RIDER VS ー異形たちの見る夢ー   作:K/K

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帝王たち

「そろそろですかね……」

 

 社長室で村上が呟く。傍らに立つレオに聞かせる為に。浅倉との戦いで負傷し、戦線から離れていたレオだが既に怪我は完治している。怪我自体は早い段階で治っていたが、村上が大事を取って待機を命じていた。おかげで長い間戦いに行くことが出来ずフラストレーションが溜まっている。

 

「報告によると東條悟を倒した黒いライダーとオルタナティブたちはまだ戦闘中のようだ」

 

 村上たちには既にバットオルフェノクからオルタナティブ・ゼロたちとリュウガとの戦闘が開始されたことは伝わっている。

 

「それも気になりますけどね」

 

 村上が言った、そろそろとはオルタナティブ・ゼロたちの戦闘のことを指してはいない。

 

「それにしても、東條悟君ですか……彼は最期に実に良い働きをしてくれました」

 

 レオから出された東條の名を聞き、村上はほくそ笑む。

 東條の死後、香川から躊躇が無くなった。それまでは技術などを出し惜しみしていたが、それ以降は今まで見せていなかった技術をスマートブレインに提出するようになった。

 研究は飛躍的に進み、特にミラーモンスターであるサイコローグとスマートブレインの技術で創り上げたバリアブルビークルの融合は傑作と言っても良い。

 ミラーワールドを自由に行き来出来る支援機の誕生と同時に疑似ミラーモンスターの誕生も意味している。この研究を進めて行けば将来的にはミラーモンスターの支配や創造も可能となるだろう。

 

「香川先生も実に良く働いてくれました」

「裏でこそこそやっていた奴を褒めるのかい? ボス」

「スマートブレインへの貢献を考慮し、今は水に流しましょう、今は」

 

 香川が隠れてオルタナティブの変身者候補を探していたことはスマートブレインにとって把握済み。香川の頭脳を失う訳にはいかなかったので敢えて泳がせていた。

 人間よりもオルフェノクが生物として優れていると思っている村上だが、頭脳方面までも超えているとは断言出来ない。オルフェノクの新たな可能性を広げてくれた香川とは今度こそ良好な関係を維持したいと考えている。

 

「黙って飼われるような人間には見えないけどね」

「飼い慣らし方は色々とありますよ」

 

 スマートブレインは既に香川の家族関係、人間関係の情報を押さえてある。

 

「それは使えば──」

 

 村上はそこで言葉を止めた。レオも村上から視線を離し、周囲を警戒し始める。彼らの耳には届いていた。ミラーワールドから聞こえてくるあの音が。

 オルフェノクの直感に従い、村上とレオは背後を見る。街並みを見下ろすことが出来るガラス窓。そこに映し出される幽鬼。

 

「──来ましたね、神崎士郎」

 

 村上が言っていたそろそろとは神崎のことを指す。

 

「……いい加減お前たちが目障りになってきた」

 

 ガラス窓から神崎の姿が消え、現実世界で神崎の声が聞こえて来る。村上たちが視線を戻すと正面に神崎が立っている。

 

「おや? どうやら私たちが触れた貴方の逆鱗は、想像以上の効果があったようですね」

 

 神崎優衣の情報は研究、開発が一通り完了したときに香川から聞かされた。重要な情報を出し惜しんでいた香川に少々不満を覚えた村上であったが、今となってはあの段階で正解だったと思える。

 村上の目から見ても生きているのか死んでいるのか曖昧という印象であった神崎だが、目の前に立つ彼は明らかな敵意を宿している。妹の存在が神崎にとってどれだけ大きな存在であるかの証明であり、早い段階で接触を試みたら神崎は過激な対応をし、オルフェノクに今以上の被害が出ていた可能性が高い。

 レオはいつでも戦闘に入れる体勢になるが、村上はそれを一旦制止させ神崎に対して最後の交渉を行う。

 

「神崎士郎さん。いい加減この辺りで手打ちにする、というのはどうでしょうか?」

「……」

「争い続けてもお互いに消耗するだけです。我々は貴重な人材を失いました。貴方もそうでしょう? 共倒れなど馬鹿馬鹿しい」

 

 村上は人の心に入り込むような笑みを見せるがその瞳の奥は笑っていない。神崎の方は何一つ表情が動いていない。

 

「失った者たちの犠牲を無駄にしない為に、改めて私たちと手を組みませんか? 私たちと貴方ならば今まで以上の高みへ、それこそ上の上以上の存在へ昇り詰める未来が待っている筈です」

 

 神崎へと差し伸べられる手。友好的なようで、その本質は他者を利用して自分たちの糧にしようとする傲慢と強欲。しかし、ある意味で似た者同士である神崎には村上の本心など透けて見えていた。

 無表情であった神崎の顔が初めて動く。作られた表情は村上たちへの嘲笑。

 

「未来だと?」

 

