D×D 外道の悪魔   作:水飴トンボ

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珍しくパワーアップのお披露目回です。


第24話 仙術

 怨念、それは死んだ者が残していった悲しみ、怒り、悔しさといった感情が負のエネルギーとなり、生きる者の命を奪おうとしてきた。肌や魔力を焼き、簡単には振り払えないほどしぶとく、容赦なく苦しみを与えていく。その怨念自体が意思を持って動くような無角の存在は、まさに怪物と評するのに相応しいだろう。

 その恐ろしさを、大一はかつて身をもって経験していた。斬撃と合わさった怨念は、身体を焼き切り、彼の半身と相棒の命を奪い去った。それは苦い思い出であると同時に、この戦いに勝利することを確信させていた。

 

『まさに死の力…だがこの戦いは勝つ』

 

 静かに呟いた大一の身体には黒い煙が取りついていたが、それは瞬く間に霧散していった。

 怨念が死に関する力であることを知った大一は、その対極にある力をぶつけることで相殺できることに気づいた。光に対して闇があるように、死に対しては生きる力を。そこで彼は学んだ仙術を活かし、生命力や気を流して怨念に当て、その力を無効化した。身体で怨念の性質を理解し、小猫と黒歌から教わった仙術があって初めて可能とした芸当であった。

 以前の無角であれば、自身の最大の武器が通用しないと分かれば、攻撃の手法を変えていただろう。しかし理性を失った獣同然の存在は、純粋な力押しでしか攻めてこなかった。世界中に抱く恨みを晴らすために戦った怪物は、その恨みを利用されるだけの存在になっていた。

 

『…哀れだな、無角。もう終わりにしよう』

 

 龍の力が入り混じった左手と黒影で作った右手、それぞれの手の平を合わせる。同時に周囲への感知を強めて気を操ることに集中する。生き物の鼓動が、自然の呼吸が、魂である祖父や菩薩の存在が確固たるものに感じられる。そして彼の身体全体に、滑らかで掴みどころのないエネルギーが流れていく。エネルギーはするすると動き、少しでも油断すればすぐにでも外に逃げ出しそうであった。

 だがそれでいい。無理にせき止める必要はない。小猫から学んだように道を作ればいいだけであった。手の平から出て行こうとするのであれば、もう片方の手を合わせればいい。足から出るのであれば、踏みしめる地面を利用して、また受け入れればいい。そして力を同調させつつ、頭部へと誘導していった。

 

《ガルルルルアアアアッッ!!!》

 

 無角は雄たけびを上げつつ、両腕の怨念を高めていく。そして大きく振った腕からはかまいたちのような斬撃が発生し、地面をえぐりながら大一へと向かっていった。

 

『だがそれも怨念。打ち消すことは十分できる』

 

 先ほどから打ち合って気づいたのは、この無角は以前のように鎧に集結した怨念が意思を持つ存在として、形作っているわけでないということだ。この妙な死神の装束で無理やり形を留めており、攻撃のたびに怨念を飛ばしていることを踏まえると、どこかに発生源があると思えた。

 相手に生命力が無かろうと、1度受けた力を理解していればその濃さでどこに大本があるかは感知できる。そして相手の胸の中に、鎧の欠片を魔力でまとめた核となる部分を感知できた。

 純粋な肉弾戦では無角の怨念の身体を払いきれない。だからこそ龍魔状態でなく、龍人状態で対応していた。

 向かってくる怨念の斬撃にも動じずに大きく息を吸い込む。魔力をイメージして変化させることはいまだに難しい彼であったが、仙術では不思議と自信があった。

 

『小猫の火車のように、向かってくる攻撃を燃やす浄化の火のように…』

 

 大一は口をすぼめて息を強く噴き出す。口から放出されたのは強烈な火炎であり、広範囲の炎は向かってきた怨念の斬撃とぶつかり互いを打ち消した。

 仙術による炎は無角も本能的に危険を感じたのか、攻撃をたたみかけていく。連続で怨念の斬撃を放つが、炎の規模はかなりのもので放つ攻撃はことごとく相殺していく。わずかに後ずさりする無角だが…

 

