D×D 外道の悪魔   作:水飴トンボ

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考えてみれば、実質的に章ボス戦ですね。


第11話 超えるべき壁

 朱乃にとって、それは偶然であった。今日は堕天使の会議があると聞いており、ちょうどリアスとある人物をスカウトするために冥界も経由するため、グリゴリに立ち寄って父に差し入れをしようと考えていた。タイミングが合えば、大一にも会えるかもしれない。そんなちょっと心弾むような少女心を持っていた。

 だからこそリアスと一緒にグリゴリへ到着して間もなく、ベネムネが慌てつつも、どこかホッとしたような態度を見せたことに目を丸くした。

 

「よかった、バラキエルのお嬢ちゃんが来てくれて!私だと止められそうに無かったし!」

「なにかありましたか?」

「バラキエルが赤龍帝の兄と本気で戦っているのよ!」

 

 この話を聞いてから、すぐに彼女はグリゴリの戦闘フィールドが見える部屋に案内される。魔力を通した強固なガラス越しに、眼下には大一とバラキエルが戦っている姿が見えた。その苛烈さはフィールドの様子と、大一の傷を見れば明らかであった。真っ赤に濡れている血が飛び散り、えぐれたり崩れたりしているフィールドが見える。特訓の手合わせにしては明らかに酷く、まるでレーティングゲームの試合、下手をすれば死闘と言っても差し支えないほどだ。

 ただバラキエルの方がほとんど傷を負っていないことが疑問だ。まさか大一が反撃もしないとは考えられないが…。

 

「いや私も部下から聞いて覗いたら、とんでもないことになっていて…。そもそもバラキエルがあの子を誘うのは見たけど、なんか雰囲気があれすぎて話しかけられなかったのよ」

「父さま…と、とにかく止めなきゃ…」

「待ちなさい、朱乃。もう少し見ていましょう」

 

 ベネムネに頼んで、フィールドに案内してもらおうとする朱乃であったが、リアスがよく通る声でストップをかける。親友の意志の強い声は相変わらずであったが、焦燥感に駆られている今の朱乃にとっては眉をひそめる要因になった。

 リアスはフィールドから目を離さないまま、言葉を続けた。

 

「この手合わせに誘ったのは、バラキエルさんでしょう?あの人がまさか大一を殺すために、こんなことをやるわけない。そこにはしっかりとした理由があるはず。だったら、私たちが止める必要はないわ」

「何言っているの、リアス!?そうだとしても、こんな戦いは無意味でしょう!」

「それを決めるのはあの2人であって、私たちじゃない」

「あんなに血まみれの大一を見て、それを父親がやって、納得できるわけありませんわ!大一はイッセーくんじゃない!大一じゃ父さまに…」

 

 その後の言葉を朱乃は次ぐことができなかった。父は聖書にも名を遺すほどの伝説的な堕天使だ。その実力は誰もが認めるところである。大一との実力は雲泥の差がある。彼では父に食い下がることも叶わない。ほとんど傷を負っていないバラキエルが、それを証明していた。

 正直、朱乃はまったく理由が思いつかないわけでは無かった。厳格で自分を溺愛するバラキエルのことだ。アザゼル杯に出ておらず、ここ最近の裏方で煮え切らない様子の大一に不満を感じている可能性があった。ゆえに、その武人気質もあって戦いで彼を見極めようとしたのかもしれない。それを察しているからこそ、彼が傷ついていくのを見ることに耐えられなかった。これ以上、彼が無茶をするのは…。

 朱乃の様子に、リアスは小さく息を吐くと親友の手をつかみ、ゆっくりと引き寄せる。

 

「前に言ったこと覚えている?あなたの心配は杞憂だって」

「今はそんなこと…」

「大切なことよ。あなたもバラキエルさんも、いい加減に気づくべきね」

 

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 大一の肩から黒い眼玉をギョロつかせているシャドウの言葉に、バラキエルは目を細めて小さく呟く。彼の心には相変わらず、失望と心配が炎のように燃えていた。

 

「わかっていないか…」

『ああ、僕はそう思うね。あんた、ちょっと舐めすぎだよ。だいたい───』

『シャドウ、黙ってろ。俺がバラキエル様を納得させていないのが悪いんだ』

『…了解』

 

 相棒にたしなめられたシャドウは素早く引っ込む。ほぼ同時に大一は走り出していき、牽制として魔力の塊を吐き出しながら接近していく。

 バラキエルは防御魔法陣を展開させると魔力の塊を防いでいく。さらには自分の周囲に雷光を落としていき、大一を寄せつけないようした。

 間を縫うように避けていく大一であったが、バラキエルはそれすらも見越していた。避ける進路を予測したバラキエルは、煙に紛れて逆に接近していき再び雷光の拳を叩きこんだ。

 後方へと吹き飛ばされた大一はまたもや床に叩きつけられる…かと思ったが、首を大きく曲げると、硬化した頭部と背中の黒い腕で受け身を取った。

 

