D×D 外道の悪魔   作:水飴トンボ

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ちょっと間が空きましたが、ようやく決着です。


第34話 吐き出す気持ち

「がっつり寝てしまった…」

 

 兵藤家地下にある転移室に戻ってくるなり、大一は後悔するようにつぶやく。ヴィーザルと勝負した後に治療を受けたのだが、その際に疲労が押し寄せていき、うつらうつらと眠ってしまったのだ。北欧主神の前で失礼な態度を取ってしまったことにうなだれ、少し前までは平謝りをしていた状況であった。もっともヴィーザルとブリュンヒルデは特に気にしていなかったのだが。

 

『遠慮せずにもっと寝ればよかったのに。あれほどボコボコにされたんだから休まないと』

(怪我の方は治ってきたから大丈夫だって)

 

 実際、彼の言う通り傷や腫れはほとんど引いていた。あれほど痛烈な蹴りを受け続けたにも関わらず、基礎的な回復魔法と2時間ほどの睡眠で身体はだいぶ回復しており、ディオーグとの融合や異界の魔力の影響を改めて実感させられる。ただ身体にはまだ包帯を巻いているし、体力も消耗して尋常じゃない空腹に襲われていたのだが。

 

(腹減った…)

『また彼女が飯作っていればいいが』

(朱乃にはいつ帰るかわからないって言っていたから無理だな。そもそも俺だってこんなに早く説得できると思わなかったよ)

『そう考えると、あの条件は僕らの予想通り本気じゃなかったのかねぇ…まーた利用されたようで嫌な気分だ』

(それならそれでいいんだよ。これで一誠たちも心置きなく試合できるだろうし)

 

 頭の中で会話をしているうちに台所にたどり着いた大一は余っていた食パンを手に取る。とにかく腹がすいており、傷はそこまででもないが体力はかなり消耗していることを痛感させられた。

 口に突っ込んだ食パンをもごもごと噛みながら、牛乳をカップに注いでいく。手際よくも適当さにシャドウは意外そうに頭の中で声を上げる。

 

『ジャムくらい塗ればいいものを…まあ、さっさと食って眠るんだったら少しの手間も惜しいのはわかるけどさ』

(なに言っているんだ。俺は寝ないよ。あと1時間もすれば、誰か起きてくるだろうし)

『はあ!?やめようぜ、あとで言うだけで充分だよ』

(いや、報告は早い方がいいだろ)

 

 ヴィーザルが条件の取り下げを了承した時、大一は安堵した。相手が本気でなかったことについては確信があったものの、それを取り下げてもらう説得することは賭けであった。兄として一誠が受けている期待を幾度となく見ていることや、オーディンとのつながりも踏まえると、ディオーグとの融合を売り込みが活きると思っての交渉であった。その結果、考えうる限りもっとも良い形かつ想像以上の早さで条件の取り下げにこぎつけることができた。もちろん、この方法があまりにも荒唐無稽で計画性のないものなのは、本人も自覚していた。

 シャドウもその辺りは理解していたが、その結果が徹底的に実力差を見せつけられる戦いだ。避けようと思えば避けられたであろう戦いに挑む姿にため息交じりになりつつも、ひとつの納得感も覚えたのであった。

 

『僕の余計なお世話だったってことか』

(何がだ?)

『つまり大一は最初から───』

「あれ、大一くん?お帰りなさい」

 

 いきなり聞こえたロスヴァイセの声に、頭の中での会話は中断して大一は驚きのあまり飲み込もうとしていた食パンを詰まらせてしまう。これには彼女も驚いて、すぐに駆け寄って背中をさする。

 苦しそうに胸を叩きながら、やっとのことで牛乳と一緒に流し込み終えて、せき込みながら大一は話し始めた。

 