『逃がすわけないだろッ!』

 

 燃え盛る仙術の炎の中から怨念を弾きながら一気に接近した大一は、背中から生みだした黒影による腕で無角の身体を捕縛する。狙いは一点、打ち合い中に気づいた胸による核であった。

 

『これで終わりだ!』

 

 至近距離から放たれた仙術の炎は瞬く間に怨念の身体を削り、むき出しとなった核ごと燃やして相手をこの場から消滅させた。

 攻撃を終えた大一は軽く咳き込みながら、龍人状態を解除する。

 

「新技「仙術・火炎太鼓」…まあまあだろう」

 

 タナトスによる襲撃計画を、ここでようやく食い止めたことを一行は実感するのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 数分後、援護に来たサイラオーグとデュリオに気絶したタナトスを任せて一行は、アジュカがいる取り調べ機関に向かう。そこまでの道中では、タナトス相手にほぼ単独で勝利したことにサイラオーグたちは驚くわ、一時的に縮んだロスヴァイセの胸に一誠が嘆くわと騒がしかったが、ずば抜けて喧騒であったのは大一と祖父の言い合いだっただろう。

 

【別に乳力があっても、変わらなかっただろう】

「仙術で十分に勝てる見込みがあったからいらなかったんだよ!そもそも集中力使うから、余計な援護の方が迷惑だわ!」

【お前ももうちょっとおっぱいへの魅力を理解していれば、集中できたろうよ】

「じいちゃんはただスケベなだけだろッ!」

 

 祖父の魂は神滅具に入っているため一誠はこの会話を聞いていたが、傍から見れば大一が独りで騒いでいるようで不気味な印象すら感じた。

 間もなく取り調べ機関へと転移すると、関係各所に連絡していたレイヴェルが慌てた様子で出迎えた。

 

「ああ、イッセー様!戻ってきてくれてよかった…アジュカ様は気にしていないし、ゼノヴィアさんたちはまだ戻って来ていなくて…私ではどうすればいいかわからなくて…」

 

 彼女らしくない困り果てた様子だけでなく、どこか青ざめて不安を掻き立てていたことに、一誠は安心させるように声をかける。

 

「落ち着けって、レイヴェル。タナトスは俺らが倒したし、他の方も大丈夫だ」

「死神の方じゃないんです!彼らが」

「これはこれは姉上!偶然とはいえすぐに会えるとは!」

 

 レイヴェルが事情を説明する前に、弾むような喜びを内包した声が一行の耳に響く。ハッキリと聞き覚えのある声に一誠、グレイフィア、ロスヴァイセはぎょっとした表情で、声の方向へと目を向けると、奥からユーグリットとギガンが歩いてきた。

 

「ユーグリッド…!どうしてここに!?」

「今回の死神襲撃の防衛についていただけですよ。それにしても若い姿も美しい…。おっと、ロスヴァイセまでいるとは。少々、出で立ちが変わったような…赤龍帝が余計なことをしたのかな?」

 

 姉と同じ色の髪から覗かせる整った形の瞳に、どこか意地の悪そうな雰囲気を内包しながらユーグリットは一誠を見る。これには一誠も若干の苛立ちを感じつつ、疑問の方を優先させるように言葉を紡いだ。

 

「なんでお前らがそんなことを…!?だって───」

 

 一誠が続ける前に、大一がぐいっと前に出てユーグリットに鋭く言う。

 

「おい、ユーグリット。グレイフィアさんとロスヴァイセさんに迷惑かけないという約束だろ」

「ただ挨拶をしただけですよ。そこまで目くじらを立てることじゃないでしょうに」

 

 まるで反省した様子も無くユーグリットは首を横に振る。もっとも一誠たちの奇異を抱いた視線は、ユーグリットたちから大一へと移っていく。

 

「兄貴、もしかして…!?」

「ああ、そのもしかしてだ。今回の一件で彼らに協力を打診したのは俺だ」

 

 まったく隠さずに大一はきっぱりと言い切る。一誠、ロスヴァイセ、レイヴェルは唖然とする一方で、ビナーの方は非難するようにユーグリットに視線を戻した。

 

