RIDER VS ー異形たちの見る夢ー   作:K/K

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ドラゴンの産声

 頭の中に溢れ出る覚えのない記憶。所謂、既視感なのだが普通の既視感とは大きく違う。覚えのない痛みや苦しみ何故か既視感と一緒に伴うのだ。

 北崎ことドラゴンオルフェノクにとってそれはあり得ないこと。痛みや苦しみとほぼ無縁に生きて来た彼が、体中に穴を開けられたときの痛みや毒液により体が溶解していく苦しみなど知る筈など無いのだ。

 

「何だよこれは……!」

 

 頭の中では処理し切れずに思わず口に出してしまう。意味不明な現象にドラゴンオルフェノクは苦しめられている。

 ドラゴンオルフェノクが既視感に苦しんでいる中、王蛇サバイブもまた同じような現象が起こっていたが、そのことに頓着せず己の衝動のままにベノバイザーツバイにカードを挿し込もうとしていた。

 既視感に苦しんでいるドラゴンオルフェノクの目が王蛇サバイブに向けられた。ドラゴンオルフェノクは視た。数秒先の光景を。

 ベノバイザーツバイにカードが装填されると『FINAL VENT』という音声が鳴り、王蛇サバイブの背後に控えているベノヴァイパーが変形してバイク形態となり突撃してくる未来の光景。

 そして、ドラゴンオルフェノクはベノヴァイパーによって跳ね飛ばされ──

 

「っうああああ!」

 

 ──そこまで視えたとき、ドラゴンオルフェノクは魔人態に形態を変え、竜頭の籠手を王蛇サバイブ目掛けて投擲した。

 頭の中に過る光景とは異なる展開に王蛇サバイブの反応が遅れ、放たれた籠手は王蛇サバイブの肩を掠めて通過していった。

 直撃は免れたが、籠手が掠めたことにより衝撃で王蛇サバイブの左半身が後ろへ引っ張られるような形になる。それにより王蛇サバイブの手からファイナルベントのカードがすっぽ抜けた。

 今までの既視感とは大きく異なる展開。王蛇サバイブは地面に落ちたカードを拾い上げる──ことをせず、必殺のカードであるファイナルベントを早々に選択肢から切り捨て、咆哮を上げながら迫って来ているドラゴンオルフェノクにベノバイザーツバイの刃を向けていた。

 ベノバイザーツバイを振り抜くと刃が伸び、蛇行しながらドラゴンオルフェノクへ襲い掛かる。複雑な軌道を描きながら伸びる刃にドラゴンオルフェノクは対応し切れず、首元に刃が突き刺さる。

 だが、ドラゴンオルフェノクは刺さった刃を素手で掴み取る。王蛇サバイブは刃を縮めようとするが、ドラゴンオルフェノクの超人的握力がそれを許さない。

 

「ああああああっ!」

 

 ドラゴンオルフェノクは刃を掴んだまま王蛇サバイブに接近し、残っている籠手で王蛇サバイブの顔面中央を殴り付けた。

 助走をつけた全力の殴打に王蛇サバイブの体が縦に数回転する。速度を保ったまま顔面を地面に埋まる勢いで叩き付ける王蛇サバイブ。

 絶命、もしくは気絶していてもおかしくない一撃。王蛇サバイブはうつ伏せになった状態で動かない。

 ドラゴンオルフェノクはこれで倒したとは微塵も考えなかった。下手をすれば首を切り落としても噛み付いてきそうなイメージすら湧く相手である。確実に、絶対に死んだと確証するような状態にしなければならない。

 ドラゴンオルフェノクは籠手を振り上げ、その牙の先端を王蛇サバイブの背に向ける。

 ドラゴンオルフェノクの考えは間違いではなかった。しかし、やはり考えが足りないと言える。今まで強者であり圧倒的な戦いしかしなかった彼は無意識に自分にとって都合の良いように考える悪癖がある。

