D×D 外道の悪魔   作:水飴トンボ

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お久しぶりです。なんだかんだで書きたくなったので、書いていきます。時系列的には23巻の辺りを想定しています。


第1話 悪意と戦う悪魔

 たった1年足らずで世界は変わった。これを否定できる人物がこの世にどれだけいるだろうか。

 かつて大きな戦争を起こした3大勢力は同盟を組み、テロリスト集団の野望を阻止する。復活した邪龍が黙示録の魔獣を連れて、世界を滅ぼそうとする中、多くの戦士たちが尽力してそれを打ち倒す。妖怪や吸血鬼といった独特の価値観を持つ種族とも手を取り合い、神も交えたレーティングゲームの大会が開催される。これらが1年足らずで起こったのだ。

 そしてこれらの偉業の中心にはひとりの男が常に存在した。兵藤一誠…現赤龍帝の上級悪魔である。これまでとは常軌を逸した奇跡を起こし続け、仲間と共に世界の危機を打ち破ってきたのだ。まさに冥界の、いや世界の英雄と言える存在であった。

 とはいえ、彼も万能ではない。すべての悪行を見透かすことは出来ないのは当然のことであった。

 月明かりさえもない真夜中、ある国に位置する森林をローブに身を包んだ集団が駆けていく。この明らかに怪しい集団は数分後、森の中にあるひとつの屋敷にたどり着いた。どこかの猟師が休憩のためにでも作ったような掘っ立て小屋で、もはや誰も使っていないと思われるほど老朽化が進んでいた。

 

「ここだ」

 

 先頭の男がポツリと呟くと、小屋のドアノブに魔力を纏わせた手をかける。その瞬間、小屋はどんどん膨れ上がり、あっという間にひとつの巨大な屋敷へと変化した。

 扉を開けると、広々とした部屋に整った家具がおかれた光景が目に入る。少々、ほこりを被っているが今の彼らには拠点として使えそうな状態であることに一安心であった。

 

「本当にあったんだな」

「『禍の団』の支部だ。残っていたのは幸運だったな」

 

 禍の団…この1年で世界を混乱に陥れようとしたテロリスト集団だ。実際、彼らがもたらした厄災は多くのものが知るところだろう。その中心人物は軒並みその命を絶つか、新たな道を見つけており、今となっては壊滅した組織だ。

 しかしそれでも生きているメンバーは存在して、醜悪な野望を胸に抱いていた。

 

「よし、次は近隣の町から物資の調達だ」

 

 約30分後、用事を済ませた一行は外に出る。禍の団の残党である彼らは、再びこの世界に混乱を招こうと画策していた。かつてのボスのオーフィスやリゼヴィムのような野心は無い。ここにいる全員がそれぞれの悪意を心に宿しているが、共通しているのは現在の世界への不満であった。そのためにもやることは山積みだ。物資、戦力の補充。同志を募り、今後の計画や裏工作の準備…それぞれが悪意に頭を働かせていた。

 

「やっと見つけたぞ」

 

 屋敷から出てきた残党に鋭い声が耳に入る。視線の先にはローブに身を包んだひとりの青年が立っていた。

 

「誰だ?」

「あんたらを倒しに来た悪魔だ」

 

 淡々と答える青年に、残党の表情は渋くなる。よく見れば青年の身につけているローブは現在の冥界政府で使われているデザインであり、先ほどの言葉が簡潔に述べられた事実であることに納得した。

 正直なところ、舌打ちでもしたい気持であった。ようやく傷が癒えて、人目を避けてあらゆる場所を転々として、この拠点にたどり着いたのだ。それを早々に邪魔されるのは腹立たしい。

 しかし同時に鼻で笑いたいような気持であったのも事実であった。

 

「たったひとりとは」

 

 残党とはいっても10人はおり、それぞれが実力については一筋縄でいかないことを自負している。そんな彼らに対して現れた青年は頼りない印象を受けた。豊かな黒茶色の髪の毛、疲労と生気の両方が感じられる目、夜風にさらされる張りのよい肌…大人びているものの、おそらく年齢は20代前半か、それよりも下だろう。

 もちろん魔力を使えば、いくらでも見た目については変化できる。しかしそれは違うことを残党全員が感じていた。最大の理由は、彼の左半分の顔が酷い火傷を覆ったような見た目となっていたからだ。眉はほとんど残っておらず、水分を全て消し去られたような人間離れした肌、瞬きする瞼が残っていることすら不思議に思えた。もっともその左目も血に濡れたように赤く、物々しさを印象づけている。これほど歪な傷をわざわざ魔力で作っているとは考えられなかった。

 もちろんこの場所が見つかった以上、油断は出来ない。しかしたったひとりならば、この場から退散して、また立て直しできるだろう。そういう意味では彼らは運が良かった。身を潜めていた期間に、世界は強者を集めた大会に注目して、行動しやすくなったのだから。

 一方で青年はまるで臆することもなく目を細める。

 

