黒炎による無数の火柱が、リュウガを中心にして集う。下から吹き上がる炎の中でリュウガの外装は剥がれ落ちていく。
傍から見れば焼き尽されていくような光景。だが、火柱の中心に立つリュウガは恍惚とした様子で漆黒の炎をその身で受け止めていた。
剥がれていく胸部の装甲から露わとなる二つの目。胸部装甲はドラグブラッカーを彷彿とさせる龍の顔の形をしたものへ変化。肩回りの装甲も追加され、後方へと角のように伸びており、更にバキバキと音を立てて新たな角が伸びていき角とも棘ともとれるような形となる。
顔を覆う鉄仮面のような格子のフェイスガードの横幅は伸び、額には金のサークレットと触覚を思わせる同色のセンサーが追加。腕や脚を覆う装甲にも金の装飾が施される。
リュウガの強化と同じくドラグブラッカーにも影響を与える。
宙を泳ぐドラグブラッカーは、かつての己を突き破り新たな姿を手に入れる。全長はドラグブラッカー時の二倍近く大きくなり、手足もそれに合わせて巨大化する。腕や脚周りに強化されたリュウガの恰好と似た装甲が追加され、頭部にも金色の角や格子状の装甲などが新たに増える。
火柱が消え去ったとき、新生したリュウガことリュウガサバイブは進化した相棒──ブラックドラグランザーを従えてタイガと対峙する。
「何それ……」
初めて目の当たりにするサバイブによる強化態。変身したライダーが更なる変身を遂げるなど知らなかった。
(嫌な感じ……)
リュウガサバイブから放たれる圧を敏感に感じ取り、タイガは警戒を強める。容易に勝てる相手ではないことを直感で理解してしまった。
「──怖いか?」
リュウガサバイブはタイガをせせら笑う。
「君が? そんな訳無い」
「そうか? ……足が下がっているぞ?」
タイガは思わず足元を見る。地面に残る足跡がいつの間にか一歩分ずれており、轍のような跡になっている。指摘されて初めて気付いたが、タイガはリュウガサバイブと対峙したときに無意識のうちに一歩下がっていたのだ。それは、リュウガサバイブの圧に押し負けたという証拠でもある。
リュウガサバイブは軽く手を振る。すると、後方で待機していたブラックドラグランザーが上空へ飛び上がり、そこで留まる。
「お前のモンスターを呼べ。──それで少しは楽しめる」
敢えて自ら不利な状況になろうとする。自分の力に絶対的自信を持っているのが伝わる。
馬鹿にしている、と思いながらもタイガはいつの間にかアドベントカードを握っていた。リュウガサバイブの言う通りに動いている自分に驚く。
しかし、そんな自分を止めることが出来ないままタイガはアドベントカードをデストバイザーに装填してしまった。
『ADVENT』
カードにより呼び出されたデストワイルダーがタイガの傍に降り立つ。
「そんなこと……無いっ!」
タイガは無意識に臆してしまった自らを奮い立たせながら、デストバイザーにカードを入れる。
『STRIKE VENT』
攻防どちらにも優れた長爪の手甲──デストクローがタイガの両腕に装着される。
「それで良い」
逃げずに戦いを挑もうとしているタイガを褒める。尤も、今の自分の力を試したいリュウガサバイブからすれば犠牲になる実験動物への労い程度の意味しかない。
「僕は……香川先生と同じ英雄になるんだ……!」
「英雄? はっ」
『SWORD VENT』
タイガの願いを鼻で笑った後、リュウガサバイブはブラックドラグランザーの頭部の形をした召喚機──ブラックドラグバイザーツバイの側面にあるスロットにカードを入れた。ブラックドラグバイザーツバイの中央に折り畳まれていた刃が展開。黒い刀身が一瞬鈍く輝くと刃が伸長する。
「──来い」
リュウガサバイブがより圧を強めた。すると、その圧力に冷静な判断が出来なくなったのかデストワイルダーが真っ先に飛び掛かる。リュウガサバイブの頭上に自身の剛腕を振り下ろすのだが──
「ふっ」
──リュウガサバイブは一笑する。振り下ろされたデストワイルダーの腕が途中で止まっていた。何故ならば、デストワイルダーの掌にブラックドラグバイザーツバイの剣先が押し当てられているからだ。