 だからこそ、無意識のうちに除外してしまったのだろう。王蛇サバイブがこの状態から反撃してくる可能性。伏した王蛇サバイブの手はまだベノバイザーツバイを握っている。

 

「ははっ!」

 

 籠手が振り下ろされる直前、王蛇サバイブは顔を上げ、ベノバイザーツバイの刃でドラゴンオルフェノクの両脛を裂く。

 

「っあ!?」

 

 未経験の激痛により下半身から力が抜け、ドラゴンオルフェノクは後方に倒れていき尻餅をついてしまう。

 ドラゴンオルフェノクは暫しの間、呆然としてしまった。自分の今の醜態に理解が追い付かないのだ。

 やがて理解が追い付くことで湧き立つ無様な姿を晒したことへの羞恥心と無様な真似をさせられたことへの怒り。

 その感情をぶつけようと地面に這いつくばっている王蛇サバイブを見ると──

 

「おあああああっ!」

 

 ──叫びと共に王蛇サバイブが這いつくばったままドラゴンオルフェノクに飛び掛かってくる。さながら蛇のような強襲。不意を衝かれたことと──ドラゴンオルフェノクは認めないだろうが──迫力に気圧され、反射的に仰け反ってしまい王蛇サバイブに覆い被さられる。

 

「るあああああああああっ!」

 

 ドラゴンオルフェノクの上に乗った王蛇サバイブは、拳とベノバイザーツバイでドラゴンオルフェノクの顔面を殴る。ベノバイザーツバイは最早打撃武器というより、その辺りに落ちている石を拾って殴る程度の感覚で使われていた。

 マウントポジションからの振り下ろしであるが、王蛇サバイブに格闘技などの技術は無い。勢いのまま攻撃しているだけに過ぎず、ドラゴンオルフェノクが王蛇サバイブの下でもがくとあっさりと上から振り落とされてしまった。

 王蛇サバイブが容易く振り落とされたのには訳がある。王蛇サバイブは現在下半身に力が入らない状態であった。原因は先程受けたドラゴンオルフェノクの拳。だからこそ、蛇のように這って戦うことしか出来ない。

 

「この……!?」

 

 どちらが相手の上をとるか争い、二人は地面を転げ回る。癇癪を起こした子供の喧嘩、しかも二人共それなりの年齢に達しているのでより見苦しく見える。

 だが、争う二人は至って真剣であり必死でもある。少しでも有利になるように相手の体に武器などを捻じ込んだり、負傷した箇所を抉ったり、目などの急所に躊躇い無く指を入れるなど容赦が無い。傍から見れば子供の争い、実態は相手を傷付けることに一切の迷いがない異常者たちのもつれ合い。

 

「邪魔っ!」

 

 地面に横たわった姿勢からドラゴンオルフェノクは蹴りを放つ。それが王蛇サバイブの顔に入った。

 自分があまりに幼稚な戦いをしていることをドラゴンオルフェノクは主観的にも客観的にも見えていた。このまま地べたを這いずり回るような戦いに付き合っていられないドラゴンオルフェノクは、急いで立ち上がって王蛇サバイブから離れようとする。

 

「があっ!」

 

 しかし、王蛇サバイブはドラゴンオルフェノクを逃がさない。ドラゴンオルフェノクが一瞬視線を逸らした隙にドラゴンオルフェノクの脚に飛びつき、引きずり倒す。執念深く、しつこく相手を追い詰め続ける。

 

「何度も何度も……!?」

 

 再び倒されたドラゴンオルフェノクは、恨み言を吐きながら王蛇サバイブを攻撃しようとするが、その前に眼前に刃が迫っていることに気が付いた。

 咄嗟に素手で刃を掴み取る。ベノバイザーツバイの刃の切っ先がドラゴンオルフェノクの額に僅かに突き刺さった。

 

「はぁぁぁ!」

 

