スマートブレイン社内は非常に清掃が行き届いていた。チリ一つ落ちてなく、床や壁、天井なども綺麗にされている。そう、それこそ顔が映ってもおかしくないぐらいに。
皮肉にも綺麗過ぎるせいで浅倉の変身条件は容易に満たされてしまっていた。
カードデッキを構えた浅倉の姿が、数多にある反射物のどれかに映し出される。その瞬間、浅倉の腹部のベルト──Vバックルが装着された。
「変身!」
ポーズと共にカードデッキがVバックルに装填され、浅倉は王蛇へと変身する。
「な、何だと!?」
「新しいベルトだと!?」
ヘッジホッグオルフェノクと似たような反応をする社員たちに王蛇は詰まらなそうに言い放つ。
「その反応は飽きた」
王蛇が動き出す。社員たちも応戦する為に姿を異形に変える。
蛾に似たモスオルフェノク、ヤモリの特徴を持つゲッコーオルフェノク、クラゲのような姿をしたジェリーフィッシュオルフェノク。三体のオルフェノクが王蛇の行く手を阻む。
「あぁ……俺を楽しませられるか?」
首を軽く回しながらオルフェノクたちを挑発する。ヘッジホッグオルフェノクが期待外れだったのでそこまで期待はしていないが、数が揃えばそれなりに楽しめるだろうと踏んでいた。
「ほざけっ!」
先手必勝と言わんばかりに仕掛けたのはモスオルフェノク。背中から灰色の羽を広げて羽ばたかせる。光に反射してキラキラと輝く鱗粉が王蛇へと飛ばされる。
王蛇は鱗粉の射線から横へ移動して避ける。
「あぁ……?」
しかし、完全には回避し切れず少量の鱗粉が腕に付着した。次の瞬間、鱗粉が爆ぜる。
「うっ!?」
爆発性を秘めた鱗粉により腕部の装甲から煙が立ち昇る。装甲を破壊する威力は無かったが、衝撃は中に通っていた。
腕部に生じる痛み。王蛇の中で怒りと苛立ち、そして戦いをしている実感と爽快感が生まれ負の感情が相殺される。
「ははぁ! 良いぞぉ!」
王蛇は走り出しながらベノバイザーにデッキから抜いたカードを入れる。
『SWORD VENT』
反射物から飛び出してきたベノサーベルに驚くオルフェノクたち。今まで見たこともない現象なので仕方のないことであった。
だが、驚きつつもモスオルフェノクは鱗粉を飛ばす。今度は避けられないように範囲を広げる。
通路のどこにも逃げ場の無い状況。すると、王蛇は通路に張られてある窓ガラスへと触れた。
王蛇が吸い込まれるようにして窓ガラスの中に消え、飛んできた鱗粉を避ける。
「何!?」
「どういうことだ! ガラスの中に!?」
「何なんだ!? 何が起こったんだ!?」
ミラーワールドもそれを行き来出来るライダーの力も知らないオルフェノクにとっては、最早理解不可能な現象。混乱してしまうのも無理もない。しかし、王蛇は悠長に混乱している時間を与える程気は長くない。
「はっはぁー!」
モスオルフェノクの傍にあったガラス窓から飛び出してきた王蛇が、モスオルフェノクの脇腹にベノサーベルを叩き付ける。
不意を衝かれた一撃によりモスオルフェノクは倒れる。
「ぐあっ!?」
居なくなったと思ったら死角から急に現れた王蛇。ミラーワールドを移動して現実世界に戻ると同時に攻撃したという単純な原理だが、その知識を持たない彼らからすれば王蛇がワープしてきたように見える。
「貴様!?」
仲間をやられたゲッコーオルフェノクが怒りを露わにして王蛇へ殴り掛かる。
「はっ!」
真正面から挑んで来たゲッコーオルフェノクを鼻で笑いながらベノサーベルを横薙ぎに払った。ゲッコーオルフェノクの首を狙うベノサーベル。当たる直前にゲッコーオルフェノクは跳び上がる。