デストワイルダーは特殊能力の域にまで達している腕力で押し込もうとする。だが、リュウガサバイブの足はその場から一歩も動いていない。デストワイルダーの腕力を軽々と捻じ伏せている。
諦めずにデストワイルダーは地面を蹴りながら進もうとするが、地面を削るだけで前へ進まない。力の比べ合いしか頭にないデストワイルダーの単純さを嘲りながらリュウガサバイブは無防備な脇腹を蹴る。
思考の外からの攻撃によりデストワイルダーは滑稽なぐらいに蹴り飛ばされる。すると、デストワイルダーと交代するように今度はタイガが前に出て来た。
タイガもまた上から右爪を振り下ろす。リュウガサバイブはブラックドラグバイザーツバイの刃──ドラグブレードでそれを受け止める。タイガはすかさず左爪でリュウガサバイブの胴体を狙って横に払う。
それを読んでいたのか、タイガの右爪を跳ね除けた後、素早く左爪を弾き返す。そして、今度はリュウガサバイブの方が反撃として刃を振り下ろした。
上段からの攻撃を片手で受け止めるタイガ。
「うぐっ!」
しかし、リュウガサバイブの攻撃は重く、膝が折れる。跳ね除けることも出来ないので腕を交差させて耐えることしか出来ない。
リュウガサバイブがほんの少し腕に力を入れた。それだけでタイガの両腕、両脚が小刻みに震える。ありったけの力を出している筈なのにリュウガサバイブの力に勝てず、空回った力はタイガを震わせるだけ。或いは別の意味で震えているのかもしれない。
だが、タイガの抵抗も決して無駄なものではなかった。
咆哮を上げ、デストワイルダーがリュウガサバイブの側面からタックルを仕掛ける。
タイガに気を取られていたリュウガサバイブは、回避が間に合わず脇腹辺りにデストワイルダーの強烈な体当たりを受ける。
デストワイルダーは時速300キロを出せる健脚でリュウガサバイブを捕らえたまま疾走。バランスを崩して転倒し、そのまま地面を引き摺り回すことを狙っての行動であった。
デストワイルダーの目論見は、すぐに崩れることとなる。
走り出して数メートルも移動しない内にデストワイルダーの足が止まった。何度も何度も地面を蹴るが先に進まない。リュウガサバイブの足が根を張った樹木のようにその場から動かすことが出来ない。
必死になって押そうとするデストワイルダー。それを見下ろして嘲笑のようなジェスチャーをしたリュウガサバイブは膝で突き上げる。前傾姿勢になっているデストワイルダーの胸に命中。しかし、デストワイルダーは両手を組んで離れないよう耐える。
そんなデストワイルダーの足掻きを踏み躙るようにリュウガサバイブは同じ箇所を正確に狙った膝蹴りを数度連続して打ち込む。デストワイルダーの外装に罅が入り、苦悶に満ちた声がデストワイルダーから聞こえる。組んでいた両手が緩んだタイミングでリュウガサバイブは肘をデストワイルダーの背中に打ち下ろす。
背部からの杭打ちの如き肘の一撃によりデストワイルダーは堪え切れなくなり、リュウガサバイブにしがみつく為の両手が離れ、崩れ落ちて地面に四つん這いの姿勢になる。
「ふん」
そこへ下から斬り上げられるドラグブレード。デストワイルダーの厚みのある外装を裂き、後方へ斬り飛ばす。
デストワイルダーが宙を舞う間にタイガはリュウガサバイブへの接近を試みていた。リュウガサバイブの視線は未だにデストワイルダーに向けられており、まだタイガに気付いていない──そう思っていた。
ドラグブレードの刀身が黒い炎を纏う。
黒炎が宿った剣が向ってきているタイガへ振り下ろされる。黒炎に嫌なものを感じ取ったタイガは、急停止して速度を無理矢理殺し、同時にバックステップで跳ぶように下がる。
タイガの判断はギリギリのものであり、リュウガサバイブの剣が眼前を通り過ぎて行く。紙一重で躱すことが出来たタイガは、足が地面に着くと今度は前方へ跳ぶ。剣を振り下ろした直後のリュウガサバイブを狙い、右のデストクローを横振りした。
「なっ!?」
驚きの声を上げたのはタイガ。横からリュウガサバイブに迫る筈であったデストクローが止まっている。デストクローを阻むのは宙に固定されている黒い炎。リュウガサバイブが振り下ろした際に描かれた軌跡が消えることなく残っていた。
