「どっちが好みだ?」
二体の巨大ミラーモンスターで威圧して来る王蛇に対し、サイガは答える代わりに王蛇へ指を三本立てて見せた。
「あぁ?」
王蛇はそのジェスチャーに怪訝そうにする。
「一つ目はその巨大サメに食われる」
そう言って指を折る。
「二つ目はその鳥に焼かれる」
また指を折る。
「三つ目の選択肢は無いのかな?」
「三つ目……?」
サイガは残った指を王蛇に見せつけながらゆっくりと折る。
「君が僕にやられるっていう三つ目さ」
「はっ!」
サイガの挑発を王蛇は楽しそうに一笑すると、彼が乗っているアビソドンが再び三連砲を開く。頭部の巨大刃と合わせて全ての武装が解放された。
「良い答えだっ! イライラしてくるっ!」
喜んでいるのか苛立っているのか分からない王蛇。もしかしたら両方の感情が入り混じっているのかもしれない。
王蛇の怒号を合図にアビソドンは砲撃を開始。
『お返し!』
サイガもまたブースターライフルを連射し、弾幕によりアビソドンの砲撃を空中で撃ち落としていく。
しかし、そのまま攻撃し続ける程相手も甘くはない。銀色に燃え盛る鳳凰──ガルドバーンが空中で静止しているサイガへ突っ込んできた。
『ちっ!』
攻撃しに来たのを視界の端で捉えていた為、サイガはやむを得ずアビソドンへの迎撃を中断させ、その場から十数メートル上昇して突撃を躱す。
ガルドバーンは体勢を変え、上へ飛んだサイガに両翼を羽ばたかせる。燃える翼から灼熱の羽根が矢のように放たれ、サイガへと迫る。
『しつこい!』
サイガはこれもブースターライフルで撃ち落としていくが、そのときサイガの側面で爆発が生じる。
『うぐっ!?』
爆発の正体はアビソドンが撃った砲撃。別に気を取られてしまっていたせいで遂に命中してしまった。
砲撃により落下していくサイガ。何とか体勢を立て直そうと操縦桿を動かす。
アビソドンはそこ目掛けて突撃を開始。錐揉みしながら落ちていくサイガも流れる光景の中でそれを見た。
『容赦がないね!』
微塵も情けが無い追撃に、サイガは焦りながらもフライングアタッカーを操作する。砲撃の衝撃で噴射孔の一つ不具合が生じており、体勢を直すのに時間が掛かっている。
アビソドンの巨大刃がサイガの間近まで迫る。
『動、けっ!』
残った噴射孔の噴射を全開にし、操縦桿を力任せに動かすことで落ちていたサイガは反転して上昇。眼前まで来ていた巨大刃には噴射により正面から側面へと移動することで紙一重で回避。アビソドンの巨大刃がサイガの装甲を掠める程のギリギリのタイミングであった。
「──答えは四つ目だったな」
回避した直後のサイガの胴体に打ち込まれるベノサーベル。アビソドンに乗っていた王蛇からの凶打。
「俺に殺られる、だ!」
王蛇はサイガにベノサーベルを押し当てたままアビソドンを急降下させる。サイガは逃れようとするがダメージのせいで体が思うように動かず、また落下までの猶予が無かった。
「はああああっ!」
王蛇はサイガを容赦なく地面へと叩き付ける。地面とベノサーベルに挟まれたサイガは苦鳴を上げた。
『がはっ!』
サイガを叩き付けた王蛇はそのままアビソドンを上昇させる。空の上ではアビソドンとガルドバーンがこれから狩る獲物のサイガを見下ろしている。
『げほっ、げほっ……』
地面にめり込む程の勢いで叩き付けられたサイガであったが、まだ意識はあった。幸いというべきか背中から地面に落下したことでフライングアタッカーがクッションとなり衝撃を緩和してくれていた。
しかし、それ相応の代償を払うことにもなる。
『くそっ……』
サイガは仰向けの体勢のまま毒吐く。叩き付けられた衝撃でフランイングアタッカーが破損しており今も火花を出している。噴射孔の半分以上が機能停止状態となり飛べない。ブースターライフルも片方使用不可になっている。
天を司るサイガが翼を捥がれて地に落とされた。これ以上無い屈辱である。
このまま遠距離でアビソドンの砲撃、ガルドバーンの羽根で仕留めるも良し。アビソドンの巨大刃で貫き、ガルドバーンの突進で焼き尽くすも良し。煮るも焼くも王蛇の自由。
(──にさせると思うかい?)
