デルタへ変身した澤田は、完了と同時にリュウガサバイブ目掛けて駆け出す。スパイダーオルフェノクのときに使用していた八方手裏剣を構えながら。
澤田が変身したデルタ。実際のところ、リュウガサバイブは然程の脅威を感じていない。スマートブレインと神崎士郎が開戦する切っ掛けとなったのは王蛇と北崎が変身するデルタであったが、通常時の王蛇と引き分けに終わったことを神崎伝手でリュウガサバイブも聞いていた。
変身者である北崎は、オルフェノクの中でもトップクラスの実力者なのは聞いている。彼と同じラッキー・クローバーという実力者集団に澤田が属していることも知っているが、一度戦って実力は把握している。デルタの力で強化されているが、リュウガもサバイブの力で強化されており条件は同じ。その上でリュウガサバイブは断言出来る。
迫って来ているデルタは恐れるに足らない相手だと。
リュウガサバイブは視線をデルタから外す。この時点で余裕しか感じさせない態度。彼が確認しているのは背後にいるブラックドラグランザー。
ブラックドラグランザーは、地面に横たわった状態で跨っているサイコローグⅡ・タイプSによる上からパンチの連打を浴びせられていた。身を捩らせてサイコローグⅡ・タイプSを跳ね除けようとしているが、見た目通りの重量とパワーのせいで思うようにいかない。厄介さで言えばこちらの方が上であった。
リュウガサバイブがブラックドラグランザーの様子に気を取られている間に、デルタは既に攻撃が届く間合いまで来ている。そのまま八方手裏剣を振り抜く──よりも前にリュウガサバイブはデルタの脳天へドラグブレードを振り下ろしていた。
例え意識が他に移っていてもこれぐらいはリュウガサバイブにとって容易い。
先に攻撃をされていることに気付き、デルタは腕の軌道を無理矢理変え、横に振るわれる筈であった腕を垂直に上げる。八方手裏剣が降ってきた刃を受け止めた。
「ぐぅぅ!」
上から圧し掛かる重い一撃にデルタの膝が折れる。初めて戦ったとき以上の力。オルフェノクとデルタの力が合わさっていなければ、今の一撃で脳天を割られていた。だが、完全に防いだ訳でもない。リュウガサバイブの刃は八方手裏剣を押していき、じわじわとデルタへ迫っている。
デルタは全身を使って押し返すことを試みた。折れた膝が真っ直ぐ伸びることはなかった。デルタはこの時点でリュウガサバイブに力負けをしており諦めることにした。
ただし、諦めるのは力比べ。勝ちまでは諦めていない。
デルタに変身した利点は力が増しただけではない。デルタはベルト側面に装着されたデルタムーバーを外す。
「ファイアッ!」
『Burst Mode』
八方手裏剣の持ち手部分の隙間にデルタムーバーの銃口を差し込み、がら空きとなっているリュウガサバイブの胴体に光弾を撃ち込む。
「ぐっ!?」
八方手裏剣越しの発砲に意表を衝かれたリュウガサバイブ。光弾が装甲で弾け、衝撃をリュウガサバイブに通す。
ダメージが通ることを確認しながらデルタは続け様に光弾を撃ち込む。だが、リュウガサバイブがデルタの攻撃を許すのは最初のみ。
デルタムーバーから発射された光弾が先程と同じようにリュウガサバイブの装甲に着弾。しかし、今度は着弾と同時に弾かれてしまった。リュウガサバイブは黒炎を固形化して装甲を強化、これによりデルタムーバーの光弾が通じない装甲となる。
「許すのは一度だけだ」
リュウガサバイブの膝がデルタの脇腹に刺さる。しかも、固形化した黒炎がスパイク状になっているので文字通りの意味であった。
「──ッ!」
デルタの装甲を貫き、黒炎の棘が生身に触れる。膝蹴りの威力をデルタの装甲が殆ど削いでくれたので撫でる程度の接触であったが、デルタの中の澤田は棘から強い熱を感じ、それとは逆に背筋が冷たくなった。
リュウガサバイブは膝を引き、再度同じ箇所へ打ち込もうとする。
やはりリュウガサバイブはデルタを脅威とは見ておらず侮っている。だが、それでも意識を大きく割く程度にはデルタの登場はリュウガサバイブにとって小さくない驚きであったのだろう。
