D×D 外道の悪魔   作:水飴トンボ

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話自体は大きく進展していませんが、必要な内容だと思います。


第29話 熟考

「あふっ…」

『おーい、起きろー。眠るならそのペンを置いてからにしろー』

 

 眠そうに欠伸をする大一に、シャドウは頭の中で呼びかける。大学の図書館にてレポートを仕上げようとしていたが、ペンを握る義手の動きはゆらゆらとさまよい、集中力もすっかり欠いていた。

 昨夜、上層部に呼びだされた大一は例によって一部からの手厳しい批判の的になり、さらに上層部それぞれの意見が飛び交って議論まで始まったせいで、彼が帰宅を許されたのは日の出近くであった。そのままシャワーを浴びたり、トレーニングをしたりと時間が流れ、大学へと向かった。短時間の睡眠に慣れた彼もさすがに徹夜はこたえたようで、昼を過ぎたあたりから頭の回転は鈍くなっていた。もっともこの後に講義が終わった教授を捕まえてレポート課題を提出しようとしていたので、睡魔に負けるわけにはいかなかったのだが。

 

(…どっかで1時間くらいは眠ればよかったな)

『まったくあの老いぼれどもめ。僕らへの責任追及やら、生産性も無い議論するわ、ただの老害だぜ』

(お前さ…やっぱり文句増えているよ。そんなに神滅具に選ばれなかったことが不満か?)

 

 大一は目をこすりながらシャドウに問う。憎しみ、怒り、嫉妬、無力さ…挙げ始めればキリが無いほどのマイナス感情がこの神器に力を与えているのは、相棒である彼が最も理解していた。そしてこの神器が自らを最も強くする感情を学んだことで、今の自我が形成されたことも。

 それでも大一やディオーグとの出会いや教会の戦士たちとの戦いを通して、孤独と別れを告げ前に進むことを意識できるようになったと思っていた。

 しかしここ最近は輪をかけて不満を吐き出し、文句と愚痴が増える一方であった。シャドウ元来の性格と言われればその通りであるが、大一ですら見過ごせないほどであった。

 その原因はわからないが、神器関連で神滅具が新たに認定されることがどうしてもよぎってしまう。普段から神滅具への文句を垂れ流している様子を知っていれば、尚のことであった。

 

(神滅具にこだわりすぎだ。お前はお前なんだから、俺の相棒として一緒にやっていこう)

『僕は…それもあるが…いやそんなことはどうでもいい。僕だってキミの方にも一言モノ申したいよ』

(なんかあったか?)

『あのヴァルキリーのお見合いだよ。どうしてそこまで冷静にいられるんだ?』

 

 シャドウにとって、己の主が他の者(特に勝手に目の敵にしている神滅具所有者など)よりも優れた面があるのは誇らしいことであった。それが恋人の数という誇っても意味の無い、悪魔以外の世界では軽薄や不誠実に捉えられるようなものでもだ。そういう意味ではせっかくある程度の好意を持たれている彼女のお見合いを、大一があまり反応していないことには不満であった。

 

(冷静にって…すでにお見合いは決まっているんだから仕方ないだろうに)

『だがあのヴァルキリーは迷っているだろうに。もっとこう…!あるだろ!?』

(なにがだよ)

 

 まさか好意に気づいていないのだろうか。いや朴念仁と呼ばれるほどの鈍さは持っていないし、そんな人間なら朱乃たちともそこまでの関係を構築できていないだろう。

 それとも本当に「仕方のないこと」と割り切っているのだろうか。大一自身、当時の主であったリアスとライザーの一件について傍観していたし、ここ最近は上層部にちょうどいい駒のように扱われている。本人がそういった扱いに慣れてしまったせいか、他者に対しても従うことは当然のものと認識しているのだろうか。

 互いに相手へ煮え切らない感情を抱いていると、大一のスマホに短いメッセージが入った。確認すると朱乃からであり、指定された場所へと今すぐに来てほしいという内容が記されていた。

 大一は眠そうに欠伸をかみ殺すと、道具をバッグへと詰めて図書館を後にする。もっとも緊急事態でないのは、彼女のメッセージにわざわざ♡マークがついていたから明らかなのだが。

 間もなく彼は構内に設けられたカフェへとたどり着く。メッセージ通りにテラス席へと目を向けた。するとリアスと朱乃が何人かの女生徒(大一は知らないがおそらく友人だろう)と一緒に座っているのが見え、同時に高校の制服を着た人物も捉えた。駒王学園の大学部と高等部は近く、大学側の施設を利用する高校生もいるためそこまで珍しいわけではないが、その人物がすぐに誰か気づくと近くに行って声をかける。

 

