三本のベルトというものが存在する。それぞれファイズ、カイザ、デルタの名称を与えられていた。それを用いれば特定の条件を満たしているのなら変身出来る。
ファイズは最も出力の安定性に長けている。反面、変身後の性能は三本のベルトの中で一番低い。だが、それを補う為の拡張性を有していた。
カイザはファイズよりも性能は上だが、やや出力が不安定になっており拡張性も低くなっている。ファイズと似た装備を有しているが、それ以上の発展性は難しかった。
そして、現在北崎が所持者となっているデルタは三本のベルトの中でも最も性能が高い。だが、出力が高過ぎるせいで武装が乏しくなってしまい、変身者の実力が問われるピーキーな仕様となっている。これは変身者がオルフェノクの中でも最強に近い北崎だったことで何とか補われている。
この三本のベルトが生み出されたのは決して人類の為ではない。ベルトはある存在を守護する為にオルフェノクたちが生み出したのだ。
オルフェノクの王。それが三本のベルトが守護すべき存在。いつの日かオルフェノクたちの前に現れ、彼らを導き、繁栄を約束する大いなる王。
だが、オルフェノクの中にも野心を持つ者たちが存在する。そういった者たちは王の庇護を拒否し、自らが王へと成り代わろうとするだろう。それの露払いをするのが三本のベルトの役目である。
それが、最初に三本のベルトを作った者──先代スマートブレイン社長の考えであった。
しかし、二代社長である村上はオルフェノクの王の存在を知ってこうも考える。
『果たしてオルフェノクの王は民を導く名君なのだろうか? もしも横暴と暴虐の限りを尽くす暴君だったのなら?』
その疑念によって開発されたのが万が一の場合に備え、オルフェノクの王を屈服させて操ることを目的とした守護ではなく制圧の為のベルト──帝王のベルトである。
二本開発した帝王のベルトの内、天のベルトの異名を与えられたサイガ。
サイガは既存の技術であるファイズ、カイザ、デルタを基にしてそれらの長所を纏めて造られた完成形である。
開発当時は三本のベルトの実物は村上の手元には無かった。だが、幸いというべきか、データだけは存在しており、また開発途中のベルトも何本か存在していた。村上は試作段階のベルトを素体としてサイガのベルトを開発するよう命じた。
ファイズのような出力の安定性を持ち、カイザのような高い出力での各ガジェットの運用、デルタのような高い性能を持つことが求められた。
その結果、デルタの出力には一歩及ばないものの同等の性能を発揮出来る効率的な機能と安定性を有し、デルタでは成しえなかったフライングアタッカーという複合武装飛行ユニットを装着。三本のベルトを超える天の名に相応しいベルトとなった。
だが、高性能の故にある問題が生じた。それは変身に耐えられる者が極めて少ないのだ。
三本のベルトは元々オルフェノクが開発したものなのでオルフェノクならば無条件で変身出来るが、サイガの場合オルフェノクですら変身に失敗する危険性がある。
サイガの変身実験の際に処刑を兼ねて裏切り者のオルフェノクを実験体にして強制的に変身させたことがあったが、変身直後にサイガのエネルギーに耐え切れず灰化してしまった。
適合出来るのは心技体に優れたオルフェノクのみ。そこに現れたのがレオという存在。彼を見出したのは村上である。
彼は少々特異な生まれのオルフェノクであったが、村上の期待に応えて見事にサイガの力を使いこなしてみせた。
そして、『天のベルト』の完成と同時に開発が進められていたのが『地のベルト』であるオーガ。
サイガが既存の技術の発展形ならばオーガはそれの終着点。サイガのデータも用いて完成された最後にして最強のベルト。
これが如何なる強さを秘めているのか未だ誰も知らない。しかし、誰もが知ることだろう。
『天』の名を冠してもその羽をもいでしまえば、大地に抱かれ安らかな眠りにつく。つまり『大地』とはどんな万物すら帰す最終地点──―即ち最後を司るものだということを。
◇
初めて見るオーガのベルトを凝視するレオ。すると、遮るようにアタッシュケースが閉じられた。レオは思わず村上の顔を見てしまう。