「ユーグリット…!」

「姉上、勘違いしては困ります。今回の一件について、持ちかけたのは彼の方からですよ。別に私は促していませんし、むしろ度肝を抜いたものです」

 

 淡々と答えるユーグリットであったが、それを一誠たちは手放しで納得できなかった。リゼヴィムに悪魔らしさを見出し、テロ組織の副官を務めていたような男だ。1度は完全に心を砕かれたとはいえ、悠々とした態度を取る彼の言葉を鵜呑みにすることは難しかった。

 

「まあ、信用できないのも当然だ。しかしこいつの言っていることは正しい」

「兄貴、どうしてこんなことをするんだよ!?ユーグリットの仮釈放の件は知っているけど、戦いの場に出すなんて…しかもギガンに関してはまだ幽閉中のはずだろ!」

「理由は単純だ。今回の襲撃は是が非でも阻止しなければならない。そのためにも少しでも戦力が欲しかっただけだ」

 

 実際、その目論見は当たっていた。今回の襲撃にあたり、現れた死神の集団を鎮圧することに彼らは貢献していた。

 

「…大一くん、どうやって説き伏せたんですか?」

 

 ユーグリットに気圧されたのか、一歩引いた状態でロスヴァイセが問う。ユーグリット、ギガン共になかなか難儀な性格をしている上に、ヴァ―リほど歩み寄るタイプには思えない。そんな2人をどう説得したのか興味を抱くのは当然であった。いやこの2人だけではない。そもそも冥界政府上層部が、彼らを戦いの場に出すことを許可したのもありえないとしか思えなかった。

 大一が反応する前に、ユーグリットの方が先んじて答える。

 

「まあ、単純ですよ。私は彼を理解しているつもりでしたが、私も見透かされていたようです。なんというか…野心をね」

 

 いまいちハッキリしない反応に困惑する一行だが、大一はどこからともなく書類を問いだしながら答える。

 

「アジュカ様含めて一部の上層部に直談判した。幸い、報告で会う機会は多いのでな。ユーグリットの方は、ある目的が一致したから協力を取り付けられた。ギガンの方は、これだ」

 

 大一は手に持つ1枚の書類をひらひらと振る。

 

「ギガンの仮釈放の条件として、彼が問題を起こした場合に俺の両脚を『異界の魔力』の研究材料として提供することを取りつけた」

『ええっ!?』

 

 今回ばかりはさすがに一誠たちも声を上げずにはいられなかったが、対照的に大一はまるで動じずにあっさりと答えた。今回、彼が説き伏せた上層部は「異界の魔力」に関しての情報を求めていた者たちであった。ディオーグが与えてくれた命をかけることは出来なかったが、魔力を持つ肉体として脚を担保とすることで仮釈放の後押しを手に入れた。問答無用で身体を切られなかったのは、さすがに彼の今後の仕事ぶりやアジュカの影響もあったからだろう。

 

「兄貴、またバカなことをしたのかよ!同情とかでそこまでする必要がないだろう!?」

 

 一誠は腑に落ちない様子で声を荒げる。以前もシャドウの一件で、兄は自身を大きく苦しめた存在を神器として迎え入れた。それほどの確執があるはずの相手を受け入れることには首をひねる想いであった。むしろシャドウの時と違って命の危険にさらされていたわけでも無いため、彼らを引き入れるために奔走した現在の方が歪に感じられる。

 

「それくらいする理由はあるよ。俺が彼らに持ちかけたのは2つだ。ひとつは今回の死神の襲撃阻止に力を貸すこと。もうひとつは俺が上級悪魔になった際…眷属になることだ」

「眷属って…!ユーグリッドやギガンを!?」

 

 信じられない、そんな想いが露骨に一誠の声からは滲み出ていたが、それを察した大一は首を横に振って答える。

 

「お前は納得できないかもしれないが、俺にとってはそこまですることなんだよ。だいたい仲間にするにあたって、どれだけ言葉を並べようとも信用できないだろう。これくらいは行動で示さないと」

