サバイブ。それは文字通り戦いに生き残る為の力。ゲームマスターである神崎に与えられた者のみが使用することが出来る。それを使用したライダーは、他のライダーとは比較ならない程の力を得られる。
風の力を宿した疾風のサバイブのカードもまた神崎がミラーモンスターたちの使役権と共に彼に与えた力である。少々力を与え過ぎていると思われるが、神崎はそれも考慮しており、浅倉に渡したサバイブのカードは少し特殊であった。
血の匂いがする渦巻く風の中で、虚空に映し出される三つの虚像が王蛇へと重なり、その姿を変える。
装甲の色が紫からサバイブのカードのイメージの青が混ざり合うことで青紫に変化。頭部のマスクは側面部分の形状が変わり、下に向かって長く伸びる。古代エジプトの黄金のマスクを彷彿とさせる形になっている。
胴体の装甲は左腕の盾と同じくベノスネーカーの頭部を模した形をしており、胴体中央にベノスネーカーの目と牙の装飾、肩回りにはベノスネーカーの側面から生える刃に似た突起が左右四本ずつ付けられている。
王蛇は左腕の盾兼召喚機──ベノバイザーツバイの口に手を入れ、中から何かを引き抜く。
まるで背骨のように緩やかに湾曲し、刺突起のような刃が並び、刃先が蛇の歯牙になっている剣──ベノブレード。この剣を構えることで王蛇の変身は終わりを迎え、新たなる姿王蛇サバイブと成る。
契約モンスターであるベノスネーカーもまたサバイブの効果により脱皮をするかのような古い体がガラスのように砕け散り、その下から進化した新たな姿が現れる。
紫の体色はより艶のある濃い紫になり、頭部の左右が翼のように広がり鉤状の爪が生え、更には車輪に似た円形のパーツが付けられていた。顔の上半分には格子状のバイザーが装着され、元々生物でありながらも無機質な見た目をしていたがより機械的な見た目に変わる。ベノスネーカー改め、ベノヴァイパーは王蛇サバイブの背後に立ってエラスモテリウムオルフェノクに威嚇の声を上げた。
「あぁ……悪くない」
王蛇サバイブはサバイブの力で変わった己を見てそんな感想を出す。使われる側であった自分が今度は使う側に回る。そして、実際に使用してみたところ途轍もないパワーが体の底から溢れてくるのが分かった。
「こいつは癖になりそうだぁ……!」
全身に漲る力。王蛇サバイブ自身の尽きぬ闘争心と合わさり、今の彼は言いようの無い高揚感に満たされている。
「こんなことが……!」
一方でエラスモテリウムオルフェノクは焦りを感じていた。本能で分かってしまう。今の王蛇サバイブが強いことが。
「うおらっ!」
王蛇サバイブは雄叫びと共にエラスモテリウムオルフェノクへ飛び掛かる。その動きは王蛇のときよりも遥かに速い。その素早い動きでエラスモテリウムオルフェノクとの距離を一足で詰めると、上段からベノブレードを振り下ろす。
「ぐうっ!」
腕を掲げて咄嗟に防御したエラスモテリウムオルフェノクだが、その口から苦鳴が洩れる。分厚い装甲で覆われたエラスモテリウムオルフェノクの腕に痛みを感じさせる重い一撃。しかも、エラスモテリウムオルフェノクの怪力を以ってしてもベノブレードを押し返すことが出来ない。
「ははぁ!」
王蛇サバイブは笑いながら型の無い滅茶苦茶な軌道でベノブレードを振り回す。だが、この剣術などと言えない乱暴な振り回しはエラスモテリウムオルフェノクには有効であった。
次に何処に来るのか分からない無軌道な斬撃。しかも、それが高速で繰り返される。エラスモテリウムオルフェノクは王蛇サバイブの斬撃に防御が間に合わず、脚や腹、肩などにベノブレードを打ち込まれる。
重く速いベノブレードの攻撃に膝が折れそうになるが、エラスモテリウムオルフェノクは意思の強さでそれを堪える。王蛇サバイブ相手に無様を晒すなど彼女のプライドが許さない。
エラスモテリウムオルフェノクは王蛇サバイブの乱打を受けながら力を溜める。幸い、ベノブレードはベノサーベルと同様に打突を目的とした作りになっているらしく切れ味はそこまで無い。エラスモテリウムオルフェノクの甲冑の如き外装は、斬撃は勿論だがそれ以上に打撃に対して高い防御力を誇っていた。
王蛇サバイブの容赦ない攻撃に耐えながら力を溜めるが、同時に王蛇サバイブに対しての怒りも溜め込まれていく。ドロドロとした怒りが攻撃を受ける度に加熱され、煮立っていき、激しい感情の昂ぶりへ昇華されていく。
「おらぁぁ!」
初撃のときと同様に王蛇サバイブは上段からの振り下ろしを繰り出す。エラスモテリウムオルフェノクはその攻撃を待っていた。
エラスモテリウムオルフェノクの額をかち割る為の振り下ろしであったが、軌道の途中にエラスモテリウムオルフェノクの両腕が挟まれ、交差したそれによりベノブレードは受け止められてしまう。
