D×D 外道の悪魔   作:水飴トンボ

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原作だとほとんど無かったある2人の会話も…。


第19話 彼女らの望み

 グレモリー家の地下フィールドは大人数で使っても十分な広さがある。そのため模擬戦を行うのにもうってつけで、リアスや一誠たちは幾度となくここで力を磨いてきた。

 しかしこの日の夜はたった2人だけであり、しかも模擬戦のように走り回ったり攻撃したりといった動きは無いため、いつも以上に広く感じる。

そんなフィールドで大一と小猫はゆっくりと身体を曲げ伸ばしする。まるでヨガや太極拳をやっているような動きであり、どことなく神秘的な雰囲気があった。

 

「自然と一体化し、気を溜める…仙術は動かないことが基本です」

「黒歌も言っていたな。心も乱さないことが大事なんだよな?」

「平常心を保たないと、すぐに気は乱れますから。そこでこのようにゆっくりと動き、感じる気に動きを合わせていくことを意識します。そうすることで自然と乱れない動きを覚えて、戦いにも活用できます」

 

 互いに落ち着き払った声で動きを続ける。相手に拳を打ち込むような動きを、攻撃を避けるために身体を低くする体勢を、戦闘の動きを彼女の指示に従いながらゆったりとした動作で取っていく。自分が普段から戦闘にあたりどのように動いているかを具体的に把握し、同時に気を意識することで今まで以上に活力を感じられた。

 

「不思議だ。前よりも自分に流れる気の動きをハッキリと意識できる」

「先輩は姉さまから仙術の基礎を叩きこまれていましたし、気を受け流すこともできていましたから。これをさらに重ねていけば、仙術の使い方について新たな活路も開けるかと。私はそれで白音モードを体得しました。ちょっと異名とはかけ離れた雰囲気ですが…」

「いいじゃないか、『ヘルキャット』。俺の『傷顔』とかいう通り名よりも遥かにカッコいいよ。そういえばお前のような変身も仙術で出来るのか?」

「あれは種族的なのもあるので…まあ、攻撃の活用でパッと思いつくのは仙術で相手の気を乱すこととかですかね」

 

 去年の夏、小猫は自身の力を受け入れた結果、仙術で相手の気を乱し防御を弱める方法を学んだ。実際、ソーナやサイラオーグのチームとの試合では、この技を使ってしっかりと実績を残しているゆえに説得力はあった。

 

「それと気を無理に掴むのではなく、流れを止めないことも意識しましょう。流れる水をせき止めず、身体自身を通り道にしてあげるんです」

「流れを止めないことか…小猫、教え方が上手いな」

「いろいろな人から聞いて、独自の修業も重ねて、この方法が私に1番合っていることに気づいたんです。妖怪は基本的に感覚でこれを習得しますが、私は長らく悪魔としてのパワー的な戦いが長かったですから」

 

 雑談を続けながら2人は動きを続ける。激しい動きこそ無かったが、額にはじんわりと汗がにじむほど身体が温まっていた。

 30分ほどしたところで、2人はフィールドの横で休憩をした。汗をぬぐいながら、大一は彼女に問いかける。

 

「しかし模擬戦とかじゃなくて良かったのか?」

「人に教えるのは自分の特訓にもなります。それに慣れたやり方で調整しておきたかったんですよ。自信にもなりますから」

「死神の件は不安にもなるよな」

「でも先輩が約束通り、一緒に特訓してくれました。それに皆さんのおかげで解決の糸口も見つかりましたし。むしろ私は…」

 

 小猫は神妙な面持ちでぎゅっと拳を握りしめる。死神が自分を狙っていることは、たしかに不安ではある。だがそれ以上に姉への想いが確固たるものであった。

 

「…姉さまは紛れもなく天才です。妹としての色眼鏡抜きでも、その才能はすごいものだと実感しました。今のような特訓はしなくても問題なかったでしょう。仙術だけじゃなく、魔術や時空間をコントロールする術にも長けている…」

 

 姉と再び出会い、戦い、かばわれて、修行までつけてもらった。目の当たりにするほど小猫は姉の実力を理解していった。天才的なセンスは重ねてきた経験は間違いなく自分を上回っていた。

 それを理解しながらも、彼女はとある願いを心に燃やしていた。それは自分よりも遥かに才能に恵まれている相手に抱くのは傲慢だと理解していても、抑えることは出来なかった。そして小猫は意を決してその想いを言葉にする。

 

