線を落とす。
目の前の光景が受け入れがたい事実であるかのように、数秒を置いてから、再び顔を上げた。
「断る、なんて……。ボクが言ったこと、ちゃんと聞こえてなかったのかな?」
細い指先が、先ほど閉じていた参考書の表紙をトントンと叩く。
言葉自体は軽やかだが、その声音はまるで相手の返答の真意を探るように鋭い。
「……もう一度、言うよ。君は、ボクの彼氏になればいい」
とりつくろうような、しかし強引に結論へ導こうとする口調。
帝はそう言いながら、目の前の男の表情を見据える。
だが、返事は期待しているものではなかった。
――いや、無理。
図書館の奥まった席に取り残されるような静寂が訪れる。
帝は唇を一瞬きゅっと噛むと、椅子から立ち上がった。
そのまま、男の横に回り込む。
「ねえ、“どういうこと”か教えてよ」
彼女はできるだけ笑みを作ろうとしているようだ。
しかしその瞳は笑っていない。
薄く色づいた唇がわずかに震え、しかしそれもすぐに抑えつけられる。
賢く振る舞ってきた彼女にとって、拒絶はあまりに異質。
その混乱が彼女の中で、少しずつ黒い感情を煮え立たせているかのようだ。
彼女は必死に感情を抑えようとしていた。
こんなはずではなかった。
自分の魅力に自信があったのに、目の前の男はまるで興味を示さない。
焦りが胸を締め付け、思考が乱れる。
――正直にいって、君自身に興味はない。
男のその言葉に、彼女は顔をしかめる。
「じゃあ、何になら“興味”があるのかな?」
彼女は声を震わせないように気をつけながら、できるだけ冷静を装って尋ねた。
…………。
男は無言で彼女を見つめ返し、その沈黙が彼女の焦りをさらに煽る。
「言わないと、みんなに君のことを、暴漢だって噂を広めちゃうよ?」
脅しとも取れる言葉を口にしながら、彼女は内心で自分の行動に戸惑っていた。
こんな手段に訴える自分を恥じつつも、止めることができない。
――それは困るな。
男の返答は淡々としており、彼女の脅しにも動じていないようだった。
「なら、教えてくれるよね? 君の望みを。そしたら、ボクがそれを何でも叶えてあげる」
彼女は藁にもすがる思いで、男の望みを引き出そうとした。
どんな望みでも叶える覚悟を決めていた。
――うーむ。
男は少し考え込む素振りを見せ、帝の心臓は高鳴った。
「早く教えて!」
焦燥感に駆られ、彼女は声を荒げた。
――ええ……(困惑)
男の声に困惑の色が混じる。
少女は、最終手段に出ることにした。
彼女は唇を噛み、一つの決断を下した。
もう後戻りはできないと自分に言い聞かせた。
「ごーお、よーん」
彼女はカウントダウンを始め、男を追い詰めるように声を張った。
――うぅん……。
対する男は、小さく唸り、答えを出すべきか迷っているようだった。
「さーん、にー」
彼女の声はさらに切迫感を増し、男に考える暇を与えなかった。
――仕方ない。こんな形では望みたくなかったが……。
男は諦めたように呟き、観念した様子を見せた。
「いーち、ぜーろ」
少女のカウントが終わり、緊迫した空気が二人を包んだ。
「で……答えは?」
……
……
……
――下着だ。望みは下着だ。
男は淡々と言い放ち、彼女の予想を裏切った――。
「え? 嘘だよね?」
――本当。
男は冷静に頷く。
「もしかして本気?」
帝は半信半疑で問い返した。
頭の中が混乱で一杯だった。
――まさか、本気だ。
男の声には確信が宿り、冗談ではないことを示していた。
「下着って……その?」
彼女は恐る恐る確認した。
言葉にするのも恥ずかしかった!
---
――はい、こっちの番。ごー、よーん。
男は突然カウントダウンを始め、彼女に主導権を握り返した。
「ちょ、ちょっと待って待って!」
少女は慌てて手を振って制止しようとした。
状況が予想外に進みすぎていた。
――さーん、にー。
男は彼女の叫びを無視し、淡々とカウントを続けた。
「す、ストーップ!」
彼女は必死に声を張り上げ、男の言葉を遮った。
が、しかし。
――いーち。
ZERO
□■□■□
男の声が無常にも響き、彼女は息を呑んで立ち尽くしていた。
まるでフリーズしたかのように停止した。
だが、突如壊れた人形のように笑い出す。
「はははっ、あーはははっ!」
四条帝の笑い声が図書館の静寂を切り裂いた。
彼女は一瞬、感情を爆発させた後、ゆっくりと呼吸を整え、目の前の男を見据えた。
「君って本当に面白いね。まさか、そんなことを望むなんて!」
帝はそう言いながら、スカートに細い指を掛けた。
彼女の動きは優雅でありながら、どこか計算されたような冷たさを帯びている。
布を掴む指先がわずかに震えつつも、彼女は決意を固めたようにスカートを徐々にたくし上げ始めた。
「いいよ。君の望み、叶えてあげる。でも、覚悟はできてるよね?」
彼女の声は甘く響きつつも、その底には蔑むような鋭さが潜んでいた。
帝は一歩近づき、主人公の顎を細い指先で軽く持ち上げた。
その動作は優雅で、まるで王が空間を支配するかのように威圧的であった――。
「ほら、見て。君が望んだものだよ」
○彼のことを知りたく知りたく…知りたくて。
○○○姉の言う彼とは何かが知りたくて、
○○○○○この目に彼を焼き付けたい。
○○○○○○理想郷は深い藍の色。
○○○○○○○ヤンデレ四条帝
「ねえ、考え直して。やっぱり君、ボクの彼氏になってよ?」
その時だった――!
図書館にいた、生徒二人が帽子を外しその正体を表す‼︎
「はい、アウトーっ! 帝、何やってるのよ⁉︎」
「四条帝さん、少し……お話があるようですね」
―END―
藍を知りたい……普通だな!