「アザゼル杯の関係で人手不足だからな。それにこれはちょっと特別な仕事でもあるので」

 

 そのように答えると青年に対して、魔力の塊が向かってくる。早々に終わらせようとした残党のひとりの行動であったが、彼は体を覆うようにローブを脱ぎ捨てた。その大きさはなかなかのもので、一瞬だけ彼の姿をほとんど覆った。そのわずかな時間が戦いの皮きりであった。

 いつの間にか距離を詰めていた青年は、魔力の塊を放った残党のひとりの腹部に鋭い蹴りを放ち屋敷の外壁へと叩きつけていた。

 あまりの速度に他のメンバーは反応できず、蹴りを受けた人物は苦しそうに吐血しながらそのまま伸びてしまった。

 

「殺しはしない。全員生け捕りだ」

 

 呟く青年の背中を近くにいた3人の残党が刀剣類で狙う。完全に視覚外からの一撃な上に、それぞれが魔力を通して様々な属性の攻撃へと変化させている。間もなく攻撃が当たる事実は必然出ると思われた。

 

『おいおい、僕らを相手に数的有利が簡単と思うなよ』

 

 青年とは全く違う甲高い声と同時に、狙った背中から複数の黒い腕が生えだして武器をつかんで防いでいく。まったく何も感知できなかった上に、その見た目の恐ろしさから攻撃を防がれた残党は怯み、その隙を狙ったかのように青年はぐるりと回転すると、力強い蹴りと左腕による殴打で瞬く間にその3人を吹き飛ばした。

 

「な、なんだッ!?この男は!」

「この感じは神器か!ということは、転生悪魔だろう!」

「これほどの転生悪魔が例の大会に出ていないなどありえるか!?」

 

 残党は完全にうろたえていた。目の前の青年の想像以上の実力による精神的な動揺はすさまじかった。

 その時、ひとりが気づいたかのように声を上げる。

 

「こいつの見た目…『傷顔』か?」

「なんだそれ?」

「いや噂程度だが、ここ最近ではぐれ悪魔とかを片っ端から拿捕、討伐している奴がいるんだ。あまりにも特徴的な酷い傷があるって聞いたんだが…」

「こいつがそうだということか…!」

 

 リーダー格の男は苦虫を嚙み潰したように呟く。先ほどまでの侮りはあっという間に霧散され、代わりに後悔と強い警戒が頭の中を満たしていた。

 同時に青年の方からは甲高い声による舌打ちと、それをなだめるような声が発せられる。

 

『チッ!またその異名か!』

「シャドウ、不満なのはわかるが後にしよう。さて禍の団の残党ども。早々に降伏することを勧める」

 

 青年の言葉に残党たちはどよめく。実力もさることながら、片腕の無い半身傷だらけの見た目、その身体にまるで2つの人格が住んでいるかのような異質さ、あらゆる要素がこの悪魔の危険性を感じさせた。

 忌々しい想いが残党たちの中で渦巻いていく。これと類似した感情を1年近くで幾度とない敗北のたびに味わった。その度に3大同盟や他勢力への憎しみを募らせてきた。そんな彼らに今さら降伏という道は無いも同然であった。

 

「貴様らは…どこまで我々を邪魔すれば…気が済むんだ!」

 

 リーダー格の男が吠えると同時に、他の残党たちも一斉に動き出す。強大な魔力が炎の獣となって襲い掛かる、複数の刀剣類が束となって向かってくる、地面に展開された魔法陣から光の刃が噴き出していく、どれもが禍の団の悪意を体現するかのような苛烈さがあった。

 

「ならば、実力行使といこう」

 

 静かに答えた青年の姿は見る見るうちに変化していく。頭からは牡牛のような角が伸び、傷だらけの半身は消えていき、代わりに龍の鱗が交じり合ったような皮膚が全身を覆っていく。

 ほぼ同時に黒い影が右腕を形成し、さらに同色の錨も形成すると切っ先から巨大な魔法陣を出現させた。

 残党たちによる轟音をまき散らす怒涛の攻撃は、その魔法陣によって完全に防がれた。

 

『なるほど、一部は上級悪魔クラスの魔力があるな。これはしっかりと魔力を引き上げていなければ防ぎきれない』

『でもさぁ、これくらいなら僕たちの敵じゃないぜ』

『よし、やるか』

 

 魔法陣を解除すると同時に、脚部に魔力を集中させた青年が動き出す。地を駆けていく半人半龍は両手に持った黒い錨で攻撃を捌き、同時に残党たちを叩きのめしていった。背後を取ろうものなら、翼の付け根から伸びる尾や黒影に動きを封じられる。距離を取ろうにも黒い腕が伸びて殴りつけていく。さらに相手の攻撃が命中しても、青年はわずかに怯みこそすれど傷はほとんど見られず、すぐに攻めたてることを再開するのであった。

 次々と無力化される同志達を目の当たりにするリーダー格の男は瞳に怒りを燃やしながら魔力を溜める。

 

