RIDER VS ー異形たちの見る夢ー   作:K/K

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高度五千メートルの死闘

 青い閃光と打撃音。ゴルトフェニックスがサイガのスカイインパクトによって殴り飛ばされる。

 そのまま追撃するかと思われたが、サイガは殴った後その場に留まり、殴った自分の拳を見つめる。拳を覆う装甲の一部に亀裂が生じている。ゴルトフェニックスが常に放っている金色の光に触れたのが原因であった。一瞬ではあったが、既存の技術を遥かに上回る金属を破壊したのは脅威としか言いようがない。

 不思議なことに触れたときは何も感じなかった。炎や風を操るゴルトフェニックスだが、ゴルトフェニックス自身が発している光は、フォトンブラッドと同じく既存のどのエネルギーにも属さない未知なるもの。

 それが追撃を止めた理由の一つ。もう一つは、殴った感触に手応えを感じなかったこと。殴り飛ばすことは出来たが、ゴルトフェニックスはダメージ受けていない。下手に追撃をすれば手痛い反撃を受けるのが目に見えていた。

 サイガの予想を肯定するかのようにゴルトフェニックスは両翼を広げて空気抵抗によるブレーキを掛け、数メートル移動しただけで止まった。

 ゴルトフェニックスの顔にはサイガの紋章が浮かび上がっており、これはサイガのフォトンブラッドがゴルトフェニックスの体内に流れ込んだことを意味する。通常ならば全身を巡るフォトンブラッドにより原子構造が破壊され、オルフェノクならば即座に灰化する所である。しかし、ゴルトフェニックスが甲高い鳴き声を上げると浮かび上がっていた紋章が黄金の光により消滅してしまった。

 

『良い一発が入ったと思ったんだけどね』

 

 自慢の拳をあっさりと無効化されたことに苦笑するサイガ。流石は敵のボスが使役するモンスター。一筋縄ではいかない。

 ゴルトフェニックスが異なる色の双眼でサイガを見る。その眼には最初のときよりも意思が感じられた。今の一撃でゴルトフェニックスのやる気に火が入り、サイガを敵として認識したと思われる。

 

『気合が入ったかい?』

 

 言葉が通じるとは思っていない。しかし、ゴルトフェニックスは応じるように鳴く。

 

『それは良かった』

 

 ゴルトフェニックスが両翼を振るう。その際に翼に埋め込まれている赤と青の宝珠が光を発する。振り抜かれた翼から無数の羽根が飛ばされた。

 サイガはブースターライフルによる連射でそれを撃ち落とそうとする。

 放たれた光弾と羽根が接触する。すると、命中する筈であった光弾が羽根に弾かれて軌道を変えた。別の場所では羽根に触れた途端、光弾が真っ二つ裂かれる。

 光弾による弾幕を真っ向から突き破ってくるゴルトフェニックスの羽根。それを脅威に思いながらもサイガは目を逸らさずに羽根を凝視する。

 そうすることで見えてくるものがあった。飛んで来る羽根は同じようで違う。

 まずは速度が異なり、弾く羽根は裂く羽根よりも速い。そして、裂く羽根の周囲には陽炎のような揺らぎが見える。

 その二つの情報でサイガは羽根の特性を分析する。

 弾く羽根一枚には風の力が込められており、裂く羽根には炎の力が込められている。フォトンブラッドの光弾を上回る超常的力が込められた無数の羽根。威力を抑えた連射では太刀打ちできない。

 サイガはまず先行してきた弾く羽根を回避する為にフランイングアタッカーのブースターの勢いを弱まらせて降下する。高度を下げたサイガの頭上数メートルを通過していく弾く羽根。

 これで回避した、と思った直後にサイガは背中に寒気を覚える。その感覚に従い、背後を見ると通過していった羽根が大きくUターンをしてサイガを追尾するのが見えた。

 

『ちっ』

 

 羽根の一枚一枚を独立して動かす器用さに舌打ちをしながらフランイングアタッカーで空を駆けるサイガ。その背後には弾く羽根が追って来ている。

 だが、後ろだけを気にしてもいられない。前方には裂く羽根が待ち構えており、サイガの進路を塞いでいる。速度の差を利用してサイガを上手く誘導していた。

 

『鳥のくせに賢いじゃないか!』

 

