D×D 外道の悪魔   作:水飴トンボ

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展開が遅いのはわかっているのですが、今回はちょっと必要な内容だと思います。


第16話 訪問

 昨夜、零や紅葉に送った連絡について内容が妖怪関連のものであるため、早々の折り返しを期待していたが、残念ながらなにも来ていなかった。急な連絡であった上に、独自の立場を築いている彼女たちも忙しいかもしれないと思って納得はしていた。

 だからといって行動しなかったわけではない。大学の講義こそあったものの、時間を見つけて小猫や黒歌の過去を整理していた。もちろん分かることなど最低限のものでしかない。以前2人が話していたことをノートにまとめた程度のものだ。黒歌の元主が72柱のナベリウス家であることや、小猫がリアスたちに拾われてからの生活もまとめていたが、目新しい情報に気づくことは無かった。

 そして一誠たちが幾瀬の示した店へと向かう夜、大一は冥界のルシファー領土にあるこぢんまりした建物に来ていた。シンプルな造りの建物であったが、管理が行き届いており、清潔さが見受けられる。絵本に出てくるような西洋風の建物は、穏やかな生活を望む老婦人でも住んでいると思うだろう趣があった。しかし実際のところは、ユーグリット・ルキフグスの住まいであった。

 

「安物のインスタントコーヒーですが、無いよりはマシでしょう」

「それはどうも」

 

 湯気の立つコーヒーが並々と注がれたマグカップをテーブルに置きながら、ユーグリットが話す。数週間前、これまでの有益な情報提供に加えて、グレイフィアと大一の嘆願もあって彼はルシファー領土の小さな家で生活することが許された。妙な動きをすれば、すぐに感知できるような仕掛けや魔法の類はあるものの、牢獄に繋がれた時よりも自由に生活できるようになったため、顔色もよく健康体であった。

 置かれたコーヒーを冷ますように息を吹き替えた後に、一口すする。無機質な苦みが口内を覆った。

 

「敵に出された飲み物にあっさりと手を付けるのは、警戒心が無い証拠ですよ」

「今さら、お前を警戒する必要も無いからな」

 

 あっさりと答える大一は、憎々しいくらい余裕な微笑を浮かべるユーグリットを見る。テロリストであった時のギラギラした危険性や野心もそぎ落とされたように感じられた。

 

「まあ、私自身もこれからクリフォトを再興しようなどとは思っていませんよ。リゼヴィム様はいないし、たまに姉上と会えて、ある程度ゆったりできるこの生活を楽しみたいですからね。荒れていた私には良い休養だ」

「それはよかったな」

「だからこそ不満なのが、この生活を得るのにここまで時間がかかったことですよ。拷問まで受けたのに割に合わない」

 

 鼻を鳴らすユーグリットは、この不満を心から言っていた。これには大一も渋い表情を取らざるを得ない。クリフォトとして世界を混乱に招いた元テロリストが、よくここまでワガママな考えを遠慮なく言えるものだ。

 その一方で大一の表情を見たユーグリットは意図を組んだようにほくそ笑む。

 

「あなたは私が無茶を言っていると思っているのでしょう?」

「自覚あるのが質悪いな。多くの人を傷つけておいて、その言葉がまかり通ると思っているのかよ」

「私は自分のやりたいことをやっただけですよ。それで苦しむなら、傷ついた相手が弱かっただけの話です。それにこれまでの情報提供から責任も取ったでしょう。だいたい同じようにテロをしていたヴァ―リや曹操がすぐに解放されておいて、私がいつまでも拘束されるのも妙なだと思いませんか?」

「どうだかな。しかしお前の方からヴァ―リの話題を出してくれたのはちょうどいい」

 

 この日はもともとユーグリットから打診を受けて、差し入れを持ってくるだけであったが、その面会を大いに活用しようと考えていた。

 

