D×D 外道の悪魔   作:水飴トンボ

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こういう裏で戦っていたというシチュエーションは好きです。


第38話 2人組

 予想が的中したことにリアスは安堵と緊張が入り混じった気持ちであった。異界の地がどのように関わってくるかは不明だが、ギガンがグレモリー領にいる以上、どこかで接触してくる可能性は常に念頭に置いていた。そこで大一とギガンには秘密にしながらも、彼ら以外の異界の魔力を持つ者が侵入した際に感知できるように、結界を強化していた。魔力の研究を進めていたアジュカの力も借りており、この感知は見事に成功した。

 すぐに眷属である朱乃、祐斗、小猫、ギャスパーを連れて現場に急行した。自身の領地で起こった問題という自負もあるため、他のチームメンバーは連れてこなかったが、ストラーダには話をしていたうえに、サイラオーグにもいざという時の援軍の打診はすでにしてある。かつてコカビエルが襲撃してきた際のようにプライドだけでなんとかなるとは思っていなかった。

 愛する人の試合を応援できないのは心苦しいが、彼らは必ず勝つと絶対的な信頼があった。だからこそ今はグレモリーとしての責務を果たすことを優先し、D×Dの一員として彼の横に並ぶために仕事を遂行しようとしていた。

 

「念入りにやったのに…甘く見ていたのを実感するわ。まさか赤龍帝の試合を無視するなんて…」

 

 侵入者がため息をつきながらぶつぶつと呟く。目元はローブで隠れていたが、声質的に女性だろう。

 一方で隣に立つもうひとりの侵入者はかなり長身であり、ガタイの良さが見受けられた。そして覗かせる口元は大きく吊り上がり、茶色い歯がむき出しになっている。

 

「いいじゃねえか…」

 

 そのつぶやきと同時に、長身の方の侵入者がローブだけ残して消え去る。間もなくリアスの前方に現れて大鎌を横なぎに振り払い首を落そうとしてきた。

 だが彼女はまったく動じなかった。相手が自分を狙っていることは分かっていたし、同時に騎士も動いていたことに気づいたからだ。

 木場祐斗は素早く2人の間に入り、グラムで大鎌を防いでいた。鈍い金属音が鳴り響き、攻撃を防がれた相手は驚きつつも同時に歓喜を隠さずに笑っていた。

 

「ハッハー!よく防いだじゃねえか!」

「主を守るのが僕の責任なのでね」

「言うなあ、優男!だがこの程度じゃ───」

 

 男は言葉を続ける前に素早く後退してもうひとりの隣に立つ。祐斗が防いでいる瞬間に、朱乃が雷光をビームのように撃ちだしたのだが、感づかれて回避されてしまった。

 一行はローブを脱いだ男を注視する。ライダースジャケットを身につけた長身の男、腕が長く腰には2丁の銃が備え付けられていた。先ほど攻撃してきた得物が死神の大鎌であることを踏まえると、話に聞いていた人物であると理解するのは容易であった。

 

「あなたがベルディムね?アスタロト家の悪魔…」

「勘当された身だがな。しかしよく俺だと分かったな」

「この前、仲間たちに迷惑をかけられたからね。異界の地に住む独立者が何の用?」

「ほう、独立者って言ったが…ギガンから聞いたんだろうな。ってことは、冥界に加担したってことじゃねえか。なあ、アリッサ」

「アリッサ?」

 

 ベルディムは隣に立つローブの女性に呼びかけたが、その名前にはリアスたちも面食らったように反応しつつ視線を向ける。

 呼びかけられた女性は、先ほどよりも数倍は深いため息をつくと絞り出したような声で恨めしく問いかける。

 

「どうして余計なことを言っちゃうの…!素性はバレていなかったのに…!」

「別に困らねえだろ。これからやるんだからな」

「今後に響く可能性があるでしょうが!本当に最悪…!」

「アリッサって…大一を助けてくれた人?」

 

 朱乃の問いかけに、女性は小さく鼻を鳴らしてフードを上げて顔をさらす。少しパーマがかかった金髪の女性は美しくも、どことなく生物的な光が感じられなかった。リアスたちが聞いた話では、人形に魂が宿ったような存在とのことであったため、その異質さが当該の人物である説得力にも思えた。

 さらに猫耳を出して感知している小猫がちらりとリアスを見て肯定するように頷いた。

 

