RIDER VS ー異形たちの見る夢ー   作:K/K

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それぞれの交わり

 バー・クローバーにて琢磨は非常に居心地の悪い思いをしていた。その原因となっているのは一つ離れた席に座る北崎と、その隣に座る青年──東條のせいである。

 村上から事前に香川を含む数名の協力者がいることは教えられていた。しかし、タイガや東條の名は知らされていても姿を見たのは今回が初めてである。主な顔合わせは村上が行っていたからでもあった。

 ミラーワールドから帰還した際に変身を解いた東條を見て琢磨は内心驚いた。変身前後の姿がかけ離れていたからだ。

 一見すると普通の青年だが、琢磨は彼を見たとき寒気を覚えた。東條から北崎と同じような雰囲気を感じたからだ。私生活も態度も一目で壊滅的である北崎とは違い、身嗜みや常識を備えていそうなのに何故か狂気を感じさせる。

 東條は琢磨が会ったことが無いタイプの人間であった。

 琢磨は東條に名乗って以降会話はしていない。北崎は珍しく東條と積極的に会話をしていた。会話の内容から知ったが東條が自分と同じ25才ということに驚く。東條が童顔だったこともあるが、北崎と普通に話しているので近い年齢だとばかり思っていた。実際は10才近く離れている。

 冴子も東條に興味があるのか時折二人の会話に参加している。琢磨はそのことに嫉妬の念を覚えてしまう。

 

「北崎君は偉いね。いっつもミラーワールドで戦っているんだから。僕も君みたいにミラーワールドで自由に動き回ってみたいよ」

「だって僕、強いからぁ」

 

 東條に言われて気を良くする北崎。東條が本気で思っていると分かっているのか素直に受け取っている。

 二人の出会いは偶然であった。簡易デッキを手に入れてミラーワールドを探検しながらデルタでミラーモンスターと遊んでいるときに同じくミラーモンスターを討伐している東條と遭遇した。

 即座に臨戦態勢に入るが、東條がカードデッキを装着していることに気付いて名前を訊ねたところ、東條は正直に名乗った。東條の名は事前に村上から教えられていた。他人の名前に興味が無い北崎が偶々覚えていたので、北崎の方も自ら名乗る。東條も北崎の名を香川から教えられており、戦うなと釘を刺されていた。

 臨戦態勢に入っていた二人がそれを解除したのはほぼ同時であり、二人は一旦ミラーワールドの外に出て生身で顔合わせをする。

 そこから何気なく会話が始まった。特別、気に入ったという訳ではないが気に入らないという訳でもなく。会話の波長が合ったのか思わぬ長話となり、そして、()()()()を切っ掛けにして距離が縮まることとなった。

 それ以降、二人は度々顔を合わせては話をする仲となる。

 東條は北崎の独特なペースな会話に合わせながら、時折バー・クローバーの中を見回す。

 

「こういう店は初めてかしら? 東條君?」

「……うん。僕にはそういう付き合いが無かったから……」

 

 バーカンターに肘をついて東條の顔を見る冴子。東條はそんな彼女から目を逸らしながら言う。東條の初心な反応に母性がくすぐられたのか冴子は笑みを深くする。因みに冴子の年齢は24才。東條の方が年上である。

 冴子の反応が気に入らない琢磨はますます嫉妬の念を強くする。しかし、下手に何かを言うと北崎の矛先を向けられる可能性がある。ジレンマを抱えながら琢磨は沈黙し続けるしかなかった。

 

「冴子さん。いつもの」

「ええ。分かったわ」

 

 北崎が注文を入れる。冴子は手慣れた動作でカクテルを一杯作った。

 

「はい、どうぞ」

 

 差し出されたのはジンをベースにしたカクテルのマティーニ。口休め用のオリーブが入れられていない。オリーブ抜きのマティーニが北崎が頼むいつもの、であった。

 

「北崎君。君、お酒飲むの?」

「違うよ」

 

 北崎はマティーニが入ったカクテルグラスを横へ滑らせ、東條の前に移動させる。

 

「僕からの奢りだよ」

 

 北崎の行動は琢磨にとって意外であった。いつもなら冴子に渡すのだが、今回に限って東條に渡している。東條のことを本当に気に入っているのかもしれない。

 

「僕、お酒飲めないんだ」

 

 が、東條の方は北崎の好意をあっさりと断ってしまう。

 琢磨は当事者ではないにも関わらず冷や汗が一気に噴き出すのを感じた。傍若無人を体現したような北崎の好意を無下にする。気分を害した北崎がどんな癇癪を起こすか想像するだけで寒気を覚える。

 琢磨は北崎の目に険呑な光が宿ったように見えた。その光は徐々に強まり──

 

「本当にごめんね。折角、奢ってくれたのに」

 

 ──東條の真摯な謝罪を受け、すぐに消えてしまった。

 

「いいよ。呑めないんだったらしょうがないよね」

 

