この辺り、原作で出てくるいくつかの単語が早口言葉みたいになっている印象です。
大会をさらに熱狂の渦へと投じさせたリアスとヴァ―リの試合から数日後、各国が注目する試合が堕天使領土にある会場で観客たちは試合の時間を待っていた。まだ開始まで1時間近くあるのに、すでに客席には多くの人が入っており会場中の物販店を見て回ったりと圧倒的な期待値が可視化されていた。お目当ては優勝候補であるマハーバリ率いるチームだろう。
兵藤大一はVIP専用の観客室に足を運んでいた。今回はアジュカ・ベルゼブブの護衛として来ており、悪魔のローブを羽織ってどことなく厳格な雰囲気を漂わせていた。
一方でアジュカはくつろいだ様子で椅子に腰かけている。大会運営の中核である彼だが、この試合はゲストとして招かれていた。
「護衛を引き受けてくれて助かる。俺の眷属は大会関連でちょっと手が離せなくてな」
「いえ、これくらいはやらせてください。アジュカ様にはユーグリットやギガンの件でお世話になりましたから」
「気にするな。そもそも上層部でも持て余し気味で、今後の処遇については迷っていたんだ。少なくとも魔力については」
頭を下げる大一に、アジュカは気にしないようにと手を振る。実際、「異界の魔力」の特性である隠密性の高さは強力であったが、高い感知能力や結界で対応は可能であり、それ以外には特異性がほとんどないことや「フェニックスの涙」を受けつけないといったデメリットもあるため、冥界では重要性が低下していた。コカビエルから得た情報も後押ししているのだろう。
ただアジュカが最後に付け加えたような言い方に疑問を感じていると、右肩から出てきたシャドウが不信感丸出しで声を上げる。
『つまりちょうどよくコントロールできる方法としてラッキーだったってわけだ。その結果、僕らは実質的に後始末をやっていたわけだ。赤龍帝たちには強い武器を送るのに』
この日、一誠のチームは兵藤家にて堕天使現総督であるシェムハザを迎える予定であった。そこでは一誠専用の新たな武器として創られた「アスカロンⅡ」、神クラスも扱う北欧の宝具「ミスティルンの杖」、失われたと思われていた「エクスカリバーの鞘」が渡されることを上層部との会話から耳にしていた。
大一は慌ててシャドウを左手で押さえつけながら謝罪する。
「シャドウやめろ!申し訳ございません、アジュカ様!」
「別に構わない。そう思っている輩もいるだろうからな。ただギガンの件は少しタイミングは悪かったが…」
「ど、どういうことですか?」
「先日の死神の襲撃の話で、妙な悪魔が現れたことは聞いているな」
アジュカの問いに短く頷く。プルートたちの襲撃時にベルディムと名乗るはぐれ悪魔が現れてゼノヴィアたちと交戦した。その件についてはすでに「D×D」内でも共有されているため、何を指しているかはすぐに理解した。
同時に嫌な予感もした。わざわざ正体不明の悪魔についての言及をギガンの話題でやるということは…。
「それが異界の地の人物だったと…?」
「その通りだ。ギガンに確認したところ、素直に教えてくれたよ。だから最初は彼が手引きしたと思う者も当然いた」
「し、しかしそれなら自分だって感知できたはずです。あの魔力は同じものと引き合うのですから。それにギガンは…」
「いやこの短い日で疑惑は払拭された。こちらがユーグリットも含めて、通信については徹底して監視しているからな。キミが感知できなったことについては俺も確信は持てないが、距離の遠さで出来なかった可能性は大いにある。それに調べたところ、今回はアスタロト家の領土から潜入していたみたいだ。嫌な予感はしたが…」
言葉を切って軽くため息をつくアジュカには優美さと同時に、ひどく面倒そうな雰囲気が漂っていた。いつもの余裕を持った態度とはまるで違うその雰囲気は、ユーグリットの一件でサーゼクスが疲れ切っていた時とどことなく似ている。
そんな彼に、事情を察した大一は遠慮がちに問う。
「あの…アジュカ様はベルディムという男をご存じなのですか?」
「名前だけは聞いたことがある。アスタロト家の人物であったが勘当された悪魔だ」
その回答に大一は驚きで息をのむ。現魔王としてベルゼブブの名を持つアジュカであったが、もともとはアスタロト家の人物だ。それゆえにこの一件について問題の根深さを感じているのだろう。またアスタロト家はディオドラがかつて禍の団と組んでいた経歴もあるので、頭を悩ませるのも当然であった。
「俺よりも昔の人物だが、噂は聞いたことがある。『凶弾』と呼ばれた男だ」
「そんな人物が何の目的で襲撃してきたのでしょう?」
「それが問題なんだ。そもそも彼がなぜ勘当されたか、それはテロ活動とかの類では無い。単純に…あー…素行の悪さが問題だったからだ」
「そ、素行ですか…?」
「そうだ。他の上級悪魔の妻に手を出したり、腕慣らしという理由で冥界の1部隊を半殺しにしたりと挙げ始めたらキリがない。性格も横暴で自分本位だったらしく、実力がものをいう悪魔でも見過ごせないため勘当されたんだ」