「魔力はありますが、生き物特有の気を感じられません。先輩の話と合致します」

「違うって主張しても信じないでしょうね。いやその猫又がいる時点でごまかすのも無理か…ああ、上手くいかない…!」

「どうしてあなたが…」

 

 リアスは油断なく、同時に不全さを抱きながら問う。無角との戦いで負傷して病院に連れていかれてから医師と最低限の接触だけしており、いつの間にか姿を消していた。そのためこうして顔を合わせるのは初めてであったが、仲間を救い、立場は違いながらもテロリストであるクリフォトには協力せずに敵対していたような女性だ。そんな彼女がベルディムと一緒にこの場にいることが信じられなかった。

 対して、アリッサは苛立ちを隠さない声色で答える。

 

「ギガンに会いに来ただけよ。だからそこを通してくれる」

「会いに来たって…そもそもどうしてベルディムといるの?先日の襲撃はあなたも関わっているというの?」

「どうでしょうね。とにかく今はあなたたちに用は無いのよ。穏便に済ませたいし、退いてくれないかしら?」

「…あなたには仲間を救ってくれた恩があるわ。だからといって、その提案を了承するわけにいかないの。ここはグレモリーの領地、次期当主としてくい止めさせてもらうわ」

 

 リアスは澄んだ声でハッキリと言い放つ。戦いになるのは避けたいが、アリッサの苛立ちとベルディムがすでに武器を構えてギラギラした目をしていることを踏まえると、それは不可能だろう。彼女の覚悟した姿は気高さと頼もしさを感じられ、呼応するかのように周りの4人も警戒を強めた。

 アリッサは深いため息をつくと、隣に立つベルディムに呼びかける。

 

「目的はあくまでギガンとの接触」

「ああ、そうだ。しかし例の件が事実であるなら、ここで潰しておいても良いだろう」

「ベル、まだ可能性の話なのよ?」

「つまり十分にあり得るってことだろ」

「ハア…仕方ない。援軍が来る前に終わらせましょう」

 

 アリッサはローブを取り払うと、魔法陣を展開させる。苛立ちは相変わらずであったが、それ以上に強い殺気をリアスたちに向けていた。

 

「みんな、抑えるわよ!」

『了解!』

 

────────────────────────────────────────────

 

 一方、大一はヴァルハラにて北欧の戦士たちと行動を共にして上空を飛んでいた。異界の魔力らしきものが感知されて調査に出向くも、その場所は会場からある程度の距離がある森林であった。会場周辺には突然の襲撃を防ぐために転移を封じる結界も張られていたので、護衛専用の特別な魔法陣を利用して少し離れたところに転移し、そこから飛んで目的地まで向かっている。

 すでに北欧の警備が対象を追跡しているらしく、大一たちはそれを挟み込む形で動いている。北欧側もリアスたちの試合で起こった襲撃を重く受け止めているのだろう。

 

『大丈夫だって。なんか事情があるんだろうよ』

(ああ、わかっている)

 

 頭の中でなだめるシャドウに、大一は静かに反応する。リアスが一誠の試合を観戦せずに、眷属を連れてどこかに向かったという情報は彼の動揺を誘ったのは事実であった。

 しかし彼女の強さや成長ぶりを目の当たりにしてきた身としては、その行動に意味があるものと確信していた。心強い仲間たちもいることも思えば、目の前の問題に集中することを優先するべきなのも承知しており感知に集中するのであった。

 

「どうですか?」

「この引き合うような感覚は異界の魔力で間違いないと思います。ただどんな人物なのかはわかりませんが…」

 

 共に移動する戦士の問いに、言葉を濁すように回答する。近づいていくターゲットは2人、そのどちらにも微力ながらも磁石が引き合うかの如く、異界の魔力が感じられた。

 とはいえ、それが先日の襲撃に現れたベルディムなのか、はたまた別の人物なのかは判断できなかった。さらに先ほどからの動きも気になった。魔力の性質上、相手も自分を感知しているはずであった。それであれば何かしらの動きを見せるはずであったが、まるで気づいた様子もなく追手の護衛と一定の距離を保ちながら近づいてくる。大一を同じ異界の魔力を持つ味方と考えているのか、それとも…

 

(誘い込まれている?)

