リュウガが黒炎纏うリュウガサバイブへと変貌すると同時にオルタナティブたちの何人かが後退りをした。無意識の行動なのであろうが、その瞬間だけは燃え盛っていた復讐の意思よりもリュウガサバイブへの畏怖が上回ったということである。
オルタナティブ・ゼロはそれを見逃さなかった。オルタナティブたちを率いるリーダーであると同時に頭脳でもある。常に全員の行動を把握しており、些細な変化も見落とさない。
オルタナティブ・ゼロはそれを臆病とは思わない。人としての当然の反応。ついこの間まで一般人として生活してきた者たちが少々の訓練をしたとしても殺し合いの戦いに適応出来る筈が無い。寧ろ、ここまで敵を追い詰めた時点で上出来である。
リュウガサバイブの威圧感はオルタナティブ・ゼロですら冷や汗を止めることが出来ない。追い詰めた故に相手に最後の切り札を切ってきた。しかし、これを乗り越えることが出来ればリュウガサバイブに止めを刺せるに等しい。
ただ、状況は刻一刻と悪い方へと傾いていくが。
破砕音と共に壁面へ叩き付けられたのはドラグブラッカーの相手をしていたサイコローグⅡ・タイプAの内の一体。上半身と下半身が辛うじてケーブルで繋がっている状態で黒い炎により焼き尽くされそうとしている。
リュウガサバイブへの変身は契約モンスターであるドラグブラッカーにも及んでおり、身体を大きくさせ、戦闘能力が向上したブラックドラグランザーによりサイコローグⅡ・タイプAたちは逆に追い詰められ始めている。
サイコローグⅡ・タイプAたちが分散して様々な角度からガトリングガンを発射。数え切れない大量の弾丸がブラックドラグランザーに浴びせられる。しかし、ブラックドラグランザーの漆黒の体が弾丸を弾く。ガトリングガン故に集弾率は決して良くないが、それでも弾数に物を言わせて一点集中して弾を撃ち込んでいる筈だが、ブラックドラグランザーを貫くことが出来ない。
ブラックドラグランザーは弾丸の雨を掻き分けながら堂々と空中を泳ぐ。サイコローグⅡ・タイプAの一体に目を付け、距離を詰めていく。狙われたサイコローグⅡ・タイプAは飛翔状態を維持し離れながらガトリングガンを撃ち、何とか距離を詰められないようにする。
ブラックドラグランザーが空中で身を翻す。全長の半分近くある尾がサイコローグⅡ・タイプAへと伸びていき、刀身となっている尾先がサイコローグⅡ・タイプAの胴体をすり抜けていった。
サイコローグⅡ・タイプAの胸から下が地面へ落下していく。断たれた断面からは生物を表す体液と機械を表すオイルが混じった液体が滴り落ちている。
尾でサイコローグⅡ・タイプAを斬り裂いたブラックドラグランザーは振り向き様に黒い火球を連続して吐く。生き残っているサイコローグⅡ・タイプAの内の二体に火球が着弾した。
一体は上半身に命中。数千度の高熱によって熱せられたことで体内に生成されていたミサイルが暴発を起こし、上半身が消し飛ばされる。
もう一体は胴体に命中。着弾の衝撃で飛ばされ、壁に叩き付けられる。そのまま焼かれるかと思われたが、引火していた黒炎が性質を変えて固体となりサイコローグⅡ・タイプAの全身を閉じ込め、壁に張り付けたまま身動きを封じてしまった。
ブラックドラグランザーの黒い炎は当たればまず間違いなく戦闘不能になる。黒い炎に焼き尽くされるか、黒い炎による封じられるかの二択。
リュウガサバイブとブラックドラグランザーが合流する事態を避ける為にサイコローグⅡ・タイプAたちで足止めをさせているが、それもあまり持ちそうにない。既に半数のサイコローグⅡ・タイプAが破壊もしくは戦闘不能状態にさせられていた。