デルタとほぼ同じタイミングで動き始めていた彼の存在に気付いていないのだから。
「うおおおおおっ!」
オルタナティブ・ワンのスラッシュダガーがリュウガサバイブの腹横へ打ち込まれた。黒炎を纏っているのでダメージは無い。しかし、タイミングが悪かった。追撃の膝蹴りを繰り出す瞬間だったので、リュウガサバイブの片足は地面から離れていた。そこへ横からの攻撃を受けてしまったのでリュウガサバイブはバランスを崩して横へ流れて行く。
完全に意識の外からの攻撃であった。そして、リュウガサバイブは同時に気付いてしまう。侮っていながらもデルタに意識を傾け過ぎてしまっていた自分に。
「ちっ」
忌々しい事実にリュウガサバイブは苛立ちを舌打ちという形で表に出す。
数歩分横へ移動してしまったリュウガサバイブは、すぐに体勢を立て直そうとする。だが、相手も追撃の手を緩めない。
「今です!」
オルタナティブ・ゼロがオルタナティブ・ワンと並び立つと、突き出していたスラッシュダガーから蒼炎を放射した。
リュウガサバイブの体が蒼炎に呑まれる。流体である蒼炎にはリュウガサバイブの黒炎の鎧も意味を為さず、二本のスラッシュダガーから放たれる蒼炎の火力に押されていく。
リュウガサバイブの体が一歩、二歩と後退していき三歩目が地に着けられたとき、地面を踏み砕く勢いで踏み止まる。
オルタナティブ・ゼロらは限界を超える勢いで蒼炎を出し続けるが、リュウガサバイブをそれ以上後退させることは出来なかった。
「はあっ!」
リュウガサバイブのドラグブレードが蒼炎を斬り付ける。袈裟切りの軌跡で残る黒炎。今度は手首を返して逆袈裟切りを行い、蒼炎を裂く黒い✕の字を空中に残す。
「ふんっ!」
リュウガサバイブは✕の黒炎を回し蹴りによって蹴り飛ばす。足が触れると同時に黒炎は固体となり、蒼炎の勢いに逆らい切り裂きながらオルタナティブ・ゼロたちへ飛んで行く。
「回避を!」
スラッシュダガーの蒼炎では止めきれることは不可能と即座に判断したオルタナティブ・ゼロが回避を指示。オルタナティブ・ゼロとオルタナティブ・ワンは左右に分かれる。
✕字の黒炎が二人の間を通り抜けていく。そして、リュウガサバイブを呑み込んでいた蒼炎がこれにより途切れてしまった。
リュウガサバイブはブラックドラグバイザーツバイを構え、光弾を発射。しかし、発射された光弾は見当違いの方向へ飛んで行く。
戦いの中であり得ないミス。だが、オルタナティブ・ゼロは真っ先に敵の意図を察した。
「しまった!」
光弾の射線状にいるのはサイコローグⅡ・タイプS。ブラックドラグランザーを暴力で拘束していたが、その側頭部に光弾が命中した。頭部を破壊する程の威力は無かったものの、この一発によりサイコローグⅡ・タイプSの動きが止まってしまう。
上に跨っているサイコローグⅡ・タイプSが止まると同時にブラックドラグランザーが暴れ狂う。サイコローグⅡ・タイプSが再起動するが、間に合わずブラックドラグランザーのうねる胴体によって跳ね除けられた。
サイコローグⅡ・タイプSの拘束から抜け出すと同時にブラックドラグランザーは黒い火球を発射。オルタナティブ・ゼロとオルタナティブ・ワンの近くに着弾して爆発を起こす。
「くっ!?」
「うわあああ!?」
爆発の衝撃で吹き飛ばされるオルタナティブ・ゼロたち。この攻撃によって更に引き離されてしまった。至近距離で爆風の煽りを喰らったので二人はゴムボールのように地面を跳ね転がっていく。
重石が消えたブラックドラグランザーが宙へ浮かぶ。窮屈な思いを晴らすかのように空中で身を捩った。そして、サイコローグⅡ・タイプSに散々殴られた鬱憤を晴らす為に転がり終えたオルタナティブ・ゼロたちに狙いを定める。
うつ伏せになって倒れている両者、身を起こそうと藻掻いている。ブラックドラグランザーが容赦なく黒炎を吐き出そうとするが──
『ADVENT』
──オルタナティブ・ゼロがスラッシュバイザーにカードを通す。カードの効果によりサイコローグが跳び上がり、ブラックドラグランザーの顔に張り付く。頭を動かしてサイコローグを振り落とそうとするが、サイコローグの両手はしっかりとブラックドラグランザーの角と髭を掴んで放さない。