 傲岸不遜で気分屋の北崎。プライドの高さも相手が謝ったことで宥められ、気分屋だったことが今回はプラスに働き、あっさりと引く。

 傍から見ていると心臓に悪い、と琢磨は無意識に止めていた息を吐く。北崎と東條の関係は非常に不安定なバランスの上で成り立っているように感じられた。噛み合っているようで嚙み合っていないように思える二人。何か一つでもズレが起これば一気に破綻する関係に見えた。

 

「じゃあ……琢磨君、どうぞ」

「……えっ?」

 

 貝のように息を潜め、気配を消していた琢磨に北崎は急に話し掛けてきた。東條に奢る筈であったカクテルグラスを琢磨の方へ向けている。

 

「どうしたの……? 僕が奢ってあげるんだよ……? もっと嬉しそうにしたらどうなの……?」

 

 冴子に渡すものとばかり思っていた琢磨は、北崎の不意打ちのせいで上手く喋ることが出来ず、金魚のように口を開閉している。

 

「ねぇ? どうしたの? 嫌なの? ねぇ?」

「あ、あの、その……!」

 

 北崎が東條の傍を離れて琢磨の方へ寄っていく。琢磨は蒼褪め、ますます喋れなくなる。

 東條は北崎が琢磨に絡んでいる様を横目で見るだけで特に口を挟む様子は無かった。

 

「ふふ。あれがあの二人のコミュニケーションみたいなものよ」

「そうなんだ。仲が良いんだね」

 

 冴子の言葉をすんなりと受け入れる東條。それなりに経験を積んで来た冴子から見ても東條という男は本心が見え辛い。

 

「──そういえば、澤田君はどうなったか知らない? 聞いた話だと澤田君が最初に貴方たちと接触したみたいらしいけど」

「……僕も知らないです。大学に連れていった後から姿が見えなくなったから……」

 

 東條が言うように事情を聴く為に大学へ連れて行き、リュウガとの戦いに介入した後に澤田は東條の前から消してしまった。冴子は村上が澤田にも簡易デッキを渡していることは知っている。北崎と同じくミラーワールドの入り浸っているのかもしれない。

 

「もしかしたらだけど……」

 

 澤田の動向について東條は心当たりがあった。

 

「あの黒い奴を追っているのかも」

 

 黒い奴──リュウガに澤田は敗北している。敗北の屈辱を果たす為にリュウガを探している可能性が考えられた。

 

「でも、見つけても無駄かもしれない」

 

 東條は冷めた感想を出す。完敗している澤田がリュウガを見つけたところで同じような結末を迎えるだけ。勝つには何らかの新しい手段が必要となる。

 

「澤田君……何をしているのかなぁ……」

 

 東條は虚空を見詰めながらポツリと呟いた。

 

 

 ◇

 

 

 東條が澤田のことを気にしていた丁度その頃、澤田ことスパイダーオルフェノクはミラーワールドにて戦いを行っていた。相手は自分の倍以上の体格を持つ巨大な蜘蛛──ディスパイダー。

 鋭い足を武器にし、スパイダーオルフェノクを上から突いて来るが、スパイダーオルフェノクは八方手裏剣にてその足を弾く。ディスパイダーの巨体が浮き上がり、慌ててバランスを立て直そうとする。

 スパイダーオルフェノクはすかさず八方手裏剣で別の足を斬り付けた。ディスパイダーの足の先端が切断される。そして、流れ作業のように追加でもう一本足を斬り飛ばした。

 片側の足を二本切断されたディスパイダーはバランスを保つことが出来ずに横転する。だが、攻撃の意志は緩まずスパイダーオルフェノクに向けて糸を噴き出す。

 スパイダーオルフェノクはその動きを読んでいた。糸が届く前に跳躍して回避。そのままディスパイダーに跳び乗る。ディスパイダーがスパイダーオルフェノクを払おうとするが、それよりも先に八方手裏剣がディスパイダーの脳天に突き立てられた。

 スパイダーオルフェノクは手首を捻りながら八方手裏剣を引き抜く。刺された箇所か体液が噴き出し、ディスパイダーの体が震えるように痙攣する。

 スパイダーオルフェノクはディスパイダーから降りた。ディスパイダーは残った足で空を掴むような動きを見せていたが、やがて動かなくなる。

 ディスパイダーが絶命した様子を見てスパイダーオルフェノクは嘆息した。

 

「外れだな」

 