 

 ソーナの学校でクリフォトと戦った時のことを思いだす。魔力を持つモックが遠距離攻撃を仕掛け、自分を誘い出したことがあった。それを踏まえると、今回の相手も似たような狙いがあるのかもしれない。それならば囮をした上でスタジアムの方で仕掛けてくる可能性も考えられた。

 そうこう考えているうちに、ターゲットは森の中でいきなり動きを止めた。観念したのか、それとも挟み込まれたことに気づいたのかは判断できないが、大一たちもほとんど距離が無くなったところで一気に降下していった。

 

「追い詰めたぞ」

 

 反対側から最初に追っていた警備のひとりが声を上げる。呼びかけられたターゲットはどちらもローブを被っており顔が隠れていた。だが姿は不明でも、魔力や生命力は感じられる。

 

「悪魔だな」

 

 大一の呼びかけに2人は何も答えなかった。代わりに彼の方を向くと、小さく呟く。

 

「あの痣は傷顔だ…」

「ならば、やることは決まったな」

 

 それだけやり取りすると、片方の人物がローブを脱いで姿をさらす。年齢は若く20代くらいであろうか。中性的な顔だが、ベリーショートの白髪が男性らしさを感じさせる。曹操のように眼帯をしており、妙に袖の長い服を着ており腕が隠されていた。

 

「あたしが悪魔だってよく分かったな」

 

 声を聴いて、この悪魔が女性であることに気がついた。同時にどこか黒い陽炎のような雰囲気があり、より警戒心を駆り立てられる。

 ひとりの戦士が油断なく武器を構えながら問う。

 

「この地に何の用だ?」

「悪魔がヴァルハラに来ちゃいけないってルールは無いだろ?同盟の件だってあるんだから」

「さっきから逃げていた奴の言葉とは思えないな」

「こっちにはD×Dの協力者のおかげで、あんたらが異界の者だって分かっているんだよ。狙いは試合の邪魔か?」

「どうだろうね。だが異界の地ってのは正解だ。じゃあ、次にやることは分かるかな?」

 

 女性が半笑いで言うと、もう一人がローブを脱ぐ。その姿を見た瞬間、大一も北欧の戦士たちもぎょっとして怯んだ。

 顔が無いのだ。頭から毒々しい紫色の触手のようなものが伸びており、それがシャツの襟から見える胸元にまで垂れている。おそらく全身が覆われており、この触手が人間のように形作っているのだろう。そして目も耳も鼻もついておらず、ギザギザした刃のような歯が揃った口だけがあった。

 そのおぞましい姿に怯んだ一瞬が始まりであった。謎の二人組は姿が消し、攻撃へと転じてきた。顔の無い悪魔は両刃の斧を振りかぶり、大一に向けて振り下ろしてきた。

 これに対して、龍人状態へと変化すると同時に生みだした黒い錨で攻撃を防ぐ。想像以上の腕力に後退しそうになるも、すぐに体重を上げて踏ん張った。

 

『これは…!』

「この魔力は引き合うから、不意打ちも対応されるな。しかし他の奴らはどうかな?」

 

 くぐもった低い男性の声で、顔の無い悪魔は言う。それがどういう意味なのかはすぐに明らかになった。

 

「がっ…!?」

 

 反対側にいた戦士の一人が苦しそうに呻く。眼帯の悪魔によって胸部を十字に斬られていたのだ。

 すぐに他の戦士が気づいて攻撃をしかけるも、滑るような動きで回避していった。

 ほぼ同時に顔の無い悪魔にも背後から、一緒に来た戦士が魔法を纏わせた剣と槍で攻撃しようとするが、相手もすぐに気づいて身体を回転させながら斧による旋風で大一ごと薙ぎ払った。

 

『これくらいの風圧なら…!』

「お前は逃がさない」

 

 さらに体重を上げて踏ん張るも、相手は斧を何度も振ってくる。両刃でかなり重そうな見た目はしているが、攻撃速度はかなりのものであった。向かってくる斬撃を錨でいなしていくが、どうも攻め手に欠けるような状態であった。

 

「上々だ、ガルドワン。お次はこれよ」

 

 いつの間にか大きく飛び上がっていた眼帯の悪魔は、袖から大量の黒煙を噴出する。視界は一気に悪くなり、戦士たちもさらに警戒を強めた。ひとりは素早く風の魔法で吹き飛ばそうとするが、粘り気のあるような煙はまるで動じずに周辺の視界を奪っていった。

 

『マズいな…シャドウ!』

『任せなって!』

 

