香川は大学の来賓用の部屋に置かれた豪華なソファーに座り柄にも無く緊張をしていた。
(どうしてこうなったのか……)
香川の頭には疑問符しか浮かばない。
香川こと香川英行。37歳という若さで清明院大学の教授という立場を務めている。既婚者であり妻との間に長男をもうけている。傍から見れば順風満帆で他人が羨むような人生を送っている。
しかし、香川はそんな人生の陰である目的の為に動いていた。
切っ掛けは大学に在学していた神崎士郎という男。ある日、彼が偶然落としたある資料を香川は拾い上げ、中身を見てしまった。
すぐに神崎により資料は取り上げられてしまったが、このことは香川の人生を大きく変える転機となる。
香川には常人には無い特殊な能力を持っていた。それは一度見たものならば意思とは無関係に全て記憶してしまうという瞬間記憶能力。この能力により香川は神崎の資料の内容を理解する前に脳へ全て刻み込んでしまっていた。
運命の悪戯というにはあまりにも偶然が過ぎた出来事。香川にとっても神崎にとっても試練へと繋がる重く、苦しい偶然であった。
それから間も無くして神崎はある実験を行い、犠牲者を出して後に姿を消した。
香川は神崎が何をやったのか薄々とは理解しており、後に頭の中の記憶に従い研究を始めた。そして、研究の中でミラーワールドの存在に気付き、神崎が何をしたのかも理解してしまう。
並の精神の持ち主ならばそこで恐れをなして知ったこと全てを破棄していただろう。だが、香川の精神は並外れたものであった。
ミラーワールドに潜むミラーモンスターにより無辜の人々が食われていく現実を見過ごすことが出来ず、ますます研究に没頭する。
しかし、幾ら資料を記憶していても神崎の研究を完全に再現することが出来ず壁にぶつかり研究は停滞してしまった。そこで二度目の偶然が起こった。
清明院大学の大学院生である東條が香川に神崎から渡されたカードデッキを持って来たのだ。
香川と東條は前から面識があり、何かと陰のある青年というのが香川の印象であった。人と打ち解けておらず孤独に過ごしている姿を不憫に思い、何度か話し掛けていたことがこのことに繋がった。
香川は記憶した神崎の資料と実物のカードデッキにより独自のカードデッキを作成。後にオルタナティブ・ゼロと名付けた疑似ライダーのプロトタイプを生み出す。
オルタナティブ・ゼロは完成したが、香川はそれで満足はしていなかった。オルタナティブは元々量産するつもりで設計しており、カードデッキの量産に並行して新たな協力者を求めていた。
そこで目を付けたのが神崎と同じ研究室に所属していた仲村創である。神崎が実験を行った際に仲村は偶然不在であった為、難を逃れた。神崎の実験以降教授は行方不明になり、研究仲間も大学を去り、研究室は閉ざされた。あの件は仲村の中で未だに燻っている状態であり、神崎と戦うには十分な動機があった。
神崎が行ったことを全て話すと仲村は二つ返事で香川たちと手を組むこととなった。しかし、仲村という青年には少し問題がある。
彼の戦う理由は香川とは異なり、神崎個人への復讐である。自分の人生を大きく狂わされたことへの怒りを根源としているので、そのせいか行動が前のめりになっている傾向があった。
量産第一号であるオルタナティブを渡してからそれが顕著になっている。今のところは目的が共通しているので大人しくしているが、香川は仲村が暴走しないように目を光らせていたり、遠回しに釘も刺していた。
戦う力を手に入れ、仲間も増え、それでも香川たちはやるべきことが多々ある。正直なところ、こんな所で時間を浪費したくない。
今一番興味があるのは東條がミラーワールドで救助した青年について。ミラーワールド内では生身の人間が活動出来ないことは香川も知っている。それなのに消滅しなかった青年。香川の知る常識を覆す存在に、色々と質問をしたかった。
内心そんなことを考えているとドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
香川は立ち上がって入室を促す。
入って来たのは頭の先から足の先まで一切の乱れがない完璧な装いの男──村上であった。
「本日は私の為に時間を割いて頂き、ありがとうございます」
村上は人の心の中へするりと入り込めそうな微笑を浮かべながら感謝の言葉を述べる。
「わざわざ足を運んでいただかなくとも、私の方からそちらへ出向いた方が良かったのでは?」
相手は今の日本を牽引し、世界にも名を轟かせるスマートブレインの二代目社長である。清明院大学も有名であり、そこで教授を務めている香川もそれなりに偉いが、両者の立場を比べるととてもではないが対等ではない。そう考えることすら烏滸がましい。
「いえ。私の方から無理を言ったんです。こちらから伺うのが礼儀かと」