「一誠、ここで何やっているんだ?」

「あ、兄貴か。いやリアスたちとちょっと話し合いで…」

 

 どことなく気圧されたような雰囲気で、一誠が答える。弟らしくない反応に意外そうに眉を上げるが、すぐにその理由を彼は直面するのであった。

 

「兵藤くんの弟なの!?グレモリーさんの彼氏ってだけで驚いたのに…!」

「うわぁ、兄弟2人とも美人を彼女に…」

 

 ざわざわと女性たちが驚きを口にする。この反応だけで事の経緯を大一はだいたい想像できた。大方、リアスが自分の彼氏として一誠を紹介し、それに伴って自分も呼び出されたのだろう。それを裏付けるように一誠は嬉しさと恥ずかしさが入り混じったような表情をし、リアスは誇らしげな印象が見受けられた。これでも魔力で認識をいじって、一誠の基本情報は露見しないようにしており、高等部への情報の漏洩対策までしているようだ。

 もっとも大一としては他校にも知られていたほどエロいと評されていた弟が、このように年上の女性に囲まれて興味を持たれること自体が不思議な光景であったが。

 すると女性のひとりが指で四角を作り、それを通して大一と一誠を交互に見比べていた。

 

「うーん…たしかに似ているっちゃ似ているかな?でも兵藤くんって顔半分くらい傷で元の顔がちょっとわからないしな」

「ちょっとそれ言ったらマズいって」

「別に俺は気にしないよ。事実だし。ただあまり似ていると思わないけど」

「正直、兄貴と似ているって言われても勘弁してほしい感じだけど」

「その言葉、そっくりそのまま返してやる」

 

 兵藤兄弟が互いに容赦ないやり取りをしている一方で、リアスはここぞとばかりに一誠の自慢を展開させていく。

 

「たしかに年下だけど、とても頼りになるのよ。私もそれで甘えちゃうわ。それでいて可愛いところもあって───」

「グレモリーさん、ベタ惚れだね」

「いいなぁ。私も年下の彼氏作ろうかな」

 

 同い年の女性相手に恋愛の話をしたいのは理解できるも、親友が弟をこれでもかというほど褒めている場面に居合わせるのは、どうも大一としては決まりが悪かった。一誠の方は恥ずかしそうにしつつも、同時に嬉しさも入り混じっており、当事者の関係者である兄の方が落ち着かないという何とも微妙な光景となっていた。

 早々に朱乃からの助け舟を求めたかったが、彼女の方も先ほど大一と一誠を見比べていた女性を中心にスマホの写真を見せていた。

 

「この時のデートの写真とかはしっかり顔も映っていますわ」

「こう見ると、兵藤くんの方が大人っぽい感じがするな。身長もあるんだろうけど」

「うわぁ、距離感近い…やっぱり姫島さんは前の兵藤くんも知っているから付き合っている感じ?」

「それもあるけど…彼の顔だけが好きになったわけじゃありませんから」

 

 朱乃の言葉に胸がざわつく。自分もそうだと口から出そうになったのをぐっと飲み込み、恥ずかしさをごまかすかのように小さく咳払いをする。すぐ近くにいる弟も同じような感情を抱いているのだろうと、彼は身をもって知ったのであった。

 リアスたちの彼氏自慢を中心とした女子会が終わり、ようやく4人だけになったところで一誠が抱えていた本題へと入っていた。

 

「ロスヴァイセさんの件でどうにも納得できなくってさ…」

「私自身も今回の強引なお見合いは反対よ。ただ彼女の今の主はあなたよ、イッセー。彼女自身も意思も尊重して当然だけれど、あなたの意志も重要なの」

 

 動揺と苛立ちを隠しきれない様子の一誠に、リアスはきっぱりと答える。上級悪魔として自分の眷属を持つ以上、それは必ず直面する悩みであった。眷属の振る舞いが主の評価に繋がるのと同じように、主が眷属をどのように接し扱うかも上級悪魔としての格を問われることだ。そういう意味では今回の一件は、一誠にとってひとつの試練とも言えた。

 

「俺は…」

 

 一誠としては今回のお見合いが設定されたと知ったとき、自分にとって頼れる大切な仲間が奪われるような気持ちであった。上級悪魔になってから仕事でも試合でも素晴らしいサポートをしてくれていた。恋愛…というよりも悪魔になった頃のリアスたちに抱いていたような頼れる姉のような感覚だ。

 そんな彼女の今後を決めるようなことを勝手に決められたことはむかっ腹が立つし、もっと言えばそのまま北欧側に結婚を決められて自分の下を離れるかもしれないのも嫌であった。それならば自分がどうしたいかというのは…。

 一誠が考えをめぐらして小さくうなる一方で、リアスは大一にも目を向ける。

 