「あああああっ!」
溜め込んでいた力と感情を絞り切るように吐き出しながら交差していた腕を広げ、ベノブレードごと王蛇サバイブを弾き飛ばす。
王蛇サバイブの体が後方に飛ばされるのを見て、エラスモテリウムオルフェノクは突進しようとするが──
「あぐっ!」
──体を走る裂く痛みにエラスモテリウムオルフェノクの足は止まってしまう。明らかに剣の間合いの外だというのに斬られた感触。斬撃の正体はすぐに分かった。
風切り音を鳴らしながら動くのはベノブレードの剣先。牙に似たそれに繋がるのは青い鞭。それがベノブレードの刀身から伸びている。王蛇サバイブがベノブレードを引っ張ると鞭の部分はベノブレードの刀身の中に収納され、元の形に戻った。
エラスモテリウムオルフェノクは見事に騙された。ベノブレードは剣だけでなく鞭の機能も持った複合武器であったのだ。そうとは知らず油断してしまったことで痛い一撃を浴びせられてしまった。
「はぁ……面白いな」
ベノブレードの使い心地が気に入ったのか、王蛇サバイブは地面に向けてベノブレードを振るう。刀身から鞭が伸び、ピシャンという音を鳴らしながら地面を叩く。
「ははっ!」
王蛇サバイブは離れた距離からベノブレードを振り抜く。エラスモテリウムオルフェノクの真横から襲い掛かるベノブレードの牙。
「くっ!?」
エラスモテリウムオルフェノクは咄嗟に腕でガード。腕に伝わる衝撃は剣としてのベノブレードよりも軽い。しかし、この武器の真骨頂は柔軟な動きにある。
エラスモテリウムオルフェノクの腕を支点にしてしなり、ぐるりと回って牙がエラスモテリウムオルフェノクの顔面に突き刺さろうとする。
「ふん!」
エラスモテリウムオルフェノクは避けるのではなく頭を振り下ろすことで頭部から生える角によって牙を受け止めた。この角はエラスモテリウムオルフェノクの体の中で最も硬い部位であり、ちょっとやそっとでは傷を付けることすら出来ない。
不覚を取ってしまったが、種さえ分れば恐れるに足りない。エラスモテリウムオルフェノクは鞭の部分を掴んで王蛇サバイブを引き寄せようとする。
王蛇サバイブはその動きを読んでおり、掴まれる前にベノブレードを後ろに引く。エラスモテリウムオルフェノクの指は空を掴む結果となった。
防ぎ終えたエラスモテリウムオルフェノクは、頭部の角を突き出して駆け出す。王蛇サバイブの次なる攻撃が来る前に仕留める、短期決戦を挑もうとしていた。
一方で王蛇サバイブはサバイブの力を楽しんでいる。大きい力は高揚感を生み出す。そして、何より相手がエラスモテリウムオルフェノクなのが良かった。強い力でも相手が弱くて一瞬で決着がついたら興醒めだったが、彼女は頑丈であり簡単には死なない。
戦いへの欲求が王蛇サバイブの力の根源。戦いが面白い程に王蛇サバイブは燃える。
王蛇サバイブは指の間に挟んでいたカードをベノバイザーツバイに装填。これはエラスモテリウムオルフェノクを攻撃している間にさり気なく抜いておいたものである。
『BLUST VENT』
音声に反応し、今まで静観していたベノヴァイパーが動く。頭部左右にある車輪状の部位が高速回転し、そこから竜巻を発生させた。
二つの竜巻は一つに合わさり風速を増し、突進して来るエラスモテリウムオルフェノクを呑み込む。
「ぐぅぅぅ……!」
正面から来た竜巻によりエラスモテリウムオルフェノクの突進が止まる。そのまま吹き飛ばされてもおかしくないが、エラスモテリウムオルフェノクは地面に亀裂が生じるぐらいに足に力を込めて踏ん張る。彼女の執念は並のものではなく、猛烈な竜巻に抗うどころか逆らって前進をし始めていた。
エラスモテリウムオルフェノクはやはり並のオルフェノクとは別格である。しかし、王蛇サバイブとベノヴァイパーもまた別格。そして、何よりもベノヴァイパーの攻撃はまだ終わっていない。
「つっ!」
ジュっと蒸発する音が鳴ると共にエラスモテリウムオルフェノクは焼け付くような痛みを覚えた。見れば外装の一部から白煙を上げて溶けている。
エラスモテリウムオルフェノクは、まさかと思いベノヴァイパーを見た。
ベノヴァイパーは口を開き、毒液を吐く。吐かれた毒液は、自身が起こしている竜巻の風圧によって散り、細かな粒状になってエラスモテリウムオルフェノクに浴びせられる。
エラスモテリウムオルフェノクは両腕を前に翳して顔面の守りを固めた。直後に体の至る所が毒液によって溶かされる。
一つ一つは大したダメージではないが数が多過ぎる上に拡散されて飛んできているので躱すことが出来ない。そもそも竜巻により身動きがとれない状態になっているので回避は困難であった。
(浅倉……!)