「ヴァ―リのチームにいる黒歌を知っているな」

「ああ、あの猫魈の…」

「そうだ。つい先日、彼女の妹が死神に狙われた。それについてなにか思い当たる節はないか?」

 

 クリフォトといえば、裏ではハーデスともやり取りしていた疑惑がある。中核メンバーであったユーグリットが情報を持っている可能性は高く、大一は手掛かりをつかめることを期待していた。

 しかしユーグリットが意地の悪そうにクックっと笑っている姿を見ると、その期待が一気にしぼんでいった。

 

「世界情勢はどんどん変わっていくのに、まだ私の情報を当てにしているのは哀れですね。冥府の方とやり取りをしていたのは、異世界の相手と同様にリゼヴィム様と邪龍どもです。私はほとんど関わっていません」

「それでもいくらか情報はあるんじゃないか?」

「残念ながら、本当に無いですよ。もっともあれが我々の持っていた研究成果をどこかで手に入れた可能性はありますが。まったく聞けば欲しい情報が得られると思っているのは、浅はかなものですよ」

 

 ユーグリットの嘲りの籠った声は、決して耳障りのいいものでは無かったが、同時に指摘されるように見通しが甘いことは否定できなかった。小猫の件で気持ちが無意識に急いているゆえか、どうも自分の立ち位置や出来ることを振り返る必要性は感じられた。

 その一方でユーグリットもこの話題には喰いついており、思案の表情でつぶやく。

 

「しかし死神がね…表舞台で動くような類じゃないでしょう、あれらは」

「お前らとの関係性もはぐらかすような相手だからな」

「その通り。死という自然の概念のために裏で動く、そんな者達ですから」

「もともとハーデスが大会の裏で画策している情報は入っている。冥界や他の勢力でも警戒事項だ」

「最近目撃されている正体不明悪魔含めてですか」

 

 大一の眉がピクリと動く。またもや目の前に座る悪魔は、いつの間にか情報を手に入れていた。

 

「そこまで知っていたのか…」

「姉上から訊かれただけですよ。ちょうどあなたと同じように情報を求めていたので。しかし残念ながらそちらも出せるものはありません」

 

 首を横に振りながら答えるユーグリットに、大一は少々落胆する。試合が近いことを思うと、小猫や黒歌に負担をかけるのは避けたい。そのためにも早々に問題の解決を求めていたが、現実はどうも八方塞がりになっているような気がした。

 とりあえず幾瀬から情報を得る一誠たちに期待していると、ユーグリットは観察するような視線を送る。

 

「焦っているようですが、状況は好転しませんよ」

「お前に言われなくても自覚しているつもりだ」

「ええ、あなたはそう答えるでしょうとも。しかしまだ感情を隠すのが下手ですね。彼女たちの話をする時、緊張が分かりやすかったですよ」

「余計なお世話だ」

 

 大一はむすっとした顔で、ユーグリットの視線から逃れるように顔をそむける。

 

「そういえば、ヴァ―リとリアス・グレモリーの試合が近いですね。私としてはどっちが勝っても不本意ですが、あなたは?」

「仮にも元グレモリー眷属だ。リアスさんを応援する」

「いやいや、私はそういう話を聞きたかったんじゃないのですよ。自分で言うのもあれですが、私はあなたの強い野心を理解しているので」

 

 小さく笑うユーグリットに、大一は怪訝そうに眼を細める。不快感もあったが、それ以上にひとつの疑念が生じていた。

 

「…お前、どうして俺をそこまで気にかける。この前は本気じゃなくても眷属に入ろうか、なんて言ってさ」

「どうして…」

 

 ユーグリットは思案するようにあごに手を当てる。本気で考えているのか、それともただのポーズなのかは分かりかねた。ただ一瞬だけ静寂が部屋を覆うと、彼はゆっくりと口を開く。

 

「…あなたがお節介でからかい甲斐があるからでしょう」

 

────────────────────────────────────────────

 

