D×D 外道の悪魔   作:水飴トンボ

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さすがに試合そのままということはありません。


第37話 裏方

 赤龍帝と神々の対決、この試合は始まる前から熱気に包まれていた。優勝候補筆頭である神々のチームの実力は疑いようもない。しかも今回の会場は北欧神話の世界ヴァルハラにある巨大スタジアム。つまりヴィーザルたちにはホームであり、その応援は想像を超えていく。それでもこれまで数々の奇跡を引き起こしていた一誠たちにもおのずと期待がかかっており、大会の中でも随一の盛り上がりと言っても過言ではないだろう。

 試合当日、一誠率いる「燚誠の赤龍帝」チームは控え室にて、仲間たちから激励を受けていた。

 

「この場合の動き…必要ならば足止めするのは…」

「落ち着いて。レイヴェルの戦略をイッセー先輩も信頼しているんだから。それにみんながいるでしょ」

 

 ぶつぶつとルールや戦略を復唱するレイヴェルに小猫が励ますように語りかける。今回のルールはまだわからないものの、これまでの試合と同様に彼女の戦略に疑いを持つ者はいなかった。そして彼女も応えるように考えを練ってきた。

 また今回の試合にあたり、チームメンバーにロイガン・ベルフェゴールも入っている。王の駒を使用した不正の過去はあるものの、かつてレーティングゲームで上位にいた経験と元来の実力は確かであった。

 少なくとも出来ることは全てやったという自負が一誠たちにはあり、それは一緒に特訓していたリアスたちも理解している。

 それでもこれから戦う相手は格上ばかりであり身体は否応なく強張ってしまう。加えてここ最近の別勢力の介入も警戒しており、そのため各々のやり方で気持ちを落ち着かせていた。ゼノヴィアとイリナは同じ「騎士」である祐斗やリントと話し込んでおり、アーシアはウトウトしている使い魔のラッセーを撫でていた。

 

「大丈夫よ、あなたたちなら勝てるわ」

「ふぅ…ああ。勝ってくる」

 

 緊張感が張り詰める中、リアスの激励に一誠は自信を込めるように拳を握って答える。2人の関係からは今更なやり取りであったものの、言葉にすることで信頼がより確固たるものに感じられる。

 その一方で、少々騒がしく感じるのはロスヴァイセたちの方だ。

 

「私お手製のはちみつレモンとおにぎり…疲労回復やエネルギーの供給にバッチリと思ったのよ。でも途中で食べられないなんて…!スポーツと同じ感じだって聞いていたからハーフタイムとかあると思っていたのに…!」

「生島さん、そんなに泣かなくても…。差し入れ、とても嬉しいですよ」

「ごちそうさまです」

 

 悔しそうにしている生島に、ロスヴァイセと百鬼が礼を言う。悩みぬいた差し入れに彼自身は納得していない様子であったが、実際のところはそれなりに好評であった。

 

「むぐむぐ…久しぶりにこういうの食べたけど美味しいね」

「私の国でも日本食を出す店はありますが、こっちの方がいいですよ」

 

 ロイガンやエルメンヒルデは食べながら感心していたし、ボーヴァは力をつけようとしているのか一心不乱に食べていた。

 

「…そういえば、大一ちゃんの姿が見えないわね」

「お仕事ですわ。今日は招待されている上役の護衛で会場にはいるはずなんですが」

 

 きょろきょろと辺りを見回す生島に、朱乃が顔に手を当てながら答える。この日も大一は早朝から出払っており、他の護衛と打ち合わせや会場の見取り図を確認などを行い、上層部の護衛についていた。いかんせん、一誠たちが起きてくる時間辺りにはすでに出ていたので、誰も顔を合わせていなかった。

 これには応援に来ていた兵藤兄弟の父も首をひねっていた。

 

「正直、心配になるんだよな。あれで身体を壊さないものか…」

「お父様としてもご心配でしょうね。私も依頼者として、そのお気持ちはよくわかります」

「ありがとうございます、生島さん。今後ともウチの息子たちをお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。ぜひ奥様と一緒にお店にも来てくださいな」