降りてきた所を狙おうと王蛇はベノサーベルを切り返そうとするが、着地するまでに妙な間が生じた。
不自然に思い、王蛇が上を見上げるとゲッコーオルフェノクが天井に手足を付けて張り付いている。
ヤモリらしい特性で王蛇の攻撃のタイミングを外させると同時に自分への注意を向けさせた。そこへすかさずジェリーフィッシュオルフェノクが編み笠のような頭部から生えている触手を一斉に伸ばす。
触手がベノサーベルに絡み付き、動きを止める。このまま王蛇の武器を奪おうと触手に力を込めるが──
「これが欲しいか?」
ベノサーベルの持ち手を変えると、王蛇はベノサーベルをジェリーフィッシュオルフェノクへ投げつけた。
「やるよ」
「うがっ!」
武器を自ら手放すという思い切りの良さに、ジェリーフィッシュオルフェノクは反応出来ずにベノサーベルの切っ先を肩に受けてしまう。ジェリーフィッシュオルフェノクは肩を押さえてしゃがみ込んでしまう。
しかし、ダメージと引き換えに王蛇は武器を失った。これで痛み分け──と思っていた。
王蛇はすぐさまカードデッキから新たなカードと抜き取り、ベノバイザーへ挿入。
『SWING VENT』
またも反射物から出て来る輪状の赤い物体。王蛇の手の中に自動的に収められる。
王蛇の握る柄から先は節にように幾つも連なっている。王蛇が指を緩めると節が垂れ、節の先端からは細長い縄状になっている。
エビルダイバーの尾を模した鞭──エビルウィップを装備した王蛇は、天井に向けエビルウィップを振り上げた。
「ぎゃあ!」
ピシン、という空気を叩く音とゲッコーオルフェノクの悲鳴がほぼ同時に上がる。高速に達したエビルウィップの先端に背中を打たれ、その激痛に堪らず天井から落ちてくる。
ゲッコーオルフェノクの背中には深い裂傷が出来ていた。エビルウィップの痛打は叩くのでなく抉る。
ゲッコーオルフェノクは生まれて一度も体験したことがない痛みに悶絶し、床でのたうち回り続ける。痛みのせいで思考が働かず、自分の置かれている状況を理解出来ていない。
「はぁ……」
残虐性を帯びた呼気を放ちながら王蛇はエビルウィップを振り上げる。
「させん!」
復帰したジェリーフィッシュオルフェノクが無数の触手で王蛇を襲う。
「はっ!」
エビルウィップの狙う先をゲッコーオルフェノクから触手へと変え、エビルウィップの一振りで触手を切り飛ばす。
「うっ!」
体の一部を切断されたジェリーフィッシュオルフェノクは、呻きながら後退る。
王蛇は今度こそ倒れているゲッコーオルフェノクを攻撃しようとするが──
「おあああああっ!」
──倒れていた筈のモスオルフェノクが立ち上がり、王蛇を後ろから抱きついて拘束する。
「離せ……! 鬱陶しい……!」
腕を上から押さえられているので王蛇は後頭部をモスオルフェノクの顔面に打ち込む。衝撃でモスオルフェノクの首が後ろへ仰け反るが王蛇を締める腕からは力を決して抜かない。
「離すかぁぁぁ!」
必死の叫びを上げるとモスオルフェノクの周囲に鱗粉がばら撒かれる。自爆覚悟で王蛇諸共吹き飛ばそうとする。
「地獄へ落ちろっ!」
モスオルフェノクは鱗粉を起爆させ、真紅の爆炎を広げようとしたとき、王蛇は抱きついたモスオルフェノクごと横へ飛んだ。
その直後に凄まじい爆発が生じ、ガラスや通路、壁などが一気に吹き飛ばされる。
直撃は避けられたもののかなり近い距離にいたゲッコーオルフェノクとジェリーフィッシュオルフェノクは爆風によって床を転げ回っていく。
爆発が消え、破壊された通路を見るゲッコーオルフェノクたち。爆心地に王蛇もモスオルフェノクも見当たらなかった。