『まだこっちの方がダメージはマシだな…』

 

 口内の血の塊をペッと吐き出しながら、大一は呟く。龍のような赤い瞳には爛々と闘志が変わらずに輝いていた。

 兵藤大一と兵藤一誠。同じ転生悪魔であり、同じ「兵士」の駒を持つ。同じ主に仕えた経歴もあれば、転生した時期もせいぜい3年程度で長い悪魔人生で見れば大した差ではない。さらに互いに神器を扱い、特別な龍に見定められたところも似ている。

 

『しかし大一は赤龍帝ほど評価を受けていたわけじゃない』

 

 相棒の経歴に想いを馳せるシャドウは心の中でつぶやいた。片や英雄として王道を突っ走り、片や奇妙な因果に巻き込まれて外れた道を歩んでいた。初めてシャドウが取り憑いた際は、その暗い感情に目をつけただけであり、仲間達からの信頼は厚いものの、彼が持っているものは並みの悪魔と変わらない。

 

『だが正式に彼の神器になってから、間違いであったことに気づいた』

 

 魔力コントロールによる肉弾戦、頭抜けた感知能力、必ず任務をやり遂げる責任感と勤勉さ…彼の強さはシャドウの想像以上であった。

 しかしシャドウの気持ちは複雑であった。自分を扱える存在の強みを知るほどに歓喜するも、その隣で兵藤一誠や他の仲間はそれ以上の能力と成果を次々と続けている。それでも彼は変わらずに、ただ黙々と鍛え続けた。

 

(強い…!これが伝説の堕天使であるバラキエルさんの実力…!)

 

 息を切らし、汗と誇りと血にまみれた大一は油断なく構える。パワー、スピード、技…どれをとっても、これまで戦ってきた相手の中で頭抜けたものであった。身をもって実感するほどに、自分が相手にしているのは聖書にも載った伝説の人物であると納得させられる。

 

(一誠はこの人に勝ったのか…。朱乃と一緒になるにはこの人に勝たなければいけないのか…)

 

 これほど叩きのめされても悔しさは感じなかった。代わりに湧いてくるのは言葉に出来ない奇妙な感情だ。体内の血が猛スピードで駆け巡るような、心音が妙に大きく聞こえるような…そんな感覚がとめどなく全身を包んでいく。

 

(…燃えてきた)

 

 自然と口角が上がっていく。目の前の大きな壁を実感するほどに、兵藤大一の頭には敗北や諦めの言葉は無かった。むしろ超えるべき存在に心を躍らせていた。彼が求めていたチャンスが目前にあったのだ。

 背中の黒い腕を引っ込めると、左腕とシャドウと一体化した右腕に魔力を込める。握りしめた2本の錨は、数が減ってより集中できるようになり、硬度も重さもしっかりと上げられていた。

 

「手数では無理だと判断したか。だがそれで私の雷光を捌けるか!」

 

 バラキエルは雷光をレーザービームのように真っすぐに放つ。本気では無いが、かなりのスピードだ。これに対する行動として身体能力を上げて回避か、魔法陣で防御かをバラキエルは予想していた。回避なら攻撃の範囲を広める、防御なら槍で貫通力を上げた攻撃に切り替える。だが彼の戦闘スタイルを踏まえると、最後は近接戦のはずだ。そうなれば再びカウンターを狙う。攻撃が届く一瞬、バラキエルは頭の中で次なる一手を考えていた。

 しかし大一のとった行動は、攻撃を受けることであった。2本の錨を交差させ正面から雷光を受けたのだ。鋭い雷光の衝撃であったが、大一は体重を上げてしっかりと地に踏ん張っていた。

 

(受けてきた?防ぐにしても魔法陣でないのはなぜ…まあ、規模を大きくするだけだ)

 

 予測は外れたものの、その程度で動揺するはずもなく、バラキエルは伸びている雷光の大きさをより肥大化させようとした。

 だがその僅かな瞬間、大一は錨を持つ腕を大きな輪を描くような動かし方をしていく。そしてそのまま受けていた雷光を、軌道を逸らすようにしてバラキエルと向けていった。

 

(私の雷光を受け流して跳ね返した!?朱乃の雷光と性質は似ているが、まったく同じでは無いのに…!)

 

 驚くバラキエルであったが、すぐにハッとしたように気づいた。すでに大一は何度も彼の雷光を受けている。それを肌で感じて魔力を合わせたのだろう。加えて、大一自身が仙術による受け流し方を学んでいたことが功を成した。

 目ざとい小技に苛立ち半分、感心半分であったが、この程度の攻撃では驚きもしない。逆に向かってきた自身の雷光を片腕で弾き飛ばした。

 だがこの跳ね返された雷光に気を取られた僅かな隙が重要であった。大一の身体は肥大化していき、怪物のような狂暴的な見た目へと変化していく。

 

「そういうことか。私の雷光を跳ね返して当てるのではなく、その形態に変化する僅かな隙を作りたかったのか」

『伝説の堕天使相手ともなれば、この姿でもないと勝てないと思ったので』

 

