これで繋がる筈?
澤田は目の前で起こっている光景を他人事のように眺めている。
鏡面から出て来た無数のミラーモンスター。
『ウッヘウッヘ』
輪唱のように重なる不気味な声。半透明の頭部。鎧にも外骨格にも見える白い体。そのミラーモンスターたちは気持ちが悪いくらいに見た目が統一され、全員全く同じ鳴き声を上げている。
数はかなりのものだが揃って動きは緩慢であり、両手を伸ばしながらノロノロと向かって来ている。
澤田はその動きと数を見て、映画で使い古されたゾンビを連想した。ただし、ゾンビよりも見た目の個性は無い。
『ウッヘウッヘ』
数が揃えばそれなりの圧になるが、澤田はそのミラーモンスター──シアゴーストの群れを見ても戦う気が湧いてこない。スマートブレインの命令でここへ来たが、澤田自身の目的はリュウガへのリベンジ。目の前に並ぶ雑魚たちの相手ではない。
「使う気も起きないな……」
ポケットから取り出す四枚のアドベントカード。ディスパイダーリ・ボーン、ディスパイダーⅡ、ミスパイダー、レスパイダーの四匹のミラーモンスターと契約をした証。澤田としてももっと契約モンスターを増やしたかったが、澤田の御眼鏡に適うミラーモンスターは中々見つからず、ミラーワールドを散々彷徨い結局ディスパイダーリ・ボーンたちに餌を与え続けるだけの結果に終わってしまった。
それはそれでディスパイダーリ・ボーンたちを強化することにはなったが、徒労感は否めない。
そして、今回村上からの指令で花鶏という喫茶店周辺でミラーモンスターを狩ることになったが、先に述べたようにはっきり言って澤田はやる気がしなかった。
村上は今回で神崎士郎と決着をつけるつもりらしいのだが、どうやって決着をつけるのか澤田は聞かされていない。ラッキー・クローバーの面々も詳細な情報を得ておらず、湧いてくるミラーモンスターを倒すことだけ頼まれた。
重要な情報は恐らく村上の側近のみに知らされている。ラッキー・クローバーは重宝はされているが信用はされていない。澤田も村上のことを信用していないのでおあいこなのだが。
目当てのリュウガも現れず、シアゴーストという雑魚の群れを相手にする。澤田はそのせいでやる気が起きず、そんなことをしている内に周囲をシアゴーストに囲まれる。
『ウッヘウッヘ』
声自体はそこまで大きくないが、数を揃えて重なると流石に喧しい。いい加減目障りに感じてきたので一掃しようかと思い始めたとき──銃声が鳴り響き、シアゴーストたちの頭部が銃弾により次々と撃ち抜かれていく。
空から降り立つ白い影──バットオルフェノクは二丁の拳銃の銃口をシアゴーストたちに向けつつ非難する眼差しを澤田に向けている。やる気のない澤田の態度が気に入らないことを露骨に態度に表していた。
村上の直属の部下であるバットオルフェノクと優遇はされているが外様扱いの澤田ではモチベーションの差が出るのは仕方のないことだが、そのせいで余計なトラブルが生じるのは不本意である。
澤田がスパイダーオルフェノクへ変身し、武器である八方手裏剣を構える。バットオルフェノクにより何匹か倒されたが、すぐにその倍のシアゴーストたちが鏡面からぞろぞろと出て来る。
スパイダーオルフェノクが八方手裏剣を投擲しようとしたとき、鏡面から飛び出してきた巨腕がシアゴーストを数匹纏めて殴り飛ばし、壁面へ叩き付ける。
鏡面から出て来た巨人──サイコローグⅡ・タイプS。その手には既にぐったりとしたシアゴーストを握り締めていた。
機械とミラーモンスターを掛け合わせて創り出されたスマートブレイン製の人工ミラーモンスターというべき存在が仮面のような無感情な顔でこちらを見下ろしている。
すると、バットオルフェノクは顎でサイコローグⅡ・タイプSを指す。それの近くに行くよう指示を出している様子。
サイコローグⅡ・タイプSをまだ信用出来ていないスパイダーオルフェノクは気が乗らなかったが、シアゴーストたちはまだ大勢いるので仕方なく指示に従う。
シアゴーストの何匹かが口から白い種子のようなものを吐き出す。種子はスパイダーオルフェノクへ飛んで来ており、来るのが見えていたスパイダーオルフェノクは八方手裏剣で全て弾き飛ばそうとする。すると、眼前に影が降りる。