◇
「な、何だここは……!?」
モスオルフェノクは突如変わった周囲に戸惑いの声を出してしまう。さっきまで居たスマートブレイン社内の通路だが仲間の姿が見当たらない。爆発が起こり、通路は半壊状態になっているが、爆発の直後とは思えない。焼け焦げるニオイも瓦礫から漂う埃っぽいニオイも無い。それだけでなく本能のようなものが今居る世界が異質なものであると感じ取っていた。
王蛇は爆発の寸前にモスオルフェノクごとミラーワールドへ入り、現実世界の爆発を逃れたのだ。
ミラーワールドへ連れ込まれたモスオルフェノクは、自分の今の状況に理解が追い付かずに混乱している。
「おらぁ!」
集中出来ず拘束する力が緩んでしまったところに王蛇が背後へ肘打ちを放つ。鋭い肘の一撃はモスオルフェノクの脇腹へ入る。そこは王蛇がベノサーベルで強打した箇所であった。
「あがっ!」
痛んでいる箇所を更に痛めつけられ、モスオルフェノクの腕から力が抜けてしまう。王蛇はモスオルフェノクの腕を引き剥がし、振り抜き様にモスオルフェノクの顔を殴り飛ばした。
「うぐあっ!」
王蛇はエビルウィップを投げ捨て、デッキからカードを抜く。そのカードにはカードデッキと同じ紋章が描かれている。
「あぁ……終わりだ……!」
死刑宣告と共に王蛇はベノバイザーにそのカードを挿入した。
『FINAL VENT』
通路の奥から高速で這って現れるベノスネーカー。仲間の一人を襲った怪物の出現にモスオルフェノクは驚愕する。
王蛇はベノスネーカーの前を、両手を広げ前のめりになりながら疾走。
二匹の蛇に連携という考えも信頼という関係も無い。あるのは獲物を殺るという本能によって蛇たちの呼吸は不気味な程に揃う。
王蛇は自らのタイミングで後方へ伸身宙返りをする。ベノスネーカーは合図を受け取った訳でもないのに鎌首をもたげて待ち構えていた。禍々しい思考を持つ者同士だからこそ出来る息の揃え方であった。
王蛇が眼前に来たときベノスネーカーが毒液を吐き出す。王蛇はその毒液の勢いに乗り、空中を高速で降下。その勢いのままにモスオルフェノクへ飛び蹴り。
王蛇の右足がモスオルフェノクの胸部へめり込む。モスオルフェノクは苦鳴すら上げる余裕が無かった。何故なら間髪入れず左足が胸へ突き入れられたからだ。
一撃でも致命傷になりかねない威力。それを二発連続で受けてしまえばモスオルフェノクの命も消える寸前となり、更なる三発目が打ち込まれたときモスオルフェノクは弾き飛ばされながらその命を断たれる。
王蛇の連続蹴りを浴びせられたスオルフェノクは、宙にいる状態で体から青い炎が噴き出し、落ちる頃には灰となって床へと広がっていく。
モスオルフェノクを撃破した王蛇は、そこで止まることなく衝動のままに新たなカードをデッキから抜き、ベノバイザーへ挿す。
『FINAL VENT』
再び鳴る必殺の音声。
王蛇は右手を掲げる。どこからともなく飛んできた物が王蛇の右腕に装着される。それはメタルゲラスの頭部を模した武器であり、手から肘までを覆う籠手。先端にはメタルゲラスと同じ角も生えており、刺突にも使える攻防一体の武器──メタルホーン。
壁を突き破りメタルゲラスも出現する。メタルゲラスは王蛇を一瞥した。その視線には忌々しさが込められているように感じられる。
メタルゲラスは王蛇の背後に立つ。王蛇は跳躍してメタルゲラスの両肩に両足を乗せ、床と水平になる。その状態からメタルホーンを突き出すとメタルゲラスは王蛇を乗せたまま走り出す。
鈍重そうな見た目からは想像も付かない足の速さ。一人と一匹で一本の角と化し、一直線に突撃していく。
