D×D 外道の悪魔   作:水飴トンボ

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兄弟だからこそ納得できない、容赦しないことはあると思います。


第31話 信頼

 波乱の因縁が決まったお見合いから数時間後、ロスヴァイセは帰宅するなり自室で寝込み酔いの気持ち悪さと格闘していた。ブリュンヒルデに会ったことで一時的に醒めたものの、大量に流し込んだビールのアルコールは彼女の体を容赦なく襲ったのであった。

 一方で北欧主神ヴィーザルからの喧嘩を受けて立った一誠は、自室で憤然とした表情となり声を荒げていた。

 

「それどういう意味だよ、バカ兄貴!」

「言葉通りだ。俺はお前のチームメイトとして参加する気はまったく無い」

 

 胸倉を力強くつかむ弟とは対照的に、大一の方は無機質な態度であった。部屋にはリアス、アーシアもいて行く末を見守っている。

 この兄弟喧嘩の発端は単純なもので、大一が一誠のチームメイトとしてアザゼル杯に参加することを断ったのだ。次の試合においてヴィーザル達に勝利すれば今回の婚約は破棄できるものの、相手が出してきた条件に大一もチームメイトとして参加することを提示された。現時点ではそもそも前提条件すら満たせていないのだ。ロスヴァイセのお見合いを勝手に進められたことの不満が爆発したばかりの一誠にとって、この発言は再び怒りを加速させることとなり兄にぶつけていた。

 

「いくらなんでも納得できねえ…!兄貴はこのままロスヴァイセさんを奪われてもいいのかよ!」

「それ以前の話だ。お前も売り言葉に買い言葉で対応するな。考えてもみろ。アザゼル杯は国際的なレーティングゲームの大会。どのチームも出来る限りは準備をして優勝を狙っている。お前もそうだろう。それを相手の条件でチームメンバーを決めればそこを攻略しようと考えるはずだろう」

 

 大会の規定上、他チームと選手の2重登録さえしなければメンバーの入れ替えは可能である。そこで控えのメンバーを出すかどうかという読み合いなどが関わるが、このまま彼が参加すれば相手はそこを攻略するだろうし、騎士道精神でそういったことを行わなくても今後の試合にも影響を及ぼす可能性はあった。

 

「それに俺はリアスさんの誘いを断っている身だし、残ったルシファー眷属としていくつもある冥界のチームでお前だけに肩入れすることは難しい。上層部もその辺りを分かったうえで仕事を振っているし、また旧悪魔派閥の有権者に指摘されればアジュカ様がまた厄介ごとに巻き込まれる」

「グレイフィアさんのようにすれば…」

「あの人のように正体を隠すような術が無いことは知っているだろう。そもそも賭け事を持ちかけて相手のチームメイトを縛るような行為、他の勢力が何を言うかわかったものじゃない。仮にも神クラスが多くいるチームが姑息な手段を使ったと思われれば、北欧勢力にも迷惑がかかる」

 

 大一は淡々と説明を続けていく。D×Dに所属しているとはいえ、現時点では彼の立場はお世辞にも自由とは言い難かった。相手が提示した条件で彼がアザゼル杯に参加することで、余計なしがらみがついてくる可能性は大いにあるだろう。

 ただ引っかかるのは、ヴィーザルがその可能性についてまったく言及してこないことであった。オーディンに代わって主神を務めるほどの人物がそこに思い至らないのは不自然であった。

 いや気づいている、その確信があった。飄々としながらも目の奥にぎらついていた闘志や最後に言い放った宣言から、なにを目的としているのかも明白だ。

 しかし一誠は兄の態度に苛立ちを加速させていた。どうしてここまで関心が薄いのか、どうして条件を飲んで戦うくらいの気概を持てないのか、腑に落ちない事象が脳内で消化されず怒りへの燃料として燃えていく。これが無関係な人物ならば冷静でいられただろうが、血の繋がる兄が仲間を見捨てるような言動を取っている事実に間もなく我慢の限界が来ていた。

 

「兄貴は自分のためだろ!俺の下にいるって思うのが嫌なだけで!」

 

 部屋の空気感が電気を通したようにビリっと変わるのが感じられた。大一が一貫して感情を出さなかったのは問題だが、さすがにそれは言いすぎだとアーシアは思った。言い放った一誠ですら、すぐに後悔して腕の力を緩めたほどだ。

 対して大一は一瞬何か反論しそうに口を開くも、ぐっと唇を結び直しゆっくりと一誠の手を引き離した。

 

「お前の言う通りだ。お前に勝ちたいって気持ちがあるから、その下につくことに我慢できない…そんな欲深い男だよ」

 