「…それでも私はあの人に勝ちます。リアス姉さまの勝利のために。そして私があの人の関係をもう1回やり直すことに繋げるために」

「…真面目だな、お前は」

「皆さんから多くのものを貰いましたから」

 

 正直なところ、小猫自身は今回の一件で家族のことに察しがついていた。雲外鏡の話を聞いたとき、両親がどんな人だったのか触れられなかったこと、そしてリアスが黒歌にだけ話を持ちかけたことを踏まえると、自分や姉にとって好ましくない事実があったことは想像できる。

 しかしだからと言って、心が締め付けられる感覚は無かった。自分を救ってくれた主、大切な仲間たち、憧れの人…多くの繋がりと愛されている感覚が心を満たしていた。それを理解しているほどに幸せを実感し、同時に残った唯一のつながりも大切にしたいと考えていた。姉妹という最後の血縁を。

 そんな彼女を目の当たりにして、大一はふっと息を吐く。仲間のおかげとは言うが、このように思えるのは彼女自身がしっかりと過去やしがらみに向き合い、努力を重ねてきた結果だ。自分自身の無力さに涙を流したことや、姉との複雑な関係性に悩んだことも見ている。そうやってもがきながらも前に進んでいく彼女に改めて尊敬を抱いた。

 

「そういう真面目でひたむきなところが好きだよ」

「…先輩からそう言われると、いつも心をかき乱されます。緊張するけど心地よくて…好きな人からの言葉ってそれくらい特別なんですよ。それを後輩相手だからって、さらりと言う先輩はずるいです」

「そういう意味で言ったわけじゃ…いや、それも失礼だな。それに俺もそろそろ───」

 

 大一は言葉を切って、呼吸を整えるように息を吐く。妹分である彼女に抱く感情は親愛だろう。大切な仲間だからこそ力になりたいという想いは間違いではないだろう。しかし同時に彼女に応えたいという想いもあった。それが彼女の幸せにつながり、自分の幸せにもなるのであれば…。

 

「でもそれは今度の試合で区切りがついてからだ」

「…そうですね。私も同じ気持ちです」

 

 まずは目の前のことを乗り越えることが、お互いに優先するべきことと分かっていた。それゆえに今は互いの想いを乗り越えるための燃料とするだけに留めていた。

 その後も30分ほど同様の動きで特訓をするが、終わりが近づいたところで大一が出し抜けに話す。

 

「小猫、今回の一件で俺はほとんど力になれなかった。解決の糸口を見つけてきたのはリアスさんや一誠たちだ」

「でも先輩は独自で調べていたじゃないですか。零さんだけでなく、ユーグリットたちからも調べているのを知っていますよ」

「そう言ってくれるのはありがたいが、結果だけ見れば成果は無かったよ。お前が襲われた時もすぐに駆けつけられなかった」

 

 静かに言葉を紡いでいく大一に、小猫は寂しそうに目を細める。惚れた相手はまたもや自分を卑下するような話を吐き出していくことにため息をつきたくなった。そんなことを言われなくても、彼が動いてくれていたのは理解しているのに…。

 しかしその想いはすぐに覆された。彼の声は静かでありながらも、確固たる芯の強さが感じられ、同時にすぐに語った内容がその声に見合ったものであったからだ。

 

「おそらく死神は今後も狙ってくるだろう。だがそうはさせない。俺が本気で守って見せる。次の試合とかは尚更な。だから…俺を信じて欲しい」

「…私は先輩をずっと信じてきたつもりですよ」

 

 小猫は穏やかに口元に笑みを浮かべて答える。憧れの男が弱さと強さを自分にも見せてくれたことに、彼女の心は熱を帯びていた。

 彼女の答えに大一は頷くと、ぐっと身体を伸ばす。

 

「さて、ぼちぼち特訓も終わりにするか」

「そうですね。試合までの数日、また一緒に特訓してくれますか?」

「言ってくれればいつでも。もっとも今日はまだやらなければいけないことがあるな」

 

 大一はちらりとフィールドの出口へと視線を向ける。頭の中ではもうひとりの猫又の顔が浮かんでいた。

 

────────────────────────────────────────────

 

 胸の中がざわつく。湿っぽい熱さが心身に湧きあがっていく。ちょっとでも油断したら、自分らしくない何かが吐き出されそうだ。かと思えば、行動ひとつひとつにいまいち力が入っていなかった。