 神崎は村上の言葉を嘲る。空虚な男が見せる明確な悪意。

 

「死んで怪物として蘇ったお前たちに未来などあるのか? 死に損なったお前たちの未来など……灰にも劣る」

 

 差し出していた村上の手に血管が浮き出る。制御し切れない怒りが村上の全身を強張らせる。傍で聞いていたレオの目付きも剣呑なものへと変わっていた。

 溢れ出しそうになる怒りを抑えながら差し出していた手を引っ込める。その手は細かく震えていた。

 

「交渉は……決裂ということでよろしいでしょうか?」

 

 感情を抑え過ぎて平坦になった声で最終確認をする村上。神崎は答えようともしない。

 

「未来を自分で閉ざしますか……下の下以下……いや、評価に値すらしない……!」

 

 抑えていた怒気を心置きなく開放する。最早、交渉の余地など無い村上も神崎も相手を始末することしか考えない。

 村上は上着のボタンを外す。その腹部には既にオーガドライバーが巻かれてある。当然、レオもサイガドライバーを装着していた。

 一方で神崎の方はロングコートのポケットに手を入れたまま何もしない。神崎は戦わない。全ての戦いは神崎の代行者に任せてある。

 村上たちは音と気配を感じ、背後の窓ガラスを見た。窓ガラスに映る社長室に立つ人物。頭までフードを被って顔を覆い隠しているので男か女か判別出来ない。

 鏡面の向こう側に立つその人物は、鳳凰の紋章が描かれたカードデッキを突き出す。その腹部に金色のVバックルが装着された。

 神崎の代行者である仮面ライダーオーディンは特定の変身者を持たない。神崎がオーディンのデッキを渡した時点でその者の人格は支配され、オーディンに変身する為の器に成り下がる。鏡面の中で構えるあれもまた神崎が生み出した傀儡なのだ。

 村上はオーガフォンに『000』、レオはサイガフォンに『315』の番号を入力。

 

『Standing by』

 

 村上はオルフェノクの未来を切り拓く強い意思を込め、レオはこれから始まる戦いに期待を込め、神崎は意思も言葉も奪った傀儡の代わりにその言葉を告げる。

 

『変身』

 

 ドライバーにデバイスがセットされ、Vバックルにカードデッキが挿し込まれた。

 

『Complete』

 

 変身完了と同時にオーガとサイガは神崎へと飛び掛かった。振り上げられる二つの拳が着地と同時に振り下ろされる。

 人間が受ければ一撃で挽肉と化す拳。だが、それが神崎へ辿り着く前に二人の視界に黄金の羽根が舞う。

 一瞬にしてオーガたちの前に立ち塞がるオーディンが両掌でオーガたちの拳を受け止める。押そうが引こうがオーディンの足はその場から離れない。逆にオーディンの方もオーガとサイガの拳を押し返すことが出来ずにいた。

 オーディンの力にサイガは口笛を吹き、愉しそうにする。それだけ余裕がある証拠とも言える。

 

「……どうせなら場所を移しましょう。ミラーワールドで戦いませんか?」

 

 力が拮抗した状態でオーガは提案する。

 

「わざわざ敵地で戦うつもりか?」

 

 神崎がオーディンの代わりに答えた。

 

「ええ、そうです。鳥の羽根が私の部屋にばら撒かれるのは不快なので」

 

 オーガは挑発を以って返す。

 二人の視界を金色の光が覆い、覆っていた光が羽根となって散らばると三人は既に社長室とは別の場所へ移動していた。

 壁など無い広がった空間。オーガはこの場所を知っている。スマートブレイン本社の屋上。

 

「望み通り連れて来たぞ」

 

 オーディンが言う通り生活音が一切消えたこの場所は、ミラーワールドのスマートブレイン屋上であることは間違いない。

 

「感謝しますよ」

『おかげで暴れられる!』

 

 オーガとサイガが同じタイミングで前蹴りを出すが、オーディンは直前に瞬間移動をしてそれを回避。だが、オーガは転移の兆候を察知してホルダーから短剣モードのオーガストランザーを抜き、背後に向けて光弾を発射。

 移動直後のオーディンの眼前に光弾が迫っていたが、オーディンは腕を一振りして光弾を弾く。ワンテンポ遅れてサイガが反転し、ライフルモードのフランイングアタッカーから光弾を連射。オーガのときとは違い腕の一振りでは払えない数の光弾が撃ち出される。

 しかし、オーディンは瞬間移動などで回避することは選ばずゴルトバイザーを召喚。杖先で地面を突くとゴルトバイザーから無数の羽根が舞い、それを自身に纏わせることでサイガの光弾を次々と弾いていく。

