そろそろ女性関係にもケリをつけていきましょう。
姉妹の熾烈な勝負を制したのは小猫の方であった。一連の活躍はこの試合でも大きな盛り上がりを見せた場面だろう。
しかしこれはレーティングゲームだ。たったひとりのメンバーで勝てるようなものではない。フェンリルと相対していたリアスは、ギャスパーとの合体技「禁闇と真闇の滅殺獣姫」を披露した。魔王クラスをも超えるほどの力を発揮したが、彼女自身が先に限界を超えてしまい倒れてしまったのだ。今後の試合に響くことやギャスパーからの後押しもあり、最終的にこの試合はリアスが投了をして、ヴァ―リチームの勝利という形で決着がついた。
現在は医療室で精密検査を終えたリアスはため息をつく。
「負けた姿をイッセーに見られるなんて…」
「いやいや、ギャスパーとの合体技があったとはいえ、あのフェンリル相手に最後まで戦えたのはすげえよ」
一誠は慰めるような口ぶりで、同時に心から思ったことを伝える。実際、神殺しの力を持つフェンリルに対して優勢に勝負を進めており、その実力を見せつけていた。他にもヴァ―リとクロウ・クルワッハの一騎打ち、伝説の聖剣使いであるストラーダの快進撃、当代の沙悟浄、猪八戒のテクニカルな戦法と両チームとも目を見張る場面が多々あった。それを証明するかのように医療室ではチーム入り混じって休んでおり、死神襲撃の防衛にあたったメンバーの多くもそこに集まっていた。もっとも幾瀬たちは次の任務があるといって早々に去っていたが。
一誠からのお墨付きをもらうも、リアスはどことなく腑に落ちない様子であった。王として彼女なりに思うことがあったのは間違いないが、それをここで口に出したところで変わるわけではない。
「私もまだまだ精進が必要ね…もっとも今回は試合を邪魔されなかったことは一安心だったけど」
そう言うとリアスは一誠を筆頭に仲間や協力者たちを見渡す。
「みんな本当にありがとう。タナトスたちの襲撃を防いでくれて」
「いやいや、当然のことをしただけだって。タナトスだってじいちゃんがいなければ勝てなかっただろうし」
「大切なリアスお姉さまたちの試合を邪魔させるわけにいきませんから」
「小猫たちの件だってあるからな。当然のことだ」
一誠を筆頭に皆が口々にそんなことないと主張する。彼らにとっては大切な仲間たちが狙われて、大切な試合を邪魔するような相手を放っておくという選択肢は無かった。
「そういえばイッセー、おじいさまはどうしたの?」
「ああ、試合の途中でいなくなったよ」
思い出すかのように一誠は自身の腕を見つめる。ちょうど小猫と黒歌の戦いが盛り上がっていた頃、彼の祖父は神器から去っていった。違う神話体系である極楽浄土へと向かうため今生の別れになりかねなかったが、最後まで息子たちがハーレムを築くことをプッシュしており、満足したまま去っていった。
一誠としては突然起こった突風のごとく驚きを感じた時間であったが、祖父と一緒に戦えたことや何とも言えない思い出を分かち合ったことなどは嬉しくもあった。別れ際に二度と会えないかもしれないと伝えられたが、雲外鏡の力を借りることも可能だろうし、一誠自身がもっと名を上げて極楽とも交流できるほどの人物になるという向上心にも繋がった。
「まあ、兄貴は最後まで口喧嘩気味だったけどな」
「よほどだったんですね…そういえば大一先輩はどこに?」
「ユーグリットとギガンをアジュカ様の眷属に預けに向かいましたわ。あまり時間はかからないと言ってましたけど…」
ギャスパーの疑問にレイヴェルが心配そうに答える。話題に出た大一はこの場にはおらず、上層部への報告と同時にユーグリットとギガンの身柄を再び預けるために別の場所へと向かっていた。
大一がかつて敵であった2人を引き入れたことは、すでに全員が耳にしていた。防衛を終えたアーシアたちも試合を終えた両チームも程度の差はあれど驚きに包まれた。特に彼に強い信頼を寄せているリアスと朱乃は渋い表情をしており、今回の大一の行動がよほど納得できないものであることが窺える。
「どうして兄貴がそこまでやるのか、本当にわからないよ…」
彼女たちにも劣らないほど腑に落ちていない様子で、一誠は頭をがしがしと掻きながらつぶやいた。兄が変な方向に思い切りのよいことは知っているが、かつて敵であった、しかも特に改心した様子もない相手を将来の眷属に引き入れようとするのは首をひねる想いであった。特にユーグリッドは自身の神器のレプリカを作ったやら、グレイフィアとロスヴァイセへの執着を目の当たりにしていたため、好意的に思う方が難しかった。
「別に気にすることじゃないと思うけどね」