オルタナティブ・ゼロは追撃が来るのは分かっていた。爆発で吹き飛ばされながらもデッキからカードを抜いていたのだ。そうしていなければ妨害が間に合わなかった。
サイコローグは顔面から小型ミサイルを発射。炸裂する小型ミサイル。内一発はブラックドラグランザーの口部に溜め込まれていた黒炎の中へ入り、誘爆。両者は至近距離で爆発を浴びて勢い良く吹き飛んだ。
煙を吐きながらブラックドラグランザーが再び地に落ちていく。リュウガサバイブはその光景に舌打ちをする。現状に於いてオーディンのゴルトフェニックスに次ぐ強さを誇るブラックドラグランザーが、リュウガサバイブが思い描いたように動かないのがいらだちの原因であった。
サイコローグⅡ・タイプAの集団を薙ぎ払うまでは良かったが、その後に乱入してきたサイコローグⅡ・タイプSに予想以上のダメージを与えられた挙句、格下であるサイコローグに一矢報いられている。
強者である自分の契約モンスターの不甲斐なさに失望を覚えざるを得ない。
リュウガサバイブはさり気ない動作でブラックドラグバイザーツバイを掲げる。直後に首元を狙って振るわれた八方手裏剣がそれにより防がれる。
「おおおおっ!」
窮地を脱したデルタが渾身の力を込めて八方手裏剣を振り回す。
リュウガサバイブはデルタに視界を定めず、周囲の様子を確認するというながら作業で見もせずにデルタの八方手裏剣を捌き、または回避をする。
デルタも八方手裏剣によりごり押しだけでなく時折デルタムーバーにより銃撃を混ぜているが、その攻撃を既に見ているリュウガサバイブには命中しない。
全く当たらず、半ばヤケクソ気味に振り下ろされる八方手裏剣。だが、リュウガサバイブは避ける素振りを見せない。
当たった、と思った瞬間にリュウガサバイブは纏う黒炎を固体化させて防ぐ。そして、リュウガサバイブの掌には燃える黒炎。黒炎の性質を同時に操っている。
リュウガサバイブは攻撃を防がれた直後のデルタの胴体に黒炎を纏わせた掌打を叩き込む。
思いの外頑丈なデルタの装甲を貫くのは面倒と判断したリュウガサバイブは、黒炎で焼き尽くすという選択を取った。
「なっ!?」
デルタの体を黒炎が焼いていく。慌てて手で叩き消そうとするが、それでは黒炎は消火出来ず、逆に叩いた手に黒炎が燃え移る。
「くっ!?」
消そうとしても消せない黒炎。どうすればいいのか迷っている間にも黒炎によりデルタは熱せられていき、中の澤田も熱さを感じ始める。このままでは蒸し焼きになるのも時間の問題であった。
(このままやられるぐらいなら!)
デルタは覚悟を決め、黒炎に焼かれたままリュウガサバイブ目掛けて突っ込んでいく。
「澤田君!」
オルタナティブ・ゼロが叫ぶ。危機を脱する方法を既に発見していたのでそれを伝えようとするが、デルタの耳には届いていない。
デルタは走りながら銃撃。リュウガサバイブはブラックドラグバイザーツバイで全て弾く。近接の間合いに入ると同時にデルタはリュウガサバイブの頭上へ八方手裏剣を振り下ろした。
リュウガサバイブは八方手裏剣の軌跡を完全に読み、後ろへ下がることで八方手裏剣を空振りさせる。
だが、この動きはデルタの予想の範囲であった。
リュウガサバイブがこちらを見下しているのを見抜いていた。実力差故に敢えて無駄な動作を省いて最小の動きで回避することを予測していた。
振り下ろされる筈であった八方手裏剣は途中で止まり、そのままリュウガサバイブの眼前へ突き出される。
軌道を強引に変えた二段攻撃。リュウガサバイブの顔面を貫く──
「惜しかったな」
「なっ!?」
──寸前にリュウガサバイブは頭を傾けて八方手裏剣の刃を避け、カウンターでドラグブレードでデルタを斬り付ける。
この瞬間、デルタが許容出来るダメージ量の限界を超え、変身が強制的に解除された。デルタの本体はベルト。ダメージがベルトにフィードバックする前に装甲を解くことでベルト本体を守る一種の安全装置が作動した
今年最後の投稿になりますが、長くなりそうだったので前後編で。
続きは来年で。