微笑を崩さない村上に対し、香川は愛想笑いの一つも無く無表情のままであった。大企業の社長を前にして緊張しているのも理由の一つだが、もう一つの理由として村上に油断してはならないと香川の直感が囁く。
並の直感ではない。一度見たものは全て記憶出来る香川の経験則による直感である。それが警鐘を鳴らしている。
「──おかけになって下さい」
香川は置いてあるソファーへの着席を勧める。では、と言って村上がソファーに座ると香川も対面のソファーに腰を下ろした。
「お茶を用意しますので、少しお待ちください」
「いえ、結構です。お気遣いなく」
「そうですか。では、本日は一体どういったご用件で?」
前置きをせず、ストレートに問う。
「大企業であるスマートブレインの、それも社長である貴方が、一介の教授に過ぎない私と何を話すことが? 失礼ですが、全く心当たりがありません」
「ご謙遜を。その若さで教授という役職に就いているとは大したものです。まさに、上の上と言うべき人ですよ、香川先生?」
「はぁ……」
独特な評価をする村上に香川もそう言うしかない。本心の見えない相手だと香川が思っていたとき──
「神崎士郎」
──不意打ちのようにその名が出され、香川は思わず目を見張ってしまった。
「それとも高見士郎の方が良かったですか? 私たちは彼について調べています」
神崎が養子に引き取られたときの性も知っている村上。香川は村上に対して警戒心が一気に強まる。
「神崎君ですか……名前は知っています。優秀な生徒ですから。ですが、生憎彼は私の研究室のメンバーではありませんでした」
「知っていますよ。江島均教授の研究室に所属していたんでしょう? 出来れば江島教授にお話を伺いたかったのですが、あの凄惨な事故以来行方不明ですからね。残念です」
村上の口振りからして神崎に関する情報は凡そ入手していることが推測出来る。大企業故に普通ではそういった分野にも精通していることは容易に想像がつく。
(しかし、何故スマートブレインの社長が神崎君のことを調べている?)
神崎と村上の繋がりについては全く予想が出来ない。
「……どうして貴方は神崎君について聞きたいのですか?」
「彼がとても興味深い研究をしているという情報を手に入れたので。その研究のお手伝いをしたいと思っています。スマートブレインは将来有望な人材に大して投資することを惜しみません」
白々しい。村上の話を聞いた香川の感想がそれだった。明らかに本心を隠して話している。この時点で香川は村上を信用出来ないと判断する。
「──そうですか。神崎君がもし居たら喜ばしい話だったでしょうね。残念ながら私は彼についての情報は全く知りません」
「封鎖されていた江島教授の研究室を継いだ貴方なら何か知っていると思ったのですが」
「申し訳ありませんが──」
「『鏡』」
その言葉に香川の表情に一瞬動揺が走る。それを見たのか見ていないのか、村上は笑みを深くした。
「鏡にまつわる斬新な研究をしていたんですよね? 何か詳細を知りませんか?」
「──さぁ。詳細までは分かりません」
核心を突いてくる村上に対して香川ははぐらかす態度をとる。相手がどれだけの情報を持っているかの駆け引き。簡単には自分の手札を見せる訳にはいかない。
室内にて冷えるような空気が流れ出す。
◇
香川と村上が対面した同時刻。香川の研究室であると同時に元江島教授の研究室であったそこで仲村は東條が澤田を連れて来ることを待っていた。
待つ彼の態度に落ち着きは無い。常に一定の場所に留まらず、ウロウロと歩き回っている。嘗ての師事していた教授の研究室。ここで何があったのかは、仲村は直接目撃した訳では無いが想像が付いていた。それを思うと怒りが際限なく湧いて来る。神崎士郎に関わった瞬間から彼の人生は大きく歪められたのだ。
そのとき、研究室の扉をノックする音が聞こえた。
「開いてるぞ!」
苛立っていたためやや荒っぽい口調で入室を促す。ふと、仲村は思った。東條は研究室に誰かが待機していることは知っている。わざわざノックして入って来るだろうか、と。
そう思ってしまったが、最早手遅れ。扉は開かれた。
暫く経った後に研究室の扉が開く。中に入って来たのは澤田を連れた東條だった。
東條はキョロキョロと周りを見る。
「あれ?」
誰かは居ると思っていたが、二人共見当たらない。
「香川先生も仲村君も何処に行っちゃったんだろう……」
入れ違いになってしまったのかと思い、東條は研究室で待つことに決めた。
「ここで待ってようか」
澤田は東條と一緒に待つことに反対はしなかったが、また二人っきりになるのが嫌で露骨に顔を顰めた。
◇
(変だ……)
村上と会話をしながら香川はそんな感想を抱く。神崎に関してもっと踏み込んだことを聞いてくるのかと思いきや、無難な質問しかしてこない。神崎の清明院大学での評価や周りの評判など適当に答えても問題のないものばかり。
(何を企んでいる?)