 サイガは舌打ちするとフライングアタッカーのブースターを噴かせ、発射体勢を維持したままオーディンを中心にして旋回。三百六十度全方位から光弾を撃ち続ける。

 あらゆる角度と連射によりオーディンの羽根による防御の隙間を潜らせる狙いであったが、オーディンの防御はサイガの想定以上に隙が無い。

 フワフワと風に舞うだけの羽根が鉄板すらも容易く撃ち抜く光弾を完璧に弾いてしまう光景は質の悪い冗談のような光景であった。

 オーガの方は攻撃をサイガに任せ、オーディンが隙を出すのを待ち構えている。

 二人の視線が注がれる中でオーディンは動揺など全く無い機械的な動きでゴルトバイザーのスロットを開け、そこにカードを装填。

 

『ADVENT』

 

 丁度そのタイミングでサイガは攻撃のパターンを連射から単発に切り替え、一発の破壊力を上げてオーディンの羽根の防御を撃ち破ろうとする。

 ブースターライフルの銃口に青いフォトンブラッドの輝きが灯る。後はトリガーを引くだけであったが、そのとき横から来た突風がサイガを殴り付ける。

 

「くっ!」

「レオ!」

 

 錐揉みしながら飛んで行くサイガであったが、すぐに噴射により体勢を立て直す。

 

『……眩しいね』

 

 既視感のある輝きにサイガは仮面の下で目を細める。サイガの視線の先にある黄金に燃える鳳。オーディンのアドベントの効果で召喚されたゴルトフェニックス。ゴルトフェニックスは羽ばたくことなく滞空している。

 ゴルトフェニックスはその翼を羽ばたかせて飛翔しない。ゴルトフェニックスが翼を羽ばたかせるのは相手を攻撃するとき。

 ゴルトフェニックスが右翼を動かす。漂うだけであった空気がゴルトフェニックスの羽ばたきが生み出す流れに乗り風と成り、それらが集まり膨大な量となると先程サイガを吹き飛ばした突風と化す。

 ほぼ目視出来ないそれを、サイガは勘によるタイミングで上昇する。足元を通り抜けていく猛風。二度も同じ攻撃を受けないサイガであったが、ゴルトフェニックスは今度は左翼を羽ばたかせた。

 右翼が生み出すのは疾風。そして、左翼が生み出すのは烈火。左翼の羽ばたきにより発生した高熱が周囲の酸素を急速に取り込むことで激しい炎となり、それが指向性を以ってサイガへと放たれる。

 直撃すれば現代技術の粋を結集させて創り出されたサイガの装甲金属──ルナメタルも溶解しかねない熱量。サイガが選ぶ選択肢は回避しかない。

 サイガはフライングアタッカーを操作して真横へ移動し、ゴルトフェニックスの炎を避ける。ゴルトフェニックスは体の向きを変えることでサイガを追従するが、サイガは真横から今度は真上へ上昇。フライングアタッカーに全速力を出させて高度を上げていき、瞬く間に小さな影となる。

 ゴルトフェニックスは攻撃を中断するとサイガを追って自身も空を昇っていく。

 オーガはサイガ、オーディンはゴルトフェニックスを離されたことで一対一の状況となった。しかし、両者にとってもこの状況は望ましい。他に気を取られることなく目の前の相手を消すことに集中出来る。

 オーガはオーガフォンからミッションメモリーを抜き、オーガストランザーに挿す。

 

『Ready』

 

 短剣から長剣にモードが変わる。そのタイミングでオーディンはオーガに向けてゴルトバイザーを指す。周囲に舞っていた黄金の羽根が一斉に放たれる。更にオーディンは右掌を突き出す。新たな羽根が生成され、防御のときの倍以上の羽根が攻撃に転じられる。

 黄金の羽根の奔流。視界を埋め尽くさんばかりの質量攻撃に対し、焦りを感じさせない正確な動きでオーガはオーガフォンの『ENTER』ボタンを押した。

 

『Exceed Charge』

 

 金のフォトンブラッドがドライバーから腕へ、そして握っているオーガストランザーへ注がれる。

 オーガストランザーの剣身が纏う金のフォトンブラッドが巨大な光刃を生成。オーガはそれを羽根目掛けて振るう。

 

「ふん!」

 

 振るっている間にもオーガストランザーにはフォトンブラッドが流し込まれ続け、長さも幅も際限なく広がっていく。

 オーディンの羽根がフォトンブラッドの熱により焼き尽くされる。オーディンの眼前には最早刃では無く壁となった光が迫って来ていた。

 

 

 ◇

 

 

 フランイングアタッカーの上昇限度である5000メートルに到達したサイガ。足元を見れば小さくなった街並み。山すらも遥か下に見える高さであり、見上げれば青空と雲が近くにある。サイガはここを戦場へと選んだ。

 間もなくしてゴルトフェニックスもサイガと同じ高度へやって来た。

 

ここ()(サイガ)の領域だ』

 

 天のベルトの所有者である矜持。通じるか通じないかなど関係無くサイガは親指を下に向け、ゴルトフェニックスへ宣告する。

 

『そのメッキごとここから落としてやる』

 




場面は変わって違う場所でも最終戦闘が始まります。
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