痛みとそれに耐えるしかない屈辱でエラスモテリウムオルフェノクの王蛇サバイブへの憎悪が臨界点を迎える。すると、彼女の体に変化が起こる。体の各部に空いた毒液による痛々しい穴。そこから青い炎──オルフェノクのエネルギーが噴き出したのだ。
全身から噴き出したオルフェノクのエネルギーがエラスモテリウムオルフェノクを覆う。すると、飛んで来た細かな毒液が青い炎によりエラスモテリウムオルフェノクに当たる前に消滅していく。
「──ちっ」
王蛇サバイブは舌打ちをし、ベノヴァイパーに攻撃を中断させる。小雨程度の毒液ではエラスモテリウムオルフェノクの青い炎の守りを破ることは出来ない。これ以上の攻撃は無駄であると判断したからだ。
だが、王蛇サバイブが不利になったということはない。寧ろ、内心では喜んですらいる。もっともっと力を試せられる。
王蛇サバイブはデッキから新たなカードを抜き取り、一瞬だけ効果を読むとすぐにベノバイザーツバイに装填した。
『SHOOT VENT』
カード名が読み上げられると、王蛇サバイブはベノバイザーツバイをエラスモテリウムオルフェノクに向ける。ベノバイザーツバイに付いている蛇の口部が可動し、ほぼ百八十度開く。
ベノバイザーツバイから発射される人の頭程のサイズの毒液。それが弾丸と変わらない速度で撃ち出される。
粒サイズの毒液ならば纏っているオルフェノクエネルギーで消すことは出来るが、この量と速さの毒液を一瞬で消すことは不可能。エラスモテリウムオルフェノクは横に移動して毒液を回避。
「はあああっ!」
そこに王蛇サバイブがベノブレードを振り上げて飛び掛かってくる。
「浅倉ぁぁぁ!」
エラスモテリウムオルフェノクは肩でベノブレードを受けると同時に王蛇サバイブの腹を拳で叩く。
感情の昂ぶりにより増した怪力により王蛇サバイブは殴り飛ばされるが──
「っはぁ!」
──殴り飛ばされながらも王蛇サバイブはベノバイザーツバイを逆袈裟切りのように払う。蛇の口部から伸びる線、それがエラスモテリウムオルフェノクまで伸びるとオルフェノクエネルギーを破り、肩の一部を切断した。
「うぐっ!?」
切断された箇所には綺麗な断面。だが、すぐに切断箇所は溶解し出す。ベノバイザーツバイが吐いたのは高圧縮された毒液。ウォーターカッターのような鋭い切れ味を持っているが、毒液の性質を失っていないので触れた箇所は溶けてしまう。
殴られた王蛇サバイブは十数メートル程離れた位置に着地。そして、デッキからカードを抜く。エラスモテリウムオルフェノクは肩の傷に構うことなく王蛇サバイブを殺意の滾った眼差しを向ける。彼女の激情に反応して青い炎は激しく燃え盛る。
エラスモテリウムオルフェノクは身を低くし、走る体勢に入る。
基本的にオルフェノクは固有の装備を持つ。ドラゴンオルフェノクは手甲。バッドオルフェノクは銃などオルフェノクにより種類は様々である。
エラスモテリウムオルフェノクは無手で戦うが、彼女もまた固有の装備を持つ。彼女の装備は纏っている分厚い鎧。武器が基本であるオルフェノクの中で例外である防具が固有装備であった。
これだけ聞くと外れのように思われるかもしれないが、この装備が最も彼女と相性が良い。
何故ならば並外れた怪力を持つエラスモテリウムオルフェノクと生半可な攻撃にびくともしない鎧が合わさることで彼女自身が一つの武器となるからだ。
あらゆるものを貫き、粉砕する為にエラスモテリウムオルフェノクは全力で駆ける。
そして、王蛇サバイブはそれを破壊する為に迎え撃つ。
『FINAL VENT』
王蛇サバイブは後方へ向かって跳び上がる。跳ぶ先に待つのはベノヴァイパー。
ベノヴァイパーの頭部左右にある車輪は向きを変えて前輪と後輪に変形。長い胴体は折り畳まれていく。王蛇サバイブが降り立ったとき、ベノヴァイパーはバイク形態に変形し終えていた。
フロント部分となったベノヴァイパーの後頭部から伸びるハンドルを握り、シート部分になった尾に腰を下ろすと王蛇サバイブはアクセルを一気に入れてベノヴァイパーを走り出させる。
突き進む先にはエラスモテリウムオルフェノク。
走るベノヴァイパーの周囲に激しい気流が起こり、ベノヴァイパー全体を包み込む風の膜となる。フロントのベノヴァイパーの頭部が鳴き、口から大量の毒液を吐き出す。毒液は気流に乗り、風の膜の中にあらゆるものを溶かす毒液が混ぜ合わせられる。
建物の内部にて王蛇サバイブの凶暴とエラスモテリウムオルフェノクの激情が正面から激突した。
王蛇サバイブ(疾風)はSICやらナイトサバイブの設定を継ぎ接ぎにした感じで書いています。