リュウガサバイブの前に生身を晒す澤田。使用者よりもベルトの安全を優先するというのは一見致命的な欠陥に思われるかもしれない。
しかし、これは欠陥ではなく仕様。そもそも前提条件が違うのだ。
澤田は変身が解除されると同時にスパイダーオルフェノクへと変身。使用者がオルフェノクを前提としているので強制解除されてもオルフェノクの力で身を守れる。
これに意表を衝かれたのは澤田ではなくリュウガサバイブの方であった。何故ならば、リュウガサバイブはデルタの仕様を知らない。いきなり変身を解除した澤田を見て、意図が分からずコンマ数秒だが戸惑いを覚えた。逆に澤田は強制解除の仕様を知っているので驚くことなくスパイダーオルフェノクへと変身が出来た。副次効果として装甲が解除されると同時に纏わりついていた黒炎を剥がすことも出来た。偶然にもオルタナティブ・ゼロが伝えようとしていた黒炎対策が行われたのだ。
リュウガサバイブの僅かな隙の間に八方手裏剣で突く。
「ぐっ」
呻くリュウガサバイブは後方へ押される。突かれたのが装甲の厚い部分だったのでダメージに至る程ではないが距離を開けられた。
「変身!」
『Standing by』
距離がある内にスパイダーオルフェノクは素早く再変身を行う。
『Complete』
ベルト本体の安全を優先しているお陰か再変身までのクールタイムは存在しない。あったとしてもごく短時間のもの。
デルタは拳を振り上げてリュウガサバイブへ飛び掛かる。見え見えの攻撃を避けようとはせず、迎撃する構えをとるリュウガサバイブであったが、背後から迫る気配に気付き、反射的に振り返ってしまう。
振り返ったリュウガサバイブが見たのはオルタナティブ・ゼロとオルタナティブ・ワンがスラッシュダガーを振り下ろしている姿。リュウガサバイブは咄嗟にブラックドラグバイザーツバイで受け止める。
「はあっ!」
だが、オルタナティブ・ゼロたちに気を取られてしまったせいでデルタへの反応が遅れてしまった。
飛び込んだ勢いのままデルタのパンチがリュウガサバイブの頬へ打ち込まれ、そのまま殴り飛ばされる。
リュウガサバイブは数メートルの距離を飛んだ後に背中から地面へ落ちた。
「ぐっ!」
サバイブへ進化してから初めて受けるダメージらしいダメージ。回避も防御も間に合わなかった。この場で最も格が低いと思っていたデルタが誰よりも先にリュウガサバイブにダメージを与えた。その事実は肉体よりも精神の方に重く響く。
リュウガサバイブは足を一瞬止めてしまう。その間に動く黒い影。
「おおおおっ!」
渾身の叫びを上げながらオルタナティブ・ワンがリュウガサバイブへ突進してくる。スラッシュダガーを担ぐように構えた捨て身の行動。
「馬鹿が……!」
その無謀さとそれが通じると思われていることにリュウガサバイブは吐き捨てながらブラックドラグバイザーツバイを構える。
オルタナティブ・ワンは叫び続けながら真っ直ぐリュウガサバイブへ向かい、スラッシュダガーの柄が軋む程の力を込めるが──
「っ!?」
──そのとき、オルタナティブ・ワンの背後から影が飛び出す。一瞬分裂したのかと錯覚を覚える同じ姿。すぐに飛び出したのがオルタナティブ・ゼロだということを認識する。しかし、そう認識したときにはオルタナティブ・ゼロはリュウガサバイブの頭上を超えており、リュウガサバイブに影を差す。
無謀な突進は囮。全てはリュウガサバイブの視界を遮る為のもの。オルタナティブ・ワンの背後に隠れ、ギリギリまで存在を隠し、タイミングを見極めてオルタナティブ・ワンを踏み台にしてリュウガサバイブをかく乱する。
リュウガサバイブの背後に降り立つと同時にスラッシュダガーを振るオルタナティブ・ゼロ。このとき、リュウガサバイブの頭の中に選択肢が過る。
前方からも今もオルタナティブ・ワンが迫っており、後方からもオルタナティブ・ゼロが仕掛けてきている。
どちらを攻撃するか。刹那の時間リュウガサバイブは思考してしまったが、すぐに答えは出た。
リュウガサバイブの体から噴き出す黒炎の勢いが増し、それらが針のように全方向へ伸びていく。
どちらを優先して攻撃する必要など無い。同時に攻撃してしまえばそれで済む。