サイコローグⅡ・タイプSの太い腕がシアゴーストが吐いた種子を全て防ぐ。命中と同時に種子が割れ、内包されていた白い糸が触手のように蠢く。本来ならば対象の体内に潜り込み、内側から巣食うのだがサイコローグⅡ・タイプSの鋼鉄の腕には流石に潜り込むことは出来なかった。
「……見た目よりは賢いようだ」
文字通り盾になったサイコローグⅡ・タイプSを皮肉混じりで褒める。サイコローグⅡ・タイプSにはスマートブレイン関係者を守るようプログラムされており、その機能が働いた。
バットオルフェノクは種子を吐き出したシアゴーストたちの口にお返しの銃弾を撃ち込む。銃撃されたシアゴーストたちは仰向けに倒れ、少しの間手足をばたつかせていたがやがて動かなくなる。
シアゴーストたちは戦い方を変え、今度は口から幾本もの糸を吐き出す。それらはスパイダーオルフェノクたちを守っているサイコローグⅡ・タイプSの手足に絡み付き、動きを止めようとしている。
しかし、サイコローグⅡ・タイプSは腕を振り上げると糸と繋がっているシアゴーストたち三匹が宙へ投げ出される。続いて反対側の腕も振り上げ、同じく複数のシアゴーストたちを糸ごと持ち上げた。
サイコローグⅡ・タイプSが両腕を交差する。宙に浮いていたシアゴーストたちが糸に導かれるまま空中で衝突。体液をまき散らしながら一つの塊と化した。
サイドバッシャーを素体にしているので馬力が違う。ただの腕力のみでシアゴーストたちを蹂躙してしまった。
シアゴーストたちも一筋縄ではいかないことをようやく理解したのか、鳴き声を上げながらじりじりとスパイダーオルフェノクたちの周囲を歩き続ける。警戒し、攻めあぐねている様子。
すると、鏡面から白い糸が飛び出す。シアゴーストの追加かと思われたが、その白い糸はシアゴーストに絡み付いた。
スパイダーオルフェノクは糸が出ているガラス窓を見る。鏡面越しに見えるミラーワールドに居るディスパイダーリ・ボーンたちがその糸を伸ばしていた。糸に絡められたシアゴーストたちはガラス窓の中へ引き摺り込まれ、待ち構えていたディスパイダーリ・ボーンたちの餌食となった。
いつまで経ってもスパイダーオルフェノクが自分たちを呼び出さないことに我慢し切れなくなったのか、勝手にシアゴーストをつまみ食いし出す。
契約モンスターたちの行儀の悪さに呆れつつ、スパイダーオルフェノクとバットオルフェノクもいつまでもシアゴーストたちに付き合っている程暇ではない。まだ終わりが見えていない戦い。余力も余裕も残しておく必要がある。
バットオルフェノクはサイコローグⅡ・タイプSの胸にあるオルタナティブとスマートブレインのロゴを掛け合わせた紋章に触れる。
サイコローグⅡ・タイプSは両手を組み合わせながら巨体を前のめりになる。すると、両腕の間にタイヤが形成される。そのまま体を地面と平行にしていく中で下半身が真横にスライド。両脚は正座の形で折り畳まれ、地面と接する部分からタイヤが生え、下半身の上部が変形してシートなり二輪の側車と化す。
上半身の背中部分が大きく湾曲してシートとなり、下半身があった箇所から内蔵されていたパーツが延長され、それが後輪となる。
機械的な変形と生物的な変態を掛け合わせた形態変化。元となったサイドバッシャーと同じサイドカー形態へ変わったサイコローグⅡ・タイプS。
バットオルフェノクは拳銃でサイコローグⅡ・タイプSのシートを指す。スパイダーオルフェノクは鼻を鳴らした後、サイコローグⅡ・タイプSの背に飛び乗る。
サイコローグⅡ・タイプSの首の付け根辺りに備わっているハンドルを握る。エンジンの代わりにサイコローグⅡ・タイプSが唸り、スパイダーオルフェノクがアクセルを回すと急発進。
正面に立っているシアゴーストを撥ね、その後ろに居たもう一匹にも体当たり。シアゴーストは前輪の回転により車体の下に引き摺り込まれて轢かれる。
思いの外スピードが出るサイコローグⅡ・タイプSのバイク形態。だが、スパイダーオルフェノクはすぐに順応しハンドルを操作して急ターンを決め、周りに居るシアゴーストたちを側車で弾き飛ばす。
