ロスヴァイセたちの方も少し描写します。
会場から離れた森林地帯では大一が2人の謎の悪魔と相対していた。イータムが両腕の口からヘドロのようなものを吐き出していくのを、錨で防ごうとしたが…。
『うおっ!?』
「かかったな」
触れた瞬間にヘドロが爆発する。威力もなかなかであり、咄嗟に硬度と体重を上げなければ吹き飛んでいただろう。
さらに追撃のヘドロが向かってくるので、大きくジャンプして回避する。それを見越していたかのように相手も飛んできて、口から出ている波型の刃で斬りかかってきた。
すぐに錨で受け止め薙ぎ払うものの、相手も払われた勢いを利用して、回転しながら斬りかかってくるなど対応が素早かった。
『これでどうだ!』
大一の背中から黒い腕が2本出てくると、殴りつけようとする。さすがに相手も虚を突かれたようで刃で防ぐものの、おかげでがら空きになった腹部へ力強く蹴りを入れた。イータムは大きく後方へと飛んでいくかと思われたが、素早く両腕から爆発するヘドロを吐き出してきた。
攻撃に対して疑似防御魔法陣を張って防ぐと、爆風を利用して大一も後方へと飛んでいく。これで距離を取れたと思ったが…
『後ろだ!』
「もらった」
シャドウの叫びと同時に大一は横に転がるようにジャンプする。直前まで彼が経っていたとこにはガルドワンによって大きな斧が振り下ろされていた。刃は冷気が纏っており、地面が凍り付いた。
『氷なら炎だ』
大きく息を吸い込み、仙術による火炎を吹き出す。相手の全身を飲み込むほどの規模はあったが、ガルドワンの持っていた斧はいつの間にか冷気ではなく水の塊を纏っており、大きく振って向かってくる炎に対抗した。
炎と水がぶつかり合い、辺りに水蒸気が発生する。どんどん広がっていき、双方ともに視界が封じられた。
これを好機と見た大一はすぐに生命力を引き上げて龍魔状態へと変化しようとしたが、その前に左腕と右足に締め付けられるような痛みを感じた。
自身の身体に目を向けると、イータムの両腕の口がしっかりと噛みついている。この霧の中でどこからともなく伸びてきた口はまるで離れる様子もなく、大一はそのまま上空へと持ち上げられる。そして勢いをつけて頭から地面へと叩きつけられた。
『ぐっ…!いってぇ…!ああっ、上手くいかない!』
悪態をつきながら起き上がった大一は、霧が晴れた中で並んで立っているイータムとガルドワンを睨みつける。硬度を上げたおかげでなんとかなったものの、ことごとく攻め手を封じられてダメージを受ければ苛立ちのひとつでも言いたくなった。
この場を引き受けてからそこまで時間は経っていないものの、相手の実力の高さを実感した。イータムはあの奇妙な腕を利用した戦い方に加え、そこに毒や爆発するヘドロといった殺傷力のあるものから通信を妨害する煙など搦め手にも富んでいる。さらに感知能力や隠密能力も高く、不意を突かれることも少なくない。
ガルドワンは彼女よりもパワーのある近接戦をしてくる。持っている斧には悪魔の基本でもある魔力の性質変化を使ってあらゆる属性の攻撃を可能とした。さらに魔法にも精通しているようで、同じ属性の魔法をかけ合わせて魔力を倍増させるといった器用さもある。
さらに厄介なのが相手のコンビネーションであった。龍人状態では限界があるとすぐに実感した大一は隙を見て龍魔状態になろうとするが、相手は隙を与えないように交互に絶妙なタイミングで攻撃をしかけてくる。
謎の悪魔たちは相当な実力者であることは間違いない。しかしそれ自体が大一の疑問を加速させた。
(なぜ、仕留めにこない?)