幸いというべきかサイコローグⅡ・タイプAが破壊されても他のオルタナティブたちには影響は及ばない。あくまでサイコローグⅡ・タイプAはオルタナティブたちをサポートする為に造られた人造ミラーモンスターだからだ。あくまでオルタナティブたちの力の根源はオルタナティブ・ゼロのサイコローグだけである。
しかし、それも時間の問題。いずれブラックドラグランザーの牙はサイコローグへ届き、数の差が圧倒的な力の差によって上から叩き潰される。
こうなってしまってはオルタナティブ・ゼロたちが出来ることは一つしかない。サイコローグⅡ・タイプAたちが命懸けでブラックドラグランザーを引き留めている間にリュウガサバイブを倒すことのみ。
リュウガサバイブは全員の視線を一身に浴びながら、緩慢としか表せない動きでブラックドラグバイザーツバイを胸の前に掲げる。ブラックドラグランザーの顔を模したそれの鼻先にあたる部分から黒い炎が噴き出すと、黒炎の中に刃が形成される。
刀身を黒く燃やすドラグブレードを水平に持ち上げながら、その切っ先はオルタナティブ・ゼロたちを指す。
リュウガサバイブは無言。いっそ穏やかさすら感じさせる程の静かさ。だが、それが表面上のものであることはこの場にいる全員が理解している。何故ならば、リュウガサバイブの体から今も噴出している黒炎は、彼の内心を表すかのように烈火の如く燃え盛っているからだ。
片手でドラグブレードを突きつけながら、もう一方の手をカードデッキへ伸ばす。黒く燃える刃に注目を集めているのを利用しての静かでさり気ない行為。だが、それをオルタナティブ・ゼロは見逃さなかった。
「させません!」
「皆、動け!」
スラッシュダガーを構えたオルタナティブ・ゼロが真っ先に動いたのを皮切りに、オルタナティブ・ワンが号令を掛ける。リュウガサバイブに威圧されていた他のオルタナティブたちは、その号令により呪縛が解け、オルタナティブ・ゼロに続く。
カード一枚でも使用されたら不利になるのは自分たち。一枚も使用させることなく倒すのが最も有効的な手段。
リュウガサバイブ一人に対し、多方向から駆け寄るオルタナティブたち。四面楚歌の状態でリュウガサバイブはカードを引き抜く──手を止めた。
(何……?)
オルタナティブ・ゼロはリュウガサバイブの不審な行動に疑念を抱く。しかし、既に動いている状況で止まることが出来ない。
それはオルタナティブ・ゼロの見間違いだったのかもしれない。仮面が動く筈など無いのだが、オルタナティブ・ゼロにはリュウガサバイブが嗤っているように見えた。
「ッ! 止まって下さい!」
オルタナティブ・ゼロは急停止し、他のオルタナティブたちにも止まるように指示を出すが一歩遅かった。
リュウガサバイブが足元にドラグブレードを突き刺す。地面に隆起が生じ、それが幾筋となって伸びていく。
やがて、それがオルタナティブたちの足元に辿り着くと隆起した部分が爆ぜて黒炎が噴出した。噴き出した黒炎は瞬時に硬化し、槍のような鋭さを持ってオルタナティブたちを狙う。
「くっ!?」
立ち止まっていたオルタナティブ・ゼロはスラッシュダガーで咄嗟にガードすることが出来た。オルタナティブ・ワンも偶然オルタナティブ・ゼロの傍に居たので、異変が伝わるのが早かったので対処も速く、オルタナティブ・ゼロと同じく防御が間に合った。
他のオルタナティブたちも格闘技などに精通していた者たちは、持ち前の反射神経によりギリギリのタイミングだが回避が間に合った。
だが、反応が遅れた者たちも居る。オルタナティブ・フォー、オルタナティブ・ファイブ、オルタナティブ・シックスの三名。彼らは肩や腹部に黒炎の槍で貫かれている。彼らは大学生、土木作業員という一般人。特に優れた身体能力を持っている訳では無い。
(私のミスだ……!)