スパイダーオルフェノクの周囲が開くとバットオルフェノクが側車の上に降り立つ。座席の縁に足をかけながら立った状態で二丁の拳銃を構えると発砲。二丁の拳銃による乱れ撃ちがシアゴーストらを次々と撃ち抜いていく。
ハンドルを切り、円を描くように旋回。側車に立っているバットオルフェノクは、不安定な足場だというのに重心がぶれることはなくバランスを保ち、走る側車からシアゴーストを一方的に撃ち殺す。
スパイダーオルフェノクも片手でハンドルを操作しながらもう片方の手に八方手裏剣を持ち、サイコローグⅡ・タイプSで轢けなかったシアゴーストをすれ違い様に斬り付ける。
轢殺か斬殺か銃殺。シアゴーストたちはそのいずれかの末路を辿り、何も出来ないまま蹂躙される。数は多いがスパイダーオルフェノクたちとの実力差は明白であり、ただの的として一方的に倒されていった。
現実世界のシアゴーストを粗方掃除し終えた。しかし、スパイダーオルフェノクたちの耳には今もミラーワールドからの音が聞こえている。まだ、鏡面の向こう側にシアゴーストたちが群れている。
スパイダーオルフェノクは車体をガラス窓の方へ向け、アクセルを回す。サイドカーは発進して壁へ全速力で突っ込んで行く。バットオルフェノクは慌てる様子は無く、持っている拳銃の状態を確認する余裕まで見せる。
壁に衝突する間際スパイダーオルフェノクたちはガラス窓に吸い込まれ、色の無い万華鏡のような景色が続く通路を抜けてミラーワールドへ到着。待ち構えていたシアゴーストたちを挨拶がてらに撥ね飛ばした。
サイコローグⅡ・タイプSを停車させ、周囲を確認する。現実世界の数倍を超えるシアゴーストたちがそこには居た。
しかし、スパイダーオルフェノクたちはそれに戦慄しない。バットオルフェノクは仕事として淡々とこなすだけであり、スパイダーオルフェノクに至ってはその数を見てようやくやる気が出て来た。
「喜べ。食べ放題だ」
スパイダーオルフェノクは腕にガントレット型の機械を装着。それは、香川によって作成された量産型の召喚機スラッシュバイザー。
スパイダーオルフェノクはスラッシュバイザーに取り出したカードを通す。
『ADVENT』
空中から落下してきた巨体が地面に居たシアゴーストたちを踏み潰す。呼び出されたのはディスパイダーリ・ボーン。蜘蛛の下半身が槍のような足先でシアゴーストを貫き、人型の上半身の胸からはマシンガンの如く針を連射し、射抜かれたシアゴーストたちは次々に針山と化していく。
『ADVENT』
次に呼び出されたのはディスパイダーⅡ。口から糸を無数に吐き、それに触れたシアゴーストは糸が持つ強靭さと粘着性により身動きが取れなくなり、ディスパイダーⅡは糸を引き寄せてその巨大な口と牙でシアゴーストを嚙み砕き、捕食する。
『ADVENT』
続けてカードを二枚通す。レスパイダーとミスパイダーの二体が現われ、ミスパイダーが糸でシアゴーストの動きを止めた後、レスパイダーが両腕に装着している鉤爪で引き裂く。ディスパイダーと違って人型であるこの二体は強さでは劣るが、身軽さと小回りの良さがあり、俊敏な動きと息のあった連携でシアゴーストたちを屠っていく。
シアゴーストたちはスパイダーオルフェノクたちにとって敵ではなかった。ただ蹴散らされるだけの雑兵。
サイドカーがシアゴーストたちの群れに突っ込む。すると、シアゴーストたちが何十体も集まり、サイコローグⅡ・タイプSの突進を止めた。何度も轢かれれば流石に学習をするらしい。
しかし、シアゴーストたちのそんな動きはスパイダーオルフェノクたちにはバレており、止まったときには既に二人はサイドカーから降りていた。
搭乗者が居なくなるとサイコローグⅡ・タイプSは変形。人型となると全身の各部装甲がスライドし、内蔵していたミサイル弾頭が露わになり針鼠のような姿となる。
サイコローグⅡ・タイプSの全身から放たれるミサイルが頭上高くに打ち上げられる。降ってくる間にサイコローグⅡ・タイプSは固まっているシアゴーストたちを殴り付け、その反動で後退。
