RIDER VS ー異形たちの見る夢ー   作:K/K

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プライベートで色々とやることが増えたので投稿間隔が少し伸びます。


血風の蛇

 スマートブレインもといオルフェノクとの戦いが始まってから浅倉の機嫌の乱高下は凄まじかった。最初のうちは適当なオルフェノクたちを狩り、それなりに楽しんでいたが、段々とオルフェノクたちが浅倉の前に現れなくなる。そのときから浅倉は誰かに視られているような感覚に襲われるようになった。

 初めは警察が自分のことを監視しているのかと思い、始末しようとしたが、浅倉が近付くと監視の目は何処かへと消えてしまう。その迅速な動きからして警察とは異なるものだと浅倉は直感した。

 それを何度か繰り返していると浅倉の機嫌は最悪となり、目に映るもの全てに暴力を振るうようになる。

 ある日、偶然だが監視していた者の正体を掴むことが出来た。

 浅倉を遠くから監視していたのはオルフェノクであった。しかも、浅倉が持っているカードデッキのようなものを腹部に装着していた。

 このオルフェノク、浅倉を監視していたのは良いが不用意に近付き過ぎてしまった為に浅倉に居場所を気付かれ、彼のベノスネーカーによる奇襲を受けてしまった。

 ベノスネーカーの毒液を浴びせられ、身悶えしている所に浅倉はやってきた。浅倉は苛立ちを晴らす為にオルフェノクと戦おうとしたが、そのオルフェノクは浅倉の目の前でミラーワールドの中へ逃げていってしまったのだ。

 これには浅倉も少し驚いた。同時に何度探しても見つけられなかった理由を知る。監視していたオルフェノクたちは皆、浅倉が来たらミラーワールドに逃げて込んでいたのだ。

 オルフェノクがミラーワールドに自力で出入り出来ないという先入観を持っていたからこその盲点であった。

 ミラーワールドへ逃げ込んだオルフェノクを嬉々として追い掛ける浅倉であったが、待っていたのは失望であった。

 元々ヘマをするぐらいの三流のオルフェノク。実力は浅倉が狩ってきた雑魚のオルフェノクと大差ない。時間にすれば三分も掛からずに葬ってしまい期待外れであった。変化があった分期待をしていたが、その分落差も大きい。

 それ以降は監視の目が無くなることはなかったが、ミスするようなこともなくなり相手はより慎重に行動するようになった。

 結果として鬱陶しい視線を四六時中向けられ、戦うことも出来ず、浅倉のフラストレーションは溜まり続ける一方であった。

 

「おらあっ!」

 

 浅倉は苛立ちと破壊衝動に身を任せて近くにあった自販機に蹴りを叩き込む。手加減無しの一撃に自販機の外装がひしゃげた。そのまま何度も蹴りを打ち込んで自販機を破壊していく。やがて異音が鳴り、取り出し口から大量の缶が溢れ出て来た。

 浅倉は転がり出た缶を踏み潰しながら自販機を破壊し続ける。

 

「おあああああああああああっ!」

 

 空に向けて浅倉は怒号を上げた。八つ当たりによる破壊などでは浅倉の中に溜め込まれた苛立ちは殆ど解消されない。

 無惨な状態になった自販機の前で浅倉は屈み、転がっていた缶を拾い上げる。叫んで枯れた喉を潤す為にプルタブを開こうとし──動きが止まった。

 浅倉の視線の先、そこに立つのはスーツ姿の長髪の美女。浅倉はその女を知っていた。村上直属の部下であり、スマートブレイン本社で浅倉を殴った女。

 見た瞬間、殴られたときの記憶が鮮やかに蘇る。衝撃と痛みがついさっきの出来事のように思い出せる。

 浅倉の顔に凶笑が張り付く。すると、黒髪の美女は浅倉から離れて曲がり角に消えていく。

 

「待て……!」

 

 浅倉は追い掛け、曲がり角を曲がる。離れた場所に靡く黒い髪が見えた。浅倉はそれを目印にして追う。

 

「逃げるなっ!」

 

 追えども追えども黒髪の美女との距離を詰めることが出来ない。それを数度繰り返した後、浅倉は黒髪の美女が大きな建物の中へ入って行くのが見えた。

 第三者の視点からするとあからさまに怪しい建物であったが、浅倉はリスクなど関係無く迷いもせずに建物へ突入する。

 建物の内部に明かりは無く、暗いせいで黒髪の美女を見つけられない。

 