 それで本当に良いのか、大一に問いただしたかったが部屋の空気は重く、それが舌にまで影響したかのように口が回らない。

 沈黙はこのまま問題をうやむやにしかねないと思われたが、意外なことに大一の方からそれを破った。

 

「一誠、少しだけ時間をくれないか」

「時間って考える時間ってことか?」

「いや、この問題を解決する時間をだ。追加メンバー申請の期日はまだある。それまでにどうにかしたいと思う。もしダメだったら…おとなしく相手の条件を飲んで戦おう」

「なにか勝算が…いやわかったよ。それでいい」

 

 もはやここで言い争っても意味がないことは一誠自身が理解していた。気まずい空気は残るものの、大一はそのまま扉へと向かっていこうとする。しかし部屋を出る直前で立ち止まると、振り返って申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「たしかに俺の態度が曖昧なのは謝る。すまなかった。でもロスヴァイセさんを心配していないというのは見当違いだ。あの人に幸せになって欲しい、ずっと本音を話していたつもりだよ」

 

 それだけ残した大一は部屋を出る。扉が静かに閉じられると、張り詰めた空気感も少し緩和され、一誠は後悔するようなため息をついた。

 

「ハア…上手くいかねえ…」

 

 前にもこんなことがあった。兄に対してはどうも遠慮なしに不満をぶつけやすい。正直なところ、焦りもあるだろう。相手は神クラスが複数おり、平均的な実力は圧倒的なものだ。もちろん勝つつもりではあるが、不安が少なからず感じられるのは仕方のないことであった。

 がっくりとうなだれて座り込んだ一誠に、アーシアは優しく腕を掴みながら慰める。

 

「その…イッセーさん、あまり気負いしすぎないでください。私たちで必ず勝ちましょう」

「ありがとな、アーシア」

「イッセーが苛立つのも無理ないわ。でも今は待つしかないわね。ダメだった時は…まあ、その時は大一がチームに参加するって約束したんだから」

 

 妙に冷静なリアスの姿に、一誠は不思議そうな視線を向ける。つい先日、大学で一緒に話した時は一誠の意見に賛同するようなヒートアップした態度を見せていた。お見合い時も落ち着かない様子であったことを祐斗から聞いている。しかし今は大一を肯定こそしていないが、区切りがついたように落ち着いていた。

 アーシアも同様の視線を向けており、リアスもそれに気づいたのか言葉を付け加える。

 

「焦ってもどうにもならないと思っただけよ」

 

 部屋を出る直前に目の当たりにした大一の表情、それは彼女が幾度となく見てきた覚悟を決めた時のものであった。少なくとも自分が心配しなくても彼は動くだろうと確信すると、リアスの荒れかけていた感情はだいぶ穏やかに変わっていた。

 

────────────────────────────────────────────

 

「んぐぅ…」

 

 苦しむようなうめき声を上げながら、ロスヴァイセは目を開ける。部屋は暗く、まだ深夜であることはすぐに分かった。お見合いから戻ってからすぐに寝込むことになってしまったため、中途半端な時間に起きてしまったようだ。このまますぐに再眠できればよかったのだが、内部からガンガンと打ち付けるような頭痛がそれを許さなかった。

 ふらつきながらも起き上がった彼女は、水を求めて台所へと向かう。あまりにも静かであったが、それがむしろありがたかった。

 誰も起こさないようにと闇の中を静かに歩いていき台所にたどり着いたロスヴァイセは小さな明かりだけ点けると、コップ一杯に水を注ぎ一気に飲み干す。そこでようやく酔いの辛さから少しだけ解放された気がした。

 

「ふぅ…」

 

 小さく一息をつくと、再び水をコップに注ぐ。いくらか余裕ができると頭も回り、今度はそこに不安と後悔が入り込んでくる。酔った時のことをここまでハッキリ覚えているのも珍しい。しかし忘れていた方が好都合であっただろう。

 次の試合で負けてしまえばヴィーザルとの婚約が成立してしまう。あまりにもいきなりな展開に、酔いとは違った気持ち悪さが彼女の胸にうごめいていた。「王たちの戯れ」といえば、優勝候補筆頭で神クラスも多くいる強力なチーム。いくら何度も奇跡を起こしてきた仲間達といえど、まともにやりあって勝てる見込みは0に近かった。

 胸にうごめく気持ち悪さが強くのたうち回っている。考えれば考えるほど雁字搦めになっていくようであった。どれだけ冷静になろうと意識しても、不安が襲ってくる。仲間たちは頼りになるものの、今回の一件の非情さに遠慮する感情が勝ってしまう。