リュウガサバイブは最初からこれを狙っていたに違いない。カードを抜く動作はブラフ。自分に引き寄せる為の誘い。オルタナティブたちが集まってくることを予想し、まとめて葬るつもりだったのだ。
リュウガサバイブの情報が少ない内に仕掛けてしまったことに自責の念に駆られるオルタナティブ・ゼロ。だからこそ、彼は動けなくなった者たちの姿を目に焼き付けた後、誰よりもリュウガサバイブへ仕掛ける。
「はあっ!」
上段からの振り下ろしにリュウガサバイブはあっさりと対応し、ドラグブレードで防ぐ。そして、すかさず反撃の拳はオルタナティブ・ゼロへ繰り出す。
オルタナティブ・ゼロが記憶している以上の速度で放たれた拳。だが、オルタナティブ・ゼロはリュウガだったときの動きを全て記憶しているので、僅かな予備動作から拳が来るのを予測出来ていた。
オルタナティブ・ゼロは拳の軌道線上に肘を突き出し、防御と同時に相手の拳破壊を狙う。
オルタナティブ・ゼロの肘にリュウガサバイブの拳が当たった瞬間、嫌な音が響いた。ただし、それはオルタナティブ・ゼロの体内から響くもの。
「う、ぐっ!」
肘から入った衝撃が肩まで突き抜けていく。骨の軋む音と激痛がオルタナティブ・ゼロの脳を殴り付けた。
痛みにより思考に空白が生じる。どんなに記憶力が良くとも頭が働かなければ無意味。思考の停止に連動してオルタナティブ・ゼロの動きも止まる。
リュウガサバイブは躊躇無くドラグブレードを突き出す。刃先が向くのはオルタナティブ・ゼロの心臓。一突きで命を奪うつもりであった。
統率するオルタナティブ・ゼロすら倒してしまえば、残りは容易に始末出来る。群れの頭をここで潰す。
「先生!」
オルタナティブ・ゼロは横から体当たりを受け、体が真横に倒れていく。オルタナティブ・ゼロの心臓を貫く筈であったリュウガサバイブの刃はオルタナティブ・ゼロの肩上を通過する。
オルタナティブ・ゼロの窮地を救ったのはオルタナティブ・ワンであった。下手をすればオルタナティブ・ゼロ諸共貫かれてもおかしくないタイミングであったが、紙一重で間に合った。
しかし、窮地は続いている。倒れ伏した二人をリュウガサバイブはまだ狙っている。
二人まとめて串刺しにしようとするが、またもやリュウガサバイブに妨害が入った。
「シッ!」
オルタナティブ・ゼロたちを救う為に繰り出されるオルタナティブ・ツー最速の拳。リュウガサバイブの顔面にプロボクサーのストレートが突き刺さる。
直撃と同時に生まれる動揺。それを為しているのは殴られたリュウガサバイブではなくオルタナティブ・ツーの方であった。
一見するとオルタナティブ・ツーの拳がリュウガサバイブに命中している。だが、実際は違う。リュウガサバイブと拳の間には文字通り紙一重の隙間があった。リュウガサバイブは、あのタイミングでオルタナティブ・ツーのストレートの速度と間合いを正確に読み取り、且つ敢えて触れる寸前というギリギリの回避をやってのけたのだ。それは、言外にオルタナティブ・ツーの拳を完璧に見切ったことを告げている。
拳を見切ったリュウガサバイブは、回避のタイミングに合わせてオルタナティブ・ツーの体に足の爪先を捻じ込んでいた。リュウガサバイブのカウンターにオルタナティブ・ツーの体がくの字に折れる。
リュウガサバイブの視線がオルタナティブ・ツーへと向けられた僅かの隙に背後へ回り込んでいたオルタナティブ・セブンの回し蹴りが放たれる。
リュウガサバイブは振り向きもせず背後から迫って来ていた蹴りを肘で打ち落とし、地面に叩き落されたオルタナティブ・セブンの足首を踵を振り下ろして蹴り砕く。
「ぐあああああっ!」
骨を砕かれる痛みにオルタナティブ・セブンは絶叫を上げる。だが、その叫びも長くは続かなかった。リュウガサバイブが振り返ると意趣返しにオルタナティブ・セブンの首に回し蹴りを打ち込む。