 ゴルトフェニックスの頭の回転に舌を巻くが、戦いの中での閃き、直感は自分も優れていると自負するサイガは即座に現状を打破する方法を導き出す。

 サイガは行ったのは減速ではなく直進。自ら前方に並ぶ羽根へ突っ込んで行く。この行為は決して無謀ではない。速度を緩めた瞬間に背後から迫っている羽根にやられるのが分かっているからだ。

 そして、速度を維持しながらブースターライフルにフォトンブラッドをチャージする。チャージが完了するのが間に合うかどうかはギリギリ、というよりも僅かに間に合わないというのが理性の答え。だが、サイガはその理性を捻じ伏せて前へ突き進む。

 戦いに対する絶対的自信と『天の帝王』というプライドが無謀への恐れを打ち消し、彼に折れない芯を与える。

 立ち塞がる羽根の陽炎が鮮明に見え始める距離まで近付いてきた。チャージは九割進んでいるが百パーセントまで溜まらないと意味が無い。

 五、四、三、二と頭の中で勝手にカウントダウンが始める。チャージは九十八パーセントまで完了。どう見ても時間が足りない。

 しかし、それでもサイガは進む。自分に帝王の資格が無ければ、ここで散るだけのこと。

 水平にしていた体勢を垂直にする。空気抵抗により直進速度が一気に減速することになるが、そのタイミングでチャージが完了し溜めていたフォトンブラッドの光弾を発射。

 発射に合わせてフランイングアタッカーの噴射を停止。左右のブースターライフルから放たれた巨大な光弾は、サイガの目の前に立ち塞がっていた羽根に着弾して爆発を起こす。

 サイガは至近距離から爆発を浴び、発生した爆風に乗って後方へ飛ばされる。丁度、背後から来ていた羽根を飛び越える形となった。

 追尾していた羽根の背後に回り込んだサイガは再充填を開始。標的を見失ったことで大きく方向転換している間に充填を済ませたフォトンブラッドの光弾を発射。連射用の光弾とは違い、炸裂弾に等しい光弾は羽根に触れると弾かれる前に爆発。大空に青い球体状が展開し、羽根を纏めて焼き尽くす。

 ゴルトフェニックスの二種類の羽根による一斉射撃を切り抜けたサイガ。その直後であった。黄金の不死鳥がサイガへ突っ込んで来たのは。

 

『くっ!』

 

 一つの攻撃を捌き終えた絶妙なタイミングでの強襲。ゴルトフェニックスの知能の高さが窺えるが、サイガとて戦闘の中で完全に気を緩めることはしない。迫る圧と殺気に気付き、ゴルトフェニックスの突撃に合わせて体を独楽のように回して接触の衝撃を殺そうとする。

 ゴルトフェニックスの翼がサイガの脇腹に触れたタイミングで脱力し、力の流れに乗る。視界が三百六十度高速で回転するが、その間も人外の動体視力でゴルトフェニックスの動きを目で追っていた。

 やがて回転が止まる。咄嗟の判断であったがある程度ダメージを抑えることに成功したサイガ。だが、ゴルトフェニックスと接触した箇所を見て言葉を失う。

 装甲にまたもや深い亀裂が生じていた。ゴルトフェニックスにスカイインパクトと打ち込んだときと同じ現象が起こっている。体感的に受けた衝撃はルナメタルの装甲を破壊する程ではない。そうなるとゴルトフェニックスが常に発している金色の光に何かしらの能力があると推測する。

 

『──飽きさせないね、君は』

 

 未だに底を見せない強敵を前に戦意を高揚させるサイガ。ゴルトフェニックスは、そんな相手の意気込みなどに構うことなく旋回して再び突撃しようとしている。

 風や熱、羽根を飛ばすことはゴルトフェニックスにとっては小手先の技。ゴルトフェニックスにとって最強の武器は自分自身。それを使っての攻撃という時点でゴルトフェニックスもまたサイガを手強い敵と認めている証拠。

 ゴルトフェニックスは方向転換を終え、瞬時に最速に達するとサイガへ最大威力を以て突進する。

 サイガはゴルトフェニックスの軌道を見極めながら操縦桿と一体となっているトンファーエッジを引き抜く。

 改めて思うが、武器便利ではあるが操縦桿と一体となっているのは少し頂けない。トンファーエッジを使用する際はフライングアタッカーを外すかフランイングアタッカーの精密な操作を放棄するかのどちらかを選ばなければならない。