 黒歌は重い感情を取り除くかのように、長めに息を吐く。リアスから今回の一件について全てを聞いた。父親のことも含めてだ。すでにそれなりの時間が経っているはずなのに、いまいち気持ちが落ち着かず、いつもの自分とは違う感覚を抱く。独りになりたいような、誰かが一緒にいて欲しいような、矛盾した考えがぐるぐると巡っていた。

 気づけばふらりとある部屋へと足を運んでいた。彼なら慰めてくれるだろうかと期待したが、すぐにその考えを振り払った。まとまらない気持ちを抱えつつ、部屋の前で考えあぐねていると、不意に後ろから声をかけられる。

 

「いちおう、私と彼の部屋なんだけど」

 

 朱乃の訝し気な声が聞こえると、黒歌は内心舌打ちする。いくら心に隙があったとはいえ、すぐ後ろに朱乃がいたことにまるで気づかなかった自分に呆れていた。だがその感情を出さないように、いつものいたずらっぽい笑顔を張り付け、くるりと振り返る。

 

「ここって大一の部屋だと思っていたにゃ」

「私はいつも彼と眠っているから、実質2人の部屋ですわ」

「大胆な告白ね。私も混ざろうかなー♪」

 

 おちょくるような軽い声で答えるが、朱乃の険しい表情は変わらない。そして間もなく小さなため息をつくと、朱乃は静かに話し始める。

 

「慰めてもらうなら、大一には期待しない方がいいと思いますわ」

「お見通しって感じの言い方ね。…ああ、そっか。あんたも一緒に行ったから知っているのか」

 

 取り繕うつもりであった自分に乾いた笑いが込み上げてくる。それでも心の隙を見せないように、黒歌は余裕を崩さないように意識していた。

 一方で対面する朱乃はそれを見透かしているのかのように、言葉を紡いでいく。

 

「本当に酷いことだと思う。あなたのお父様の件については…リアスが憤慨するのも当然ですわ」

「ま、実のところ、あの男と会ったことはちょっとだけ覚えているのよね。母親の藤舞が私たちを紹介した時のことを。本当に興味ない感じだったけど」

 

 淡々と話す黒歌であったが、その内容にどろりと暗いものが潜んでいた。母は心底惚れ込んでいたが、一方で父は研究こそが全てであった。母との出会いも超越者を生みだす過程のものであり、子を宿す経緯も一時の情欲のはけ口になったに過ぎなかった。そんな男を母がどうして愛したのかはよくわからない。しかし彼女が姉妹を認めて欲しくて、男の方についていったことは理解していた。父への不満や母への腑に落ちなさ、その他の多くの感情が入り混じっており、黒歌の心は疲弊していた。戦いも力を使うことも好きではあるが、同時に穏やかな生活を渇望する気持ちも芽生えていた。

 しかしこの過去に向き合うほどに、もうひとつの悔恨が深く心に突き刺さっていく。

 

「白音には言わないでよ。あの子はたくさん苦しんだ。強くなったけど、まだまだ弱い子だもの」

 

 姉として小猫を救い、同時に自分も自由になる方法を選んできた。力の使い方には自信や覚悟もあったし、自分ではその方法しか出来なかった。

 それでも今回の一件で真実と父の本音を知った彼女は、小猫へのこれまでの行いを深く後悔していた。妹を孤立させ、悲しみへと陥れた。方向性こそ違うものの、これでは自分が嫌う男と同じように、血縁という大切な繋がりを断ち切ったようなものだ。

 それを実感するほどに、彼女の隣に立てないと考える。幸い、彼女には自分以上に強いつながりを持つ相手が多く、心の隙間を埋めてくれる。自分がいなくても、いや自分を必要としないだろう。妹の幸せに姉である自分の存在は…。

 

「それであなたはどうするの?」

 

 朱乃の問いに、黒歌は一瞬思考が停止する。まるで自責の想いを見透かされたような発言は、彼女の心に鋭く突き刺さるが、すぐにどうってことないように頭を振って肩をすくめる。

 

「どうもしないにゃ。今さら、この真実を知ったところで」

「そう…私は慰めませんわ。大切な仲間である小猫ちゃんを悲しませたのは事実だし、そこまで余裕を持てないもの」

「別にしてもらうつもりも無いけどね」

「…でも、あなたが無理をしているのはわかります。同じように背負い込んでいた人を知っているし、私も似たような経験があるから。それは大切な人のためであったり、皆を心配させないためであったり…でもそれであなたが自分の幸せまで蔑ろにする必要はないわ」

 

