ワルキューレ独立装甲師団 〜栄光への軌跡から最後の咆哮まで〜 作:神代リナ
私たちは、砂漠地帯に行くと見せかけて敵戦車二両を混乱させつつ、高地地帯へと向かっていた。
敵戦車たちはいい具合に勘違いしてくれたようで、私たちは高地で偽装に時間を費やせた。
「よしっ、これで終わりね」
「はぁ、疲れたっすねぇ」
私とイルゼは、Ⅳ号戦車D型に森林地域でもぎ取った葉っぱをいい感じに乗っける偽装工作を終えた。
ふう、結構疲れたわね。
車内が恋しいわ。
「ん、お疲れ」
私の代わりに、キューポラから顔を出して、外の様子を見張っていたアーデルハイトがそう言いながら、車内へと戻った。
はぁ、なんかこの狭い車内が一番落ち着く。
あれ? これは重症なのでは?
そんなくだらない事を考えながら座って一息ついていると、照準器を覗いていたアーデルハイトが口を開く。
「敵、来た。数は2」
その声を聞いてすぐに、私は立ち上がり、キューポラから顔を出して周囲を見渡す。
……いた、アイツらか。
バカみたいにこっちに向かって来てる。
私たちには、気付いてないみたい。
「撃つ?」
既に、徹甲弾は装填済み。
ただ、Ⅳ号戦車の主砲が短砲身なのを考えると、まだ必中の距離とは言い難い。
どうせバレちゃいないんだ。
もっと近づけさせちゃおう。
「まだ。どうせなら近づけて確実に破壊しよう」
「分かった。早く撃ちたいけど、へレーネがそう言うなら待つ」
「うへぇ、我らがスクラップ姫は相変わらず恐ろしいっすね」
「あなたを先にこのP38ピストルで」
「ちょ、ま、怖い、本気で怖いっす!」
アーデルハイトとイルゼの漫才を横目に、私は敵戦車を睨みつけていた。
もうすぐ必中圏内に入るが、敵は二両いる。
Ⅲ号とⅣ号、どっちの方が脅威かしら?
まぁ一応、主力戦車なんだしⅢ号か。
「目標、敵Ⅲ号戦車。
Ⅲ号戦車に命中。
撃破判定だ。
まさか私たちが草に紛れているなんて思っても見なかったのか、最後の一両になってしまった敵Ⅳ号戦車C型は敵を目の前にして停車してしまう。
恐らく、敵Ⅳ号の乗員はテンパっているのだろう。
悪いけど、ここで決めさせてもらう。
「徹甲弾、装填急いで!」
「装填終わりました!」
「よし、アーデルハイト!」
「任せて。外す方が難しい」
最後の砲声が響き渡る。
敵戦車の装甲に何がぶつかる音がして。
敵戦車の正面装甲に、青色のペイントが散らばる。
……ふぅ、勝った。
「や、やりましたよ!」
「よしっ。武装親衛隊の連中に、一両で十分相手に出来ると啖呵切っといて良かったすね! これで武装親衛隊のヤツらを一生鼻で笑ってやれるっす!!」
「私は、いつも通り撃っただけ。実弾じゃないとやっぱ物足りない」
エステル、イルゼ、アーデルハイトが順に感想を述べる。
イルゼ……いつかゲシュタポのお世話にならないかしら?
ちょっと心配。
まぁ、今はいいか。
「みんなお疲れ様! いい動きだったわ! このⅣ号戦車の手入れが終わったら、先に休んでいてちょうだい」
最後に、私がそう言った。
さて、私はこれからこの演習を提案して来た武装親衛隊のボスと話をしてこなきゃならない。
はぁ、気が重いけど、行くか。