 スマートブレインの技術者たちは何でもかんでも一つの物に多くを詰め込み過ぎているのでは、と少々愚痴りたくもなる。

 そもそも技術者たちは、トンファーエッジはいざというときの為の非常手段として装備させているのであり、レオのように近接戦を好み、積極的に使用することは想定していないのであった。

 頭の中で密かに不満を漏らしながらサイガはトンファーエッジにミッションメモリーを挿す。

 

『Ready』

 

 トンファーエッジが完全起動し、サイガは滞空しながらトンファーエッジを器用に回す。

 操縦桿は外されているのでゴルトフェニックスの突進に対しフランイングアタッカーで自由に回避することは出来ない。

 だが、それはサイガも分かっている。分かっている上でわざとやったのだ。

 空中で静止状態のサイガにゴルトフェニックスが正面から迫る。

 

『Exceed Charge』

 

 サイガは一切の動揺が無い動作でサイガフォンを開き、ボタンを押し込んでいた。

 体を巡るラインを通じ、ドライバーから送られる青いフォトンブラッドがトンファーエッジへと充填され、ブレード部分がフォトンブラッドにより発光する。

 持ち手を操作し、フォトンブラッドの出力を調整。フォトンブラッドの出力は、ロー、ミディアム、ハイ、アルティメットの四段階があるがサイガが選んだのは最大出力のアルティメット。

 莫大なエネルギーで相手を切り裂くが、その分充填したフォトンブラッドをすぐに放出してしまうので短時間しか使用出来ない。使用する際にはタイミングや間合いが重要となるが、サイガにとっては何の問題も無い。

 ゴルトフェニックスが近付いて来ている。五メートル以内ならばトンファーエッジの既に間合いである。しかし、サイガはギリギリまでゴルトフェニックスを引き付ける。

 少しでも攻撃のモーションを見せればゴルトフェニックスは回避してくる。理性が限界を訴えても直前まで動きを悟らせない。

 ゴルトフェニックスが纏っている金色の光がサイガに接触しようとした瞬間、サイガはフライングアタッカーの噴射を全停止させた。

 必然的に生じる自由落下。打ち砕く筈であったサイガはゴルトフェニックスの真下に移動。そのタイミングでサイガは左右に広げた両手を掲げる。エッジ部分がゴルトフェニックスの両翼を深く切り込み、後はゴルトフェニックス自身の突進の勢いで裂かれていく。

 フライングアタッカーの停止。トンファーエッジを上げるタイミング。全てが噛み合った奇跡の反撃。

 理性だけでは決して行えず、かといって本能だけでも不可能。才能と経験を兼ね揃えた上で狂気に足を踏み入れた者にしか実行出来ない刹那の読み。

 サイガの頭上を通り過ぎて行った後、両翼を切断されたゴルトフェニックスが落下していく。

 サイガはこれで勝ったとは思わなかった。自分もまた共に落ちながらゴルトフェニックスの様子を良く見る。危機的状況だからこそ見えてくるものがある。

 両翼を失ったゴルトフェニックス。しかし、血を流すことはない。この時点で生物かどうか怪しくなる。

 羽ばたくことが出来ないゴルトフェニックスは、落ちながら鳴く。その鳴き声に悲愴さを感じない。サイガと戦っているときと何ら変わらない声。つまり、ゴルトフェニックスにとって翼を失ったことはそれ程痛手ではないのだ。

 ゴルトフェニックスが纏っている光と切断された両翼に残る光が伸び、結び合う。繋がった光の中で切断された両翼が時間を巻き戻されたかのように断面へと戻っていく。

 サイガはその光景を見て驚きは無かった。『だろうね』という想定の範囲内の現象である。

 だからこそ、サイガの行動は迅速であった。両翼を治しているゴルトフェニックスへフランイングアタッカーで一気に接近。

 ゴルトフェニックスの背中に乗り、翼の付け根を両脚で挟んで離れないようにする。

 

『Exceed Charge』

 

 フォトンブラッドの青い光がサイガの両拳へ灯る。

 

『はあああああっ!』

 