 これ以上この場に留まる理由もなくスパイダーオルフェノクはディスパイダーに背を向けて歩き出す。数歩移動した後、背後で何かを引っ掻くような音が聞こえた。

 スパイダーオルフェノクは振り返る。倒した筈のディスパイダーが再び動き出し、足を藻掻かせて起き上がろうとしている最中であった。

 足の切断から体液と同じ色の泡が生じると、中から新たな足が生えてくる。欠損した足が揃うとディスパイダーは起き上がる。

 ディスパイダーの頭頂部から体液が噴き出す。すると、頭頂部の刺された傷が開き、中から人型の上半身が這い出てきた。

 ハサミのような形状をした両手。角を生やした頭部に六角形の集合体のような複眼、口部はノズルのような形をしている。

 短時間で再生、強化されたディスパイダー改めディスパイダーリ・ボーンにスパイダーオルフェノクの興味を示す。

 やられた借りを返すようにディスパイダーリ・ボーンは胸にある赤いマークから無数の針を飛ばす。スパイダーオルフェノクは八方手裏剣の一振りで纏めて針を弾き飛ばすが、その内の一本はスパイダーオルフェノクの肩を掠めていく。

 

「──気に入ったよ、お前」

 

 スパイダーオルフェノクはそう言い、腹部に装着されていた簡易デッキに手を伸ばす。すると、本来ならば何も入っていない筈のデッキからカードが抜き取られた。

 絵は無く中央が白く塗り潰されているカード。上部に『CONTRACT』の文字が書かれているのみ。

 スパイダーオルフェノクはそのカードをディスパイダーリ・ボーンに向ける。カードから強い光が放たれるとディスパイダーリ・ボーンは動くのを止め、カードの中へ吸い込まれていった。

 光が収まったカードを見る。CONTRACTの文字は消え、代わりにディスパイダーリ・ボーンの絵と名前がカードに描かれていた。コントラクトのカードからアドベントのカードへと変化した証である。

 何故スパイダーオルフェノクが他のオルフェノクたちには無いカードを所持しているのか。それは香川とスマートブレインが協力して行っている実験の為である。ライダー以外でもミラーモンスターを使役することが出来るのか、というもの。

 何が起こるのかは分からない危険を伴う実験だが、澤田は自らそれに志願をした。志願した理由は勿論、自分に屈辱と敗北を喰らわせたリュウガにリベンジを果たす為である。村上はラッキー・クローバーである澤田ならばもしものことがあっても大丈夫だろうとし、被験者となることを許可した。

 そして、実験は今のところは成功である。香川が作ったコントラクトカードによりオルフェノクであってもミラーモンスターと契約することが出来た。ただし、ライダーとは違って増えたカードはアドベントのみ。ミラーモンスター由来の武器などを召喚することは不可能な模様。

 ミラーモンスターのカード一枚入手したことでも上々の結果であり、一旦ミラーワールドを出ようとする。

 ベチャリ、という音が鳴る。スパイダーオルフェノクの腕に粘着性の糸がへばりついていた。

 糸を辿って首だけ後ろに向ける。糸は新たなミラーモンスターの口に繋がっている。

 ディスパイダーと同じ蜘蛛のミラーモンスターだが、人型であり女性的なフォルム。顔面中央には巨大な牙。頭部左右には目と思わしき楕円形の器官が突き出ている。

 

「──こいつの仲間か?」

 

 ディスパイダーリ・ボーンのアドベントカードを挑発するようにひらひらと見せる。それに怒ったように唸るミラーモンスター──ミスパイダー。次の瞬間、甲高い鳴き声を上げる。鳴き声に呼び出されたもう一体の蜘蛛のミラーモンスターが降り立つ。

 顔の中心には蜘蛛の巣のような単眼。両手には鉤爪を装着し、身体中に蜘蛛の巣を意識した意匠が施されたミラーモンスター──レスパイダー。

 一気に二体のミラーモンスターが現れたが、スパイダーオルフェノクは驚くことも慌てることもせず、八方手裏剣にオルフェノクの力を込めて青炎を纏わせると張り付いていた糸を切断する。

 

「もう一つ実験が出来るな」

 

 そう言ったスパイダーオルフェノクの右腕には、オルタナティブと同型の召喚機──スラッシュバイザーが装着されている。オルフェノクがライダーと同じくミラーモンスターの力を使用出来るのか、それもまたスパイダーオルフェノクに課せられた実験である。

 スパイダーオルフェノクの言葉に逆らうようにミスパイダーたちは唸る。その様子をスパイダーオルフェノクは内心で冷めた笑い声を上げた。

 この世にはどうしようもない運命、力の流れというものがある。誰もがそれに逆らうことなど出来ない。スパイダーオルフェノク──澤田自身がそうであるかのように。

 間違った道を歩んでいると分かっていても歩みを止めることは出来ない。立ち止まることも引き返すことも出来ないのなら迷う心を殺すだけ。

 

『ADVENT』

 

 カードがスラッシャーバイザーに通され、ディスパイダーリ・ボーンが召喚される。

 

「……お前らも屈服しろ」

 

 諭すような、諦めさせるような言葉を掛けた後、スパイダーオルフェノクは従属するディスパイダーリ・ボーンに命令を下した。

 




やろうと思えば出来そう、と思ったのでクロスオーバーらしく別作品の力でパワーアップをさせてみました。
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