大型ミサイルの中にある小型ミサイルが展開され、シアゴーストたちに雨の如く降り注いだ。
爆撃により多くのシアゴーストたちが粉砕されていく。爆撃は広範囲に至っているので逃れることも出来ない。爆炎、爆風にシアゴーストたちは呑まれていき、最後には跡形も無くなった。
シアゴーストたちが倒されたことで内包されていたエネルギーが上空へ向かって飛んで行く。ディスパイダーたちはそれに糸を伸ばし、絡めて引き寄せ取り込む。直接捕食するよりも手間が省け、効率が良いのか夢中になって食い漁る。
一先ず掃除を終えたスパイダーオルフェノクとバットオルフェノクは鏡面へ向かう。サイコローグⅡ・タイプSはまたミラーワールドへ待機させる。ミラーワールドならば異形の巨人であるサイコローグⅡ・タイプSを隠すのに困らない。
鏡面を通って現実世界へ戻ったとき、スパイダーオルフェノクたちは人間の姿に戻っていた。
再び退屈な時間がやって来る。そのことにうんざりしている澤田の耳にある音が聞こえる。無視しても良かった筈なのに澤田の足は自然とその音の方へ向かっていた。
普通なら小さくて聞き逃してしまうが、オルフェノクである澤田の耳にはしっかりと届いていた。
それを聞いていると気分が落ち着かなくなる。一刻も早く消してしまいたい思いに駆られる。
やがて、澤田は音の発生源へ辿り着いた。
「ママ……! ママ……!」
俯き、両手で溢れる涙を拭いながら泣き続ける女の子。澤田が拾った音は女の子の泣く声。
頻りに母親を呼んでいる。母親とはぐれて迷子になり、探している内に人気の無い所へ来てしまい心細くてとうとう泣き出してしまった、という所だと思われる。
澤田は子供の、特に女の子の泣く声が苦手である。それを聞いていると忘れたくても忘れられない過去の記憶が嫌でも蘇って来るからだ。
女の子は気配を感じたのか顔を上げる。そこには自分を見下ろしている澤田が居た。
「ママァァァァ!」
女の子の泣き声が激しくなる。子供の目線からすれば大人の男性など巨人に等しく、それが自分を無言で見下ろしているとなれば、そこから感じる圧は凄まじく、恐怖でしかない。女の子が泣き喚くのも無理はなかった。
より激しくなった泣き声に澤田は顔を顰める。甲高い泣き声はオルフェノクの聴覚には強過ぎる。
いつもそうだ。澤田の記憶の中の女の子はいつも泣いていた。泣かせたのは自分。気を惹きたくて、でも方法が分からず、自分の気持ちを良く理解出来ていなかった幼かった自分は意地悪することで関心を無理矢理惹かせていた。その結果、相手を泣かせてしまった。
(……嫌になる)
あのときと今の自分が変わっていないように思えてしまう。人間の心を捨て、オルフェノクとして生きることを決めた筈なのに。過去の記憶が自分を、まだ人間であると肯定してくる。
「ママァァ! ママァァ!」
母に救いを求める女の子。泣く声が過去を引っ張り上げてくる。それが堪らなく不愉快であり、澤田はこの泣き声を消すことを決めた。
澤田の手が女の子へと伸びていく。その手には女の子を泣き止ます為の物が握られていた。
女の子の顔に澤田の手の影が掛かる。女の子は何かの気配を察し、澤田の方を見上げる。そして、その目に映ったのは──
「……お花」
──折り紙で折られた花であった。
澤田はしゃがみ込み、女の子に目線を合わせたまま折り紙の花を差し出す。澤田が唯一知っている女の子の涙を止める方法。
「……やるよ」
女の子はキョトンとしたまま澤田から渡された紙の花を受け取る。女の子は目を真っ赤にしていたが一先ず泣き止んでいた。
「──ここは人通りが少ない。探すなら向こうへ行け」
人通りが多い道を指し示す。そこまで行けば後は他の大人が助けてくれる筈。
「……うん」
女の子は素直に頷き、澤田が指した方向へ歩き出す。
小さな背中が徐々に遠くへ行く様子を見守る澤田の胸中には懐古の情が湧いていた。
「……真理」
思わず零れ出た想い人の名。口に出してしまった澤田は恥じるように帽子を目深に被り直す。
「あれぇ? 澤田君?」
過去に想いを馳せていた澤田の情緒をぶち壊す間延びした声。嫌でも気持ちが現実に帰って来る。
「凄い偶然だねぇ」
