RIDER VS ー異形たちの見る夢ー   作:K/K

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徘徊する龍虎

「ふぅ……」

 

 研究室で小さく聞こえる溜息。それを吐いたのは香川であった。普段は毅然とした隙の無い振る舞いをする彼だが、顔色に濃い疲労の色が出ていることもあって、いつもよりも動きにキレが無い。

 スマートブレインと手を組むことを決断したときから香川は清明院大学とスマートブレインの本社を行ったり来たりの忙しい日々を送っている。大学の方の仕事に支障が出そうになるが、大学はほぼ休校状態なのでそれ程仕事がある訳ではない。大学の理事長は遠慮することなくスマートブレインとの共同研究に専念するよう言ってくるが、教授としてのプライドから意地でも大学の仕事に穴を開けないが。

 

(一体幾ら寄付されたことやら)

 

 リュウガと王蛇との一戦の影響で大学のガラス及び鏡は全損。大量の備品が破壊され、何十台もの車の破損が確認された。幸い死者は出なかったが、ガラスによる怪我人は多数出た。超常現象、白昼堂々のテロと色々と騒がれ、各方面の沈静化と大学の修繕が完了するまで休校もやむを得ない。

 修繕費の全てはスマートブレインから出された。それ以外にも寄付という名目で相当な金額を積まれている。理事長が村上に尻尾を振っている姿が容易に想像がついた。だが、香川から見てもスマートブレインの潤沢な資金と高い技術力は目を見張るものであった。

 スマートブレイン本社に案内されてまず紹介されたのは、香川の助手となるスマートブレインに属する研究者、技術者たちである。その中には香川も名を知っている研究者が居たことには驚いた。

 その次に見せられたのは香川の為に用意された研究ラボである。事前に必要なものを伝えておいたが、広々とした室内に全て完璧に用意されてあった。

 続いて今後の研究資金ということで予算を提示された。そこには見た事も無い金額が表示されており、香川も震えそうになった。しかも、必要ならば随時追加するとのこと。

 豊富な資金。優秀なスタッフ。完璧な施設。それらを短期間で準備出来たスマートブレイン。流石は世界に誇る大企業であると嫌味無しに賞賛が出来る。

 

(まあ、しっかりと見返りは貰うつもりのようですけどね)

 

 香川はスマートブレインとの共同研究で最初に作ったのが、誰でもミラーワールドに入ることが出来る簡易デッキ。本来のカードデッキが持つ機能を最低限まで削除したことで低コストの量産化を可能とした。尤も、本来必要な身を守る為の機能すらもオミットしてしまったので普通の人間には使用出来ないが。

 掛かった期間は一週間程。香川自身も驚く程のスピードである。これも人材と資金が豊富だからこそ可能な力技である。

 香川も一級品の施設で一流の研究者、技術者と作業することはモチベーションアップに繋がる。だが、決して心休まることはない。香川は分かっていた。スマートブレインが用意した研究者たちが虎視眈々とオルタナティブの技術を狙っていることに。

 香川はスマートブレインと手を結んで協力しているが、村上を含めて彼らを信用していない。村上にとって香川は唯一ミラーワールドに関する技術を持つ者。是が非でもその技術が欲しい筈。だが、香川にとってオルタナティブのみがスマートブレインと対等な関係を築く為の手札である。容易に中身を知られる訳にはいかない。

 東條にもカードデッキの実物をスマートブレインに決して触れさせないように言ってある。特に仲村には念入りに注意をした。私怨による独断専行でオルタナティブの存在を村上たちに暴露した前科がある。そのこともあり、仲村からオルタナティブのデッキを没収した。必要時以外は持たせないようにしてある。仲村は不服そうではあったが、自分が暴走したことも自覚があるらしく大人しく香川に従った。

 とはいえ香川は仲村を見限った訳では無い。デッキの没収はあくまで罰と戒めである。未だに仲村は香川の同士であり、それを証明するように仲村にはスマートブレインには秘密裏にある役目を与えている。内容が内容だけに仲村も今までにないやる気を見せていた。