 

 すると扉をノックする音が聞こえ、恐縮したような様子の大一が入ってきた。まさか会話の人物がいきなり現れたことに驚きつつ、朱乃が声をかける。

 

「大一、お仕事は!?」

「許可をもらって、ちょっとだけ抜けてきた。ほら、試合なのに朝は声もかけられなかったし。あっ、生島さんも…先日はご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「そんなことどうでもいいのよ。それよりもお仕事大丈夫?無理していない?身体はきっちり休めないとダメよ」

『おい、オカマ野郎。お前と話し込んでいる暇はこっちに無いぞ』

「おい、シャドウ!も、申し訳ありません!」

「いやいや、まったくもってその通りだわ。私の悪いお節介が出ちゃったわね」

 

 申し訳なさそうに生島に頭を下げると、大一は一誠へと目を向ける。

 

「とにかくヴィーザル様はお前の全力をお望みだ。胸を借りるつもりでやっていけ」

「元よりそのつもりだぜ。今回は兄貴にいろいろ任せてしまったからな。期待に応えられるようにやるよ」

「それを聞いて安心した。外野の方は気にせずにやってくれ」

「お兄さん、それって誰かが試合を邪魔しようとしているってこと?」

 

 祐斗たちと話していたイリナが質問するが、これに対して大一は小さく首をかしげる。

 

「いや警戒するに越したことはないってだけさ。リアスさんたちの試合では冥府が邪魔しようとしたし、異界の地の連中も動いていただろ。あの一件以来、どの試合でも警備や周辺の感知は強化されている。ましてや、この試合では冥府も目をつけているであろうメンバーが出るからな」

 

 先日にタナトスの襲撃を防いだ一誠たち、いち早くハーデスの動きを察知していたヴィーザルとアポロンというように冥府側が警戒するであろうメンバーが出場する試合だ。冥府の思惑はいまだに把握しきれないが、ここで手を打ってきてもおかしくないだろう。

 一誠を筆頭に何人かが渋い表情になるが、リアスが穏やかに言う。

 

「対策はされているんだから大丈夫よ。そうでしょう、大一?」

「ええ。北欧側も人手を増やしていますし、俺も邪魔はさせませんよ」

「そういうこと。あなたたちはまず目の前の相手に集中しなさい」

 

 彼女の言葉に、一誠は小さく頷く。独立はしたものの、こういった試合前のメンタルの組み方は経験の差を感じるのであった。それが頼もしくもあり、同時によいお手本にもなっていた。自身の恋人のすごさを目の当たりにするほどに、より彼女に惚れ込むのであった。

 そんな中、大一は自身の腕時計をちらりと見る。

 

「おっと、そろそろ行かなきゃ…オーフィス、リリス、父さんたちを頼んだぞ」

「任された」

「頼りにしている。それじゃ、みんな。試合、期待しているよ」

『あばよ』

 

 それだけ言うと、大一はそそくさと去っていく。彼の忙しさは今に始まったことではないので仲間たちはさしも気にしておらず、同時に試合への気合いを入れなおすのであった。

 すると生島はロスヴァイセにこっそりと話しかける。

 

「本当に忙しそう…でもちょっとくらい特別な応援があってもいいと思わない?」

「私は十分されていますよ」

 

 穏やかに答えるロスヴァイセの口元はわずかにほころんでいた。たしかに忙しい彼であったが、朝に会えない代わりに激励のメールが個人的に入っていた。それを確認しただけで不思議と苦しい緊張は無くなり、代わりに勝利への決心が強くなるのを実感していくのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 ユグドラシル・クライム、それがこの注目試合のルールであった。疑似世界樹を駆けあがり、最初に頂点にたどり着いたチームの勝利だ。純粋な競争であったが、それゆえに相手の妨害も重要になる。もちろんゴールにたどり着く前に、王がリタイアすれば敗北になるのも他のルールと同様だ。

 

『まあ、このルールなら混戦になるわな』

 