オルタナティブ・セブンは蹴り飛ばされ、地面を数度跳ねていく。
同胞が倒されたことに激昂し、オルタナティブ・ツーが再び動く。彼の気持ちに同調してオルタナティブ・テンもまた距離を詰めていた。
オルタナティブ・ツーは今度こそ自慢の拳を打ち込む為に、オルタナティブ・テンはリュウガサバイブを地面に投げつける為に掴み掛かる。
オルタナティブたちの中でも屈指の身体能力と技術の持ち主たちによる挟撃。しかし、リュウガサバイブにとっては欠伸が出そうなぐらいにノロマな動きであった。
オルタナティブ・ツーとオルタナティブ・テンが踏み込むタイミングでドラグブレードが二度振るわれる。
その瞬間、オルタナティブ・ツーたちの動きが止まった。彼らの喉元に突きつけられる半円状の黒い刃。それは振り抜かれた黒炎が空中で固形化した物。もし、二人の反射神経が並外れたものではなかったら、自らの首をその刃で刎ねていただろう。
間一髪。だが、その結果が勝利に繋がることは無かった。
「ふっ」
リュウガサバイブは嘲笑すると、足を振り上げて黒炎を蹴り飛ばす。更に片足を軸にして半回転し、反対側の黒炎も同様に蹴った。
空中で固定されたかのように動かなかった黒炎がリュウガサバイブの蹴りによって打ち出され、足を止めていた二人の装甲に深々と食い込む。
オルタナティブ・ツーとオルタナティブ・テンは苦鳴を上げながら刺さった黒炎の威力で飛ばされていく。
そのとき、エンジン音を唸らせながらバイク形態のサイコローグⅡ・タイプAに跨ったオルタナティブ・シックスがリュウガサバイブの頭上へ落下。高速回転する後輪でリュウガサバイブを圧し潰そうとする。
リュウガサバイブは見向きもせずにブラックドラグバイザーツバイを振り抜く。三日月状の黒炎が飛ばされ、サイコローグⅡ・タイプAの後輪を切断。断面には黒い炎が残り、それが内部の液体に引火。サイコローグⅡ・タイプAが空中で爆発を起こし、巻き込まれたオルタナティブ・シックスが吹き飛ばされる。
「何ということだ……!」
瞬く間に半数近くのオルタナティブたちが戦闘不能状態に追い込まれ、オルタナティブ・ゼロは悔恨に満ちた言葉を吐く。
「う、うおおおおおおおっ!」
敗北感漂う空気を払拭するように叫んだのはオルタナティブ・ナイン。彼はスラッシュダガーを振り上げて一人吶喊する。
「いけません! ダメです!」
オルタナティブ・ゼロが声を荒げて止めようとするが、オルタナティブ・ナインは止まらない。オルタナティブたちに共通するミラーワールドに対する復讐心。彼らを統率する上で必要なものであったが、このときばかりはそれが悪い方向に作用していた。
相手はミラーワールドを守護する者リュウガサバイブ。リュウガサバイブに突き付けられる格差。植え付けられる恐怖。復讐を果たすことよりも一瞬でも逃走を考えてしまったオルタナティブ・ナインは自分を恥じ、内にある臆病な考えを否定する為に勝手に行動してしまう。
勇気ではなく蛮勇であり、行動ではなく暴走。オルタナティブ・ナインの復讐心が空回りをしてしまった結果である。
肺の中の空気を絞り出す勢いで絶叫しながら斬りかかるが、リュウガサバイブは構えることすらしない。
その首筋にスラッシュダガーの刃が食い込む──前に硬い音が鳴り、斬撃が阻まれたことを告げる。
リュウガサバイブの体から噴き出している黒炎。それが固体化し、スラッシュダガーを防いでいた。纏っていた黒炎が固体となったことでリュウガサバイブは全身から棘の生えたような見た目となりより禍々しくなる。
リュウガサバイブが腕を振る。腕に纏わせていた黒炎が茨のよう無数の棘と化しており、それでオルタナティブ・ナインの体を引っ掻く。
オルタナティブ・ナインは肩から腹に掛けて斜めに引き裂かれ、火花と苦痛の叫びを上げる。