 王蛇サバイブは両手でベノバイザーツバイを押し込む。額に刺さった刃が少し奥へ進む。

 額に生じる痛み。片手だけでは刃を押し返すことは出来ない。しかし、ドラゴンオルフェノクはここで守りに入るのではなく攻めることを選んだ。

 王蛇サバイブの無防備な脇腹に籠手の牙を突き刺す。

 

「ぐぅぅ!」

 

 王蛇サバイブは呻き声を上げるが、ベノバイザーツバイを押し込む手から力が緩むことはなく、攻撃を続行。

 

「死ね! 死ね!」

 

 ドラゴンオルフェノクは腕を捻り、牙をより深く捻じ込むがそれでも王蛇サバイブは攻撃の手を緩めない。逆に押し込む力が増している。

 

「お前なんて死んじゃえ!」

 

 捻じ込むことを止め、今度は何度も刺突を繰り返す。

 殺られる前に殺れ。命惜しさに引いた瞬間、死ぬ。助かるには死ぬより先に相手を殺すしかない。

 王蛇サバイブは一撃に全てを込め、ドラゴンオルフェノクは相手が死ぬまで同じ事を繰り返す。

 相手の命の炎を掻き消すその時までそれは行われ続ける。

 やがて──

 

『TIME VENT』

 

 ──全てが振り出しに戻る。勝っても負けても同じ事。終わればスタート地点に戻され、また殺し合いが始める。

 何度も何度も何度も。積み重ねられていく殺す記憶と殺される記憶。実感が伴う既視感を振り払う為にドラゴンオルフェノクは数え切れない程戦った。しかし、待っているのは記憶の蓄積のみ。

 一方で王蛇サバイブは夢心地の中にいた。終わらない戦い。それこそが王蛇サバイブの望みであり願い。既視感など心底どうでもいい。今が楽しく、苛立ちが消えているのならば死んだ記憶、殺された記憶など些細な事。

 何十、何百、或いはそれ以上かもしれない繰り返しが行われた中で王蛇サバイブは決まりきった動作でファイナルベントのカードをベノバイザーツバイへ入れようとする。

 しかし、ここで今までとは違った展開が待っていた。カードを入れる際にドラゴンオルフェノクの妨害がほぼ間違いなく入るのだが、何故か今回は起きない。

 訝しみながらドラゴンオルフェノクの方を見る。ドラゴンオルフェノクは何故か棒立ちのままであった。

 ますます疑問が深まる王蛇サバイブの前でドラゴンオルフェノクが行動を起こす。それは──

 

「わああああああああああああっ!」

 

 子供のような号泣であった。

 

「うわあああああああああっ! ああああああああっ! ううううううううっ!」

 

 天を仰ぎながら声が枯れ果てそうな勢いで泣き叫ぶ。これには王蛇サバイブも啞然としてしまう。

 

「僕が一番なのにぃ! 僕が最強なのにぃ! うわああああああっ!」

 

 全てが自分の思った通りに行かなかったことへの癇癪。時間の逆行という特異な状況下で溜まり溜まったストレスが爆発してしまったのだ。

 ドラゴンオルフェノクは一目も気にせず泣き叫び続ける。その声は王蛇サバイブの癇にひどく障った。

 

「何だそれは……?」

 

 今まで絶対的な自信を以て戦っていたドラゴンオルフェノクの無様な醜態に失望の落差も一際大きい。

 

「戦わないなら消えろ……!」

 

 高揚が全て反転して殺意に変わる。泣き叫ぶ声も目の前のドラゴンオルフェノクも今すぐ消したいと思い、カードをベノバイザーツバイに装填しようとするが──

 

「がはっ!」

 

 ──何かが王蛇サバイブの鳩尾を突き、彼を壁面に叩き付ける。衝撃でカードも手から離れてしまった。

 

「何……だ……?」

 