 龍の頭となった大一の口から低い声が聞こえる。その見た目も相まって、荒々しい印象を受けた。

 バラキエルは素早い動きで雷光の槍を何本も放っていくが、龍魔状態となった大一は丸太のように太い腕を振って向かってくる槍を全て殴り消していった。先ほどと同じような攻撃がまるで通じないことに、バラキエルは小さく息を吐く。

 

「…ようやくキミの本領を見せてくれるのか」

 

 先ほどの失望は少し落ち着き、逆に期待の炎が燃えてくる。バラキエルは大きく飛び上がると、両腕から雷光を放つ。まるで鞭のようにうねり襲ってくる攻撃は、大一の両腕を捉えるとそのまま感電させていった。

 だが龍の皮膚を表面化させた今、その攻撃を耐えながら逆に雷光の鞭を掴み、強引に引っ張った。

 意図に気づいたバラキエルはすぐに鞭を解除するも、大きくジャンプして接近してきた大一の頭突きを受けて、反対側の壁に叩きつけられた。

 パラパラと瓦礫が落ちてくる中、すぐに立ち上がったバラキエルは額から流れる血を感じながらも、目に映る男の実力に安堵していた。

 

『耐性があるとはいえ、僕を扱える男が弱いものか』

 

 赤龍帝のように強者を引き寄せる力や奇跡を起こす可能性など無いに等しい。だが大一は妥協なく鍛え続けるタフな精神力や常に考え続ける向上心を持っている。

 これに加えて大一は多くの敗北をした経験がある。自分よりも才能ある仲間達を間近で見てきた経験がある。その経験とサーゼクスやディオーグ、サザージュの出会いが、彼のくすぶっていたものを目覚めさせた。

 

『弟やかつての主を筆頭に、アザゼル杯に出ているような強者たちを相手に、大一は勝ちたいと思っている。自分よりもずっと才能豊かな奴らを見続けたからこそ、あいつはその想いを燃やしているんだ。勝利への貪欲な野心…持ち前の精神力と合わされば、彼はどこまでも強くなる』

 

 シャドウの確信に応えるように大一は口に重力の球を溜めていく。対してバラキエルも両腕に雷光を溜めていた。両者の魔力はどんどん膨れ上がり、やがて最高潮に達すると互いに魔力を解放した。重力の球体と雷光の塊が空中でぶつかり合い、実験用の強固なフィールドを揺るがすほどの衝撃が感じられる。

 しかしバラキエルはすでに次の一手を準備していた。

 

(さあ、これをどうする)

 

 互いのお技がぶつかり合い相手が見えない状況で、いつの間にか大一の頭上に巨大な雷雲が生まれていた。

 

(雷は落ちるものだ。この雷光は桁が違うぞ)

 

 間もなく雷雲が轟音を響かせると同時に、強力な雷光が大一の頭上に降り注ぐ。重力の球とぶつかり合っていた攻撃にも匹敵する本命の一撃は、間違いなく命中したと確信させるものであった。

 しかしそれが疑問を感じさせた。命中した手ごたえが早かったのだ。

 

(飛んだか?だとすれば叩き落されているか?それとも───)

 

 間もなく重力の球と雷光の塊が相殺して消え去った。同時に辺りを吹き飛ばす衝撃が強くなるが、そこに大一の姿は見えなかった。

 ハッと気づいた瞬間、バラキエルは上から迫ってくる大一に気づく。身体は雷光で痺れていたが耐えきっており、合わせた両方の拳には重力の球が纏われていた。すでに大技を2度も同時に放ったバラキエルは避けることもできずに、大一にそのまま押し倒された。ハンマーのように振り下ろされた大一の拳は、バラキエルの顔の前でぴたりと止まり、同時に彼の荒い息遣いが聞こえた。このまま腕が振り下ろされたらどうなっていたかは想像に難くない。

 

「…今の雷光をよく耐えたな」

『頭上に魔法陣を張って、少しでも勢いを殺しました。あとは感知で落ちる瞬間に威力が最大になることが予想されたので、その前に当たりに行きました。それでも龍魔状態じゃないとやられていたでしょうが』

「そうか。だが私の攻撃を耐えきったのは事実だ。そしてこのように私を倒している」

『…私はもっと強くなります。あなたはもちろん、一誠やリアスさんにも勝つほどに。あなたや私を愛してくれる人が安心できるように。だから…えっと…』

 

 言葉が詰まる。口の中が乾いていく。それでも心の底にあった想いを、彼は無理やり引き出した。

 

『…あなたの娘さんを…姫島朱乃さんを…愛させてください』

「…挨拶は後で朱乃と一緒に来てくれるだろうな」

『も、もちろんです!』

「それがわかれば十分だ」

 

 緊張の糸が途切れた大一はようやく魔力を込めるの終えて、龍魔状態を解除するのであった。

 




引きずりやすい性格のオリ主が迷いやしがらみを振り払ったのが現状です。
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