纏う黒炎を自在に操ることで瞬時に攻防一体の鎧を身に着けられるリュウガサバイブ。
リュウガサバイブの掌から黒炎が噴射し、それが固体となることで即席の剣となりオルタナティブ・ナインの胸に突き立てられる。
幸いオルタナティブ・ナインの装甲強度により貫通することはなかった。だが、助かったと考えるのは早計であった。
破砕音が鳴り、掌から伸びていた黒炎がへし折れる。そして、突き刺さった部分がオルタナティブ・ナインの胸に残った。次の瞬間、黒炎の固体化が解除されてオルタナティブ・ナインの体に燃え移る。
「ぐあああああっ!」
オルタナティブ・ナインは絶叫を上げ、地面を転がって黒炎を消そうと足掻く。しかし、どれだけ転げ回っても黒炎が消える様子は無かった。
悲鳴が別の場所からも聞こえて来る。リュウガサバイブに攻撃をされた他のオルタナティブたちの体も黒炎によって包まれていた。攻撃した際に残っていた固体化した黒炎が一斉に解除され、炎上したのだ。
このままでは焼き殺されるのは時間の問題。オルタナティブ・ゼロは何か解決策は無いか必死になって考える。
(何か……何か方法は……!)
呪いのように纏わりつく黒い炎。それをどうやって解除すべきなのか。
(解除……? もしかしたら!)
その時、オルタナティブ・ゼロの頭に天啓が浮かぶ。一か八かの方法であるが、やらなければこのまま焼失するだけである。
「皆さん! 今すぐ変身を解除して下さい!」
ミラーワールド内での変身解除。それは自殺行為に等しい。黒炎に悶え苦しむ者たちも突如聞かされた内容にオルタナティブ・ゼロの正気を疑ってしまう。
「このままでは焼け死にます! 賭けになりますが助かる方法はそれしかない!」
躊躇するオルタナティブたちの背を押すオルタナティブ・ゼロの言葉。オルタナティブ・ゼロの言う通り、躊躇していても焼死するだけ。ならば、ここは賭けるしかなかった。
黒炎に焼かれながらオルタナティブたちはVバックルからカードデッキを何とかして引き抜いた。
ガラスが割れるような音と共に外装が砕け散る。その際に着いていた黒炎も外装と一緒に飛んで行く。早い段階で変身解除したことにより中にまで黒炎は届かず、生身は無事であった。
リュウガサバイブは舌打ちをする。犠牲者の出ない結果に不満を露わにしていた。止めを刺さなかったリュウガサバイブの落ち度というよりもオルタナティブ・ゼロの判断が迅速だった故の結果である。
しかし、黒炎で焼き尽くされる結末は免れたが、次なる結末が変身解除者たちを待ち構えている。
安堵する間もなく変身解除者たちの体が粒子となって崩れ出す。ミラーワールドで生身の人間が存在出来る時間は短い。あっという間に消滅してしまう。
オルタナティブ・ゼロの対応はこれにも迅速であった。
「彼らを連れて急いでミラーワールドから脱出して下さい!」
オルタナティブ・ゼロが指示を出したのは、まだ無事なオルタナティブたち。だが、その指示はオルタナティブ・ゼロを見捨てることに等しい。
躊躇するオルタナティブたち。
「戦えない者がっ!」
オルタナティブ・ゼロの檄。オルタナティブたちの肩がビクリと跳ねた。
「この場にいる資格はありません……!」
それは彼らにとって厳しい言葉であった。何故ならば、彼らが無事だったのはリュウガサバイブに臆したから。退いてしまったことで偶々無事であったに過ぎない。戦って戦闘不能になった彼らとは違うのだ。
「早く……!」
オルタナティブ・ゼロの言葉に気圧され、オルタナティブたちは変身解除者たちを抱えてミラーワールドの外へ逃げる。
この間、リュウガサバイブは彼らに手出しをしなかった。逃げる彼らなど戦う価値も追う価値も無いと判断したからであろう。それよりも優先すべき敵が残っている。