「名残惜しいですか?」
「──いや。僕にはボスから貰ったサイガで十分さ」
欲しい、と魔が差しそうになったがすぐにその考えは心の奥底に押し込んだ。村上に言ったようにサイガのベルトがある。これ以上望むとなると罰が当たるというもの。それにもし、変身するにしてもレオの中でオーガのベルトが相応しい人物は一人しかいない。
荒れたレストラン内の今にも壊れそうな扉が開く。村上たちの視線がそちらの方へ向けられた。
入って来たのはサングラスの男と黒髪の美女。浅倉を追って派手な妨害にあったのかサングラスの男は帽子を失い、サングラスの一部に罅が入っている。黒髪の美女も上等なスーツが皺だらけになっており、長く綺麗な黒髪も乱れていた。
「……申し訳ありません。浅倉を取り逃がしました……」
黒髪の美女が血涙でも流しそうな表情をしながら頭を下げる。サングラスの男も同様に頭を下げた。
「貴方たちが逃がしたとなると横槍でも入りましたか?」
「……はい。これに邪魔されました」
黒髪の美女が差し出したのはガルドストームの右腕。肩から下が捩じ切られており、断面から今も体液が滴っている。
「ミラーワールドに生息する生物の一部ですか……」
オーディンだけでなく浅倉を逃がしたのも痛いが、これはこれで興味深いものであった。しかし──
「ん?」
ガルドストームの右腕から粒子のようなものが発生する。それはオーディンのときと同じ現象であった。
やがて、皆が見ている前でガルドストームの右腕は消滅する。垂らしていた体液もまた後片も無く消えていた。
「まあ! 消えちゃいました!」
スマートレディが皆を代表するかのように大袈裟なリアクションをする。
「成程……」
「も、申し訳ございません!」
黒髪の美女は再び頭を深々と下げる。唯一の成果も目の前で消えてしまい、立つ瀬が無くなる。
「いえ、謝らなくて結構ですよ。おかげでまた新たに知ることが出来ました」
「それは……どういうことでしょうか?」
「どうやらミラーワールドに住む怪物たちはこちらの世界に適合出来ないようです。そして、恐らくはそれに由来するライダーである彼らも……」
レオはオーディンだけでなく浅倉が変身解除されたときも似たような現象が起こっていたことを思い出す。強力な力だが時間制限付き。それが分かれば色々と対策が考えられる。
「──さて、色々と忙しくなりそうですね」
浅倉と交戦した北崎と話さなければならないし、神崎という人物も探さなければならない。情報は決して多くは無いがゼロではない。必ず尻尾を掴む。
「今度は我々が攻め込むとしましょう」
◇
建物周辺には野次馬が集まり始めている。建物内で爆発が起こり、瓦礫やガラスなどが降ってきた上、少し前にスマートブレイン社で脱獄犯による爆弾騒ぎが起きていたので過敏になるのも仕方ない。誰かが呼んだパトカーや救急車、消防車のサイレンも近付いてきている。
そんな喧騒を余所に建物の裏口の扉が独りでに開く。人気の少ない裏路地に響く姿無き足音。やがて、浮かび上がるように浅倉が姿を現した。オーディンの施したクリアーベントの効果が切れたのだ。
無事に脱出出来た浅倉だが、その表情に喜びなどない。あるのは表情筋が引き千切れそうな程に歪められた苛立ちに満ち満ちた凶相。
「うぉぁああああああっ!」
獣の声にしか聞こえない咆哮を上げながら壁に頭を叩き付ける。何かを殴るか、殴られるかしないと苛立ちで理性が飛びそうになる──尤も、傍から見ればその行動自体が理性あるものとは思えないが。
何度も繰り返している止める目途の無い悪癖を行う浅倉。戦えるときに戦えなかったフラストレーションは勿論のことだが、彼にとって唯一の楽しみと言っても過言ではないライダーの力が手元に無い。その事実が浅倉の精神をより不安定なものにしていた。
そのとき、撓んだような高音が浅倉の耳に飛び込んでくる。それはミラーワールドから聞こえる音。
頭を打ち付けるのを止め、浅倉は周囲を見回す。彼の傍には神崎がいつの間にか立っていた。
「面倒なことをしてくれたな」
「神崎……!」
神崎に詰め寄る浅倉。その胸倉を掴み上げようとしたとき、眼前に自身のカードデッキを突き付けられる。
