嫌顔告白 作:嫌告ξ紳士
彼女……石上優♀は元不登校である。
陰気な性格が原因で一部の生徒に虐められていた経験がある。
女生徒に水をかけられるなど、嫌がらせを受けていた。
だから、一度だけ胸ぐらをつかんで押し倒して、やり返したやったのだ。
だが不運なことに、それは仕組まれていて、現場をばっちり撮られていた。
それを逆に問題行動として学校側に提出されてしまい……。
ついには、石上は逆に停学処分となってしまったのだ。
反省文を書けと担任に言われる中、石上には確固たる拒否感があった。
長らく引きこもり、自分の殻に籠る生活の中……。
そんな時——。
なんやかんやあって、現生徒会メンバーに彼女は救われた。
自分が悪くないのだと、学校側に証明してみせてくれたのだ。
そして今、石上優は生徒会会計として、己を助けてくれた人たちと共に仕事をしている。
それは幸せで、やりがいのあるものだった――。
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ところ変わって、自室内。
石上は、とある男と二人でボイスチャットを繋いでゲームをしていた。
男……彼は、彼女にとって救い人であった。(前述の通り)
共通した趣味を持つ石上と彼は、現在。
h○i4という第二次世界大戦を舞台とした、戦略型シミュレーションゲーム。
そのマルチプレイをしているところである。
「あっ、先輩。今回は枢軸国の史実プレイでいきましょう」
男がイタリアを選び、石上はドイツを選択する。
時間が進み、国家方針を順々と取得していき、戦力を蓄えていく。
「先輩、ちゃんと国粋スペインに義勇軍送って経験値稼ぎしといてくださいね」
「今のうちに国家方針でベルギーに宣戦布告の準備しときます」
「あっ、先輩! パリを落とせましたよ‼︎ これで後はソ連とイギリスだけですね」
ゲームで互いに協力していき、どんどんと進めていく。
「ギリシャの方は片付きそうですか? 援軍が必要なら言ってくださいね」
「先輩、シチリア島付近にイギリス軍がうようよしています。上陸されても大丈夫なよう、しっかり防衛線張っといてくださいね」
「ついにソ連に戦線布告しました。制空権をとってモスクワまでゴリ押して、速攻でカタをつけてから対米戦に備えましょう」
さらに数時間が経ち……。
「やった! イギリスを落としましたよ‼︎ 後は制海権を取ってアメリカに上陸するだけです」
「流石にアメリカは硬いですね……でも、この機甲師団の編成と、ドクトリンでなら突破は用意なはずです。先輩は、下の方から上陸して、後で私と合流しましょう」
「ふぅ……やっと講和会議に持ち込めましたね。これで終わりです」
無事、彼と石上の共同作業(プレイ)は、うまく行ったのであった。
そして夜も遅く、休憩時間。
互いにスナック菓子や飲料を飲みながら、ボイスチャットで雑談をする。
先ほどのゲームについて語ったり、日常会話をする。
まるで仲睦まじい兄妹のような姿は、ある種、理想の極地といえるだろう。
「そういえば……最近学校で噂になってますよ、先輩」
噂……? とは何のことだろうか。
素直に聞き返す。
「その……先輩が二股、いや……四股をかけてるって噂です」
男は驚いたような声をあげた。
二股、四股とは……このままでは、いずれ八岐大蛇に進化するに違いない。
根も葉もない噂だろう、多分。
「そうですよね。先輩がそんなことするはずがありませんもんね」
「噂ってすぐ広まりますから……私の時みたいに」
おっと、少女を暗い気持ちにさせてしまったようだ。
大丈夫、大丈夫、と、相手を安心させる。
「いいんです。もう気にしてないんです。あの時は先輩方が……守ってくれましたから」
あの時――とは、石上がイジメられて引き篭っていた頃の記憶だろう。
引きこもる彼女を前に、生徒会が石上の無実を証明し、その後イジメの主犯格が“飛ばされた“話は、今では懐かしいものである。
「まあまあ、こんな辛気臭い話はやめましょう」
思い出に浸っていたら、彼女がやめだやめだやめ! と話を早々に切り上げる。
とはいえ……ゲーム中に日常会話も尽きてしまった。
何か、他に喋ることはあるだろうか……?
すると、石上の方からこちらに話題を振ってくる。
「そういえば……先輩って本当は誰が好きなんですか?」
恋愛話、それは多くの女子にとって格好のネタである。
それは彼女自身にも当てはまるようで、怒涛の質問を開始してきた。
「四宮副会長ですか? 先輩、いつも声をかけられては頼み事全部聞いてますし」
「または四条……眞妃先輩ですか? あの人といつも暇さえあればお茶してますよね」
「もしくは、いつも先輩にストーカーしてる帝先輩ですか? ちょっと怖いですけど、実は恋心があったり?」
「それとも……やっぱり“会長”なんですか? 会長、先輩とは幼馴染って言ってたし……」
滝のような激しい量の問い。
それになんと答えるべきか……数瞬と思考を回らせる。
しばらくして……。
そして、これらを全てはぐらかす妙案が思いついた――!