「ごほっげほっ…!あー…ふぅ…ロスヴァイセさん、早いですね!?」

「試合が近いので、ちょっと皆よりも早く起きて魔法の確認をしようと思っただけですよ。そもそも大一くんの方がいつも早いじゃないですか」

「いや俺の場合はもう習慣になってますし…。ところでどうして台所に?」

「コーヒーを淹れてから取り掛かろうかと思って。そういえばこの前も似たようなことありましたね」

 

 つい数日前にこの台所で同じような状況になっていたことを思いだし、互いに既視感を抱く。ただあの時とは違って今度は大一の方がむせることになり、可笑しそうに微笑むロスヴァイセは以前よりも安定しているような印象を受けた。

 そんな彼女に対して、大一の肩から出てきたシャドウは血走った眼を細めてズバリと問う。

 

『なあ、ヴァルキリー。その時よりも落ち着いていないか?』

「落ち着いたというか…ただ私は私に出来ることをしようと思っただけです」

『割り切りがよいことで』

「皮肉っぽいぞ。まあ、とにかく最初にロスヴァイセさんに会えてよかった。その件でご報告が」

「…なんでしょうか?」

「条件を取り下げてもらいました。次の試合で賭け事まがいの必要は無くなりましたよ」

 

 この発言にロスヴァイセは何を言われたか理解できないようなポカンとした顔になる。それに伴うように口から発せられるのも当惑であった。

 

「えっ!?えっと…それって…!」

「証明書もあります。例の条件は白紙、婚約の件もですね」

 

 ロスヴァイセはゆっくりと息を吐いて言葉を噛みしめていくように瞑目する。間もなく開いた瞳にはほんの少しだけ涙が潤んでいたが、大一はそれに気づいていなかった。

 そしてシャツの襟からのぞいた彼の胸元にしっかりと包帯が巻かれていたことも見逃さなかった。それが何を意味するのかはすぐに察しがついた。どういう経過までは不明だが、おそらく戦いという方法で今回の条件を取り下げることに成功したのだろう。

 

『なんだなんだ。僕らが条件を取り下げたことに不満でもあるのかよ』

「べ、別にそういうわけじゃ…!」

「シャドウ、けんか腰は止めろって…。ごめんなさい、ロスヴァイセさん」

「わ、私の方こそごめんなさい。ちょっと驚いて…こんなに早く解決すると思わなかったから。それで無理をさせたと思って…私の方こそ…」

 

 ロスヴァイセが言葉を続けようとするが、大一が自身の口に人差し指をあててそれを止める。

 

「約束を守っただけで、あなたが謝るのは違いますよ。むしろ俺はもっとあなたに謝らなければならないんです。…少しだけお時間いいですか?この前はドタバタして言えなかった、ユーグリットを引き入れた理由についても話したいんです」

「…いいですよ」

 

 互いの意志を確認すると、向かい合うように2人は席につく。電気ポットでお湯を沸かしている音が異様に大きく聞こえるような気がした。

 

「まあ、理由としては様々ですが…」

「そんなにたくさんあるんですか?」

「ひとつの理由だけで彼を引きこもうとしませんよ。ただ大きなものとしては、あいつにも助けがあっていいと思ったんです」

「助け…?」

「ヴァ―リや曹操…テロリストとして許されないことをしてきました。彼らはきっちりケジメをつけて、今はアザゼル杯にも出ているほどです。だから同じようにあいつにもやり直す機会があればと」

 

 クリフォトとして世界を混乱に陥れたのは決して許されることでは無い。しかし一時期は心を砕き、圧倒的な絶望感に苦しんでいた。その姿を戦いの中で目の当たりにした大一は、彼にも助けが必要だと感じられた。彼を自身の味方に引き入れることがその助けの一歩でもあった。

 

「もちろん、あいつがそう簡単に心変わりする男じゃないのは理解しています。ただその上で冥界に貢献して、あいつなりに新しい一歩を踏み出せる助けになれたらと思ったんです」

「それは…大一くんがしなければいけないことですか?」

「…どうでしょうね。ただ俺もやらかした方ですから」

 