「これが欲しいか?」
「ああ、寄越せ……!」
カードデッキを強引に奪おうと手を伸ばす浅倉。しかし、その手は空を切る。傍にいた筈の神崎が霞のように居なくなっていた。
「もう一度ライダーの力が欲しいか? 浅倉」
神崎は離れた場所に立ち、同じ事を問う。
「当たり前だ……!」
浅倉の答えは迷いなく答える。
「──お前の存在はまだライダーバトルに於いて必要だ」
ライダーバトル。神崎によってライダーの力を与えられた者たちによるバトルロワイアル。最後に残った勝者には願いが一つ叶えられるという。浅倉の凶暴性、好戦的な性格はライダーバトルを活発にさせるカンフル剤として有用なのは神崎も認めていた。そもそも、それが目的で浅倉にライダーの力を与えている。
「……だが、今回の件の責任はとってもらう」
オルフェノクというイレギュラーにミラーワールドのことやライダーの情報を与えてしまったことは看過出来ない。
「今回の件に関わったオルフェノクを全て始末するまでお前がライダーバトルに参加することを禁止する」
浅倉は一瞬だけ表情を歪めたが、すぐにそれを薄ら笑いで消す。
「皆殺しにすれば良いだけだろ? 戦えるならそっちの方が面白い……!」
ライダーだけでなくオルフェノクと戦えることにも楽しみにしている浅倉。どこまでいっても戦闘狂な気質である。
「オルフェノクと戦う意志があるのなら──」
「あぁ……?」
訝しむ浅倉に神崎は不意にカードデッキを投げ放つ。浅倉は難無くそれをキャッチした。
「──お前に僅かながらの権限を与える」
神崎の視線がカードデッキに向けられているのに気付き、浅倉はカードデッキの中身を確認する。すると──
「ほぉ……?」
──浅倉は関心した反応を示した。新しい玩具を手に入れたかのように目を輝かせる。
「行け。そして、オルフェノクたちと戦い、倒せ」
言われるまでもなく浅倉は戦いに赴こうとするが、あることが気になり足を止めて、神崎に訊く。
「随分とオルフェノクのことを気にしてるな?」
浅倉は何となくではあるが神崎に焦りのようなものを感じ取っていた。
「……奴らはミラーモンスター以外でミラーワールドに適合出来る」
その台詞で浅倉の脳裏にミラーワールドから生身で出て来た北崎の姿が浮かんだ。神崎はもしかしたら、ミラーワールドをオルフェノクに乗っ取られることを恐れているのかもしれないと推測もする。
「はっ。流石は進化した種族──」
「違う」
浅倉は少し驚いた。常に無感情な神崎がハッキリと感情を露わにしたことに。そこには明確な不快感があった。
「オルフェノクは進化した存在ではない。……ただの死に損なった怪物だ」
「お前もそんな顔をするんだな」
表面的には無表情な神崎の顔を眺めながら浅倉は口角を上げていた。
「早く行け」
「ふっ。分かった」
浅倉は神崎に背を向けると、手を振る代わりにカードをひらひら振りながら路地の奥へ消えていく。
浅倉が居なくなると神崎は一人呟く。
「そうだ……あれが命な筈が無い……あれと優衣が同じなど……!」
神崎はそこで言葉を区切った。さっきまであった筈の激情は一気に冷め、相変わらずの無感情な目で近くにあった窓ガラスに目を向ける。
「お前にも動いてもらう」
窓ガラスの向こうに立つのは黒い影。だが、神崎が呼び掛けると黒い影に赤い二つの光が宿る。赤い双眼は神崎と同じくらいに無感情であった。
「オルフェノクを、スマートブレインに関わる者たちを皆殺しにしろ」
神崎が無情な命を下す。何処かで猛々しくも悍ましい咆哮が響き渡る。
・闇と光と灰と鏡
全てが誕生する前にそこに闇があった。闇はやがて一つの星を創り出した。
闇は自らが創造した星に命を芽吹かせ、その行く末を七体の分身と分身が生み出した使いによって見守らせた。
闇にして創造主は数多の生命の中で人間という種族を特に愛した。それは自らと同じ姿をしているからであった。
しかし、その愛は人間に傲慢さを与え、分身と使いたちに嫉妬を与えた。
やがて、人間と分身、使いたちによる創造主の愛を奪う為の戦争が始まる。