開いた口が塞がらなかった。旧悪魔時代的な上級悪魔至上の考え方や実力主義の実態を何度も見てきたが、それを以てしても勘当されるとはどれほど厄介な人物だったのだろうか。ただゼノヴィアたちが戦った時の状況を聞くと、半ばイカレているような印象は確かに感じてしまうのも事実であった。
「言っておくが、これはまだ口外しないでくれよ。上層部の貴族どもが渋い顔をするからな」
「やはりアスタロト家の問題だからでしょうか…」
「それもあるが、旧悪魔派としてはあまり関わりたくない問題なんだ。戦争序盤にその実力から成果次第では勘当を解くという条件付きで戻そうとしてな。ただベルディムは勘当には興味が無く強い奴と戦うためだけにそれを了承した。そして戦争時に命を落とした…と思われていたわけだ。上級悪魔全般の汚点でもある上に、利用しようとして死なせた経緯もあるから扱いづらいのだろう」
アジュカは額のあたりを悩ましげに指で叩きながら、言葉を続けていく。
「しかしそんな男がなぜか今頃になって現れた。ただ戦いたいという理由でも納得できるが、なぜ今のタイミングなのか。そもそも俺がベルディムを異界の地と関連付けたのは、戦争時にあいつが幾度となく戦ってきた天使がハニエルと知っていたからだ」
「ハニエルってゼノヴィアやイリナが倒したあの大天使ですか」
「そうだ。彼も死んでいたと思われていたが、実際は生きてテロ活動にまで加担した」
「つまりアジュカ様はベルディムにもそういった狙いがあると?」
「可能性の話だ。しかし異界の地はまだ未解明なことがいくつもある。それどころか、これまでの件であの地に住む存在に警戒が強まるのは当然だろう」
大一の脳裏にクリフォトに協力したメンバーや命を救ってくれたアリッサが想起される。ギガンを筆頭に彼らは現世界への不満や自身の存在を証明するために暴れていたし、敵対しなかったアリッサも一線を引いたような態度であった。そういった根底に相容れない感情を抱く者たちを危惧しているのだろう。
「先日のタナトスの一件も大きな事件だ。あれによって、ハーデスが何かを目論んでいることは疑いようもない。それらを踏まえると、『D×D』への期待値は否応なしに高まってくる。先ほどキミの神器が指摘した赤龍帝たちの件もテロ対策としての強化のためでもあるんだ。批判もあるが、抑止力としても必要だ」
淡々と説明するアジュカであったが、その裏には強い責任感がにじみ出ていた。どちらかといえば興味あることへの探求心を持つ研究者としての気質が強い彼であるが、残った魔王として調和のために責務を全うする決意がたしかに存在していた。
それならば残ったルシファー眷属として大一が取るべき行動は決まっている。彼は静かに魔王へと跪く。
「私も微力ながら戦います」
「正直なところ、かなり当てにしている。奇跡を起こし続けてきた赤龍帝の兄としても、異界の地関連のカウンター的存在としてもな」
アジュカは小さく自嘲的な笑みを浮かべながら答える。サーゼクスや炎駒、グレイフィアが見たら腑に落ちないような表情をするだろうし、アジュカもそれはよく理解している。しかしもはや大一は現悪魔政府の兵士として必要な存在であり、人手が少ない現状では利用せざるをえなかった。
「まあ、だからこそ自分を大切にすることだ。キミの弟のように心の支えは離さないようにな」
「…心得ています」
どことなく面白そうな表情のアジュカに、大一は短く頷く。信頼できる仲間、共に生きていくと誓うほど愛する相手も増えた。それは彼の心をメラメラと燃やし、未来への決意をさらにたぎらせるのであった。
それにしてもアジュカの言い方と表情はどことなく見透かされているようでドキリとする。一誠のことを挙げたことで頭の中でシャドウが舌打ちをしていなければ、そちらが気になって動揺していたであろう。
決意と和やかさが入り混じった不思議な空気感が流れていたが、2人ともこの時は想像していなかった。これから行われる試合で優勝候補一角のマハーバリが敗北し、新たな波乱の種が蒔かれることを。
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「『ブラックサタン・オブ・ダークネス・ドラゴンキング』…ってなんだそれ?」
「昨日、アザゼル杯でマハーバリのチームを倒した奴らよ。若手悪魔が中心らしいけど、かなりきな臭い連中ね」
ベルディムの問いに、アリッサは机上にある設計図らしきものにペンを走らせながら答える。場所は異界の地、彼女の住まいにて2人は話していた。
「神をも下したその実力は超越者級…リーダーが上級の死神ってことや前に得た情報も考えると冥府が関わっていることは確かでしょうね。まさかとは思うけど悪魔を創った可能性も…」
「ありえるのか、そんなこと?」