空気が煮詰まりそうになる中、ベッドに座り込んでいた黒歌が軽く言う。皆の視線が彼女に向かうと、肩をすくめて話を続ける。
「別にあいつが裏切ったわけでもないし、少し前から自分のチームを作りたいって言っていたもの。それに白音、今回の襲撃について大一はどんな約束をしたんだっけ」
「…次の試合は本気で守ると約束してくれました」
「そういうこと。自分の目標の達成と、どんな手を使ってでも約束を守ろうとしただけ。いちいち目くじらを立てるほどじゃないにゃ」
あっけらかんと答える黒歌はぐっと身体を伸ばす。かつて敵同士であっても不思議と信頼関係が築ける。その方法は対話によるものであったり、全身全霊で戦うことであったりと様々だ。大一がそういったことも意識していたことを黒歌はよく理解していた。彼女自身、半年前に雪山で彼が信頼を寄せてくれた経験をはっきりと覚えているからこそ確信していた。
その言葉に一誠は意外そうに眉を上げる。
「なんか…黒歌がそんなふうに言うの珍しいな」
「あいつとはちょっとだけ分かり合えるところもあるってだけよ、赤龍帝ちん」
「イッセーでいいよ。しかしなんというか…ちょっと意外に思ってさ。兄と姉でお互い分かっているとかってやつなのか?」
「それもあるかもね。でも私としてはもっと深い関係になるのもありかにゃ♪」
「姉さま…」
にやりと魅惑的な微笑を浮かべる黒歌に、小猫は目を細めて不満を訴える。よく見ると朱乃の方もむすっと口を真一文字に結んでおり、一誠は余計なことを言ったと少し後悔していた。
そんな中、話題となっていた大一が医療室に入ってきてほっとしたように息をつく。
「ああ、よかった。みんな、ここにいるってさっき聞いたばっかりだったんだよ」
「ユーグリットたちは問題なさそうでしたか?」
「気味悪いくらいに従順でしたよ。ただギガンの方はアジュカ様が直々に出迎えて何かを話していましたけど…」
ビナーの姿であるグレイフィアの問いに、大一は軽く首をかしげながら答える。たしかに引っかかることではあるが、アジュカであれば問題に発展することは無いだろう。
そして彼が入ってきたことを確認した小猫は皆を見渡すように伝える。
「みなさん、改めてお礼を言わせてください。この度は死神の襲撃を防いでいただきありがとうございます」
元をたどれば、今回は自分たちの出生が原因で起きた事件だ。それを強く実感していたゆえに、仲間達が守ってくれたことには感謝しても足りないくらいであった。そのおかげで黒歌との決着もつけられたのだから。
小猫は深々と頭を下げた後、今度はリアスの方を向いて決意を込めた表情で告げる。
「リアス姉さま、ひとつ決めたことがあります。私はあの頃の名前を…『白音』を取り戻したいと思います」
突然の告白に聞いていたほとんどのメンバーが驚いていた。黒歌ですら目を丸くしていたが、唯一リアスだけは冷静さを保ったまま小猫の言葉を受け止めていた。
「…そう、ようやく決心がついたのね」
「本名を『白音』に、『小猫』をもうひとつの名前にすればいいかなと思うのですが、許してくださいますか?」
「許すも何もないわ。あなたがそう感じたのなら、それでいいの。それが1番なのよ、白音」
リアスに抱きしめられた小猫は顔をほころばせる。自分を救ってくれた主は自分の決心をしっかりと受け入れてくれる。それを理解するからこそ、彼女から貰った名前も特別であった。
「もちろんリアス姉さまから頂いた苗字も捨てられません。ですから、今日から公では『塔城白音』と名乗らせていただきます」
「じゃあ、私もそれに倣って『塔城黒歌』ってことでいいのかしら?苗字があるのも乙にゃん」
かつての名前を受け入れた小猫、妹が与えられた苗字を一緒に名乗る黒歌、この事実は2人が確執を乗り越えて姉妹としての結びつきをより強めたことを証明していた。
その感謝を示すように、小猫は次に親友であるレイヴェルへと向き合っていた。
「ありがとう、レイヴェル。私たちの試合を守ってくれて」
「いいえ、私の方こそお役に立てて光栄でしたわ。こね…白音さん」
「白音でいいよ。私たちは友達だもの」
「───っ。…はい、白音」
小猫とレイヴェルは手を取り合って友情を改めて確認し合うと、一誠がふと思い立ったように疑問を呈する。
「俺らも白音ちゃんと呼んだ方がいいよね?」
「今まで通り、小猫で構いません。そちらも私の名前ですから。あっ、ただ…」
小猫は言葉を切ると、ちらりと大一へと視線を向ける。遠慮的な慎ましい印象を感じつつも、同時に何かを求めているような矛盾した雰囲気があった。
そんな彼女に大一はゆっくりと近づいて目線を合わせるようにしゃがむと、落ち着いた声で問う。
「どうしてほしい?」
