RIDER VS ー異形たちの見る夢ー   作:K/K

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仮面ライダーアウトサイダーズ放映記念に投稿しました。
ヒーロー不在のアウトローたちによる戦いになります。


凶気の蛇と傲慢の龍

 その出会いは運命だったのか。偶然が幾つも積み重ねられれば奇跡と呼べる。だが、この出会いを奇跡と称するにはその言葉は綺麗過ぎた。真逆の奇跡──最悪というのが相応しい。

 二人は出会うべきではなかった。出会えば本来辿るべき道が途絶え、新たなる道が切り拓かれる。しかし、その道の先に待つのが破滅だということを誰も知らない。

 二人は如何にして出会ったのか。まずは二人の足跡を辿る必要がある。

 

 

 ◇

 

 

 男は歩いていた。既に朽ちている廃工場が並ぶ人目も人気の無い道を。

 手入れのされていないくすんだ茶色の髪。素肌に直接着用された蛇柄のジャケット。その恰好だけでもあまり近付きたくなくなる印象であったが、男が纏う険呑な雰囲気の前では些細な要素に過ぎなかった。

 男は苛立っていた。目を血走らせ、内包している怒気が今にも爆ぜそうになっている。

 男は警察から追われる身であった。故に警察の目を掻い潜る必要がある。だが、そうやってこそこそと動くことに男は多大なストレスを感じていた。

 歩いていた男の足が置かれてあった一斗缶を蹴飛ばしてしまう。大したことのないように思えたが、一斗缶が派手な音を立てて転がっていく様子に表面張力限界まで溜まっていた怒りが零れる。

 

「うぉらっ!」

 

 獣染みた叫びと共に一斗缶を思い切り踏み潰した。変形した一斗缶を今度は思い切り蹴り飛ばす。彼方まで飛んで行く一斗缶であったが、男の怒りは収まらない。

 近くにあった鉄の棒を掴むと滅茶苦茶に振り回す。

 

「おおおおおおっ!」

 

 壁や放置されていたドラム缶、木、ガラスなど目に映る物全てを手当たり次第に壊していく。加減など一切無い全力の暴力。誰も見ていない場所で一人狂ったように暴れ回る。鉄の棒を握る手が擦り剝けて血が出ようと構わず、周りと自分を壊す様に暴れ続ける。

 やがて少し──ほんの少しだけ気が晴れた男は殴り続けて変形した鉄の棒を投げ捨てた。

 

「イライラする……!」

 

 鬱憤と憤怒に満ちた重い声であった。

 男は狂人であるが、決して愚かでは無い。狡猾さも秘めている。人前に出ればどうなるかは容易に想像が付いている。しかし、だからといってそれで理性が抑えられる訳では無い。この男には知性があるが、それは獣の知性。場合によっては理性や知性など簡単に本能によって覆されてしまう。

 今の現状は男を苛立させるのには十分。次第に零れ出てきた本能がこの苛立ちを解消させようと男を衝動的に動かそうとする。

 

「あ″あ″っ?」

 

 怒気で掠れた声が男の口から出た。視線の先にこちらへ向かって歩いている中年の男がいる。サラリーマンらしく上下スーツを纏い、髪型もキッチリとセットした男と違って身嗜みが整えられた姿。しかし、それも廃工場が建ち並ぶこの場所では不似合いであった。

 サラリーマン風の中年は酔っているのか左右にフラフラとよろめている。そして、男を視界に収めると震える手を伸ばしてきた。

 

「あ……ああ……」

 

 救いを求めるような呻き声の後、サラリーマン風の中年の手から何かが零れた。それは焼けた後に残る灰に似ている。それは手だけではなく顔などの露出している部分からも零れ出し遂には全てを灰色に染めた後、崩れた。

 残ったのはスーツと人一人分の灰の山だけ。

 

「……何だ?」

 

 人一人が一瞬で灰と化したにも関わらず、男の反応は薄い。恐怖という感情は全く無く、軽い驚き程度しか込められていない。

 男は徐に灰の山へと近付き、少しの間見下ろした後、躊躇無く灰の山を蹴飛ばした。

 つま先に返ってくる軽い感触。周囲に煙のように広がっていく様子。紛れもなくそれが灰であると確信する。

 

「どうなってやがる……?」

 

 男はジャケットのポケットに手を入れながら周囲を見回し始める。しかし、男が注目していたのは半壊したガラス窓や水溜りなどの反射物であった。

 

「あれー? 何でこんな所に人が居るのー?」

 

 軽い驚きを混ぜた軽薄そうな声が聞こえ、男は視線を正面に戻す。ラフな格好をした青年がヘラヘラと笑いながらこちらへ向かって歩いて来ていた。

 男はただ青年を睨み付ける。男の態度に気にすることなく青年は喋り続ける。

 

「あれ? 何かどっかで見たような……?」

 

 男の顔に見覚えがあった青年は首を傾げ、数秒間沈黙する。そして、思い出した。

 