――月が綺麗ですね。
「え……先輩、それって夏目漱石のやつですよね? でも……今日は新月ですよ?」
――君の顔が見えなくとも。
しばらくの間、石上はポカンとしているようだった。
マイクはミュートされたかのように、静まっている。
そして、その意味に気付いた時……。
「っ……恐ろしい! これが先輩の口説きのテクニックってわけですか!」
石上優は声を恥ずかしげに振るわせながら、そう叫んできた。
ただ、これは冗談じゃない。
憎からず、後輩を大切に思っているからこそ出た……本心だ。
笑いながらそう言って見せると。
「………………」
少女は黙ってしまった。
今頃、マイクの向こう側では、どのような表情をしているか。
それが容易に想像つくというのが、何とも可愛らしい。
――マイクテスト。マイクテスト。
からかうように、相手に応答確認をした。
すると、石上は拗ねたような声で、こう言ってきた。
「本心なら、私のお願い。少しだけ聞いてくだださいよ、先輩」
“お願い”とは珍しい。
彼女の方からこのような提案をしてくることは滅多にない。
生徒会会計として黙々と作業をこなす彼女。
そんな雰囲気ではなく、もっと子犬のように緊張した感じであった。
「先輩って最近鍛えてるらしいじゃないですか」
うむ、確かに最近は腕周りから背中にかけて負荷をかけている。
これも、ゲームや勉強をしていると凝ってくるからだ。
「その写真……少し送ってもらえたらなって」
その写真――つまり筋トレ、筋肉の風景を意味する。
これから導き出される結論は……。
少女、石上優は筋肉フェチである――!
「や……その、嫌だったら別にいいんですけどね……」
暗い声で落ち込んだように、そう言われてしまえば断るのは漢の恥。
ゆえに、ピロン♪ と石上とのチャット欄に写真を一枚添付して送信した。
「……ッ!」
スピーカーから彼女の息を呑むような声が聞こえる。
その吐息は少しえっちだった。
もちろん、こちらの肉体美もえっちだが。
しかし残念……彼女が“とあること“をこっそりしようとした瞬間――。
「え、保存してなかったのに!……って、あっ……」
石上が声をつい心の声を漏らしてしまったとでも言いたそうに、声が尻すぼみする。
……
……
……
だが、少し時間が経ち……意を結したのか。
「お、お願いします先輩。もう一度だけさっきの写真を……?」
と、儚げな声でそう懇願してくる。
世の男たちなら、その声を聞いた瞬間はいどうぞ、と願いを聞いてしまうだろう……が。
ふふふ、こちらは、そう簡単には餌をあげることはしないのだ。
――なら、条件がある。
それは、
石上優【フェチズム】に、
―――嫌な顔されながらおパンツみせてもらいたい。
□■□■□
「えっ……マジで言ってるんですか?」
困惑したような、蔑むような声がスピーカーから流れる。
だがその声には、どこか期待したような雰囲気も混ざっていて。
男は、“交渉”を始めるのであった。
――嫌なら別にいいが。
この言葉に、石上優は悩む、とても悩む。
自身の下着と引き換えに、先輩の筋肉の写真を保存することができる……!
しかし、女子としてのプライドがそれを邪魔する。
(くっ……でも先輩の筋肉はみたい)
悩んでいると、男がふふっと囁いてから。
……追加条件を提示してきた。
――今なら三枚特別に送ってやろう。
「さ、三枚⁉︎」と、彼女は驚愕する。
筋肉フェチである彼女にとって、先ほどの一枚に加えてさらに二枚が追加されるなど、涎が出てしまうほどの好条件だ。
(魅力的……うっ、でも女の子なのに普通そんなことをしていいのか……?)
葛藤する石上。
それは、過去にイジメで己と向き合った時よりも、更に己と対話していた。
(どうする、どうする、どうする、どうする……)
そこに、男の魅惑的な提案がもう一段階追加される。
――さらに追加で五枚にしようかな。
(これは――もう⁉︎ いくしかない‼)
石上は決心した。(即決)
己の花の守護者を見せることに。
「……はぁ。わかりました、送りますよ。それで交渉成立です」
呆れたような、がっかりしたような、しかしそれでいて嬉しそうな。
そんな声がスピーカ越しに響いてきた。
石上優――己の先輩の筋肉写真の前に陥、落……ッ!
しばらく、彼女のマイクの方からガサゴソと物音がしていた。
きっと、部屋を片付けている物音だろう。
乙女の部屋を綺麗にしてから、写真を送ろうとしている。
なんと律儀なことか……後輩として誇らしい気分になる。
そして、しばらくして。
マイクがカサっと擦るような音をあげると、少女の声が聞こえてきた。
ピロン♪ という“受信”を示す音と共に――。
「……送りましたよ」
○何もない殺風景な土地に名もなき石がある。
○○○蹴られても決して砕けることなく、
○○○○○芯の硬さを象徴していた。
○○○○○○理想郷は強かな灰色。
○○○○○○○筋肉フェチ石上
「今度は、先輩の筋肉を直接、触らせてください……ね?」
彼女の言葉は、恥じらいと欲望が絡み合い。
まるで熱を帯びた吐息のように、耳をくすぐってきた——。
―END―