香川は微塵も油断はしていないが、肩透かしを食らった気分にはなっていた。
そのとき、携帯電話の着信音が鳴る。
「失礼」
村上は一言断ってから懐に仕舞ってあった携帯電話を取り出した。
香川はその携帯電話を凝視してしまった。上品で物腰柔らかな村上が使用するには妙に威圧感を与えるデザインだったからだ。
「私です」
携帯電話越しに会話を始める村上。何か重要なことを言い漏らすのでないかと淡い期待を抱いていた香川であったが、村上は『ええ』、『はい』『そうですか』など短い言葉で返すだけであり、そう簡単にはいかなかった。
村上の口角が自然と上がる。
「──ええ。それはなによりです」
携帯電話を切る。香川には村上の表情が非常に満足気なものに見えた。
「お話の最中に失礼しました」
「……いえ、お気になさらず」
「貴方は非常に知的な方で会話をしていてとても楽しかったのですが、残念なことにそろそろ会社に戻らないといけません」
名残惜しそうにする村上に対し、香川は内心では安堵していた。これ以上関わりを持つことを望んでいないからだ。
最後まで神崎のこと、ミラーワールドのこと、自分が研究して開発したオルタナティブのことは黙ったままであった。もし、全て話してスマートブレインがスポンサーに付けば、スマートブレインの技術力と資金力で香川の研究はより一層捗るだろうが、秘密にしておいて良かったと思っている。
村上と会話して思ったことだが、香川はやはり村上のことを信用出来なかった。香川は今まで多くの人間を見てきた。そして、その言動や態度、表情などを全て記憶している。その膨大な情報を基にした直観が村上の本質の一端を見抜く。
柔らかな物腰も紳士的な態度も全ては上辺。村上という男は野心を秘めた男である。
村上が扉を開けて外に出ようとした間際、急に振り返る。
「大変申し訳難いのですが、一つお願いしてもよろしいでしょうか?」
「何でしょうか?」
「実は私、少々方向音痴なものでして。途中まで案内の方を頼めるでしょうか?」
村上は少し恥ずかしそうに言う。香川はそれを訝しんでいたが、特に断る理由も思いつかなかったので引き受けた。
「分かりました。ついて来て下さい」
香川自身、もう村上会うつもりもスマートブレインに関わるつもりも無いので餞別代わりである。
来客用の駐車場まではそう遠くはない。歩いて数分ばかりの距離である。数十分も村上と向かい合っていたことを思えば苦にもならない時間である。
香川は村上に道案内をする。可能な限り最短距離を、気付かれない程度の早歩きで。
階段を下り、通路を歩き、駐車場まで残り半分まで来たときに村上が唐突に喋り始める。
「──それにしても香川先生、貴方は本当に謙虚な方だ」
「……どういう意味ですか?」
そんなことを急に言われたので香川は反応に困ってしまう。
「あれだけの研究成果が出ているのに私利私欲ではなく人々の為に使おうとしている……貴方のような人を『英雄』と呼ぶのかもしれませんね」
「……何の話をしているのですか?」
香川は全身に悪寒が走る。あってはならないことが起きようとしているのを予感してしまった。
「オルタナティブ、でしたっけ? 実に素晴らしい」
足が止まり、呆然としてしまう。村上の口から有り得ない言葉が出された。
「何故……それを……!」
誤魔化しの言葉を考える余裕など無い。一体何処で村上はその名を知ったというのか。
村上は香川の呟きに対し、笑みを深める。
『ボス』
村上を呼ぶ声と共に誰かがやって来た。村上直属の部下であるレオである。ノースリーブとハーフパンツという動きやすい服装ではなく人前の為上にジャケットを羽織り、下はロングパンツ姿であった。
そして、もう一人レオに付いて来た人物が居る。そちらの方は香川も良く知る人物。
「仲村君……!」
香川の仲間である仲村は、気不味そうに視線を下に向ける。
(しまった……! これが狙いだったのか……!)