 先ほどの言葉通り、朱乃としてはそこまで黒歌を認めるつもりは無かった。しかし彼女が抱え込む悩みの重さは痛いほどわかるし、このまま何も言わないのは寝覚めが悪い想いであった。

 一方で黒歌は奥底にあった決心を指摘されて動揺しながらも、言葉を絞り出していく。

 

「別に…私は野良猫よ。これからも自由に生きていければ十分にゃん」

「…ここに来たことも含めて、ひとつだけ教えてあげる。彼は…イッセーくんのように一緒にいてくれるような優しさは無いし、ヴァ―リのように人を引っ張っていくような強さも無い。でもね、とてもお節介なの。こっちがどう思っていても、悲しいのを見たくないからって行動に移しますわ。だから遠慮なんて意味ないの」

 

 そう言うと朱乃はするりと黒歌の横を通り過ぎて、部屋へと入っていく。

 

「今日は譲ってあげる。でも試合の時は容赦しません」

 

 一瞬だけ視線を逸らすと、朱乃はそのまま扉を閉める。残された黒歌は落ち着かないように頭を掻いた。すっかり見透かされていたような気分であった。妹が想いを寄せる相手というだけの興味であった。戦った際に自分とは相性が悪いというだけの興味であった。ただそれだけのはずだったのに、妹だけでなく自分のことも親身になってくれて、それどころか強い信頼まで寄せられて、甘酸っぱい感情をらしくもなく抱いていた。

 だからこそ一緒に入れないのだ。妹が惚れた相手だからこそ、自分が一緒にいて良いはずが無い。妹の幸せのためにも、自分の想いは振り払わないといけない。寂しさが余計にも心を絞めつける。

 夜風にでもあたろうかと彼女はエレベーターに向かうが、ちょうどその時に渦中の相手と鉢合わせになった。ちょうどエレベーターから出てきた大一と顔を合わせたのだ。

 

「おっ、黒歌」

「にゃっ!?な、なに…」

「いや、そこまで驚かないでくれよ。これでも探していたんだぞ」

「私よりも白音の方を心配しなさいよ」

「さっきまで一緒に特訓していたんだよ。そこで十分に話した」

「そ、そう…それで何の用事?」

 

 いつもの余裕な態度でいられずに、朱乃と話していた時以上に焦っていることを黒歌は実感していた。

 大一はそんな彼女の様子に、表情を変えずに話を続ける。

 

「なんというか…今回の一件、死神はまだ2人を狙ってくるだろう。試合にも影響があるかもしれない。だがお前は気にせずに、ただ小猫と向き合って欲しいんだ。死神の方は俺がなんとかする」

「だから私は大丈夫よ。それよりも───」

「お前の家族のことだろう。小猫と立場は同じだ。それにこれは俺が勝手にやることだ。うっとうしいかもしれないがな」

 

 ハッキリと言葉にされることで、黒歌は妙に熱い感覚がこみあげてくるのを感じる。先ほど朱乃が話していたことが間違いでないことを目の当たりにして、わずかに心の締め付けが緩んだような気さえした。

 

「本当にお節介…」

「悪いな。こういうやり方しか出来ないんだ」

「…でも信じたいな、あんたのそういうところ。ねえ、あとでココア淹れて。そしたらちょっとだけで良いから…一緒にいて慰めて欲しいにゃん」

「な、なかなか…恥ずかしいことを頼んでくるな…」

「いいじゃない。私らしいでしょう♪」

 

 ようやくいつもの感覚が戻ってきた黒歌は魅惑的な笑みを浮かべると、遠慮なくお願いをするのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 ある日の午後、ルシファー眷属の領土にいるユーグリットは静かに魔法陣で通信をしていた。

 

「ええ、わかりました。引き受けますよ。そのぶん、こちらの要求も頼みますね」

 

 うんうんと頷くと、間もなく魔法陣を消して通信を切る。椅子に座りながら天井へと目を向けるユーグリットは、傍目にはただぼんやりとしているようにしか見えなかったが、その実際は久しぶりの感覚に充実していた。加えてこれからの約束を思うと、さらなる笑いまでこぼれそうになった。

 そして間もなく扉へのノック音が聞こえると、返事もしないうちに扉が開かれる。玄関と一体化しているその部屋にひとりの女性が入ってきた。

 

「いやはや、時間通りです。さすがですね、姉上」

 

 満足そうに微笑むユーグリットととは対照的に、いまいち納得していないような顔でグレイフィアは弟に目を向けるのであった。

 




猫又姉妹に加えて、ルキフグス姉弟までいろいろある状況です。
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