ここまで戦ってきて、相手にはまだ底が見えなかった。それほどの実力者にもかかわらず、長期戦を狙っているような立ち回りだ。
最初は試合の妨害や小猫たちを狙っているのかと思ったが、それならば早々に戦いを終わらせにくるはずだろう。ならば、アウロス学園でクリフォトが行ったように異界の魔力を持つ大一を引きつける目的かと思ったが、やはり彼を誘いだした時点で仕留めにかかっても良いはずだ。
『なあ、あいつらって無角の力があるのかい?』
(少なくとも同様の力は感知できる)
頭の中に響くシャドウの問いに、大一は答える。わずかに感じられる魔力や怨念は、タナトスが使役していた無角と同じもので彼らの胸部あたりに感知できる。また各地で騒動になっていた謎の悪魔や一誠たちに実質的な宣戦布告をしていたバルベリスたちの存在を踏まえると、イータムとガルドワンは冥府陣営だろう。その考えに確信を持てるが、同時に相手の狙いがより分からなくなっていた。
疑問と不安が入り混じる大一の頭に浮かんだのは撤退であった。もちろん相手の実力を思えば逃げ切ることは難しいだろうが、このままではジリ貧だ。
するとイータムは腕の歯を鳴らしてリズムを刻みながら気味の悪い笑みを浮かべる。いたぶるのを喜んでいるような印象であった。
「あたしらを見くびったな。請け負ったわりには、かなりボロボロじゃないか」
『まだやれるさ』
「口は達者だが、ひとりじゃたかが知れているさ。それに逃がすつもりも無い」
イータムの隣でガルドワンが地面を斧で軽く叩く。すると周辺に結界が展開された。感覚からして破壊するのには時間がかかるだろう。
『これほどの規模を…』
「お前がイータムとやり合っていた時に準備をしていた。この程度は造作もない。行くぞ」
「あいよ!」
イータムは大きく飛び上がり、ガルドワンは斧を振り払う。刃に風の魔力が纏っており巨大なかまいたちが迫ってきた。
素早く重さと硬度を上げていき、さらに錨と背中に展開した腕で疑似防御魔法陣を展開した。風圧で身体が後退しそうになったが踏ん張って耐えきる。
間もなく痛烈な斬撃が、大一を襲った。魔法陣で威力を殺したものの、それでものけぞりかけるほどの威力を感じられた。ふらつく足取りでわずかに後退する中で、上空からヘドロが降り注ぐ。またもや爆発かと思い、素早く口から魔力を撃ち出して迎撃しようとした。しかしヘドロは爆発せずに破裂する。飛び散ったヘドロがわずかに身体に当たると、焼けるような痛みを感じた。
『うぐっ…酸か…!』
「もう一撃」
怯んだ隙にガルドワンが距離を詰めていき、炎を纏った斧を振る。今度は防御も遅れてしまい、そのまま横へと弾き飛ばされてしまった。
身体が地面に打ち付けられるも反動を利用して立ち上がる中、ガルドワンとイータムは何やら話していた。
「イータム、北欧の連中は?」
「まだ感知できない。もうちょっとかかるな」
「ならば、もっと弱らせよう。あの男、噂通りのタフさだ」
「傷顔なんて見た目だけの異名と思ったが、ボロボロになっても立ち上がる打たれ強さも表していたのか?だがひとりでどこまで粘れるかな」
『さっきから聞いていれば…俺がひとりでいたことなんて、この一年近く無い』
吐き捨てるように言いながら、大一は背中から黒い腕を生みだし、さらに全ての手に錨を握って構えなおす。
「ずいぶん強気な発言だ。たしかにその神器で手数はごまかせるだろうが、その程度でしかない」
『シャドウは相棒だ。こいつと一緒に戦うことが、俺にとって何よりも力になる』
「聞いたか、ガルドワン?欠陥神器ひとつにここまで信頼を寄せるとは」
『なっ!?だ、誰が欠陥神器だ!』
大一の左肩から血走った目が飛び出て甲高い声で抗議する。敵の一言は、シャドウの触れられたくない部分を逆なでしたようであった。
「まあ、怒んなって。あたしらも周りの奴らからは失敗作なんて呼ばれているんだ。似た者同士ってところよ」
『似た者って…?まるで誰かに作られたような口ぶりだな』
「ん~、どうだろうな。お前らがくたばった後なら教えてやる」
イータムは両腕の口から出てきた刃で再び斬りかかってくる。舞うような動きで攻撃してくるのを、大一は複数の腕で捌いていった。
しかしどうも影で創られた腕の動きがぎこちなく、違和感を覚えつつ攻撃を防いでいく。
『シャドウ!』
『わ、わかっているって…!』
「なんだ?欠陥神器って言われたことに動揺しているのか?仕方ねえだろうよ、事実は受け入れなきゃな!」