オルタナティブ・ワンは伸びてきた黒炎の針を咄嗟にスラッシュダガーの側面で受けるが、全てを受け切れることが出来ず大腿部を針が掠め、その痛みで力が抜けてしまい、踏ん張ることが出来ず針によって突き飛ばされる。
オルタナティブ・ゼロにも伸びて来る針。だが、オルタナティブ・ゼロは防御の構えを見せず更に踏み込む。
側頭部を掠め、脇腹を掠めるがオルタナティブ・ゼロは前進を止めない。遂に肩へ針が突き刺さってしまったが、即座に片手に持ち替えるとスラッシュダガーの前方へ突き出す。
「ぐっ!?」
固体化させた黒炎を全方位に針のように伸ばす。攻防一体であったが、スラッシュダガーの切っ先は最も防御の薄い箇所を的確に突いていた。
「お前……!」
「言っていませんでしたね。一度見たものは記憶してしまうんですよ、勝手に」
リュウガサバイブの攻撃のタイミングは既に記憶済み。肩を負傷してしまったが、リュウガサバイブにも一撃与えることが出来た。
前に戦ったときの妙な戦い辛さへの答え合わせをされたリュウガサバイブは、憤怒の感情のままスラッシュダガーが深く刺さることも構わずドラグブレードで斬りかかろうとした。
だが、それを見計らったかのようにリュウガサバイブの顔面で光弾が炸裂する。
「っ!?」
流石のリュウガサバイブも顔にそのような攻撃を受けたら怯まざるを得ない。仰け反りながら顔を押さえて数歩後退する。
その間にオルタナティブ・ゼロはリュウガサバイブから離れた。
「──大丈夫か?」
「ええ、まだ戦えます。素晴らしい援護射撃でした」
オルタナティブ・ゼロは刺された肩を手で押さえながら隣に来たデルタと礼を言う。デルタは手にデルタムーバーが握られており、オルタナティブ・ゼロを救うと共にリュウガサバイブに会心の一発を撃ち込んでいた。
「くっ……!」
リュウガサバイブは内心に焦りが募り始める。力はこちらの方が上の筈なのに、相手が予想以上に粘る。サバイブの力は強力だが、強い力には制限も伴う。サバイブを維持出来る時間も余裕が無くなってきた。サバイブが解除されれば反動で動けなくなる。そうなれば彼とて危うい。
オルタナティブ・ゼロ、オルタナティブ・ワン、デルタ。この三人を纏めて確実に葬る。
「これで終わりだ……!」
リュウガサバイブが引き抜く最強のカード。この一枚を以てこの戦いを終わらせる。
『FINAL VENT』
ブラックドラグバイザーツバイに装填された必殺のカード。その音声を聞くとオルタナティブ・ゼロたちは仮面の下で顔色を変えた。
ファイナルベントのカードが読み込まれ、その力が契約モンスターへ注ぎ込まれる。サイコローグとサイコローグⅡ・タイプSに纏わりつかれていたブラックドラグランザーは、体を激しく揺さぶり二体を振り払う。
重石が外れたブラックドラグランザーは空中へ飛び上がる。リュウガサバイブもまた跳び上がり、飛翔するブラックドラグランザーの背中に降り立った。
ブラックドラグランザーが首を仰け反らせると胸元から内蔵されていた前輪が出現。長い尾が折り畳まれると同時に内包していた後輪が現れる。額にあった格子状のパーツがスライドして両目を覆うバイザーとなった。
バイク形態となったブラックドラグランザーは地面に降り、駆ける場所を空から大地に移す。
ブラックドラグランザーに跨ったリュウガサバイブはそのままオルタナティブ・ゼロたちに背を向けて疾走。加速に十分な距離を稼ぐ為である。
オルタナティブ・ゼロたちはこのまま逃亡することも出来る。しかし、その選択はしない。直感が告げていた。彼らにとって窮地であるが、攻め切るのなら今しかない。相手が初見で対策が練られない状況だからこそここまで繋げられた。ここで退けば二度と同じ手は通用しない。恐らくリュウガの状態でも圧倒されるだろう。
だからこそ退く訳にはいかないのだ。
離れて行くリュウガサバイブの姿。戻って来るまでの僅かな時間。それは何度も何度も行ってきた覚悟を決める時間。
「……仲村君」
「同じ事を言わせないで下さい。俺は最後の最後まで先生について行きますよ」
「そうですか……ありがとう」
そう言われれば「貴方は逃げなさい」とは言えなくなる。オルタナティブ・ゼロの頭に過るのは家族の顔、そして先に逝った東條の顔。
多くの命の為に小数の命を犠牲にすることを良しとした。その切り捨てられる命の順番が自分に回って来ただけのこと。恐れるなど身勝手。