「そこまでして2人を仲間にしたい理由がわからねえよ…」

「至極簡単な理由さ。いつか自分のチームを率いてアザゼル杯のような大会に出場したい、それにあたって今からリクルートに力を入れているだけだ」

 

 いずれ一誠を筆頭にアザゼル杯に出場している強者たちに勝ちたい、サザージュの戦いを経てから彼が掲げた新たな目標であった。その達成の足掛かりとして、このはみ出し者の2人をスカウトした。一見すれば無茶な人選に思われがちだが、彼らの実力は目を見張るものがある。同時に彼の冥界の悲しみを減らすという願いにあたって、日陰を歩んできた相手に向き合うことにも繋がった。

 だがそれ以上に彼は信頼していた。今もなお強い野心を持つユーグリット、想像を絶する苦しみを経験したギガン、この2人の抱くものは間違いなく必要になることを。

 

「私はいまだにリゼヴィム様が悪魔として素晴らしいと思ってますよ。そんなあの人でも『赤』を倒すことは叶わなかった。しかし彼なら…兵藤大一ならそれを果たせると思ったんです。私と共にね。もっとも私は似たような誘いを1度断られたので、ちょっと今の生活を融通して欲しいという条件付きですが」

「…俺は余計な借りを返すだけだ」

 

 大一の決断を支持するように、ユーグリットとギガンも口を開く。少なくともこの場で騒いだところで、この現状が覆ることは無いこと一誠たちは実感した。

 

【話は終わったか?】

(じいちゃん…!)

 

 一誠の頭に祖父の声が響く。今の会話は祖父も聞いていたはずだが、ユーグリットとギガンがどんな立場の人物かを知らない以上、兄の行動をどのように感じたのかは図りかねた。

 間もなく神器の方から直接、声が発せられた。

 

【大一、事情はよく知らんが親から貰った身体を簡単に賭けるのは感心しないな】

「そればかりは否定できないな。しかし俺にとって重要なことなんだ。じいちゃんがどう言おうとも…」

【その決断をやめろとは言わんよ。お前はいろいろ考えるからな。むしろ手段を選ばないのなら、なぜおっぱいも否定するのかは腑に落ちないがな】

「だから俺はあれで強くなれる保証は無いし、すでに勝つ算段があったんだよ!」

 

 気がつけばまたもや2人は言い合いのようになっていく。

 

【まあ、それで納得しているならよい。それよりもイッセー。さっきいろいろいじった時に面白い機能を取り付けてみたぞ。お前の「乳語翻訳」に手を加えてみた。女性限定でおっぱいを通じて、離れた場所のおっぱいと話せるようにしてみた。その名も「乳語電話(パイフォン)」!!】

 

 熱弁する祖父であったが、一誠ですら思わずうろたえるほどの内容であった。ドライグに関しては、完全に諦めの領域に入っており彼の脳内の中ではどこか温度差のある空気が流れていた。

 それでもこの技を使えば、襲撃を阻止できたことを試合中の小猫や黒歌に伝えられる。一誠は祖父から使い方を伝授されるが…

 

「じいちゃん、俺も声が聞こえているんだぞ」

 

 一誠を制止するように、大一が彼の肩に手を置く。この新たな技だが、女性の乳に触れると考えた相手の心に語りかけるものであった。先ほどのビームによるロスヴァイセの一件を踏まえると、また奇妙な絵面と女性がとんでもないことになると予想するのは難くなかった。

 

【待つんだ、大一!無事であることを伝えるのは大切だぞ!】

「それでまた別の人にセクハラ行為するのは違うだろ!だいたい試合中に、余計な手出しすることだって問題だわ!」

【ええい、やっぱり頭が固いな!少しはイッセーを見習え!】

「あ、兄貴…じいちゃんの言うことも一理あると思うぜ」

「お前な、いくら試合の結果に大きく影響しないことであっても外部から変な手出しをするのはダメだろう。それにな───」

 

 そう言うと大一は手早く魔法陣を展開させながら上層部へと報告していく。同時に試合を見るために、映像を映し出す通信機器を取り出した。

 

「あの2人はわかっている」

 




パイフォン使っていないので、少し小猫と黒歌の様子は違うと思います。
次回はその辺りですかね。
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