 少しでも軽減させようと再び水を一口飲もうとするが…

 

「あっ、ロスヴァイセさん起きていたんですね」

「ぐぶふっ!?」

「ちょ、ちょっと!大丈夫ですか!?」

 

 いきなり聞こえた大一の声に、不意を突かれたロスヴァイセは盛大にむせてしまう。十数秒間、苦しそうに咳き込んでしまい大一に背中をさすられながら呼吸を落ち着ける羽目になってしまった。酔った勢いで好意を寄せる相手にとんでもない告白をした挙句、その夜中にはこんな醜態までさらしてしまったことに彼女の気持ちは先ほどとは別ベクトルでも沈んでしまった。

 ようやく息が整ってきたところで、ロスヴァイセは静かに問う。

 

「ご、ごめんなさい!いきなりのことで驚いて…またお仕事ですか?」

「あー…いや。ちょっと私用です」

「だったら早く寝た方がいいですよ。いくら大一くんでも休める時には休まないと…」

「体調だったら、俺よりもロスヴァイセさんの方でしょうに。酔いは醒めましたか?」

「ええ、だいぶ落ち着きました…」

 

 正直なところ、酔いとは関係ない緊張で苦しかったのだが、それをわざわざ口に出すつもりは無かった。

 彼の顔をまともに見られない。羞恥心が刺激されて身体が熱い。水の入ったコップを持って今すぐに自室に戻りたい。

 そんな悶々とした気持ちが渦巻く中、目の前にいる大一はどこか緊張しつつもハッキリした声で言う。

 

「ロスヴァイセさん…本当にすいません。ユーグリットの件、あなたにはしっかりと説明するべきでした。あんなに怖い思いをしたのに、その犯人を相談や説明なしに引き入れるのは配慮が足りませんでした」

 

 彼の謝罪にロスヴァイセは何も答えられなかった。そんなことはないと答えられたらよかったのかもしれないが、それは無理な話であった。彼を責めたいわけじゃない。しかしユーグリットを引き入れたことが彼女に引っかかりを感じさせたのは確かであった。好きなはずである彼への信用もわずかに揺らいだほどだ。

 

「俺は…あなたに甘えていました。魔法を教えてもらい、一誠の協力をしてくれて、生島さんの件だって…」

「私は別に…特別なことは…」

「俺にとっては特別です。救われたんですよ、いろいろと」

 

 気恥ずかしさが全身を撫でていく。酔っていたとはいえ日中に盛大に告白をして、その相手にここまで感謝されているのだ。先ほどの不全感もあるのに甘い熱さまで入り混じって、酔いとはまた違った落ち着かなさを感じさせた。

 なぜ納得しきれないこともあるのに、こんな思いを抱くのか。彼への想いが吹っ切れてしまえば楽なのに。例の問題を自分が腑に落ちさえすれば楽なのに…。

 

「だから改めて確認したいのですが…えっと…ヴィーザル様との結婚はどうしたいですか?」

「ど、どうしたいって…」

「今日のお見合い、酔っている時にいろいろ話していましたが、俺としてはあなたの本音を改めて聞きたいんです。いつものあなたがどうしたいのかを」

「…聞いてどうするつもりですか」

「…次の試合、俺は出ません。しかしその前までにこの因縁に決着を考えています。裏切った俺が言うのもおこがましいですが、頼って欲しいんです。あなたが無理をしている姿よりも幸せな姿を見たいから…あなたがどうしたいのかをハッキリさせたいんです」

 

 頼って欲しい、その言葉に彼女は自分の片腕をぎゅっと握る。ユーグリットから救ってくれたから惚れたわけじゃない。同じ相手と仕事をして、魔法を教示する関係でいて、気がつけば仲良くなっていた。戦いの中では迷い苦しみながらも前に進み、仲間の期待を裏切らずに成すべきことを成していた。こういう相手がいれば安心するだろうと思ったからこそ、大人として頑張ってきた自分が頼れると思ったのだ。

 それを思い出したとき、彼女はようやく緊張した面持ちの彼を直視することができた。

 

「…結婚したくありません。私は…まだみんなと…あなたと一緒にいたい。だから…お願い…」

「約束します。試合前までに今回の婚約を解消させてみせます」

 

 ロスヴァイセは静かに涙を流しながら、大一が優しく肩を撫でるのを受け入れる。気づけばのたうち回っていた胸の苦しみは落ち着き、代わりに安堵の嬉しさが満たされていくのであった。

 




ということで、オリ主はやっぱり参加しません。
だからこそ出来ることを必死でやろうとします。
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