「ああっ! あんた、浅倉威だろ! 脱獄囚の!」

 

 男──浅倉威は正体を明かされたが、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「それがどうした? 警察に通報するのか?」

「警察? そんなことしないよ。だって──」

 

 青年の顔に紋様のようなものが浮かび上がる。浅倉はその現象に僅かに目を見開いた。

 

「あんたはここで死ぬんだ」

 

 青年の体が波打つ光に包まれたかと思えば、一瞬で姿が変わる。全身は白に近い灰色となり、頭から背中に掛けて無数の針を生やしたハリネズミを彷彿とさせる怪人。

 

「人間、しかも犯罪者だったら殺してもだーれも悲しまないだろうし、寧ろ褒められるかも。犯罪者なんて生きててもしょうがないでしょ? ましてや、あんたみたいな凶悪犯は」

 

 ハリネズミの怪人の足元に伸びる影に青年の姿が投影され、独善的なことを語る。

 彼は怪人の姿になったことに浅倉が驚くと予想していたが、思いも寄らない反応を示した。

 

「……ライダーか?」

「ライダー?」

「まあ、違うか」

 

 浅倉も万が一という可能性で言ってみたが、案の定相手の反応は違ったものであった。

 

「……何か気持ち悪いね、あんた。オルフェノクを見ても平然としてるしさ」

「お前が何なのかどうでもいい」

 

 浅倉にどうでもいいと切って捨てられたハリネズミの怪人──ヘッジホッグオルフェノクは怒気を強めるが、何故か嬉しそうに、そして獰猛に笑う浅倉を見て悪寒を覚えた。

 人間を相手にしている筈なのに人間ではない何かと対峙しているような気持ちにさせられる。

 

「丁度イライラしていたところだ。お前、俺と戦え」

「戦えって何を言ってるの……?」

 

 今まで襲ってきた人間たちとは全く異なる浅倉の好戦的過ぎる言葉にヘッジホッグオルフェノクの方が困惑してしまう。

 浅倉はヘッジホッグオルフェノクを余所にポケットからある物を取り出す。掌ぐらいのサイズをした長方形のケースらしき物体。中央部分には金のラインで描かれたコブラのレリーフがある。

 浅倉はそのケースを前に突き出す。ヘッジホッグオルフェノクの視点からは気付かなかったが、反射で浅倉の姿を映し出しているガラスの中で銀色のバックルらしき物体が発生し、独りでに浅倉の腹部へ装着される。

 反射物の中で現れた銀のバックルは現実の浅倉にも装着されていた。急に浅倉の腹部にバックルが出現し、ヘッジホッグオルフェノクは驚く。

 

「何それ!? もしかして、ベルト……!?」

 

 浅倉のときと同様に驚きつつも何か心当たりがあるかの反応。浅倉は相手の反応を無視しながら構えに入る。

 右手が円を描きながら掲げられる。左手にはケースが握られ、腰の横に添えられていた。手首が返され、開いた五指が相手へ向けられる。

 

「変身!」

 

 右手が素早く伸び、同速で縮む。あたかも獲物に喰らい付く蛇のように。

 銀のバックルにあるスロットにケースが装填される。中央のレリーフが輝くと前方、左右に三つの虚像が現われ、浅倉と重なる。

 そこには姿を変えた浅倉が立っていた。

 

「あぁ……」

 

 気怠げな様子で首を軽く回す。

 

「偶にはミラーワールドの外での戦いも悪くない」

「な、何だよ、それは!?」

 

 ヘッジホッグオルフェノクは混乱した様子で浅倉だった者を指差す。

 紫を基調とした上半身の装甲。肩や胸部には金のラインで蛇を思わせる紋様が描かれてある。頭部は後頭部が左右に広がっており、コブラに似た形状をしていた。幾つもスリットが入った仮面に口部は牙の装飾がされたマスク。全てが蛇をイメージさせる姿となっている。

 

「どうなってる! それもベルトなのか!? ファイズとカイザ、デルタとも違うのか!?」

 

 知らない単語が次々と出て来ていい加減鬱陶しく感じ、苛立ちが増す。

 

「話が嚙み合わないから喋るな。イライラする」

 

 吐き捨て、ヘッジホッグオルフェノクを黙らせる。浅倉の凶気が変身したことで増し、相手を沈黙させるのに十分な圧へと変わる。

 

「さあ、戦え」

 

 浅倉の変身した姿──仮面ライダー王蛇は己の欲求のままに戦いを始める。

 

 

 ◇

 

 

 それは最早、己の中で尽きぬことのない食欲を満たす為に徘徊し続ける動く死体であった。

 黒い騎士との戦いで貫かれて爆散した体は再生、強化することは出来た。しかし、赤い騎士との戦いで強化された筈の体はまたも爆散させられた。

 二度目の再生を試みるが、赤い騎士の一撃は想像以上に凄まじく、粉々に蹴り砕かれただけでなく高熱の炎によって芯まで焼かれてしまった部位も多かった。

 それでも長い時間を掛けて再生させたが、出来上がった体は元の体とは程遠い出来損ないであった。

 重要な器官が幾つも欠如しており、感覚能力や思考能力は無いに等しい。あるのは生物らしい食欲のみ。それだけを目的として活動する。ただし、その食欲も不正確な信号のようなものに過ぎず、食べ始めたのなら満腹になっても食事を止めることはせず、逆に餓死寸前になっても食事を一切摂らない場合もある。