か弱い人間に勝てる術は無く、全てが絶えようとしたとき分身の一体がそのことを哀れに思い、創造主を裏切った。
その分身は火を司る存在であり、それは人間に自らの血と火を与えた。
血と火を与えられた人間は人間ではなくなり、使いたちとより激しく、醜く争うこととなる。
全てを哀しんだ創造主は大洪水を引き起こし、戦争も命も洗い流すと共に全ての責を負い、自分と分身、使いたちと共に深い眠りについた。
しかし、人間たちは滅んでいなかった。そして、その内に宿る火も消えることはなかった。
長い年月を経て人間たちは増え始める。人が増え始めるとやがて不可思議なことが起こり出す。
死した筈も者たちが蘇り、かつての使いたちのような姿へと変わるのだ。
かつて与えられた火が人間を灰にした後に蘇らせる。彼らは自分たちを選ばれた者だと確信した。
灰となった人間は自らの火を他者に分け与え、その者を自分たちと同じにすることができ、そうやって種を増やしていった。
そして、灰となった人間──オルフェノクたちは再び傲慢さを手に入れる。神の使いと同じ姿をした自分たちが神の代わりに支配するに相応しいと。
だが、オルフェノクに対抗する者たちも居た。彼らは自らの火に焼かれて灰になった者たちではなく火が齎す輝き、光によって姿を変えた者たち──後にアギトと呼ばれる者たち。
オルフェノクとアギトは激しく争った。争い、争い、争い続けた。
やがて、オルフェノクの中に一人の王が誕生する。全てを圧倒する比類なき力を持つオルフェノクの王が。
王は憂いていた。最も進化したオルフェノク故に分かってしまったのだ。オルフェノクの行く末を。
宿された火はオルフェノクですら完全に御せることが出来ない程強かった。火によって灰にされた者は再び灰へと還る。それがオルフェノクの宿命。
その宿命を知りながらオルフェノクの王はアギトたちと戦った。そして、王は勝った。しかし、同時に王は自らも寿命を迎えようとしているのを悟った。
オルフェノクの王は残酷な決断をした。数多の同胞たちを貪るという非情なる行動。多くの火を取り込むことで今一度完全なる存在になろうとした。
オルフェノクの王は人間としての姿を失った。それは人間を愛した創造主への決別を意味する。だが、それでもオルフェノクを絶やす訳にはいかなかった。
彼は次代にオルフェノクの命を繋ぐ方舟となることを選んだのだ。
多くの火を取り込んだ彼は既にオルフェノクという存在から逸脱していた。肉体を必要とせず、内にある火に自分の意思を宿した不滅の存在と化した。
方舟となった王は眠る。死と再生を繰り返しながら復活するときを待つ為に。
泣きながら生まれてきたオルフェノクたちが、いつか笑って生きられることを願いながら。深く、深く、王は眠る。
長い時が過ぎた。
二人の幼い兄と妹が居た。兄は妹を愛し、妹は兄を愛した。しかし、二人の父と母をこの兄妹を愛してはいなかった。
兄がどれだけ妹を愛しても、埋め切れない程に妹は徐々に衰弱していった。
やがて、その時は来た。妹は死んだのだ。
兄は嘆き、哀しんだが奇跡が起こる。
死の間際に妹は覚醒をした。嘗て、創造主の分身から齎らされた火、それが妹の中にも燻り、死を引き金にして再び燃え上がったのだ。
妹は自身の火で焼かれ灰になることも、光によってアギトへと変わることは無かった。彼女が目覚めた姿は最も尊い姿──即ち創造主と同じ姿であった。
創造主と同じ力に目覚めた彼女はもう一つの世界を創造した。それは鏡の中の世界。そして、彼女は新しい命すらも生み出し、それを自らに宿した。
だが、目覚めたばかりの彼女の力は創造主には及ばす、繋げた命も限りあるもの。いずれはそれも消える。
しかし、それを認めない者がいた。彼女の兄である。
兄はこのとき決心した。必ず妹に本当の命を与えると。如何なる犠牲を払おうとも必ず。
そして、年月を経て兄は踏み込んだ。妹が創り出した鏡の中の世界へ。
合わせ鏡のように尽きぬことのない執念を宿して。
最後の文章はこのアギト、龍騎、ファイズの世界観を繋げてみようとしたものです。
アギト要素は接着剤程度且つ、この世界はオルフェノクがアギトに勝ったIFの世界という設定です。