オルタナティブ・ゼロは最後のカードをデッキから抜き取る。オルタナティブ・ワンもカードを抜き、スラッシュバイザーへ通す。
『ADVENT』
カードが蒼炎となって消滅すると、何かが崩れる音が聞こえる。音源は積み重なっているサイコローグⅡ・タイプAの残骸。その下から所々破損はしているものの五体満足の一体が這い出て、オルタナティブ・ワンの許へ向かってくる。
全滅していた可能性があったが、一体だけ無事であった。これで少しだけ勝率が上がる。
『FINAL VENT』
オルタナティブ・ゼロとワンは同時に切り札を切る。二人の許へ走るサイコローグたち。走りながら形態を変え、二台のバイク──サイコローダーとなって疾走する。
オルタナティブ・ゼロたちはそれに乗り、アクセルを回す。いつでも走り出す準備は出来ている。
「──澤田君」
「……何だ?」
走り出す前、オルタナティブ・ゼロはデルタへ声を掛けた。
「後は任せます」
「……勝手にしろ」
託された思いにデルタは目を合わせないようにしながら素っ気なく言う。
リュウガサバイブが反転したのが見えた。決着の時が来たのだ。
「行きますよ!」
「はい!」
オルタナティブ・ゼロとオルタナティブ・ワンが並んだ状態で走り出す。二人が走り出したタイミングでリュウガサバイブもまた全速力で走り出した。
瞬く間に最大速度に達する両者。すると、リュウガサバイブがハンドルを手前に引っ張る。連動してブラックドラグランザーの上体が起こされ、ウィリー走行となるとブラックドラグランザーは次々と黒い火球を吐き出した。
吐き出された火球は着弾と同時に炎上、もしくは固体化して鋭利な鍾乳石のように生える。相手の逃げ道を塞ぎ、確実に仕留める為の牽制だが最初から正面衝突しか狙っていないオルタナティブ・ゼロたちには無意味であった。
ブラックドラグランザーはウィリー走行を続けながら火球を放ち続ける。オルタナティブ・ゼロたちに直撃する火球も何発かあったが、肚を括っている二人がその攻撃を恐れることはなく最小限の動きで回避をしてみせた。
オルタナティブ・ゼロはハンドルを右に、オルタナティブ・ワンは左に切る。急ハンドルにより旋回するサイコローダー。臆してハンドルを切ったのではない。これこそが彼らの最大の一撃。
サイコローダーは回転の速度を上げていき、原型の見えない半球体と化す。触れたもの全てを粉砕する破壊の回転。それが二つ。
速度を緩めることなく接近する両者。間もなく全力を懸けた互いの一撃が衝突する。
圧砕する突撃と粉砕する双回転。それがぶつかり合った瞬間、空気は一瞬にして高熱を帯び、発生した膨大な量のエネルギーが爆発となって双方を包み込む。
だが、爆発を突き破って先に飛び出したのはオルタナティブ・ゼロとオルタナティブ・ワンであった。
「がはっ!」
「うわあああああっ!」
凄まじい勢いで吹き飛ばされ、地面を転がっていく。勢いが止んだときには二人は既に立ち上がれない状態であった。
「う、く……」
「はぁ……はぁ……」
少し間を置いて何かが地面に落ちて来た。片方は完全に破壊されたサイコローグⅡ・タイプA。そして、もう片方は下半身が千切れているサイコローグ。辛うじて動いているが断面から露出しているケーブルからは火花が散り、まだ生身である部分が零れ出ている。
契約モンスターもほぼ死に体。仮にオルタナティブ・ゼロたちが動けたとしても戦う手段は潰えた。
この戦い、リュウガサバイブの勝利──という訳でもない。
爆発が消えた後に残るのはリュウガサバイブ。だが、その装甲には欠けや亀裂が生じており、跨っていたブラックドラグランザーもバイク形態が解除されていたが左腕が消し飛んでいた。
「くそっ……!」
深手を負ってしまったリュウガサバイブは毒吐く。オルタナティブ・ゼロたちの攻撃は想像以上のものであった。真っ向から対決してしまったせいでダメージが大きい。
だが、これで終わりではない。
リュウガサバイブは視線に気付き、顔をそちらへ向ける。そこにはサイコローグⅡ・タイプSと並び立つデルタがリュウガサバイブを睨み付けていた。
「選手交代だ」
「っ!」
取るに足らないと見ていたデルタが、ここに来て巨壁となってリュウガサバイブの前に立ち塞がる。
今のリュウガサバイブでは分が悪い。負傷している上にそろそろサバイブの効果が切れる。逃走の二文字がリュウガサバイブの頭の中に浮かぶ。