「何処へ行ったぁぁぁ!」

 

 浅倉の怒号が暗闇の中で反響する。

 そのとき、浅倉が入ってきた入り口が音を立てて閉まる。続いて、暗かった室内に明かりが点灯した。

 建物の内部は天井が高く、三階建て相当ある。しかし、それが以外特徴的のものは一切無い。コンクリートの床に壁で覆われた灰色の無味乾燥な室内。

 そんな灰色の空間中央で黒髪の美女が仁王立ちをしている。

 

「──ようやく獣を檻に閉じ込められたな」

「あぁ?」

 

 黒髪の美女の嘲笑を込めた言葉に浅倉は訝しむ声を上げる。

 

「閉じ込めた後は……始末するだけだ」

「戦う気があるなら、最初から戦え……!」

 

 黒髪の美女は顔に紋様を浮かび上がらせながら殺気を出す。浅倉は口の端を上げながらカードデッキを取り出した。

 

「残念だがお前と戦う気など無い」

「何だと……?」

「これから始まるのは一方的な蹂躙だ!」

 

 黒髪の美女が変身し、エラスモテリウムオルフェノクへと姿を変えた。浅倉もそれに応じるようにカードデッキを構えようとし、動きが止まる。

 カードデッキを構えても向けるべき鏡や反射物が見当たらない。床は艶の無いコンクリート。壁には窓はなく床と同じコンクリート製。更には物が全く置いてないので姿が映るものが見つけられない。

 

「やっと気付いたか? ──ここに鏡は無い」

 

 浅倉を愚鈍と冷笑するエラスモテリウムオルフェノク。

 

「お前の変身システムについては承知済みだ」

 

 香川たちと協力した段階で神崎士郎のライダーについての詳細は知らされている。変身するには鏡などの反射物が必要だが、この建物にはそれらの類一切無い。これは偶然ではない。何故ならばこの建物自体が浅倉の為に用意されたものだからだ。

 

「感謝しろ。お前如きの為に時間を使い、金を使い、人を使った。お前のような汚らわしい犯罪者一人を葬る為に……!」

 

 元からあった建物を改装した浅倉を捕らえる為の檻。閉じてしまえば反射物も無いのでミラーモンスターも呼び出せない。

 

「お前如きの為に……お前如きの為に……! お前如きの為にっ!」

 

 喋りながらエラスモテリウムオルフェノクが詰め寄って来る。言葉を発する度にエラスモテリウムオルフェノクの感情が昂っていく。傍から見れば一人でヒートアップしているので不気味でしかない。

 

「ご苦労なことだな」

 

 閉じ込められても怯え一つ見せず、皮肉を飛ばす浅倉にエラスモテリウムオルフェノクの怒りが瞬間的に最大に達する。

 

「ほざけっ!」

 

 怒声を発し、地面を蹴って走り出す。重厚な見た目ではあるが、それ以上の筋力を秘めているので重い体を力で無理矢理加速させる。

 浅倉に避ける暇を与えずに接近すると、エラスモテリウムオルフェノクは浅倉の胴体に拳を捻じ込んだ。

 

「がはっ!」

 

 肺の中の酸素だけでなく腹の中の内臓すらも吐き出してしまいそうな重い衝撃。前のめりになる浅倉の髪を掴み上げ、倒れなくさせるとエラスモテリウムオルフェノクは浅倉の顔面を殴り付ける。

 口の中が切れ、血の混じった唾液が飛ぶ。エラスモテリウムオルフェノクは浅倉の肩を指先が食い込む程強く掴むと、浅倉を片手で放り投げる。

 十数メートルも投げ飛ばされ、背中から地面に落ちる浅倉。落下の衝撃で再び呻く。

 しかし、それでも浅倉は生きている。元からの生命力の強さもあるが、エラスモテリウムオルフェノクが手加減していることも大きい。

 彼女がその気になれば人間の浅倉など一撃で絶命させられる。そうでなくとも使徒再生によりオルフェノクのエネルギーを流し込めば浅倉は高確率で灰になる。

 そうしなかった理由は一応ある。使徒再生を行わないのは、浅倉がオルフェノクとして覚醒する可能性があるからである。確率すれば限りなくゼロに近いが万が一のこともある。敵にわざわざ力を与える必要もない。