 情報は手に入れられず、例によっておちょくられて不快感を抱くようなユーグリットとの面会を終わらせた大一は、そのままギガンのいる監獄へと足を運ぶ。この日も四肢に特殊な鎖を巻きつけられた大男は静かであり、前に来た時と違うところを探すことが困難なほど変わっていなかった。生活の方もまったく変わっておらず、食事もせずにただ座っているだけのようだ。

 

「そういうわけでハーデスが動いているそうなんだ。知っていることがあれば教えてほしい」

「…」

 

 ユーグリットの時と同様に大一は一連の経緯を説明するが、相変わらずギガンの口は堅く閉ざされたままであった。もはやその辺の犬に聞いた方がまだマシだとも思えるほど反応であった。

 そのまま時間は過ぎ去っていき、20分ほどしたところで大一は困ったように頭を掻く。

 

「…また来るよ。差し入れが欲しいときは看守さんに連絡してくれ」

 

 それだけ伝えると、大一は出口へと向かっていく。石床を踏む小さな足音が耳に響き、疲れたように息を吐く。落胆する思いの中、彼は扉のドアノブに手をかけようとするが…

 

「いつまで俺を生かすつもりだ」

 

 一瞬、誰が話しているのか分からなかった。低く疲れ切った男性の声、それがギガンの口から出てきたことに驚きを抱いた。大一は雷に打たれたように素早く振り向くと、ギガンが垂れ下がった目を向けていた。

 大一はかなり動揺していたが、それを表に出さないために誤魔化すような咳ばらいをすると、ゆっくりと彼の前に戻っていく。

 

「…ようやく話す気になったか?」

「疲れただけだ。さっさと殺せ」

「お前は死なせない。上層部でもその方針で話は決まっているんだ」

「情報のためか。ならば無駄骨だ。俺は話さない」

 

 ギガンの答えは短く、声はあまりにも無気力であった。その巨体に見合わない反応は、妙に身体が小さく見えるように思わせた。

 大一は大きく息を吐いて気持ちを整えると、かつて倒した男をハッキリと見据える。

 

「一部ではそういった考えもあるだろう。しかしそれだけじゃない。お前の素性はいくらか把握している。かつて非人道的な実験を受けていたことを。お前はたしかに許せないことをしたが、だからといって旧時代の被害者を切り捨てることは間違っている。新しく世界は変わっていくが、それを受けたうえで前に進むことを決めたんだ。だからお前は死なせない」

 

 禍の団やクリフォトによる世界を揺るがすような大きな事件を目の当たりにしてきた。彼らによって引き起こされた事件はもちろん、それがきっかけで噴き出してきたかつての悲しみも。残された怨念も。苦々しい現実も。それらは更なる苦しみを世界に引き起こす可能性を孕んでいた。このまま切り捨てたところで、それは新たな災禍に繋がりえる。ゆえに今の政府はあらゆる種族との交流も深め、かつての問題にも向き合っていた。

 大一の言葉にギガンは何も言わずに聞いていた。そして間もなく小さなため息をつくと、無機質な声でゆっくりと答える。

 

「理想や信念は立派なものだ。気づけば世界を引っ張る立場にある同盟、多くの者から慕われるお前…ただ強くなるだけで、皆からチヤホヤされるなんて羨ましいよ。腹が立つ。その上で、俺に情けをかけて俺の怒りや憎しみまで奪おうとするのか。傲慢だな」

「ギガン、俺はそういうつもりじゃ───」

「もう2度と来るな。俺の視界に入るな。耳に声を入れるな」

 

 内容の苛烈さとはまるで違うような淡々とした声色で話しきると、ギガンは再び黙り込む。ようやく引き出した彼の言葉はどこまでも冷たく、大一に無力感を与えるには十分すぎるほどであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 数十分後、大一は兵藤家の地下にある巨大魔法陣のある部屋に転移して帰宅した。心的に負担のある会話をして、笑顔からは程遠い表情であった。たしかにユーグリットから指摘を受けたように、感情を隠すにしてはお粗末に思われてもおかしくなかった。