村上は最初から仲村もターゲットにしていたことを今更ながら気付く。神崎周りの情報を収集しているのなら彼の研究室仲間であった仲村の存在を知るのは当然のこと。
香川が村上の話に乗ってくればそれで良し。ダメだったのならば妨害されないように最初から引き離しておく。そして、より与しやすいと判断した仲村を取り込む。香川は村上にまんまと出し抜かれてしまった。
結果を見れば大成功と言わざるを得ない。村上も仲村がオルタナティブを持っていることは想定外のことであっただろう。これにより情報以上のものを手にしてしまった。
「早まった真似を……」
仲村の動機も理解は出来る。しかし、それでも早計であったと香川は仲村を咎めた。すると、今まで視線を逸らしていた仲村が香川を正面から見る。
「ですが! スマートブレインと協力出来るチャンスなんてこれっきりしかないのかもしれないんですよ! 神崎を追い込む絶好の機会なんです!」
トップクラスの企業であるスマートブレインが後ろ盾になることへの魅力は仲村が言う通り大きい。だが、香川はこれから先のことを考えると賛同は出来ない。ミラーワールドの存在もオルタナティブの存在も今の人間が扱いには手が余るものだと思っている。神崎の計画を阻止したときには全てを封じる予定であったが、知られてしまった以上それも難しい。
最悪の場合、兵器として利用される可能性もある。そんなことは断じて許せない。
「……私は村上さんと話すことが出来ました。君は先に研究室の方へ戻っていて下さい」
「先生、俺は──」
「仲村君」
食い下がろうとする仲村に香川は大きくも小さくもない声量で、だが有無を言わせない迫力を込めて言う。
「戻っていて下さい」
「は、はい……」
仲村は気圧され、言われた通り逃げるようにこの場を去って行く。
「レオ。君も先に戻っていて下さい」
『いいのかい?』
「ええ。香川先生とはきっと有益な話が出来ると思いますので」
『──OK』
レオも村上の指示に従い、去って行く。
「……さて。場所を変えましょうか」
「お好きなように」
先程まで紳士然としていた村上の態度に傲慢さが滲み出てくる。それは村上の余裕を表していた。
香川はそれを感じながらなるべく人目の付かない場所へ移動する。その間、両者には会話は無かった。
そして、丁度いい場所まで来ると二人は足を止める。
「……村上さん。どうやら貴方は私が思っていたような人物ではなかったようだ」
「それは良い意味でですか? それとも悪い意味でですか?」
この期に及んでも面の皮の厚さを見せる村上。
「貴方は──ッ!」
香川が言い掛けたとき甲高い音──ミラーワールドの音が香川の耳に入り込んできた。ミラーワールドから何かがこちらを見ている。良く見れば村上もまた顔を顰めた周りを見回している。彼もまたミラーワールドの認識していた。
ミラーワールドの音を掻き消す咆哮が響き渡る。二人の視線は咆哮のした方へと向けられた。
ガラス窓が波打ったかと思えば、そこから黒い龍──ドラグブラッカーが出現し、二人へと襲い掛かる。
ドラグブラッカーの口から青黒い炎が零れ出る。それが二人に吐かれようとしたとき、別のガラス窓から黒い影が飛び出し、ドラグブラッカーの顔面を殴打して攻撃を中断させた。
ドラグブラッカーを攻撃して二人を守ったのはミラーモンスターであった。全身はほぼ黒一色。両肩、首周りに機械的な銀色の装甲がボルトのようなもので固定されている。顔には穴が複数開いた銀色のマスクを付け、頭部からはチューブが数本伸びており、それは首周りの装甲と接続されていた。
通常のミラーモンスターと雰囲気が異なるこのモンスターこそがオルタナティブの契約モンスターであり、名はサイコローグ。
不意打ちにより怯んだドラグブラッカーであったが、すぐに攻撃を再開しようとする。そのとき、聞き慣れない音が香川の耳に飛び込んで来ると同時にドラグブラッカーの顔で金色の光が弾けた。
見ると村上が何かを構えている。ほぼ真横に倒れた金と黒のカラーリングの携帯電話。威圧感のあるデザインだった為、瞬間記憶能力が無くとも強く印象に残っている。
銃のように構えたそれから金色の光弾が発射され、ドラグブラッカーに命中。光弾を数発受けドラグブラッカーはミラーワールドへ戻っていく。
「村上さん……それは?」
「スマートブレインの新製品、ということにしておいて下さい」
しかし、二人はこれで襲撃が終わったとは思っていない。今も尚殺気のようなものが場に漂っているからだ。
どちらかがターゲットではなく二人共ターゲットにしているのはドラグブラッカーの様子から分かる。こうなってしまったら最早選択肢は無いに等しい。
この場を切り抜けるには信用出来ない相手──村上と協力する他無い。