 そして、もう一つの理由。それは至って単純。私怨である。

 エラスモテリウムオルフェノクは効率云々など無視して浅倉を嬲り殺しにしようと心に決めていた。

 

「お前を取り逃がしたとき、私が村上社長にどんな目で見られたと思っているっ!」

 

 妨害があったとはいえ、村上から頼まれた任務は果たせなかった。村上は表面上は穏やかな笑みを浮かべ、気にすることはないと慰めてくれた。しかし、彼女は気付いていた。細められた目の奥に宿る冷たい光──失望の感情を。

 

「お前如きの為に村上社長が悩まされるのが許せない!」

 

 浅倉に恥をかかされたのは勿論許せないことだが、それよりも許せないのは村上を悩ませたこと。男も女も理由も関係無い。村上の頭の中に誰かが居る。その事実だけでエラスモテリウムオルフェノクは嫉妬の感情で気が狂いそうになる。

 

「知るか……!」

 

 浅倉はエラスモテリウムオルフェノクの私怨について短く吐き捨てる。浅倉からすればどれも知ったことではない。

 

「お前は時間を掛けて嬲り殺す……!」

 

 私情全開で浅倉に死刑宣告をしながらエラスモテリウムオルフェノクは距離を詰めていく。

 

「うおらっ!」

 

 浅倉はエラスモテリウムオルフェノクを拳で迎え撃つ。加減、躊躇など排した百パーセントの暴力からなる拳。人間相手ならば運が良ければ骨折、悪ければ絶命してもおかしくはない。

 

「ふん」

 

 エラスモテリウムオルフェノクは鼻で笑い、回避動作を見せず体で受け止める。

 

「ぐうぅ!」

 

 傷付いたのは浅倉の拳であった。加減無しの暴力がそのまま自分へ返ってくる。浅倉の拳の皮膚は深く裂け、一瞬で血に染まる。

 浅倉の暴力は大きな武器であった。相手の痛みなど知ろうともしない凶悪な性格も合わさり、人間相手ならば圧倒出来る。しかし、今の相手は人間でなくオルフェノクである。いくら浅倉が強くとも所詮は人間のレベルに収まったものであり、怪物相手には通用しない。

 エラスモテリウムオルフェノクは浅倉に拳を振り下ろし、地面へ叩き付ける。

 ライダーという武器を封じられた浅倉は、為す術なくエラスモテリウムオルフェノクに蹂躙されるしかなかった。

 

「凶悪犯として世間を震わせた浅倉もオルフェノクを前にすればこの程度か」

 

 見下しながら浅倉の頭を踏み付け、屈辱を与える為に踏み躙る。浅倉は両腕にあらん限りの力を込めて押し返そうとするが、力が込められた両腕が震えるだけでエラスモテリウムオルフェノクの足はびくともしない。

 

「無駄な足掻きだ」

 

 エラスモテリウムオルフェノクは乗せていた足を浅倉の背から下ろすと同時に爪先で浅倉の脇腹を蹴り付けた。

 

「ぐあっ!」

 

 浅倉は体内で異音が鳴るのを聞いた。今の蹴りで肋骨に罅が入る。浅倉は床を何度も跳ねながら転がっていった。

 

「くっ……」

 

 凄まじい衝撃だったが、浅倉の意識はまだ有る。この場合はまだ有る方が不幸だったかもしれない。尤も、浅倉が気絶していたのならエラスモテリウムオルフェノクはあらゆる手段で意識を覚醒させるが。

 腕や脚を動かすだけで激痛が走るが、浅倉はその痛みすらも押し殺して立ち上があろうとしていた。不屈の精神力と言えるが、ここで立ち上がったとしても、戦う手段が無い浅倉は再びエラスモテリウムオルフェノクに嬲られる未来しか待っていない。

 四つん這いの体勢になり体を起こそうとしたとき、浅倉の口から血が垂れる。血は床に落ち、赤い丸となって広がった。

 床に落ちた血を浅倉は暫くの間見つめていた。次の瞬間、浅倉は凄絶な笑みを浮かべる。

 浅倉はよろめきながら立ち上がる。

 

「あぁ……」

 