 そして転移して間もなく、ひとりの女性に指摘を受けることとなった。

 

「まーた難しい顔してるにゃん」

「黒歌、帰っていたのか」

「本当に今しがたね。部屋を出ようとしたら、誰か転移してくるのに気づいて待っていたの。美人の出迎えにはもっと笑顔になってもいいんじゃない?」

「そりゃ、どうも」

 

 あまり本気で取り合わずに、大一は扉へとどんどん足を進める。しかし彼がドアノブに手をかけようとした瞬間、それを抑えるように黒歌がするりと手を重ねて扉を開けることを止めてきた。

 

「ねえ、白音が死神に襲われたらしいけど、なにか掴めた?」

「なにも。今日、一誠たちが幾瀬さんから情報を聞きに行っているが…まだ帰ってきてないっぽいな」

 

 手早く家の中を感知するも、一誠たちの魔力や生命力は感知できない。時間も約束からそこまで経っていなかった。

 

「お前も気をつけておいてくれよ。どうも死神たちは小猫を狙っていたようなんだ。そうなれば姉妹のお前だって危ない」

「分かっているって。ヴァ―リたちと何度も修羅場をくぐってきたのよ。足元すくわれるほど油断していないにゃ」

 

 さらりと答える黒歌であったが、それを頭ごなしに信じられなかった。わざわざ2人だけの状況で、この話を振ってくる限り多かれ少なかれ不安を抱いていることは容易に想像できた。

 

「ねえ、大一。頼みたいことがあるんだけど」

「よほど変なことじゃなければ引き受ける」

「今さらしないって。ただちょっと白音と一緒にいてあげて、安心させて欲しいだけよ」

 

 いつものいたずらっぽい軽い声色に、大一は訝しそうに目を細める。彼女の不安は相変わらず妹に集中していた。そして軽快な雰囲気以上にその不安が強いことに気づくのは容易く、同時にため息をつきたくなる想いであった。

 一方で、黒歌はそのまま話を続けていく。

 

「ほら、あんたってお節介でいろいろ動くところあるじゃない。でも一緒にいてもらうだけで安心することってあるの。特に好きな人にはってやつ。白音はまだまだ心配になりやすいから、気にかけて上げて欲しいんだ」

「…それで問題が解決するならそうするよ。でもそうじゃない。俺に出来ることがあるなら、それを全力でやるだけだ。大切な仲間なら尚のことだろう」

 

 その言葉に、黒歌は安心するのと同時に内心ムッとした。どうも彼の態度からは小猫を妹とする見方が変わっていないような気がした。小猫のことを気にかけてくれるのは、彼女としても望んでいるものの、妹が上手くいっていないことを目の当たりにするのは言葉に出来ない具合の悪さが胸に感じられた。

 

「ふーん…白音のことはそういう感じなのね」

「あいつの期待には応えるつもりだよ。ただこの問題は、お前にも関わっているんだぞ」

「私は白音よりも強いから大丈夫にゃん。だからあの子を見てあげて欲しいの」

「黒歌、これは強いかどうかは関係ない。お前が小猫のことを心配しているのはわかるが、今回の一件でなにもしないことは無理だよ。それに───」

 

 言葉を切った大一の頭には、これまでの小猫の姿が想起された。挫折や劣等感を抱きながらも懸命に努力していく。昨日は弱みを隠そうとしながらも、自ら奮い起こして不安を打ち明ける強さもあった。

 それを実感するほどに、彼の心には熱い思いが込み上げてくる。後輩の強さには彼も勇気づけられていた。

 

「お前が思うほど、あいつは弱くないよ」

 




振り返ってみると、わりとかつての敵と話し込んでいますね。
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