「……私にはやるべき使命があります」
「私もそうです」
「貴方のことはまだ信用出来ません……ですが」
「ここは一時的とはいえ手を組むのが賢明ですね」
香川は不本意そうに、村上は楽し気に言う。
「では──」
これからというときに空気を壊すような着信音が鳴る。鳴っているのは村上の携帯電話。村上は少し困った表情をしながら電話に出る。
「はい」
『ボス。良い報告ともっと良い報告がある』
レオからの電話であった。
「良い報告とは?」
『浅倉を見つけた』
追跡しているが中々捕まらず、返り討ちにしてくる浅倉を見つけたのは確かに良い報告ではある。だが、今となっては──
「そうですか。ですが、最早不要です」
──香川の存在を知った今では用済みである。
『そうかい』
「それでもっと良い報告とは?」
◇
「その浅倉が目の前にいる」
電話越しでも村上が困惑しているのは伝わってきた。
高級スポーツカーのボンネット。その上で浅倉は仰向けになって寝ている。
「やあ、寝心地はどうだい?」
レオが話し掛けると浅倉は片目を開けた。
「悪くはない」
「それは良かった」
レオが笑うと浅倉もニヤリと笑い、体勢を変えて両眼を開く。
「神崎の言った通り居たな」
「おや? 神崎士郎の命令だったかい?」
「戦いたいから来たに決まっている」
「それを聞いて安心したよ。君はそういうのは似合わないイメージだったから」
レオはジャケットを脱ぎ捨てる。いつもの袖無しの黒いシャツ。腹部には既にサイガドライバーが装着されていた。
「まだ僕らは
サイガフォンに3・1・5の番号を入力すると『Standing by』と告げて待機状態に入る。
「ああ、たっぷりと楽しませてやる」
浅倉もボンネットの反射でVバックルを出現させ、装着。
『変身!』
サイガと王蛇は同時に拳を繰り出した。
◇
レオからの連絡が終わる。浅倉の出現は予想外であったが、悪くはない流れでもあった。今、確実に風向きはオルフェノク側へと流れている。
だからこそ、香川は絶対に味方に付ける必要があった。
村上はスーツの上着のボタンを外す。腹部には携帯電話──オーガフォンと同色のベルト──オーガドライバーが装着されてある。
香川は一瞬だけそれに視線を向けるが、すぐに外す。色々と聞きたいことはあるが、後回しにする。
香川は白衣からカードデッキを取り出す。神崎製のカードデッキよりもやや正方形に近い形をし、中央にはオルタナティブの顔を模した円形の紋章があった。
香川は窓ガラスにカードデッキを翳す。鏡面に楕円形のVバックルが浮かび上がり、それが香川に重なると現実の香川にも装着される。
村上はオーガフォンを口元に寄せながら開き、『000』と入力。
『Standing by』
香川は天高くデッキを放り投げ、村上はオーガフォンをドライバーへ装填。
『変身っ!』
投げたデッキをバックルに装填され、填められたオーガフォンは真横に倒されてドライバーへと収まる。
『Complete』
香川はオルタナティブ・ゼロへ。そして、村上は──
黒の装甲を彩る金のラインは循環するエネルギー──フォトンブラッドが最高出力で流れている証。中央に赤いコアが収まっており、周囲を金のラインで囲まれている。腰回りには黒と金で装飾されたローブを付けており、王者としての荘厳さが際立つ
半円形のヘッドパーツは中央で二つに割れ、底辺部分には銀色の突起が付けられてある。
額中央に描かれたΩのマーク。それは同時に赤い単眼を仮面として形造るものであった。
帝王のベルトの一本である地のベルト──オーガ。村上の体を借りてこの地へ降臨する。
オルタナティブ・ゼロは横目でオーガを見る。オーガもまたオルタナティブ・ゼロを見ていた。
共通の敵が居る。だが、隣に立つ者に心を許しておらず、油断もしない。敵の敵は味方という幻想など抱かない。敵の敵は次なる敵にしか過ぎないのだから。
しかし、この瞬間だけは共に戦う。生き残らなければ為すべきことも為せない。
「──行きますよ」
「ええ、頼りにしています」
元々香川先生たちは単独作品で書く予定でした。
香川先生が神崎の資料と記憶で研究→東條と会い、実物のカードデッキを入手→契約無しのプロトタイプのオルタナティブ完成→謎のライダーに襲撃される→ミラーモンスターの被害者であり大企業の社長が香川たちに接触し、スポンサーになりたいと言う→社長の正体は仮面ライダーベルデで高見沢→オルタナティブの研究を奪おうとするが完成したオルタナティブ・ゼロに敗北→タイガがトドメを刺し、香川は東條に危ういものを感じながらも教育者として導こうとする
みたいな内容にしようとしましたが、地味な内容になると思ったので今作に組み込みました。