「それと大一。あなたにとっても今回の一件は無関係じゃないわ」

「ええ、わかっています」

「本当に?」

 

 もともとリアスはアザゼル杯では自らの縁で獲得した眷属たちと参加しようとしていた。その想いを抱えていた頃に、大一からロスヴァイセに一誠のサポートをしてほしいと頼み込んできた。ヴァ―リチームも交えた無人島で釣りをしていた時にその頼みを当人も交えたうえで受けたことはよく覚えている。

 別にこの頼みがお見合いを誘発した原因になったわけじゃない。しかしリアスが特に信頼する仲間が当事者であるロスヴァイセをないがしろにした提案をするとは思えなかった。それこそ同一の契約相手を持ったり、魔法を教えてもらったり、大人的立場で戦っていたりと数え始めればキリがないほど繋がり深い相手なのだから。

 

「私はあなたの考えも知っておきたいの。あなたがどうしたいのかを」

 

 リアスは一呼吸入れると、肉体にメスを入れるかの如く本題に切り込もうとする鋭い声で問いかける。それに対して大一はまったく動じた様子無く手元のコーヒーを一気に飲み干すと、いつもの調子で答える。

 

「俺はロスヴァイセさんの判断に任せますよ」

「あなたねえ…!私はそういうことを聞きたいんじゃ」

 

 抗議しようとするリアスであったが、大一は手を軽く振って遮ると言葉を続けていく。

 

「今回のお見合いは形だけで婚約を断ることもできるとなっているでしょう。そもそもヴィーザル様の人柄も何も知らないですし、受けるかどうかはあの人が決めることだ。そこに俺の想いが入る隙などありません。ロスヴァイセさんは…いい人なんです。あの人から多くを学び、救われたこともあった。だからあの人が納得し幸せになる決断をして欲しい、それが俺の考えですよ」

 

 そこで言葉を切ると大一は立ち上がり財布を取り出す。

 

「この後もあるので、お先しますよ。支払いは俺がやっておくんで。一誠、あまり長居して不審がられるなよ」

 

 弟への忠告も併せて彼はそのままレジへと向かっていった。残されたリアスは頬杖をついて納得できない気持ちを表情に出していた。

 

「あれって本音かしら」

「昨日、俺がこの話題を出した時もあんな感じで淡々としていたよ。兄貴がなにを考えているのかわからないな…」

「あらあら、リアスもイッセーくんも落ち着かないんだから。2人とも前にいろいろあったから結婚の話になると敏感になりすぎですわ」

「別に私はそういうわけじゃ…」

「リアスったら。今回のお見合いでフェニックス家との結婚の時を思い出しているのは丸わかりよ。少なくとも私には」

 

 実際、朱乃の指摘は正しかった。強制的に組み込まれたこの結婚について、似たような経験を味わっていたリアスはその時の想いと併せて意識していた。自分を助けるために一誠が全力で戦ってくれたこと、思い返せばあれが彼に強い好意を抱いたきっかけであった。もちろん当時の一誠と似たようなことをしようものなら止めるだろうが、少なくともその熱意を感じられるような反応を大一に対して無意識に期待していた節はあった。

 また彼自身、リアスや一誠のような主というわけでなく違った立場ゆえに考えていたこともあったのだろう。

 

「たしかにリアスの婚約はあったし、アーシアちゃんもディオドラに迫られたりといろいろありましたものね。落ち着かない気持ちはわかります。でもそれだけでは事態は変わりませんわ」

「朱乃さんも兄貴と同意見ってことですか…?」

「現時点でやれることは全てやっていると思っただけよ。すでに抗議もしているし、こちらが同席する分には相手も理解しているもの」

 

 朱乃は諭すように優しく話していく。少なくとも現時点でお見合いすることを取り消すことは不可能であったし、断る選択肢も用意されているのだ。そういう意味では、焦ってもどうしようもないのは事実だろう。

 

「大丈夫。さっきの大一の言葉は本音だと思うから。ロスヴァイセさんを悲しませるようなことを彼はしない。もう少し事情が分かれば、勝手に行動するわ。お節介だもの」

 

 余裕な態度を崩さずに言い切る朱乃は、まだ不全さを残しているリアスと一誠を尻目に紅茶を飲む。もっとも彼女とて大一の態度を全て肯定してはいなかった。席を離れる寸前にわずかに見えた思慮の表情、あれを何度も見てきた彼女としては何を意味するのかは気がかりであった。鼻腔をくすぐる優しい香りを堪能しつつ、それがロスヴァイセへのためを思ってのことだと願うばかりであった。

 




朱乃さんが原作よりも余裕ある気がする…。
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