 細かな技術提供。微塵も油断出来ない仕事場。常にプレッシャーに晒されている香川も流石に疲れを覚える。だが、最も精神的に堪えたには家族と過ごす時間が減ったことである。

 家族団欒で夕食を食べることを心掛けているが、ここの所それも叶えていない。夜遅くに帰宅し、朝早くに家を出るという毎日の繰り返しである。妻は理解してくれているが、息子の裕太には寂しい思いをさせている。前に家を出る間際に見た裕太の寂しそうな顔が、瞬間記憶能力関係無しに忘れられない。

 為すべき大義がある。香川がここで止めてしまったらこれから先も無辜の人々が犠牲になる。しかし、それでもその皺寄せが家族にいくのは辛い。

 

「はぁ……」

 

 香川はもう一度溜息を吐く。今日も家族と共に過ごすことが出来なかった悔恨の溜息であった。

 資料と荷物を纏め、研究室を出ようとしたとき、あの音が鳴り響く。

 

「私に何か用ですか? ──神崎君」

 

 足を止め、振り返った先にある鏡の中に亡霊のように神崎が映し出されている。

 

「面倒なことをしてくれたな」

「恨み言ですか? 貴方の口からそれが出て来るということは、どうやら我々の成果はあったようですね」

 

 無表情な神崎に対し、香川は挑発するように口角を吊り上げる。

 

「自分が何と手を組んだのか、分かっているのか?」

 

 香川の目が細まる。既に笑みは消えていた。

 

「スマートブレイン──奴らは人の皮を被った化け物……オルフェノクだ」

 

 香川の心を揺さぶるようにオルフェノクの名を出す。

 

「……知っていますよ」

 

 香川は既知なことを告げる。

 香川はオルフェノクという存在を、スマートブレインと手を結んだその日に村上から教えられた。澤田がオルフェノクになったことを知っている時点で隠しておくのは得策ではないと判断したのだろう。

 村上はオルフェノクが不慮の事故などで命を落とした際に覚醒した人類の新しい姿、人間の進化だと語っており、スマートブレインは、まだ少数しか確認されていないオルフェノクたちが、いずれ来る人間とオルフェノクの共存を目指す為のものだと言っていた。

 

「その話を本気で信じているのか……?」

「まさか」

 

 香川は鼻で笑う。相手の話を鵜呑みにする程香川は幼くないし、純粋でもない。偶然とはいえ力を持ってしまった者の末路など容易に想像が出来る。

 

「……お前はオルフェノクがどうやって仲間を増やすか知っているか?」

「……さあ?」

「奴らは自分たちのエネルギーを人間の体内に直接流し込む。耐えられた人間はオルフェノクとなるが、耐えられなかった人間は──」

「死ぬ、ということですか」

 

 村上から教えられたオルフェノクに関しての情報はほんの一握りであったらしい。とはいえ神崎が嘘を吐いていないという保証は無い。協力関係に罅を入れる為に出まかせを言っている可能性もある。

 

「それでも人間の敵と手を組み続けるか?」

 

 神崎が言葉で香川を揺さぶる。香川は眼鏡のズレを直しながら言った。

 

「愚問ですね。そもそも、私がその可能性を考慮していないと?」

 

 不信感を煽る為にオルフェノクの情報を齎したのなら神崎は一つ勘違いをしている。香川は元から村上及びスマートブレインに不信感を持っていた。

 

「口では人を襲わないと言っていましたが、私は念を押す為に協力関係を結ぶ前にある約束をしました。オルフェノクが人間を襲ったという情報が私に耳に入ったのなら即座に協力は破棄する、と」

 

 村上が香川との約束をどこまで守るかは分からないが、香川の技術を欲している今の状況ならば当分の間は利口に振る舞うだろうと予想していた。

 いつかは破棄される同盟である。ならば、今のうちに力を蓄えつつ自分の目的を達成させる。

 