北崎は薄っすら笑いながら無遠慮に澤田との距離を詰めてくる。
「彼を探してたら、まさか君に会うなんてねぇ」
彼というのは言わずもがな浅倉のことである。北崎は最初から浅倉しか標的にしていない。北崎が言うように持ち場の違う澤田と会ったのは本当に偶然なのだろう。北崎はその偶然を楽しんでいる様子だが、澤田からすれば不運としか言いようがない。
「そうだ……これ」
北崎が突き出してきたのはスマートブレインのロゴが入ったアタッシュケース。中に入っているのはデルタのベルト。
「飽きたから返すね」
自分勝手な言い草に怒りの一つも覚えるが、口には出さない。澤田はデルタのベルトを手に入れる為に同じ施設で育った身内に等しい友人を手に掛けた。デルタのことに関してあれこれ言う資格など自分には無いと澤田は思う。
北崎に突き付けられたアタッシュケースを澤田は受け取る。見た目以上の重量を感じたのは罪の意識から来るものなのかもしれない。
「じゃあ僕は行くね」
用事が済んだ北崎はすぐに去って行く──かと思ったら、何故か足を止めた。
「そうだ。君に伝えておくことがあったんだ」
北崎は澤田の方を見ることなくある情報を教える。
「僕、あっちに黒い龍が飛んで行くのを見たんだ」
黒い龍、それを聞いただけで澤田は全身の血が熱を帯びていくのを感じる。黒い龍が居るということは、リュウガもそこに居る。
「君も探してたんでしょ? 僕も探してたけど、今は忙しいし君に譲るよ」
浅倉を標的としている北崎。他の相手には興味が湧かない。
「東條君の仇、任せたよー」
気軽に敵討ちを頼み、北崎は今度こそ去って行く。
思いもよらない所からリュウガの情報を手にした澤田。澤田にとってリュウガは、自分を虚仮にした敵。受けた屈辱を返さなければならない相手。
「……敵討ちはついでだ」
自分に言い聞かせるように呟き、澤田は北崎が指した方角へ向かおうとするが──
カチン
──金属音が鳴り、澤田は足を止めざるを得なかった。
首だけ動かし、背後を見る。いつの間にか来ていたバットオルフェノクがそこに立っており、彼は静かに拳銃の撃鉄を上げていた。
銃口はまだ向けられていない。これは警告である。勝手な真似をするな、という意味を込めた。
バットオルフェノクは楽に勝てる相手ではない。負けるつもりは微塵も無いが、戦えば確実に消耗する。今から戦うリュウガはそんな状態で勝てる相手ではない。
澤田が取るべき手段は一つしかなかった。
澤田はゆっくりと動く。急に動いて発砲されない為に。バットオルフェノクと向き合うと懐に手を伸ばす。バットオルフェノクの腕が微かに動き、いつでも発砲出来る準備に入った。
懐から取り出した物を地面を滑らせ、バットオルフェノクの足元まで届かせる。
「……代わりにこれを置いていく」
バットオルフェノクの足元に転がるのは召喚機スラッシュバイザー。澤田は続いて四枚のカードをバットオルフェノクに投げつける。バットオルフェノクは腕を一振りして投げられたカードを掴んだ。投げ渡されたのはディスパイダーリ・ボーンらのアドベントカード。
「それとカードがあれば、あいつらはお前の命令を聞く」
バットオルフェノクは暫くの間、アドベントカードをじっと見つめていた。やがて、スラッシュバイザーを拾い上げる。そして、バットオルフェノクは澤田に背を向けた。澤田の交渉を了承したことを意味する。
澤田は今度こそリュウガの元へ向かう。リュウガを倒す為にミラーモンスターたちを集めたが、結局失ってしまった。その代わりにデルタを手に入れたが吊り合っているのかまだ分からない。
ふと、気配を感じて澤田は視線を横へ向ける。後ろへと流れて行く窓ガラス。それに逆らうように鏡面の中、サイコローグⅡ・タイプSが並走していた。
四体で十分だと思ったバットオルフェノクが、釣り代わりに澤田へ送ったのだ。
(良く分からない奴だ……)
仕事人のようで妙に情を出すバットオルフェノク。結局何を考えているのか最後まで理解出来なかった。
しかし、思いがけず戦力が増したことは素直に喜ばしい。
「……覚悟しておけ」
これから向かう先に待つリュウガに対し、澤田は静かに闘志を滾らせる。