 ディオーグというはぐれ龍と融合したから、シャドウという恐ろしい神器を得たから、傍から聞けばそういう意味だけにも思えただろう。

 しかし彼にとっては、今でも胸の中に杭のように突き刺さる後悔があった。友の顔に手をかけた、それは拭いようもない事実であった。父親である生島純が許しても、完全に納得できなかった。

 彼は自身を許し受け入れたうえで、その罪を一種の責任感に昇華したのだ。冥界の悲しみを少しでも減らすという彼自身の目標のために、同じように悲しむ人たちを生みださないという生島の願いのために。

 そして恐ろしい悪意にも様々な苦しみがあることをこれまでの戦いで学んできた。彼らを助けることが、結果的に苦しむ人たちを助けることにも繋がるのだと。

 

「道を外れた自分だから、そういう人たちを助けられると思うんです。そうすることで悪事をしないでも済むようにして脅威を未然に防いだり、彼らがまた誰かを助けることもあると思うんです。理想論だというのは自覚しているんですけど」

 

 どこか申し訳なさそうに話す大一に、ロスヴァイセはふと気づく。彼がこれほどの本音を他の仲間に話せただろうか。自分に話してくれたのは約束の件だけではない。生島との謝罪の件を目の当たりにしていたからだろう。

 

「それに…あー…俺自身のためでもあるんです」

「どういうことですか?」

「彼が一誠に強い対抗心を抱いているのはわかっていました。だからいずれ弟に勝ちたいと思っている俺としては、あの野心は強い味方になると思ったんです」

「なるほど…利害の一致もあったと」

「実際、そういった面が強いですよ。ただこれに関しては、先に話しておくべきだったと痛感させられました。本当に申し訳ありません」

 

 静かに頭を下げる大一の姿に、ロスヴァイセはゆっくりと長く息を吐く。相変わらず自分から泥沼にはまっていくような男であったが、彼なりの信念を知ることができて安心したのも事実であった。婚約解消の約束も果たされ、揺るぎかけていた信頼は確かに立て直されていた。その上で心にはまだ不穏の渦が残っていたのだが。

 

「少なくとも理解はしました。…ただもっと早く知りたかったです。お見合い前もそうです。あなたが何を思っているのかを知りたかった」

「ロスヴァイセさん…」

「前に頼って欲しいと言ってくれたのは本当に嬉しかった。でも大一くんが罪悪感を隠して辛くなっていたのも知っていたから…私は…」

 

 本音を知ったうえで頼りたい。苦しんでいれば支えてあげたい。その本心を吐き出しそうになって、彼女は飲み込んだ。感情的になりすぎたことに後悔し、それを反映するかのように赤面していく。気持ちが緩んだからなのか、惚れた相手への煮え切らない想いなのか、それを自覚する余裕すらなかった。

 

「ご、ごめんなさい…!責めるつもりとかじゃなくて…!」

「いや責められて当然です。たしかにあの時、一誠達にみたいに行動に移していませんでしたから。あいつみたいに出来たらよかったんですけどね、俺にはそういった立場も勇気も無かったんですから」

「…もしもですよ。あの時のお見合いで私がヴィーザル様のこと…好きになったりしたら…」

「その時は応援します。ロスヴァイセさんが納得する形であれば、そこに俺の意見が入る余地はありませんよ」

 

 そこで言葉を切ると、大一は頭を困ったように掻く。そして間もなく歯切れ悪そうに話を続けた。

 

「ただ…なんというか…あれは俺も驚いてしまって…だからといって一番驚いていたのはあなたなんだから、動揺するわけにはいかないと…」

 

 彼女のお見合いの話を聞いたとき、大一は衝撃を受けた。同時にもやもやした感覚が全身に行きわたるも、それを表に出すことはしなかった。それがロスヴァイセや他のメンバーに動揺を与えると思い、自分の曇りは抑え込んで彼女の幸せを願う姿勢を淡々と取っていた。もっとも結果は当事者たちに不満感を抱かせただけであり、そういう意味では見当違いであったのだが。

 