 咳き込む王蛇サバイブが見たものは、節だった槍のような物体。うねりながら伸びるそれは、泣き喚くドラゴンオルフェノクの腰辺りと繋がっている。

 それは今まで見せたことが無かったドラゴンオルフェノクの尾。

 ドラゴンオルフェノク──北崎の中で大きな変化が生じていた。絶対的自信と傲慢さ、それを裏打ちする実力。今、それが北崎の中で崩れ落ちている。

 もし、これが一回の敗北ならば北崎は認めなかっただろう。オルフェノクとして最強に近い実力を持つ彼は自分の弱さを認めない。それを可能とする程の情緒が彼の中で育っていなかったのだ。

 強い力を持つ故にその精神は未熟。馬鹿は死んでも治らない、三つ子の魂百までと言うようにこの性格の矯正など一度や二度の死では不可能。

 しかし、このタイムベントで閉ざされた世界ならば話は別である。彼は突き付けられてしまった。己の死という敗北を。それも一度や二度ではなく何度も。

 積み重なった経験が北崎を嫌でも成長させる。尤も、死という経験からくる歪な成長ではあるが。

 そして、その時が来たのだ。北崎が──ドラゴンオルフェノクが成長する時が。

 ドラゴンオルフェノクが泣き叫び続ける。すると、地面に裂け目が生じ、そこから水や火が噴き出す。

 室内に突如として風が起こり、強風となって壁や屋根を吹き飛ばす。

 屋根が消えて空が見えるが、空には黒い雲が出来ており、雷と雨が無差別に降り注ぐ。

 ドラゴンオルフェノクが泣くだけであり得ない自然現象が引き起こされていた。

 

「わああああああああっ!」

 

 ドラゴンオルフェノクは周囲の変化など気にせず泣く、啼く、鳴く、喚く、騒ぐ。

 誰かが言っていた。『人は泣きながら生まれてくる。これはどうしようもない事だ』と

 ならばこれは産声なのだ。新たなドラゴンオルフェノクが新生する為の、世界に自分が産み落とされることを記す誕生の声。

 

「うわあああああ……」

 

 やがて、ドラゴンオルフェノクの泣き声が変わっていく。すると、噴き出す火と水が、強風により飛び散る建物の残骸が、降り続ける雨と雷が、静止画のように止まる。これから産み出されるものを畏怖するかの如く。

 ドラゴンオルフェノクの体が変化する。両手の龍頭の籠手は一回り大きくなり、手を完全に覆う龍の頭部となる。両肩にも龍或いは竜の顔を模した装甲が追加され、脚部から足の先に掛けて泳ぐ龍と飛翔する竜を模した形状となり、胸部の外殻が正面から見た龍の顔に変わる。頭部には上から覆うように恐竜の化石頭部を思わせる外骨格が追加された。

 腰部から伸びる尾が地面を叩く。古今東西のあらゆる龍と竜の要素を混ぜた姿。

 

「ああああああああああっ!」

 

 泣き声はいつの間にか怒号に変わっていた。泣き叫び、プライドを傷付けられた痛みは全て涙と共に流れ落ちた。後に残るのは純粋な殺意と怒りという激情のみ。

 

「……殺してやる」

 

 無秩序に起こっていた天変地異が収まる。それは今のドラゴンオルフェノクが力をコントロール出来ていることを意味する。

 ドラゴンオルフェノクの背部から青い炎が噴き出し、翼のように広がるとドラゴンオルフェノクの足が地面から離れる。

『人は泣きながら生まれてくる。これはどうしようもない事だ』。これには続きの言葉がある。

 

『だが、死ぬ時に泣くか笑うかは本人次第だ』

 

 積み重ねられた死の中から誕生した力──ドラゴンオルフェノク激情態は、最期に笑う為、王蛇サバイブへ向かって飛翔する。

 




巨大化させようか、下半身を変化させようか迷いましたが、ドラゴンオルフェノクの激情態は人型に留めました。
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