黒炎は揺らぐ形のまま硬さを持ち、デストクローの一撃を受けても欠けることも動くこともなくその場に留まり続けている。
この黒炎はドラグブラッカーが持つ能力であるが、強化されたことによりリュウガサバイブも使用することが出来るようになったのだ。
「ふっ」
驚いているタイガを一笑すると、リュウガサバイブは宙で停止している黒炎と交差するようにドラグブレードを振るった。
袈裟切りの跡に残される黒炎。先に出された黒炎と重なり✕の字の形となる。すると、石のように固まっていた黒炎が揺らめきを取り戻し、✕の字の黒炎は飛んで行く。
斬撃の跡を防御に使ったかと思えば、今度は攻撃として斬撃を飛ばして来る。タイガは前方にデストクローを揃えることで盾にし、飛ばされた黒炎の斬撃をそれで受ける。
「うぅ!」
受け止めた瞬間、黒炎は爆発を起こし、衝撃でタイガは吹き飛ばされた。背中から地面に落下し大の字になる。上体を起こそうとするタイガであったが何故か両腕が動かない。見れば先程の爆発によりデストクローに黒炎が燃え移っており、地面に接した状態で黒炎を固めて離れないようにしていたのだ。
タイガはやむを得ずデストクローから腕を引き抜く。これによりタイガは強力な武器を失ってしまう。
このまま戦っても勝ち目は無い。タイガの頭の中で逃亡の言葉が過るが──
「逃げるのか? 英雄」
──タイガの思考を読んだリュウガサバイブが嘲るようにタイガを英雄と呼ぶ。
その言葉がタイガから逃げるという選択肢を奪ってしまった。
タイガは激情に駆られ、カードをデストバイザーに挿入。
『FINAL VENT』
本来ならばデストクローを使用して行うファイナルベントであるが、タイガはデストバイザーを振り上げることで代用する。
カードの効果により倒れていたデストワイルダーが起き上がり、リュウガサバイブへ飛び掛かろうとする。
前後を挟まれた形であるが、リュウガサバイブは悠然とした態度でデッキから抜いたカードをブラックドラグバイザーツバイへ入れていた。
『STRANGE VENT』
カード名を読み上げるとアドベントカードが螺旋に絡まっている絵柄が変化。入れていたカードを抜いて再び装填する。
『FREEZE VENT』
音声が効果を告げると同時にデストワイルダーの体が凍結し、動かなくなる。
「そんなっ!?」
自らも使用するカードを使われた挙句、ミラーモンスターも封じられた。リュウガサバイブによりタイガの戦法を丸々奪われてしまう。
ストレンジベント。召喚機に読み込ませることで別のカードに変化するという特殊なアドベントカード。リュウガサバイブはこれを任意のカードに変化させることが出来る。
フリーズベントにしたのは、初遭遇したときにタイガにされたことへの意趣返しである。
切り札をミラーモンスターごと封じられたタイガに最早為す術は無い。
この時点でリュウガサバイブにとってタイガは敵ではなく処分すべき対象へ成り下がり、そしてそれは速やかに実行される。
『SHOOT VENT』
新たなカードを挿入すると上空で待機していたブラックドラグランザーが下降し、リュウガサバイブと背中合わせになる。リュウガサバイブはタイガを狙い、ブラックドラグランザーはデストワイルダーを狙う。
リュウガサバイブはドラグブレードを畳み、元の状態へと戻して照準を定める。
「終わりだ」
ブラックドラグバイザーツバイのトリガーが引かれる黒い光弾がタイガ目掛けて発射される。そして同時にブラックドラグランザーも黒炎の塊が吐き出された。
黒炎が凍結しているデストワイルダーに命中。黒炎が爆発したタイミングで黒炎は固められ、デストワイルダーは黒炎の中で粉砕された状態になり悪趣味なオブジェと化す。
タイガは飛んで来た光弾に対し咄嗟にデストバイザーでガードする。
「──あっ」
が、光弾はデストバイザーの刃を容易く貫通し、タイガの胸を貫いた。
タイガの脚から力が抜ける。膝立ちとなったタイガのVバックルからデッキが外れ、地面に落ちて砕け散る。
ガラスが砕けるように変身が解除され、東條の姿へと戻るとそのままゆっくりと傾いて行き、最後には地面へ倒れ伏せる。
「先生……」
東條はその呟きと共に目を閉じた。