「くそッ!ここで使いたくは無かったがッ!」

 

 空中に巨大な魔法陣を展開されると、真夜中にはまぶしすぎる光が溢れ出す。同時に耳をつんざくような咆哮が響き、その勢いに身体が震えるような錯覚を覚えた。間もなく魔法陣から辺り一帯の月明かりを覆うほどの巨大な龍が現れた。

 

『邪龍!?しかもグレンデルと同じ見た目だ!』

『アポプス達が使っていた量産型か。よくもまあ、こんな奴が残っていたものだ』

「これぞ我々の切り札だ!一気に終わらせてやる!」

 

 残党たちにとって、今回の目的は拠点の確保と同時にそこに隠されていた量産型邪龍の存在であった。偶然とはいえ、邪龍の研究をされていた際に試作として生み出されたこの1匹は戦力増強としてかなり期待できる存在であった。

 邪龍は再び吠えると、口から巨大な火球を吐き出す。生半可な上級悪魔よりも遥かに威力のある一撃は、身体を強化した青年も回避を余儀なくされた。

 同時にこの邪龍の凶暴性に違和感を抱く。その勢いは本物のグレンデルを想起させるような苛烈さが感じられるのだ。彼と同じ思いを神器も抱いたようで、冷静に分析を始める。

 

『なるほど、試作品か。完全な量産型と比べると、本家の凶暴性が反映されているな。そのせいかコントロールも怪しいと思うけど』

『こんな暴れ牛みたいな奴との戦いが、長くなれば近くの町に被害も出る。早々に吹っ飛ばして終わらせるぞ』

『合点承知!』

 

 青年は手早く全身に生命力を行きわたらせる。鉛よりも重く、鋼よりも堅牢な無機質な面があるにも関わらず、他の生物とは一線を画す輝きがそこにあった。

 間もなく彼の身体はさらに隆起していく。髪は引っ込み鱗が頭を覆う。尖っていた歯は刃のようにさらに鋭くなり、瞳は形を変えてトカゲのようになっていく。首は倍近く太くなると、支える身体も相応に太く筋肉と骨の塊へと変化していく。最終的には3メートル近い人型の龍が、対峙する邪龍にも劣らない咆哮を上げて地を踏みしめていた。

 

『打ちのめすぞ』

『もちろんだ!さあさあ!この姿になった僕らから逃げられると思うなよ!』

 

 見た目に似合わない声を上げると、青年は大きく飛び上がる。邪龍は迎え撃つように先ほどの火球を何度も吐き出していくが、今度は真正面から受け切っていく。打って変わって邪龍の猛攻にまったく怯まず、ただ敵へと直進していく。今の彼に相手の攻撃は障壁にもならず、純粋に敵を叩きのめす目的を妨げるには物足りないのは否定できなかった。

 間もなく彼は邪龍を射程に捉えると、硬度と重さを大きく引き上げた左腕の拳で相手の横顔を思いっきり殴りつけた。邪龍は空中で体勢を崩すどころか制御もできずに、近くの人間の街とは反対方向に飛んでいった。

 地に叩きつけられた邪龍は召喚された頃の顔とは、まるで違った見た目になったと言えるだろう。牙は半分近く吹き飛び、殴られたせいかひん曲がっている。にもかかわらず、その瞳にはまだ戦意は失っていなかった。

 

『仕留めそこなった!』

『問題ない。この距離なら押しつぶせる』

 

 短く答えた青年は大口を開けて、邪龍へと向ける。口から吐き出されたのは半透明の魔力の球体で、敵の火球と同等の速度で突き進んでいく。邪龍も迎え撃つように沸き立つような火炎を吹くものの、それは徐々に肥大化していく球体に飲み込まれその中で鎮火されていく。いくら吹いても無効化される火炎に邪龍は本能的に焦っていく。攻撃の手を緩めないものの、間もなく邪龍自身が重力の球体に飲まれていき、その焦りを感じられることもなくなった。

 あっという間に切り札が無力化された光景に、禍の団残党は言葉も紡げなかった。抱いていた野心と悪意は音もたてずに瓦解し、代わりに荒野に風が吹くような無気力さが入り込んでいた。

 そんな彼らはすぐに黒い影に身体の自由を奪われる。気絶した者もそうでない者も、すでに心身ともに抵抗の意志をへし折られていた。

 

「龍魔状態まで使うとは思わなかったな。明日の講義が午後からというのがせめてもの救いか」

『そんなこと言って、結局はいつも通りに早起きするくせによ。まあ、おかげで仕事も滞りなく終われた。あとは報告と応援が来たらOKってところだ!』

 

 数分後、青年は屋敷の壁際に残党全員を捕縛し終えると、意志を持つ相棒の神器と共に仕事の終わりを実感するのであった。

 英雄である兵藤一誠の実兄…兵藤大一はこの日も世界の理から外れたところで戦い続けていた。




書いていて思いましたが、強くてニューゲーム感がありますね…。
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