ワルキューレ独立装甲師団 〜栄光への軌跡から最後の咆哮まで〜   作:神代リナ

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プロローグ 戦乙女たちの初陣

 1937年5月11日 夕方 スペイン・ビルバオ市

 Side:スペイン共和国人民戦線 一般歩兵"アントニオ"

 

「なぁ、アントニオ」

 

「どうしたんだ?」

 

 俺の名前は、アントニオ。

 今、我が祖国スペインは、ファシストどもの巣窟である国粋派スペインと正統政府たる自由を愛するスペイン共和国側の人民戦線の二つに別れて内戦をしている。

 そして、俺はスペイン共和国人民戦線のいち兵士だ。

 フランコ率いるファシスト共からスペインを守っている……と言えば聞こえはいいが、昔からの友人であるデイビッドと共に今やっている事は土嚢積みである。

 

「ほんとにファシストのヤツらはここに来ると思うか? 偉いさん共は次にここ、ビルバオに来ると読んでいるようだが。アイツら、結局この前マドリードを落とせなかったんだろ? 戦力持たねぇんじゃないのか? それに、俺たちビルバオ守備隊にゃあ国際旅団にソ連のT-26もいる。わざわざコッチに来るのか疑問だぜ」

 

 ふむ、確かにそうだ。

 我々、人民戦線がマドリードを守れた事は記憶に新しいし、ソ連軍から人民戦線に提供されたT-26戦車がドイツやイタリアの戦車より優れているのは敵であるファシスト連中も知っているだろう。

 だが。

 

「俺たちのバックに国際旅団やソ連、メキシコがいるように、ファシストのヤツらにもドイツやイタリアがいる。それに、向こうはコッチとは違って直接支援されてる。だから、戦力は問題ないだろう。それに、マドリードを落とせなかった事で、ファシスト連中は俺たち共和国側の国力を徐々に削ぐ方針にシフトするはずだ。だから」

 

「工業地帯の一つ、ビルバオに来る可能性が高いってか。なるほどな。だが、今月中にヤツらが来る可能性は低いって上が言ってるからしばらくは土嚢積みが俺たちの仕事だな」

 

「ハハッ、間違いない。ま、こういう陣地作成も歩兵の仕事だ。さ、休みは終わりだ。土嚢積みに戻るぞ」

 

「へいへい。だー! 腰がイテェ」

 

 そんな風に駄々をこねつつも、作業に戻ろうとしたその時。

 空から何か音が聞こえた。

 風切り音のような。

 空を見上げるとそこには……。

 

 この街の方に急降下してくる6機の爆撃機の姿があった。

 その翼には黒色の鉄十字のマークがある。

 ドイツ軍の急降下爆撃機(シュトゥーカ)だ。

 

 少しの間、ボーっとしてしまったが、すぐにハッと我に返った。

 そこからの行動は早かった。

 

「ドイツ軍の爆撃だ!」

 

 デイビッドの肩を掴み、無理矢理地面に伏せさせる。

 そのあと、直ぐに何かが落ちてくる音がして。

 その直後、爆音が響き渡る。

 同時に、強い衝撃と風が襲って来た。

 地面に伏せている俺たちの身体にパラパラと小さな瓦礫が落ちてくる。

 どうやら、俺たちのいる場所の隣の道路に爆弾が落ちたらしい。

 だから幸いな事に、俺たちにケガはない。

 

「……イテテ、行ったか?」

 

「あぁ、とりあえず爆撃機は言ったらしいな」

 

「アントニオ、次からは加減頼むぜ? 身体が痛くて仕方ない」

 

「す、すまない。次は気をつける」

 

 にしても、なぜ急にドイツ軍の急降下爆撃機が? 

 俺たちの隣の道にあるのは確か。

 T-26、だ。

 そして、わざわざドイツ軍が今T-26を破壊した理由。

 それは。

 

 ガン、ガン、ガン。

 

 そこまで考えた所で、その爆弾が落ちた道路の方から何か硬いものが壁かなんかにぶつかる音が響いてくる。

 

「なぁ、アントニオ。この音はまさか」

 

「……ありえない、だろ。それは」

 

 ドイツ軍は、国粋スペイン軍と共にマドリードに攻勢をかけた事で戦力が疲弊してる。

 これは間違いのない事実だ。

 ならば、ならば何故。

 

 ガン、ガン。バキバキバキ……。

 

 俺たちのいる道路と向こう側の道路を隔てていた家のうちの一つが倒壊する。

 その勢いで辺りに土埃が蔓延し、視界が遮られる。

 

「ゲホッコホッ、クソッたれが」

 

 しばらくすると、土埃はやみ、この家を倒壊させた元凶が姿を現す。

 黒光りする装甲。

 俺たちの方に向けられている、歩兵にとっては恐ろしい殺戮兵器である2門の20mm機銃は射手がトリガーを引くのを今か今かと待っている。

 そして、車体に描かれている白銀の鉄十字。

 

 白銀の鉄十字か。

 あぁ、聞いた事がある。

 戦乙女たちのみで結成されたドイツの誇る最精鋭にして奇天烈な装甲師団。

 その名は、ワルキューレ独立装甲師団。

 

 戦乙女たちの駆るⅡ号戦車の20mm機銃が遂に火を噴く。

 まずは、デイビッドを蜂の巣にする。

 20mmの嵐を喰らったデイビッドは、身体中から血を吹き出して地面に崩れ落ちた。

 

 そして、その機銃の銃口は最後の標的たる俺へと向けられる。

 死の瞬間、時間がゆっくりと進むとよく聞いていたが、まさか本当とはな。

 

 あぁ、このクソッたれな戦乙女たちに。

 そこで、俺の物語に幕が降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1936年5月12日。

 ドイツ国でナチ党と連立政権を組んでいた政党である大ドイツ銀翼突撃党は、17歳以上の女性を一定数徴兵する事をナチ党首脳陣に提案した。

 大ドイツ銀翼突撃党の当主であるアイリス・フォン・フリューゲルは、強力な労働者としての若い男子を国内に一定数残す事で工業力の低下を防ぎ、より完成度の高い復讐戦闘国家"ナチス・ドイツ"を作り出そうとしたのだ。

 

 当初、ドイツ国総統アドルフ・ヒトラーは、アイリスが旧ドイツ帝国における貴族階級の人間であった事からこの提案を黙殺する予定であった。

 しかし、アイリスの強い説得と国防軍に女性徴兵に対する肯定的な意見が増えて来た事を鑑みて、17歳以上の女性を一定数徴兵するように記されている総統命令を出すことになる。

 

 これは、女性兵士のみで編成された初の装甲師団。

 "ワルキューレ独立装甲師団"の栄光と終幕を記した記録書である。

 ハイル・ワルキューレ! 

 

 著者:イルゼ・ウンシュルト

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