サイガはこの事態になっても微塵も諦めていない。村上から帝王のベルトを授かり、サイガへと『変身』出来た日から誓っていた。
サイガというプライドが彼に死を許容することを許さず、命が潰えるその刹那まで生き抜くことを模索させる。
『っ!』
そして、サイガは見つけた。空中を泳ぐアビソドンの腹にあるサイガ自身が刻みつけた傷を。巨体故に致命傷には至らなかったが、決して無視出来るものではない。
サイガはまだ動かせるブースターライフルの銃身を動かし、アビソドンの傷を狙う。皮肉なことにサイガが下に落ちたことで狙い易くなっている。
『──バーン』
ブースターライフルから放たれる一発の光弾。アビソドンを倒すには小さ過ぎる一発。しかし、その小さな一発がアビソドンの傷に命中した瞬間、アビソドンは大きく悶えた。
「うおっ!?」
身を捩るアビソドン。その上に乗っている王蛇は振り落とされそうになりアビソドンの背ビレを掴む。
傷を抉られ痛みで暴れ狂うアビソドン。その尾ヒレが傍にいたガルドバーンに叩き付けられ、ガルドバーンは弾き飛ばされてしまう。
アビソドンは悶え苦しみ、王蛇はアビソドンを制御出来ずに振り回され、ガルドバーンは離れた位置まで飛ばされていた。危機的状況であったが、たった一発でサイガは危機を乗り越えた上に逆転の一手を掴む。
混乱の隙に痛む体を動かして立ち上がり、サイガフォンのボタンを押し込む。
『Exceed Charge』
生成されたフォトンブラッドが体のラインを通じてフランイングアタッカーへ充填される。チャージが完了すると同時にサイガはブースターライフルを頭上のアビソドンへと向けた。
ブースターライフルから射られる一発のコバルトブルーの光弾。アビソドンに着弾する間際、光弾が円錐状に広がる。
光の円錐──ポインティングマーカーでロックオンされたアビソドンの動きが空中で制限され、暴れ狂っていた動きが体を細かく震わす程度まで抑えつけられる。
「何……!?」
サイガに何かをされたことを察した王蛇は、背ビレにぶら下がりながら足元を見る。そのタイミングでサイガは地面から跳躍していた。
跳び上がったサイガは空中で姿勢を変え、右足を突き出す。右足裏からコバルトブルーの光が放たれ、ポインティングマーカーの中へと飛び込んだ。
ポインティングマーカーがアビソドンの腹に突き刺さる。アビソドンは金属を引っ掻いたような叫びを上げた。
ポインティングマーカーの中にいたサイガの姿が消え、透過したかのようにアビソドンの背中からサイガが飛び出す。直後、アビソドンの体に浮き上がるΨの紋章。そして、アビソドンの全身から青い炎が噴き出すと、アビソドンは空から落ちる。
「ぐおっ!」
アビソドンが地面に落ちた衝撃で王蛇もまた地面へ放り棄てられる。暫くして、サイガが降り立った。
サイガは不完全な状態で繰り出したサイガ最大の一撃──コバルトスマッシュを受けたアビソドンの様子を見る。未だに体から青い炎が出ているが体は動いており、絶命には至っていない。オルフェノクが受けたのならまず間違いなく死ぬ一撃を貰っても死なないミラーモンスターの生命力に、サイガは感心すると同時にウンザリもした。
『──大した怪物っぷりだ』
サイガは操縦桿を両方とも引き抜きトンファーエッジモードにすると、フライングアタッカーをパージして身軽になる。使用不能な物をいつまでも付けていても仕方がない。
「やってくれるなぁ……!」
王蛇が徐に立ち上がる。楽しんでいるような、苛立っているような、感情をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせた声であった。
『それはこっちの台詞だよ……自慢の翼が取れてしまった』
彼にしか理解出来ないことだが、フライングアタッカーを外したことはサイガにとってプライドが大きく傷付くことであった。恥をかかされたのも同然であり、この恥を雪ぐには王蛇の死しかない。
サイガはサイガフォンからミッションメモリーを抜いてトンファーエッジに挿す。
『Ready』
握りの部分を手の中で回し、一対の青い刃を王蛇へ突き付ける。
王蛇はベノサーベルを構えて前に出ようとするが、足に何かが当たって止まる。横たわったアビソドンの尾ヒレであった。
「邪魔だ……!」
王蛇は一切の情も無くアビソドンの尾ヒレを蹴飛ばす。
「役立たずが……!」
そして、無慈悲な言葉を吐き捨てた。アビソドンが鳴き声を上げるが王蛇は無視する。
この様子をガルドバーンは上空から眺めていた。ミラーモンスターへの使い捨てのような扱いにガルドバーンなりに不快感を覚える。所詮はカードの効果によって従属を強いられているだけの関係。王蛇が命令を下さない限り手助けをしないことに決め、上空からサイガと王蛇の戦いを見下ろす傍観者となる。