ミラーワールドに残るのはオルタナティブ・ゼロとオルタナティブ・ワンの二人。
「君も脱出しても構いませんよ、仲村君」
「最期まで付き合います、香川先生」
恩義故に最期の瞬間まで逃げ出さないことを告げると、オルタナティブ・ゼロは諦めたように溜息を吐いた。
「……君はもう少し後先を考えて行動した方が良い」
「善処します……次があったら」
既に覚悟を決めている二人は、共にスラッシュダガーを構える。
リュウガサバイブは二人の抵抗を鼻で笑う。そんな彼の背後に降り立つブラックドラグランザー。纏わりついていたサイコローグⅡ・タイプAたちを殆ど破壊し、リュウガサバイブのもとへ合流した。
「ここまでだな」
『SHOOT VENT』
ブラックドラグバイザーツバイにカードを入れ、銃口を二人へ向ける。纏めて屠るつもりである。
ブラックドラグバイザーツバイの銃口に光が灯り、ブラックドラグランザーが黒炎を吐き出そうとする寸前、鏡面から飛んできた何かがブラックドラグランザーを弾く。
「何!?」
ブラックドラグランザーから発射された光弾が明後日の方へ飛んで行く。そして、続け様に鏡面から黒い巨塊が飛び出し、ブラックドラグランザーの横顔を殴り付ける
「あれは……!」
オルタナティブ・ゼロはその黒い巨塊を知っていた。見た目はサイコローグに似ているのだが、体型はサイコローグの倍は有り、鋼鉄によって構築された手足は太さも長さは倍以上。ゴリラのような前傾姿勢をした異形のサイコローグ。
異形のサイコローグは腕部から火を噴かせ、加速した拳でもう一度ブラックドラグランザーを殴り、地面に叩き付ける。
オートバジンと同じバリアブルビークルであるサイドバッシャーを基にして設計されたもう一体のサイコローグ──サイコローグⅡ・タイプサイドバッシャー。
一体作るのにサイコローグⅡ・タイプAが五体製造出来るということから量産を見送られ、一体しか造られていない筈のそれが何故かこの場にいる。それはある人物と一緒に居る筈なのに。
ブラックドラグバイザーツバイを弾いた物体が、空中で弧を描いた後に落下。地面に突き刺さる。刺さったのは八方手裏剣。その八方手裏剣の後ろに立つのは──
「澤田君!」
「澤田!」
──本来ならば別の場所で暴走するミラーモンスターを駆除する筈であった澤田がそこに居た。
「何故君がここに……?」
「借りを返しに来た。……そいつにな」
澤田の目に映るのはリュウガサバイブ。
「一人増えた所で……」
リュウガサバイブは援軍として現れた澤田を嘲笑するが、澤田は何も言わずにポケットから折り紙を取り出す。
それはリュウガの紋章に似せた折り紙であり、澤田は紙マッチを出して点火させるとその火を折り紙に点け、投げ捨てる。リュウガサバイブが放つ圧が増した。
挑発、そしてここでリュウガサバイブを倒すという決意の表明。だからこそ、血に塗れたこの力を使うことに躊躇いは無かった。
澤田の腹部へ装着される銀色のベルト──デルタドライバー。一度は北崎に取られ、飽きたという理由で澤田の手に戻って来た。
デルタのベルトが戻って来たとき、澤田が感じたのは罪の意識。彼はこのベルトの為に肉親に等しい仲間を手に掛けている。
手に持つデルタフォンから感じる重み。それはデルタに込められた仲間たちの怨念によるものかもしれない。
「……俺を呪え」
今更詫びるつもりはない。言葉で取り返しつくようなことではない。ただ、全ての恨みや憎しみを受け止める覚悟はある。
「変身」
『Standing by』
全身に巡る銀のライン。形成される装甲。光が一瞬強く輝いた後、澤田はデルタへ変身。そして、足元に刺さっていた八方手裏剣を引き抜く。
『Complete』
デルタにデルタムーバ以外の武器を装備させたかったので、スパイダーオルフェノクの八方手裏剣を装着させてみました。