 サイガは跨っているゴルトフェニックスの後頭部に拳を打ち込んだ。一発では終わらず、左右の拳で連続して殴る。

 殴る度に浮かび上がるΨの紋章。サイガの力が流れ込んでいる証であるが、浮かぶ度に紋章は消滅していく。

 大技で仕留めることも考えたが、隙も大きいので威力は低いが素早く出せる技の方を優先した。

 サイガは一秒間に十を超える拳を繰り出し、フォトンブラッドのチャージが切れるまで行い続ける。

 普通なら頭部の原形が無くなるどころか粉砕されてもおかしくない連打だが、ゴルトフェニックスの頭部はまだ健在。どういう理屈か分からないが、殴られた片っ端から傷が治っている。

 不死鳥故に本当に不死身なのかと疑いを持ち始めたとき、サイガ自身にも異変が生じる。

 ピシリ、という亀裂音。それが断続的に聞こえ始める。サイガは殴り続けていた自分の拳を見る。拳には既に無数のひび割れが出始めていた。

 変化はそれだけなく純白のサイガの装甲はくすんだ色に変色している。仮面の一部も何もしていないのに音を立てて亀裂が生じる。

 装甲が壊れていく音が体のあちこちで聞こえ出している。ゴルトフェニックスに直接触れているせいで殴打している拳だけでなく全身に影響が及んでいる。

 一体何が起こっているというのか。ゴルトフェニックスの光に触れた部分が異様に脆くなっている。余程のことがなければ色褪せることなく存在し続ける現代技術の粋を集めた金属が、今にも自壊しそうな程なっている。

 

(何が起こっているのか本当に分からない……! だが、確かなのはサイガの装甲が劣化している……!)

 

 サイガが理解出来たのはそれぐらいだが、有益な情報でもある。

 ゴルトフェニックスに対するサイガの考察は、答えに近付いているもののあと一歩至らない。それはサイガの中にある常識という枷がゴルトフェニックスの能力を解き明かす上で邪魔をしているからだ。

 ゴルトフェニックスの力の根源は『無限』。文字通り終わらないことを意味する。

 ミラーワールド内に於いて神に等しい存在であるゴルトフェニックスは、その膨大な力を以って時を操ることが出来る。

 殴られた箇所や切断された両翼が直ろうとしているのは、ゴルトフェニックスが自分の時を巻き戻して無かったことにしているから。

 サイガの装甲が破損し出したのは逆に時を進めてサイガの装甲を急速に劣化させているから。直に触れられずサイガの装甲が代わりに受けているので中のレオはゴルトフェニックスの影響を免れているが、もし生身でゴルトフェニックスに触れてしまったら──。

 力を三つに分割され、制限されている状態だがゴルトフェニックスにとっては殆どハンデにはならない。

 サイガが絶えず攻撃している間もゴルトフェニックスは時を戻し続け、気付けば切断された両翼は元に戻っており、空中で体勢を変えることで跨っているサイガを振り下ろす。

 ゴルトフェニックスの背中から落とされながらサイガは思考する。この先の戦い方について。

 得体の知れない力にこれ以上触れるのは危険であることは分かっている。しかし、距離を空けて戦うには──あまり認めたくないが──サイガの方がゴルトフェニックスより火力が劣っている。

 ゴルトフェニックスは反転して翼を広げた姿をサイガに見せる。元に戻った姿をサイガに見せつけているかのように。

 そのまま翼を羽ばたかせ羽根を、もしくは炎、風を飛ばして来ようとする。

 サイガは動いた。後ろではなく前へ。ゴルトフェニックスの攻撃が始まる前に懐へと飛び込み、槍の如くブースターライフルの銃口を突き刺す。

 ゴルトフェニックスに近接戦は無謀。だが、リスクを冒さずに勝てるような相手ではないので。命を賭し、削り、懸けた果てに最後に人掬いでも命が残った方が勝者なのだ。

 

『フリーフォールは好きかい?』

 

 ゴルトフェニックスの体内にフォトンブラッドの光弾を連射させながら噴射孔から火を噴かせ、地面目掛けて急降下を開始する。

 高度五千メートからサイガとゴルトフェニックスは共に落ちていく。

 




オーディンの能力=ゴルトフェニックスの能力なのでタイムベントの能力もゴルトフェニックスは使えるかも、と解釈しました。
能力の関係上オルフェノクにとっては天敵で、ゴルトフェニックスに触れたら死にます。
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