 相手の意図をすぐに察した大一の呼びかけに、シャドウも呼応する。彼の腹部から巨大な黒い腕が飛び出し、ガルドワンと呼ばれた悪魔を正面から掴んだ。そのまま腕を伸ばしていき距離を強引に取らせると、重さを上げて相手を抑えつけた。

 すぐに腹部の影を切り離すと、感知を強めて動いていく。そして煙に紛れて戦士たちを襲っていた眼帯の悪魔に錨を振り下ろした。

 

「おっと、もうバレちまった。まあ、いいさ」

 

 軽快なバックステップで後退した悪魔に追随するように煙も袖の中に吸い込まれていく。視界が晴れると、最初にやられた戦士のほかにも2人ほど倒れており苦しそうに呻いている。

 一方で少し離れた先には不敵に微笑む眼帯の悪魔と、黒影を取り払って起き上がるガルドワンの姿があった。

 

『強いな』

「せ、先輩まで…援軍を呼びます!」

「残念だが、あたしの煙は通信を妨害する。簡単にはつながらねえよ。それにさっさとしないと、負傷した奴らが出血死するよ」

 

 ケラケラと笑いながら眼帯の悪魔が話す。彼女の言う通り、致命傷を負った戦士たちは苦しそうに呻いており苦しさが嫌でも耳にわたる。片腕を切られた一人は回復のために魔法陣を展開させるが、傷口は閉じずに血は止まらなかった。

 ただ相手の魔力を踏まえると、最初の一撃で仕留められたようにも思える。むしろわざと負傷状態にさせて撤退を促しているようにも見えた。

 どちらにしろ怪我人たちを抱えて勝てるほど、相手の実力は甘くない。そうなると彼の行動は決まっていた。

 

『ドレッドさんたちは皆さんを連れて戻ってください。援軍もお願いします。ここは自分がくい止めます』

「わ、わかりました!」

 

 ドレッドともうひとりの戦士はすぐに負傷した仲間を抱えて離脱を図ろうとするが、敵の2人組は武器を携えて接近してきた。

 

「誰が逃がすかよ」

『誰が?決まっているだろう』

『僕らが逃がすんだよ!』

 

 大一は背中から生みだしたシャドウの拳を伸ばし、さらに仙術による火炎で広範囲に攻撃をしかける。敵は向かってきた黒影と炎を防ぐのに足止めを受け、戦士たちはこの場から離脱することに成功した。

 

「あーあ、逃げられちまったよ。仕方ねえか」

『…本気で言ってないだろ。逃げられること自体がお前らの計画のように思える。異界の地関係者のふりまでしてどういうつもりだ?』

「…言っている意味が分からんね?」

『とぼけても無駄だぞ。仮にも幾度となくこの魔力を用いた相手と戦っている。確かにお前らは異界の魔力を持っているようだが…全身ではなく心臓部のみに感じられる』

「だからなんだ?それが異界の地とは無関係ってことじゃないだろ?」

『なるんだよ。そこには他の力も感じられるし、つい最近も同じ魔力を持っていた相手と戦った。お前ら、冥府の悪魔だろ』

 

 先ほどガルドワンと打ち合った時に確信した。相手が胸に宿している異界の魔力を感じられるものからは、他の魔力や怨念の力も感じられた。先日の襲撃で無角の残骸が冥府によって回収されたこと、加えて最近の正体不明の悪魔や一誠たちに宣戦布告した超越者を名のる悪魔のチームを踏まえると、彼らは冥府関係者であると考えていた。

 大一の指摘に、ガルドワンと眼帯の悪魔は顔を見合わせる。

 

「意外と早くバレたな、イータム」

「構いやしないさ。その可能性は考慮していたし、計画に支障は無いんだから」

 

 そう言うと眼帯の悪魔…イータムの袖口から出てきたのは大きな口であった。まるでスライムのようなぶよぶよした肌があり、それに臼のような太い歯がついた口が両手に備わっている。さらに口から赤黒い波状の刃が飛び出てきた。先ほど戦士を襲った得物だろう。

 

「じゃあ、バラバラに刻んで喰ってやろうか」

「俺は全身を潰してから首を切る方がいい」

『やれるものならやってみろ。行くぞ、シャドウ』

『わ、わかった!』

 




ということで、一誠たちの試合の裏で二つの戦いがスタートです。
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