「…その特別な時とかは白音って呼んでほしい…です…。特に先輩には…」
顔を赤らめながらか細く訴える小猫は、はた目から見てとてもいじらしく可愛さが引き出されていた。それが何を意味するのか分かっていたリアスなどの外野はどこか面白そうにしたり、興味深そうに見ていたりと様々だ。
一方でその言葉を受けた大一も言葉の意味に気づかないほど鈍くはない。恥ずかしそうに頭を掻くと頷きながら言葉を紡ぐ。
「…俺も伝えたいことがあるんだ、白音。それと黒歌にも」
さっそく名前を呼ばれた小猫はさらに緊張し、黒歌はいきなり自分も呼ばれたことに少し面食らいながらも楽しそうに顔を向ける。
「へえ、どんな甘い言葉を囁いてくれるのかしら?」
「俺がそういうことを言えるほど器用だったら良かったのかもしれないが、方向性は違うな。ただ俺も礼を言いたかったんだ」
「お礼…ですか?」
「ああ、今回の襲撃にあたって俺は2人から伝授してもらった仙術で勝利をつかめた。小猫が一緒に修行をしてくれたから、黒歌が俺に才能があると言ってそれを掘り起こしてくれたから、ここまで強くなれたんだ」
仙術・火炎太鼓…仙術で集約させた気の力を炎へと変換させて一気に噴き出す技であった。黒歌が新たな可能性を提示して、小猫が一緒に修行したことで生みだしたこの新技は、今でも魔力の変質が上手くできない彼にとって一種の達成感を抱かせた。彼女たちの約束を守れたことや自身が強くなったことを実感した。
「本当にありがとう。2人のおかげで強くなれたし、約束を守り通せた」
「…そんなふうに言われると恥ずかしいですね」
「白音ったら照れてるにゃん♪こういうのは素直に受けて、見返りを求めてやればいいんだから」
そう言って黒歌は嬉しそうに小猫を抱きしめる。しがらみを乗り越えたことで、妹に対して遠慮なくスキンシップを取っていった。対して小猫の方もちょっと困った表情をするが、振り切ることは無くその関係性に喜んでいた。
小猫は幸せを噛みしめていた。試合にこそ負けたが、弱い自分を乗り越えて黒歌とわだかまりを解いたことは、心のどこかで常に残っていた靄を取り払ったようなものだ。
これほど幸せだからこそ、彼女はもうひとつ先に進みたかった。大一が自分の助力もあって仙術を身につけたと聞いた時、とても嬉しかった。自分が愛する男性の力になれたのだと。そんな彼が自分との約束を守るために全力を尽くしてくれたことも。
今である必要はない。だが待つ必要もなかった。
「…姉さまの言うことにも一理ありますね。先輩にお願いがあります」
「俺に出来ることなら引き受けるよ」
「一緒にいてほしいです…これからもずっと」
この言葉を伝えるのにどれだけ彼女が勇気を振り絞ったか、それは彼女にしかわからない。だがそれを証明するかのように瞳の奥で光が輝いていた。
周りが驚く中、大一の方も緊張した面持ちで、しかし妙に冷静さも感じられるような声で答える。
「…去年約束してからずっとハッキリ答えないまま引っ張っていたな。男としては失格だ。ごめんな」
「別にそういうつもりじゃ…」
「だからちゃんと伝えるよ。お前の真面目でひたむきなところ、とても尊敬している。俺にとって大切な存在なんだ。だから…あー…一緒にいようか」
大一が言い終わらないうちに小猫はぎゅっと抱きつく。やっとここまで来たことに、胸の内から温かい感覚がとめどなく溢れ、全身に行きわたるような感覚だ。
「先輩…好きです」
「ちょっと白音ばかりずるいにゃ!」
この状況に黒歌は半ば強引に割り込むと大一の頭を掴んで、口づけをした。唇が触れるだけのものではあったが、彼女が小刻みに口の角度を動かし、色気たっぷりのキスを行うのであった。
間もなく唇を離した黒歌の表情は、クリスマスの夜に大一へと向けた蕩けるように甘く魅惑的な雰囲気を放っていた。
「んちゅ…大一、私も本気よ」
「あ…え、えっと…!」
「ね、姉さま!いくらなんでも強引すぎです!私だってまだなのに…!」
「早い者勝ちにゃん♪ほら今度は舌も…」
「あらあら、それをいつまでも見過ごす私じゃありませんわ」
そこにとてつもないプレッシャーを放つ朱乃も介入し、幸福と焦りと対抗心が入り混じった混沌の空気感が彼らの周りを支配することとなった。
この様子にやれやれといった様子で一誠は頭を振る。
「じいちゃんが見たら喜びそうだな」
『というか、相棒がそれを言うのか…』
兵藤家の祖父からもろもろ介入を受けて疲れ切ったドライグの小さなツッコミは、驚く仲間たちや大一たちの様子に当てられて一誠に期待する女性陣のおかげで、ほどんどの人に聞こえることは無かった。
次回あたりを24巻分のラストとしたいと思います。
もっとも言うほど原作沿いではありませんでしたが。