「だから…ロスヴァイセさんの力になれないのがもどかしくて…お見合いの時の言葉や数日前の約束に驚きつつも嬉しくなる自分もいて…」

 

 ロスヴァイセは面食らった様子で目を見開く。最後に残っていた渦は消えて、また別の渦が心をかき乱す。しかしそれは全く別のものであった。顔の頬もさらに加速するが、むしろそれを受け入れたくなるような想いであった。

 その気持ちを抱きつつ、彼女の口から自然と声が出てくる。

 

「酔った時に何を言ったか覚えているんです。それに数日前、約束したときに話したことも変えるつもりはありません」

「…俺はかなり不誠実な男ですよ。すでにお付き合いしている女性がいるのに、あなたにも心惹かれている。つまり…俺と一緒にいることが、あなたの笑顔になるなら…それがあなたの幸せになるなら…俺は全力を尽くしたい」

「私が…一番欲しかった言葉ですよ」

 

 静かでありながらもどこか甘い空気感が流れる。大一は惚れた女性と何度か、ロスヴァイセはほとんど経験したことのない雰囲気であり、緊張に包まれて口をつぐんでしまった。もっともそれが関係を進展させたものであることを互いに理解していた。

 この沈黙を破ったのは、肩から出てきたシャドウであった。

 

『おい、湯が沸いたよ』

「あー…そうだな。俺がコーヒーを淹れますよ」

「い、いえ、私が淹れます!大一くんは疲れているでしょうし!」

「これくらい大したことないですって」

「じゃあ…カップを持ってきてもらっていいですか」

 

 たかだかコーヒーを淹れるだけの作業であったが、ロスヴァイセにとってはここ最近でもっとも気が緩み心地よい時間であることを実感するのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

「やっと決着がつきましたか」

「本心を隠しすぎるのも考えものですわ」

 

 大一とロスヴァイセの様子を、朱乃と小猫は扉の隙間からこっそりと見守っていた。見たのは途中からであったのだが、ひとつの男女関係に決着がついたことには安心していた。

 

「それで朱乃さんとしてはどうですか?」

「ロスヴァイセさんがいても大きく変わりませんもの。私も彼女の幸せを願っていますし、これをダシに大一にはもっと甘えるつもりですわ」

「容赦ないですね。まあ、私もほぼ同意見ですが」

「あらあら、さすがね♪」

 

 くすりと微笑む朱乃に、小猫は表情を変えずに今もなお台所での2人の様子を見守っている。傍から見れば目を見張るような強かさを彼女たちは持ち合わせており、それを惚れた男に向けるのは疑いようもないだろう。

 

「あの…2人とも何をやっているんですか?」

 

 このやり取り後、遠慮がちに問う一誠と少し眠そうに目をこするアーシアが現れる。

 

「イッセーくん、アーシアちゃん、おはよう。今日も早いのね」

「おはようございます。次の試合は負けられませんから、しっかり準備して日中の特訓に励もうかと」

 

 ここ数日の一誠は気が昂っていた。帝釈天の強化案を受けて神用の薄めた霊薬を飲み神器がパワーアップしたことや、その時に気絶した際にかつて助けてもらった乳神から奇妙な啓示を受けるなど、強くなったことを実感することもあれば首をひねるようなことまで様々な事象があったのだから落ち着く方が無理な話だ。そして何よりも次の試合は負けられないという現実が、彼の気負いをより強く仕上げていた。

 

「それで小猫ちゃんは何を見ているんだ?」

「そうですね…私や朱乃さんの今後に関わることでしょうか」

「どういうこと?」

「いろいろ説明するのもあれなので、そろそろ行きましょう。イッセー先輩も知りたいでしょうし」

 

 これには一誠も当惑していたが、それに従って小猫たちと一緒に台所へと入っていく。間もなくロスヴァイセ以上の驚きの声が響き渡り、この日は同じような驚きが何度か繰り返されるのであった。

 




区切りがついた感じはしますが、まだ25巻の途中くらいなんですよね。
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