 生命活動とは程遠いそれは正に生ける屍であった。

 そして、その生ける屍は食欲の信号に従い、食すべき獲物を探す為に動く。

 それが行き着いた先はガラス張りの壁。ガラスに反射し多くの人々が歩いている様子が映っている。しかし、何故かそれの周囲には人々の姿は無い。

 それが居る場所は反射物の向こう側の世界。ガラスに映る世界とは文字通り鏡合わせの世界。あらゆる風景は左右反転し、看板などの文字も鏡映しのようになっている。

 ごく限られた者たちにしか認識出来ない鏡面の向こうの世界であり、その世界を知る者はミラーワールドと呼ぶ。

 全てが鏡映しの世界だが、現実世界とは異なりミラーワールドには生命が存在しない。人々の喧騒による騒がしさも無い無音の世界であり、風が吹くことも雨が降るなどの自然現象も発生しない不変の世界でもあった。

 そして、そこに住まうそれもまた普通の生き物ではない。ミラーワールドに潜む怪物でありミラーモンスターの総称を与えられていた。

 ミラーワールドで獲物を狙うミラーモンスターの姿は一言で言えば巨大な蜘蛛だが、硬質的というよりも無機質、金属のような外骨格という現実では有り得ない姿でもあった。

 数メートルもの大きさがある蜘蛛ならそれだけで怪物と言えるが、前述したようにその蜘蛛は二度目の再生に失敗し、見た目は醜く変貌している。

 外骨格の何箇所は罅割れ、そこから体液が漏れ出している。八本ある脚は三本欠如していた。人一人簡単に嚙み砕けそうな口部は牙が幾つも折れており、頭部には人の上半身のような形をしたものが生えているが、片腕と頭部に当たる部分が無く完全に機能していない。

 嘗てはディスパイダーという個体名を持っていた怪物だが、最早その名も相応しくない。敢えて徘徊する死骸に名を付けるならば──ディスパイダーリ・ボーンエラー。

 リ・ボーンエラーは獲物に狙いを付けた。ガラスに映るフラフラと歩く少年に糸を伸ばす。現実世界には無いが鏡面世界にはある不可思議な糸。

 それが獲物を絡め取ると一気にミラーワールドへ引き込む。

 自分が致命的な失敗を犯していることにも気付かず。

 水面のように鏡面が揺れ、獲物がこちら側へとやってきた。リ・ボーンエラーは欠けた牙を精一杯に広げ、糸を手繰り寄せていつものように獲物を口へ招き入れようとする。

 だが、急に手応えが無くなった。糸が何故か切れたのだ。

 

「やだなぁ。急に引っ張って」

 

 少年の足元には何故か灰が散らばっている。

 

「もしかして、僕のこと食べようとしていたの?」

 

 リ・ボーンエラーを前にしても間延びした緊張感の無い喋り方。リ・ボーンエラーはこの時点で退くべきだったが、残念ながらそれを考えられる知性が無い。

 目の前で立つ少年を頭から食べようと飛び掛かる。

 

「やれるものならやってみろ」

 

 一転して低い声を発した少年は、持っていた小型のアタッシュケースを地面に落とした。リ・ボーンエラーは構わず上から圧し掛かった。

 リ・ボーンエラーは宙に浮いたままの状態で止まっていた。喰らおうとしていた少年は灰色の魔人と化し、リ・ボーンエラーの口に両腕を捻じ込んで持ち上げているのだ。

 灰色の魔人。それはディスパイダーだったときに立ちはだかった赤い戦士と龍を彷彿とさせる。龍はリ・ボーンエラーにとって恐怖と死の象徴であった。

 恐怖がリ・ボーンエラーの中に残った欠片のような記憶を呼び覚ます。

 今、目の前に立つ魔人は襲ってはいけない存在であった。ディスパイダーのときからも避けていた、否、ミラーモンスター全てが捕食することを忌避していた人間の中に紛れる怪物たち。

 記憶が呼び起こされると同時にリ・ボーンエラーの体は真っ二つに引き裂かれる。単純な力によるものであった。

 二つに裂かれたリ・ボーンエラーの体は間もなしくて灰と化す。今度こそ蘇ることは無い。

 龍の魔人から人の姿へと戻った少年は落としていたアタッシュケースを拾い上げた後、ぼんやりとした表情でミラーワールドを見渡す。

 

「ここどこだろ?」

 

 

 




登場するライダーは仮面ライダー王蛇、仮面ライダーデルタ、その他にも後三名出す予定です。

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