「戦うのなら俺が相手をしてやる。逃げるなら見逃してやる」
その言葉にリュウガサバイブの沸点は限界寸前まで上昇。
「迷っていないでさっさと選べ──中途半端野郎」
いつのか意趣返しの台詞。そして、この言葉自体リュウガサバイブのコンプレックスも強く刺激するものであった。リュウガサバイブの怒りは頂点を超え、逃走という選択は消し飛んだ。
「死にぞこないがっ!」
最早、リュウガサバイブの頭の中にはデルタを倒すことしかない。リュウガサバイブの全身全霊で怒り、黒い火柱と化す。
デルタは離れていても感じる熱気を浴びながら隣に立つサイコローグⅡ・タイプSを小突く。
サイコローグⅡ・タイプSが咆哮を上げる。すると近くの鏡面から巨影が飛び出して来る。現れたのはジェットスライガー。オルタナティブ・ゼロたちとリュウガサバイブが衝突する間に呼び寄せていたのだ。
現われたジェットスライガーにデルタは搭乗せず、咆哮し続けているサイコローグⅡ・タイプSがジェットスライガーを両腕で掴む。全長四メートルを超え、トン単位もある超大型バイクが持ち上げられ、サイコローグⅡ・タイプSの肩に担がれた。
「──終わらせる」
デルタはデルタムーバーを口元に寄せて走り出した。
「チェック!」
『Exceed Charge』
生成されてフォトンブラッドがベルトから伸びるラインを通じ、デルタムーバーへ充填されるとデルタは銃口をリュウガサバイブへ向ける。
「終わるのはお前の方だ!」
リュウガサバイブがデッキからカードを引き抜き、叩き付けるようにブラックドラグバイザーツバイへ装填。入れられたカードは──
『STRANGE VENT』
効果によりカードの絵柄が変化。リュウガサバイブが望むカードとなる。リュウガサバイブは変化したカードを再装填する。
『FINAL VENT』
本来ならば一戦闘に一枚しか使用出来ないファイナルベントのカード。リュウガサバイブはストレンジベントの効果でそのルールを捻じ伏せる。しかし、ブラックドラグランザーの負傷は大きく、バイク形態にはなれない。
だが、そんなことはリュウガサバイブにとって些細なこと。持っていたブラックドラグバイザーツバイを投げ捨て、肘を曲げた左腕を前に突き出し、五指を開いた右腕を掲げる構えをとる。
リュウガサバイブの体が宙へ浮く。その背後には上半身を立たせているブラックドラグランザー。リュウガサバイブは空中で右足を前に出したポーズをとる。
デルタが引き金を引くのとブラックドラグランザーが黒炎を吐き出し、それを背に受けたリュウガサバイブが撃ち出されるのはほぼ同じタイミングであった。
放たれた光弾がリュウガサバイブが纏う黒炎に接触。三角錐状に展開し、リュウガサバイブのキックを空中で止めた。
そこへ駆け、跳び上がったデルタが右足を伸ばして三角錐の中へ飛び込んでいく。
デルタが必殺の一撃を繰り出したタイミングでサイコローグⅡ・タイプSも動く。両腕、両脚、背中の装甲がスライドし、中から大量のミサイル弾頭が覗かせる。顔面の穴からも同じようにミサイルが生えていた。
更に担いでいたジェットスライガーのカウリングが左右に展開し、収納されているミサイルが発射体勢に移る。デルタがジェットスライガーを呼び出したのはこの為。ミサイル砲として使うのが目的であった。
ジェットスライガーとサイコローグⅡ・タイプSの全身から発射されるミサイル。サイコローグⅡ・タイプSのミサイルは空中で分解され、内蔵されていた小型ミサイルが飛び出し、百を超えるミサイルがデルタの後を追う。
これがデルタに出来る最大火力にして覚悟。リュウガサバイブ諸共消し飛ぶことを覚悟しての攻撃。
大量のミサイルが空を飛ぶ中でデルタのキックとリュウガサバイブのキックが激突。
白色のフォトンブラッドと黒炎。互いを貪るようにぶつかる未知同士のエネルギー。
リュウガサバイブは勝利を確信した。三角錐状のフォトンブラッドを纏ったデルタのキックはそれなりの威力はあるが、リュウガサバイブの攻撃には及ばない。
拮抗しているがそれは時間の問題。間もなくリュウガサバイブのキックが押し切る。
そして、その時は来た。
デルタから押し返す力が消え、リュウガサバイブのキックがデルタを蹴り砕く──
(何だと……?)