 シャドウのため息交じりの声が頭の中で響く。試合が始まって30分は経ったであろうか、疑似世界樹の途中に設けられているいくつかの浮島では戦いが繰り広げられていた。大会側も戦えるだけのスペースはしっかり設けており、各箇所でそれぞれが戦うため、どこに注目するか迷ってしまうほどだ。マッチアップとしては一誠がヴィーザルと上の方で一騎打ちをしており、その近くではロスヴァイセとレイヴェルがブリュンヒルデ率いるヴァルキリー軍団と対決していた。それ以外のメンバーは必ず数的有利を取ったうえで戦っているものの、相手はそれぞれアポロン、アルテミス、テュポーンと揃いも揃って神という人数など意味をなさないような相手ばかりだ。

 

(わかってはいるが、戦力差が苦しいな…)

『全体的に見れば…ヴァルキリー部隊がまだチャンスあるくらいだね。それでもどこかで切り崩されれば終わるだろうよ』

 

 落ち着かない感情が胸にそのまま押し込められたような気分であったが、それを表には出さず大一は身にまとったスーツにも劣らないほどのきっちりした佇まいで立っていた。

 場所は悪魔来賓用のVIPルーム。観戦に来ている上層部の護衛として大一は壁際に立っていた。わざわざ足を運んだ上層部は貴族やそれに相応の立場であり、一般観客に劣らないほど試合への期待が高いと言えるだろう。おっぱいドラゴンのファンである者もいれば、一誠たちを快く感じない者もいる。それでもこの勝利が悪魔にプラスの評価を与えるなら、勝利を望むだろう。

 

『ま、試合を見れるなら文句ないけど』

(同意はするが、護衛の仕事もあるんだぞ)

『わかっているさ。しかし屋内で会場警備もかなり力を入れているんだぜ?北欧主導だから、僕らが出張ることもなくないか?』

(気を抜かないべきってだけだ)

『それは承知しているよ。もっとも大一は護衛以外にも、ヴァルキリーのことが心配で気を抜けないだけだろけど』

(茶化すな。俺はロスヴァイセさんも大丈夫だと信じている)

『メールの文面に悩んでいたくせに』

(う、うるさい!)

 

 頭の中で指摘されたことを流そうとするも、顔が火照り赤くなっていくのを感じる。仕方ないとはいえ、女性関係を完全に把握されているのは羞恥心を刺激される。

 

『褒めているんだ。大一が認められるほど、結果的に僕の自尊心も高められる』

(責任も一緒に抱えるとは言ったが、人に依存した考え方はどうかと思うぞ)

『自覚しているよ。だからこそ…ん?』

 

 シャドウの不審な声が響き、大一も同様に眉をひそめて扉の方に視線を向ける。そこでは3人の人物が深刻そうな表情で話していた。ひとりは今回の護衛のリーダー格でもある上級悪魔であり、あとの2人は鎧を身につけており北欧の警備だろう。

 さらに上級悪魔は、護衛対象の貴族に近づき耳打ちをする。豊かな髭をたくわえて少々でっぷりとした体形であったが眼光は鋭く、初代バアルとも繋がりがあるため、この部屋にいる上層部の中ではもっとも影響力の強い人物だろう。

 そんな人物に護衛のリーダーが深刻そうな表情で密談をしている時点で問題の予感がする。そしてすぐに間違いでなかったことが判明するのであった。

 

『部屋の外で話がある』

 

 間もなくリーダー格の上級悪魔の声が耳につけた通信装置から聞こえる。同時に大一の方を見やってあごで部屋から出るように促しており、すぐに従ってこっそりと外に出ると、それに続いた上級悪魔が話を切り出した。

 

「先ほど北欧側の警備で、異界の魔力らしきものを探知した。しかし場所は確証が持てないことから、お前も一緒にいて確認してこい。許可は取ってある」

 

 異界の魔力は隠密性に優れるもののまったく感知できないものではない。しっかりと結界や感知に優れたものが手抜かりなく行えば気づくことはできた。実際、トライヘキサとの戦いでは小猫が気を張っていたおかげで、モックの襲撃に気づくことができた。