「そんなことを本気で信じているのか?」

「ええ。少なくとも貴方という共通の敵が存在する間は」

 

 神崎士郎は色々とやり過ぎた。オルフェノクたちから完全に敵視される程に。その敵意がある内は協力出来る。

 

「その間に陰で何人の人間たちがオルフェノクによって命を落とすかな?」

「……」

 

 清濁併せ吞む、などと言い訳はしない。香川には神の如き力など無く、大を生かす為に小を切り捨てる決断をしなければならない。普通の人間ならば選ぶこと自体拒否するだろう。だが、香川は良くも悪くも選べられる人間であった。

 

「貴方が人命の心配をするなんて滑稽ですね」

 

 今も何処かで何も知らない人々がミラーモンスターによって誰にも知られずに屠られる。残された者たちは生存を信じ、いつまでも探し続け、待ち続けるだろう。そんな地獄を生み出した元凶の口から命という言葉が出て来た。滑稽だと言ったが内心では熱のような怒りが生まれる。

 

「……これ以上の会話は無駄だな」

 

 一方的に現れた神崎はそう言って一方的に会話を打ち切り、去ろうとする。

 

「貴方の妹さんのこと──まだ彼らに話していません」

 

 神崎は足を止めて香川を凝視する。死人のような目に初めて生気が宿ったように見えた。

 数秒間程香川を見続けた後、神崎は何も言わずに姿を消す。ミラーワールドの音は聞こえない。今度こそ本当に去っていった。

 

「ふぅ……」

 

 香川は何度目かの溜息を吐く。いずれは接触してくることは予想していたが、それでも突然現れれば外面はどうであれ内心では驚くもの。会話の間何とかポーカーフェイスを保てられた。

 最後に言ったように神崎の妹の優衣についてはスマートブレインに一切話していない。今後の交渉の為の切り札にする為──と、考える程香川は腹黒くない。単純にスマートブレインが信用出来ないから重大な情報を隠しておいたのだ。

 

「いずれは私たちが……」

 

 独りごちる。最後まで言い切ることはしない。言葉に出せば気分が悪くなる。

 神崎が対応し出したとなると、香川にもより迅速な動きが求められる。スマートブレインが力を高めているように香川もまた力を蓄えねばならない。

 香川は厳重にロックされたアタッシュケースを取り出し、開く。中に収まっているのはカードデッキ。一つはオルタナティブ・ゼロのデッキ。もう一つはオルタナティブのデッキ。そして──

 

「──今日も残業ですね」

 

 香川はアタッシュケースから三つ目のオルタナティブのデッキを取り出した。

 

 

 ◇

 

 

 人気の無い路地裏。うら若い女性が棒立ちになっている。不用心過ぎる行為であり、良からぬ輩に目を付けられる危険がある──が、その心配をする必要はすぐになくなる。

 女性の体は崩れて灰になる。女性は既に良からぬ輩に危険な目に遭わされていた。

 数秒前まで女性だった灰の前に立つのは長く伸びた口吻と甲冑のような体をしたゾウムシの特徴を持つオルフェノク──ウィービルオルフェノク。

 口吻の中に女性の心臓を突き刺していた触手が戻る。

 ウィービルオルフェノクは体を震わせていた。

 

「ふぅ……」

 

 熱の籠った吐息を吐く。震えは殺人の余韻を堪能している為。

 ウィービルオルフェノクは野良のオルフェノクではなくスマートブレインに所属するオルフェノクであった。スマートブレイン直々に人を殺すな、という命令が下されていたが、ウィービルオルフェノクはそれを無視して人を襲っていた。

 

(散々仲間を増やせと言っておいて何を今更!)

 

 というのがウィービルオルフェノクの言い分である。

 スマートブレインは大きな組織である。末端まで行けば上の指示を無視する者も存在する。しかし、反発の理由はそれだけではない。

 

(オルフェノクになった俺にはこうやって生きるしかないんだよ……!)