目指す先にはモスオルフェノクの爆発により半壊した窓ガラス。そこに映し出されているジェリーフィッシュオルフェノク。
メタルホーンの先端が窓ガラスに触れると吸い込まれ、ミラーワールドから現実世界へと帰還。同時にジェリーフィッシュオルフェノクにメタルホーンが突き刺さる。
声を上げる暇も無く貫かれ、一撃で絶命。ジェリーフィッシュオルフェノクは青い炎に包まれるが王蛇とメタルゲラスの突撃により文字通り粉砕された。
ミラーワールドを知らない者たちからすれば予測も回避も不可能の攻撃である。
だが、段々とだが王蛇の能力について察し始めてもいた。
「ガラス……鏡……? いや、反射物だったら何でも……」
背中に深い傷を負っているゲッコーオルフェノクは、壁にもたれながらブツブツと呟き、これまでの情報を纏めていた。仲間をやられたことはショックだが、せめて何かしらの成果がなければ彼らは無駄死になる。その考えがゲッコーオルフェノクに冷静さを与えていた。
しかし、その様子が気に入らない王蛇。彼からすれば戦う意志が無いように映っていた。
ゲッコーオルフェノクが気付く前に彼を潰そうと動き出す。
せっかく王蛇の謎に近付いたゲッコーオルフェノクだが、辿り着くには時間が足りなかった。
最早、これまでかと諦めかけたとき──王蛇が止まった。
「あぁ……?」
王蛇の視線がゲッコーオルフェノクから外れ、別の何かに向けられる。ゲッコーオルフェノクもまたそちらを見た。
いつの間にかそこに立っていた男女。バケット帽子にサングラスをかけた中年男性とスーツ姿の黒髪長髪の美女。ゲッコーオルフェノクはその二人を見たとき、自分が助かったことを悟った。
「誰だ──」
次の瞬間、王蛇の体から無数の火花が起こり、王蛇を吹っ飛ばす。
一瞬にして吐かれた十二の弾丸。それを吐き出したのは二丁のリボルバー。それを両手に構えるのはオルフェノク。手足から生える無数の小さな羽根。両肩からは鎌のような刃が生えている。まるでカウボーイハットを目深に被ったような頭部の形状。頭部中央には翼を広げた蝙蝠が刻まれている。
サングラスの男が変身したバットオルフェノクは油断することなく二つの銃口を王蛇へと向け続ける。
すると、攻撃に興奮したのかメタルゲラスがバットオルフェノクと美女の方へ突進してきた。
バットオルフェノクは迎撃するかと思いきや、何故か発砲しない。
メタルゲラスはそのまま美女に覆い被さり、ミラーワールドへ引き摺り込もうとするが──
「この獣が……!」
メタルゲラスが引っ張ろうとしても美女はその場から一歩も動かない。綺麗な顔とは真逆のドスの効いた声を吐く。
「村上社長以外が私に触れるな……!」
美女の体が変化すると細身だった体が二倍、三倍近くまで膨れ上がる。
全身が甲冑のような姿、腰回りには鎖を飾りのように垂れ下げている。後頭部付近からはメタルゲラスの角が貧相に見えるぐらいの太く長い角が伸びている。
体格が変わったことでメタルゲラスの腕は振り解かれ、逆にメタルゲラスは角を掴まれると片手で持ち上げられ、床へ叩き付けられる。
生物を模した姿となるオルフェノクの中でも希少とされる古代生物を模したエラスモテリウムオルフェノクは圧巻の力を見せつけた。
ここまでは王蛇のターンでしたが、次からスマートブレインの本気になります。
ということでデザインと実力で人気の高いバットオルフェノクと劇場版で暴れたエラスモテリウムオルフェノク通常態の参戦となります。エラスモテリウムオルフェノクに関して人間態を含めてほぼオリジナルとなります。