 しかし確証があるかは話が別であった。隠密が得意な能力者であったり、感知妨害の手段を講じているのかもしれない。てっとり早いのは、やはり同じ魔力を持つ者同士で引き合わせることであった。

 大一は小さく息を吐く。まだ一誠たちの試合は続いているが、もしも先日のように試合を邪魔しない相手が出ないとは限らない。それこそ異界の魔力を持つ者が潜入してゼノヴィアたちと戦ったのだから。

 後ろ髪を引かれる想いであったが、やるべきことはハッキリしていた。

 

「わかりました」

「よし、なにかあったら連絡しろ」

「こちらです」

 

 北欧側の戦士と一緒に、大一はその場を後にする。せかせかと急いだ足取りの中で、若い戦士が親しげに話す。

 

「いや助かりましたよ。ヴィーザル様の試合、しかもこのヴァルハラの地で問題を起こすわけにいきませんからね」

「おい、ドレッド。私語は慎め」

「お礼ぐらい言ってもいいでしょう、先輩。それに俺としてはD×Dの皆さんには感心しているんですよ。忙しいのに、テロ対策のために奮闘して。さっきもグレモリー家のお嬢さんが眷属さん引き連れて、どこかに行ったじゃないですか」

「どういうことです?」

 

 ドレッドと呼ばれた若い戦士の話に、大一は驚いた様子で尋ねる。

 

「なんか、急用ができたとやらで先ほどに席を外していました。お仕事とかですかね?」

「ちょっとした急用としか言ってなかっただろう。私たちが究明することじゃないし、必要ならば応援を仰いだはずだ」

 

 一誠の試合観戦を放棄するほどの急用というのにはまるで見当もつかなかった。しかも眷属まで連れていくとなると、ただ事でないことが想定される。1年前にも似たようなことがあった。パーティの最中に、当時は敵対していた黒歌と美猴が潜入しており、一誠、小猫、リアスが向かっていた。似たような状況に胸騒ぎを抱きつつ、戦士たちの後に続くのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 ほぼ同時刻、冥界のグレモリー領にある広大な丘を2人の人物が歩いていた。2人とも黒いローブを着込んでおり、頭もフードですっぽりと覆っている。青々とした自然と優美な景色に対して、あまりにも似つかない不気味さを漂わせていた。

 

「だりいな…。飛んで直接行こうぜ」

「バレて誰か来るから、歩きでないとダメ。せっかく侵入して警備も操ってここまでこぎつけたのに、全部ムダにする気?」

「来たら潰せばいいだろ」

「あのね、今回は戦いに来たんじゃないって説明したでしょ。さっさとギガンを引き戻さなきゃ」

 

 女性の非難的な声色に、男性の方はあくびをかみ殺しつつまるで動じた様子はなかった。

 

「こっちから魔力を強めて呼び出してみるか?」

「それも対策取られていると思うわ。結界に変な術式あったし。そもそもあいつが自由に動けるわけないじゃない」

「そうか?タナトスどもが襲撃した際に、あいつも戦ったらしいじゃねえか。つまり冥界に屈服したってことだろ」

「それこそありえないと思うんだけど」

「だが監獄から移動させられて、おかげで俺らはこうやって面倒なことをやっている。もしかしたら好待遇で、すっかり骨抜きになっているかもしれねえぞ」

 

 半分笑いながら答えており、彼が微塵も思ってないことは明らかであった。

 

「仮にそうだとしても、前とは状況が変わったわ。話を聞けばこっちに来るでしょう」

 

 女性の方もせいぜい取引を持ちかけられただろうと考えており、現在抱えている問題を踏まえればギガンを引き戻せると確信していた。彼が戻れば大きな戦力になり、目的のために貢献してくれるだろう。

 そんな会話をしていると開けた場所にたどり着く2人であったが、そこでピタリと足を止める。眼前には魔法陣が展開されており、間もなく転移の光と共に数人の悪魔が現れた。

 

「さて…貴方たちが何者か、いったい何が目的なのか洗いざらい話してもらいましょうか」

 

 眷属を連れたリアスが睨みを利かせながら問うのであった。

 




徐々に面倒そうな奴らが集結している…。
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