 

 普通の人生を送っていた彼は、ある日オルフェノクによってオルフェノクに変えられた。自分が人間でなくなってしまったことに大いに悩んだ。力を隠して生きようと考えてもいた。だが、それをスマートブレインは許さなかった。彼にオルフェノクとして生きるよう強制してきたのだ。

 人を襲わなければ処刑する。他人の命と自分の命を天秤に掛けられた。どちらを選ぶのかなど無意味。凡人であった彼には答えは一つしかなかった。

 その日、初めて人を襲い、初めて殺めた。意外なことに人を殺しても彼は平気であった。ストレスで吐くなどという症状にもならなかった。心身ともに怪物へと堕ちたことを自覚した。

 それ以降はオルフェノクとして彼は振る舞い続ける。そうすればスマートブレインが用意してくれた高水準の衣食住を得られる。一度、贅沢を覚えてしまうとそれを手放さない為に必死になる。

 それを日々繰り返していたところへの今回の命令である。最早、引き返せないところへ来てしまった彼は素直に言うことなど聞けない。

 自分をここまで堕としたスマートブレインへの憎悪も混じっているかもしれない。

 だが、どんな過去があろうと人を殺めたのは事実。被害者である女性は最悪の結末を辿ってしまった。

 そんなことを気にする様子は皆無のウィービルオルフェノクは、まだ解消されていない鬱憤を晴らす為に次なる獲物を探し始める。

 次の瞬間、ウィービルオルフェノクは顔面に強い衝撃を受け、吹っ飛んだ。

 地面を転がっていき、立ち上がりながら殴られた箇所を押さえる。

 

「な、何だっ!?」

 

 気付けば前方に二足歩行の白虎──デストワイルダーが立ちはだかっている。ウィービルオルフェノクを殴ったのはデストワイルダーであった。

 そして──

 

「ねぇ」

「──あっ? うぐあっ!?」

 

 後ろから声を掛けられたウィービルオルフェノクは、背後に立っていたタイガの斧で斬りつけられた。ウィービルオルフェノクは硬い外装を持っているが、それでもダメージは大きい。

 

「ダメじゃないかな? オルフェノクが人を襲うのって?」

 

 武器と召喚機の両方を兼ね合わせたデストバイザーを垂らしながら、タイガはウィービルオルフェノクに質問をする。斬られたことに悶えるウィービルオルフェノクはそれに答える余裕など無い。

 ウィービルオルフェノクはデストワイルダーにより既にミラーワールドの中へ放り込まれていた。当然ながらウィービルオルフェノクはそんなことは知らない。彼はミラーワールドの情報すら与えられていない下っ端である。そして、それは彼がミラーワールドから脱出する術を持っていないことを意味する。

 

「約束を破るのっていけないことだと思うんだ」

 

 そう言いながらデストバイザーの刃元をスライドさせた。

 タイガもまた香川から『オルフェノクを無暗に傷付けないこと』と言い付けられている。しかし、タイガは自らの行為に何の疑問も抱かない。タイガとはそういう人物である。

 

『STRIKE VENT』

 

 デストバイザーに装填したカードの効果によってタイガの両腕に武器が装着される。デストワイルダーの両腕を模した手甲型の武器──デストクロー。

 禍々しい武器を構えるタイガの姿にウィービルオルフェノクは悲鳴を上げて逃げ出そうとした。

 

「ねぇ、僕も混ぜてよ」

 

 逃げ道を塞ぐその人物にウィービルオルフェノクは足を止めてしまう。

 

「北崎君」

「やだなぁ、東條君。一人で楽しもうなんてずるいよぉ」

 

 前に立ち塞がるは北崎。後ろにはタイガ。ウィービルオルフェノクにとっての最悪が始まる。

 




スマートブレインの資金力と技術力の援助があればガンガン量産出来るでしょうね。
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