 首を軽く回すと、トレードマークとも言える蛇柄のジャンパーを脱ぎ捨てた。

 上半身を晒す浅倉の奇行にエラスモテリウムオルフェノクは訝しむ。

 エラスモテリウムオルフェノクの見ている前で浅倉は左手を口元に持っていき──左手首に噛み付いた。

 

「なっ!?」

 

 その行動に驚くエラスモテリウムオルフェノク。次なる行動は更なる驚きを生む。

 

「おおおおおおっ!」

 

 獣の如き咆哮で喉を震わせながら浅倉は自らの左手首を噛み千切る。左手首は骨が露出する程に抉られ、太い血管も千切れており大量に出血する。

 浅倉は左手を突き出しながら口から何かを吐き出す。それは浅倉の嚙み千切られた左手首の肉片であった。

 ぼたぼたと音を立てながら流れる浅倉の血。落ちた血は床に広がっていく。

 エラスモテリウムオルフェノクは混乱する。浅倉が何故このような行為をしたのか。追い詰められて自殺を行うような人物には見えない。エラスモテリウムオルフェノクが考えている間にも浅倉の足元では血溜まりを作り上げられていく。

 

(血……大量の血……それが広がって……はっ!?)

 

 浅倉の狙いに気付いたエラスモテリウムオルフェノクは慌てて走り出すが一歩遅い。浅倉の右手には既にカードデッキが握られている。飛び散った血で汚れたそれを突き出したとき、血溜まりからベノスネーカーが飛び出した。

 現れると同時にベノスネーカーは毒液を吐き出す。エラスモテリウムオルフェノクは反射的に足を止めた。その判断は功を奏した。

 毒液はエラスモテリウムオルフェノクまで届かず足元に落ちる。床が音を立てて溶け出し、嫌なニオイを発する煙まで出す。

 並大抵のことではびくともしないエラスモテリウムオルフェノクの外装だが、溶解性のある毒液にはどれだけ耐えられるのかは分からない。危うく重傷を負う所であった。だが、これはエラスモテリウムオルフェノクにとって致命的な足止め。

 広がる血溜まりに映る浅倉の姿。浅倉の腹部にVバックルが装着される。

 

「変身!」

 

 Vバックルにカードデッキが装填され、浅倉は王蛇に変身する。

 

「くっ……!」

 

 エラスモテリウムオルフェノクは悔しさに満ち満ちた声を洩らす。最も警戒していた浅倉の変身を許してしまった。

 鏡面が無いのならば作ればいい。単純な話である。しかし、だからといって血溜まりが出来る程の出血をするだろうか。道具など使わず、歯で自らの手首を噛み千切ることなど出来るだろうか。

 浅倉にはそれが出来た。しかも、一瞬の迷いも無く。他者に対して躊躇無く傷付ける男は、自分に対しても躊躇無く傷付けることが出来るらしい。

 全ての準備が無駄になってしまったが、だからといってエラスモテリウムオルフェノクがやることは変わらない。変身してしまったのなら真っ向から潰すだけ。

 エラスモテリウムオルフェノクが前進しようとしたとき、王蛇はデッキから一枚のカードを抜いた。

 途端、有り得ない現象が起こる。密閉された空間に突風が巻き起こり、進もうとしていたエラスモテリウムオルフェノクを押し戻す。

 吹き荒れる風は、床に広がっていた血を巻き上げ、無色の風を赤で彩る。

 

「何だこれは……!?」

 

 エラスモテリウムオルフェノクと拮抗する程の凄まじい風。全身に浴びせられるそれにより前へ進むことが出来ない。

 王蛇は引き抜いたカードを反転させる。描かれているのは黄金の右翼。青い風が渦巻いており、実際にカードの中で動いている。突風はこのカードの力により生み出されていた。

 

「ははっ」

 

 使用する前からこれ程の威力を発するカード。使えばどれだけのことが起こるのか。想像するだけで王蛇の口から笑いが零れる。

 手に持っていた召喚機であるベノバイザーが砕け散り、新たな形に再構築し、左腕に装着された。

 ベノスネーカーの頭部を模した円形盾(ラウンドシールド)。王蛇はその盾の中央部分をスライドさせ、カードスロットを開けると、そこにカードを挿し込む。

 読み上げられるカードの名は──

 

『SURVIVE』

 

 




満を持してのサバイブ使用となります。
次回からはその能力を存分に発揮させる予定です。
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