「普通は無理でしょうね。ただクリフォトのボスであったリゼヴィムは、リリスを母に持つ存在。本当か否かはわからないけど、あらゆる悪魔のスタートとしてリリスが関わっていると言われる。そこに目をつけた可能性はあるわ。ハーデスが超越者を生みだそうとしているのもわかっているもの」
「つまりクリフォトの研究をハーデスが利用しているってことか。そのチームがマハーバリの一行を倒したと…気にはなるな」
そう言ってベルディムはジョッキに注がれていた液体をがぶがぶと飲んでいく。酒が喉を通っていく音にアリッサは苛立ちながらペンを止めて後ろを振り向く。
「というか、それ何杯めよ。私が作った果実酒を飲み干すつもり?」
「酒は飲むためにあるんだぜ。この前の戦いを中断させられたのを、これでチャラにするんだから感謝して欲しいもんだ」
「もともと時間制限つきって言ったでしょうが。あなたのワガママを通したんだから文句を言われる筋合いはないわ」
ただでさえ吊り上がり気味の目をさらに鋭くさせてアリッサは抗議する。たしかにベルディムを勧誘する際に聖剣の所有者と戦うことをダシにしていたが、その際は可能性を提示したに過ぎなかった。情報収集のために死神と戦わせたりしたが、それでは物足りなかったらしい。
彼女の言葉は全く響いた様子は無く、ベルディムは樽からお代わりを補充してあくびをする。
「おいおい、俺はお気に入りのブレードも失ったんだ。これくらいはいいだろ」
「お気に入りってせいぜい数十年でしょうに。だいたい武器だって、あなたならいくらでも扱えるでしょう?」
「死神の得物をひとつ持ち帰ってきたが、鎌はまだ使ったことねえからな。試してみるのはいいが、あんま実用的じゃなさそうなんだよな。しかし惜しいぜ。あのまま戦っていたらもっと楽しめそうだったのに」
イカレている、そんな感想がアリッサの脳内に浮かんだ。勝つことよりも戦うこと自体に主軸を置いている彼がルールを徹底していた冥界で生きていたことが不思議に思えた。もっとも上手くいかなかったから勘当されたのだろうが。
とはいえ、先日の戦いで収穫もあった。ベルディムの自己満足が目的でこそあるが、冥界の戦力をいくらか知ることができたのは大きい。特にテロ対策チーム「D×D」はいずれ調べる必要があったため、その中核メンバーの一部と戦えたことは大きい。
またギガンの生存が判明したのも重要だ。ベルディムが移動中にわずかに魔力を感じたらしい。てっきり処刑されたとも考えていたので引き込めるかもしれない。ただ死神と戦っていたことを踏まえると冥界政府に組み伏した可能性もあるが。あの男の性格ではありえない気もするが、政府がなにかの取引をしたのか、それとも関係性がありそうな兵藤大一辺りが説得でもしたのか…。
アリッサが思考の渦に飛び込み考えを整理している中、ベルディムはまた酒を煽る。そして値踏みするような視線を向けると、注意を向かせるように少し大きめの声で話す。
「ところでよ、そろそろ教えてもらおうか」
「…なにを?」
「お前、誰からどんな依頼を受けたんだよ」
この問いにアリッサは眉根を上げる。ただ意表を突かれた様子は無く、想定内の問いであったことが窺えた。
そんな彼女の様子を気にせずに、ベルディムは話し続ける。
「お前に因縁のある鎧武者が冥府で蘇ったことは、前に死神どもから聞いている。だがその件よりも冥府の実情や冥界の戦力を調べることを優先させたな。あの鎧武者の件はわざわざ外の世界に干渉するほどだったのに、今回は目もくれなかった。因縁無視してまで本領じゃない調査をする辺り、誰かに依頼されたとしか思えないんだよ。まあ、誰かはだいたい察せるが、そうなると今度はどんな目的かが分からねえ」
「…そうねえ。あっちもまだ調査段階だから仮説しか立てていないのよ。ただもし本当のことなら、戦う必要があるだけ。三大勢力や冥府とね」
「そこまでか?」
「そこまでよ。あなただって他人事じゃないんだから。超越者や神クラスともやり合う可能性が」
「所詮は、外の世界での格付けだ。それに勝負は必ず実力通りにいかないってのも醍醐味なんだからよ」
舌なめずりしながらベルディムは答える。アリッサとしては、自分に今回の一件を依頼した人物は彼を誘うことを見越していた気がした。直接的に誘えば、狂犬のごとくその人物にもケンカを売るだろうし、まだ実力的にも劣っているうえに多少は似たような立場のアリッサの方が問題なく引き受けてくれるだろう。それでも彼女としてはたまったものじゃないが。
「強い奴と殺し合えるってのは血がたぎるってもんだ。まあ、お前はもっと強くなる必要があるだろうな」
「私だってこのままで終わらせるつもりはないわよ。本当にやり合うなら、外の奴らごときに後れを取らないわ」
冥府ではハーデスが野望を企む一方で、はみ出し者が集まるこの地でも冥界への対抗心を燃やしているのであった。
次回からは25巻辺りをイメージします。
ただ原作とは徐々に違う展開になってくるでしょうが…。