「はあっ!」
王蛇がベノサーベルを振り下ろす。力任せの強引な一撃。軌道など簡単に読めるのでサイガはトンファーエッジを掲げて防ぐ。
『うっ』
ベノサーベルをトンファーエッジで防御するとサイガは呻いた。衝撃が駆け抜け、王蛇によって強打された箇所が痛みの悲鳴を上げる。これにより動きが一瞬だが硬直してしまった。
「うおらぁぁぁ!」
怒声と共に今度は斬り上げられるベノサーベル。それも防ぐが再びサイガの体に痛みが生じる。王蛇もまたそれなりのダメージを負っている筈だが動きに全く影響していない。それどころか激しくなっている。元々、痛みに強い王蛇だが戦いという状況で起こる怒りや苛立ちなどが彼に力を与え、それらが痛みを麻痺させていた。
力任せな上に滅茶苦茶にベノサーベルを振り回す王蛇にサイガは防戦一方となる。定まった型を持たないので攻撃が読み難く、防御する度に傷に響いて動きが鈍くなるので後手に回ってしまっていた。
「はあっ!」
王蛇の前蹴り。サイガはトンファーエッジを交差させて受けるが踏ん張り切れずに後退させられる。
『STRIKE VENT』
サイガが離れた隙に王蛇は新たな武器を装備。メタルゲラスの頭部を模した手甲メタルホーンを振り被りながらサイガへ接近すると体を投げ出すように殴り付ける。
『あまり──』
左のトンファーエッジでメタルホーンの角を叩き、軌道を逸らす。
『調子に──』
懐に入り込み、右のトンファーエッジを王蛇の胸部に当てる。
『乗るなっ!』
押し当てたトンファーエッジを振り抜くと王蛇の胸部装甲から火花が上がる。
「ぐあっ!」
王蛇が怯む。サイガは王蛇の前で跳躍しながら両脚を折り曲げ、王蛇の顔面の高さまで上がると一気に伸ばす。ドロップキックのような両足蹴りが王蛇の顔面に炸裂し、王蛇は蹴り飛ばされた。
「やるな……!」
顔面を押さえながらそれでも立ち上がる王蛇。サイガも痛む箇所を庇うようにして立っている。
『人間の癖にしつこいね……君』
倒れる気配の無い王蛇のタフさにサイガも呆れてしまう。ここまでしつこい相手は初めてであった。その上、まだまだやる気に満ちているのでウンザリもしてくる。
「こんな楽しいことそう簡単に止められるか……!」
王蛇はベノサーベルとメタルホーンを投げ捨て、ベノバイザーを取り出してスロットを開く。
「もっと……もっとだ……! もっと戦いを楽しくさせてやる……!」
無限とも言えるような闘争心に突き動かされ、王蛇はカードデッキからカードを抜き、ベノバイザーのスロットへ入れる。
王蛇が選んだカードは──
『UNITE VENT』
このカードの効果によりベノスネーカー、エビルダイバー、メタルゲラスが強制的に呼び出される。しかもそれだけではない。瀕死状態のアビソドン、上空で待機していたガルドバーンもまたユナイトベントの効果により引っ張られる。
アビソドン、ガルドバーンは拒絶を示すように鳴き声を上げるが、ユナイトベントは彼らの抵抗を無視して不可視の力で引き寄せていく。
全てのミラーモンスターが一つに重なり合ったとき凄まじい光が生じ、光の中であらゆる種類の獣の鳴き声を混ぜ合わせたような不協和音がミラーワールドへ響き渡った。
「はははははははっ!」
新たなミラーモンスターの誕生に哄笑を上げる王蛇。
「はははは……あぁ……?」
だが、すぐに異変に気付いた。
いつもならユナイトベントを使えばすぐに融合したミラーモンスターが誕生するが、未だに発光を続けており、ぐちゃぐちゃに混ざり合っている輪郭しか見えない。
「おい。いつまでそうしている?」
業を煮やして王蛇が命令しようとするが、全く反応が無い。それどころか光の中から伸びてきた触手のようなものが王蛇を打つ。
「なっ!?」
不意打ちで叩き伏せられる王蛇。光と鳴き声がますます強くなる。
『これは……不味いことが起こっているのかな……?』
異常事態が起こっているのはサイガも理解しているが、どうすることも出来なかった。
王蛇の命令を無視して光の中で蠢き続ける融合したミラーモンスター。考えてみれば道理である。強いものが弱いものに従う筈が無い。このミラーモンスターは強くなり過ぎてしまった。それこそライダーよりも。
サイガは足元が揺れていることに気付く。事情を知らないサイガは地震かと思ったが、ミラーワールドで地震など起こる筈が無い、ミラーワールド自体が揺れているのだ。
複数のミラーモンスターの融合。それは獣の帝王を超え、今、神へと至ろうとしている。
書いている間に555の新作が発表されたり、サイガドライバーがリニューアルされて発売されるとは思ってもみなかったですね。