違和感があった。あまりにあっさりと消えた手応えに。そして、気付いた。蹴り砕く筈であったデルタの姿がそこにないことに。
(何だと……?)
自然と視線が背後へ向けられる。そこには倒す筈であったデルタが膝を着いていた。
(何だと……?)
リュウガサバイブの胸には気付かぬ内に刻まれていた、Δの紋章が。
「何だとぉぉぉぉぉ!」
事態を吞み込めない内に発射されたミサイルが一斉にリュウガサバイブに炸裂。その叫びが爆音の中に掻き消される。
リュウガサバイブとデルタは間違いなくリュウガサバイブの方が上であった。負ける道理はない。しかし、それは同じ技術と力を根源としていた場合。両者は姿は似ているが根本は違う。それ故に勘違いをしてしまった。
デルタの技は相手の原子構造を破壊し、その際に対象をすり抜ける現象を引き起こす。どんなにリュウガサバイブのキックに威力があったとしてもすり抜けられてしまえば意味がない。
リュウガサバイブの敗因は一つ。情報不足により相手の攻撃の性質を見誤ったこと。
◇
「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」
デルタのキックを受け、その後に凄まじい爆発を浴びせられながらもリュウガサバイブは生きていた。サバイブにより強化された装甲による紙一重の生存。しかし、その恩恵も時間切れであった。
リュウガサバイブの体から粒子が立ち昇ると元のリュウガの姿に戻ってしまう。それでも彼は這い続ける。そんなことよりも優先すべきことがあるのだ。
リュウガが手を伸ばす。そこには割れたガラス片。指先が触れる寸前、ガラス片は蹴られ、地面を滑って遠くへ行く。
「させませんよ」
「香川……!」
眼鏡は罅割れ、髪型が乱れ、口や額から血を流すのは香川。少し離れた場所では仲村が気を失って倒れている。
「そんなに帰りたいですか? ミラーワールドに?」
「っ!」
リュウガが居るのは香川の言う通りミラーワールドではない。爆発の衝撃で鏡面を通って現実世界に飛ばされたのだ。
リュウガは焦っていた。何故ならば──
「東條君の推測通りですね。……どうやら貴方はミラーモンスターと同じ存在らしい」
東條はリュウガとの戦いで気付いた。リュウガがミラーモンスターと同じ性質を持っていることに。故にミラーワールドでは無限に戦えるが、現実世界で活動出来る時間は限られている。そして、サバイブを使って消耗しているリュウガに残された時間は少ない。
「こんな……こんな所で……俺は……!」
体が消滅し始めるリュウガ。それでも何とかしてミラーワールドに帰ろうと藻掻くが、無情なことに周囲に鏡面となるものは無い。
「俺は……俺は……!」
砕ける音と共にリュウガの変身が解かれる。その姿を見た香川は目を見開いた。
「貴方は……!?」
「お、俺は城戸真司に……鏡の中だけの存在じゃ……!」
香川の知る城戸真司と瓜二つであったリュウガの変身者は、無念に満ちた声を上げながら完全に消滅する。
「……」
リュウガの正体が何だったのか聡明な香川であっても分からない。ただ言えることは一つの大きな戦いが終わったということ。
すると、足音が聞こえて来た。
「君ですか……」
「終わったみたいだな……」
香川と同じくらいボロボロになった澤田が片足を引き摺りながらこちらへ来ていた。
「契約モンスターは?」
「あの黒い龍なら消えた」
リュウガと繋がりがあるのかリュウガの消滅に合わせてドラグブラッカーもミラーワールド内で消滅した。
「……今の私に戦える力はありません」
オルタナティブ・ゼロの契約モンスターであるサイコローグは消滅してしまった。オルタナティブのデッキは残っているが、力をほぼ失っている。
香川の技術と情報をほぼ把握しているスマートブレインにとって香川の存在は最早用済み。
「抵抗するつもりは──」
そこまで言い掛けて口を閉ざす。澤田はヘッドフォンを耳に付け、大音量で音楽を聴き始めていたからだ。
香川は苦笑し、地べたに腰を下ろす。香川はこれ以上語ることなく澤田のヘッドフォンから漏れ出る音楽に耳を傾けるのであった。
若干反則な感じですが、初見殺しが入ったということで。
これにてリュウガ戦は決着となります。