身体を回転させてその勢いで斬りかかってくる相手に、大一は思わず後退する。さらにその隙を狙っていたかのように、横からガルドワンが雷の力を纏った斧で攻めたててきた。顔がない姿からは感情は読み取れないが、発せられる声はおぞましさと非難的な雰囲気を感じられた。
「せいぜい手数を増やす程度でしかできず、所有者には負の感情を増幅させ精神を破壊する。扱える奴がいたところで、たかが知れているということだ」
『な、舐めるな!僕の力はこんなものじゃ…!』
「見え透いた嘘だな。その弱さを自覚しつつも認められないとは。浅ましく愚かだな、犠牲の黒影」
防御の動きが鈍ったところに、ガルドワンの右腕が大一のみぞおちへと入り込む。拳は風の魔力を纏っており、あまりの鋭さに重さを上げていながらもよろけながら後退させられた。
その隙を待ってましたとばかりにイータムが攻撃をしかけてくる。両腕を合わせたかと思うと、合体して大きな口となり臼みたいな歯で噛み砕こうとしてきた。
『うぐッ…!』
硬度を上げたことで砕かれることはなかったが、ほぼ全身を覆われてしまい、そのまま後方の巨木へと叩きつけられてしまった。至るところから出血で身体は重く、苦しそうに咳き込みながらなんとか立ち上がる。
そんな大一にプレッシャーをかけるように、相手は魔力を溜めて次の攻撃の準備をしていた。
「力も無いなら、せめてあたしらに喰われて糧となりな」
「弱肉強食、まさに悪魔らしいだろう」
底が知れない、この不気味な悪魔たちへの率直な感想であった。状況を返すにはやはり龍魔状態になることが先決であったが、隙を作ろうにもシャドウが動揺したからなのか動きにズレがあり上手くいかなかった。
確実に追い詰められていく中、絞り出すような声が大一の身体から響く。
『ちくしょう…!僕は…僕は欠陥神器じゃない…!』
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神々を相手に立ちまわる一誠のチームであったが、その中でロスヴァイセとレイヴェルは例外であった。それでも相手はヴィーザルお付きのブリュンヒルデを筆頭とした戦乙女軍団だ。ロスヴァイセ自身も既知の仲であり、その実力は本物であることも理解している。
しかしつい先ほどの出来事はあまりにも面食らってしまった。
「私としたことが失態を演じたわ」
後悔を隠しきれない様子でブリュンヒルデは呟く。戦闘の最中で、大一との関係に触れることになり、戦乙女たちが動揺した隙に攻撃を叩きこんだのだ。戦っていた戦乙女たちは全員が仕事優先で異性関係はからっきしであり、そんな彼女たちにとって同僚であったロスヴァイセに彼氏が出来たという情報は大きな動揺を促した。
正直、ロスヴァイセもこんな展開になるとは予想もしておらず、ブリュンヒルデ以外にいた戦乙女4人をリタイアまで追い込んだ事実に驚きを隠せなかった。
レイヴェルも同じように驚いていたが、すぐに頬を軽くたたいて魔力を集中させる。
「なにはともあれ、これで2対1です。数は逆転ですよ」
「そ、そうですね…。先輩、勝たせてもらいます」
「たしかに不利ですね。しかしそれで負けると決まったわけではありません」
冷静さを取り戻したブリュンヒルデは携えていた剣に光の魔法をかける。悪魔に対しての有効打を得たところで、ロスヴァイセたちも気を引き締めなおした。いくら人数で勝っているとはいえ、油断ならない実力者であるのだ。ましてやロスヴァイセは昔から勝てたことは無く、ここまでの戦いでも彼女がヴィーザルのお付きとして実力を大きく高めたことを実感していた。
しかし強くなったのは自分も同様だ。戦乙女時代よりも強力な攻撃や結界術はもちろん、苦手だと思っていた防御は研鑽して強固になっている。加えて、今はミスティルティンの杖まで持っているのだ。
「ハァ!」
ブリュンヒルデの声とともに、巨大な斬撃が飛んでくる。光の力も重ねられているので、その威力は間違いないだろう。
ロスヴァイセとレイヴェルはすぐに防御魔法陣を展開させて攻撃を防いでいく。ここで追撃するように北欧式の魔法が迫ってくる。あらゆる属性が入り混じった攻撃は、雨のように降り注いできた。
「これは…!」
「大丈夫です」
怯みかけたレイヴェルの防御魔法陣にロスヴァイセがさらに魔力と魔法を重ね掛ける。より強固になった防御は、見事にこの強力な攻撃を防ぎ切った。
しかしここで視界が悪くなった隙を狙って、ブリュンヒルデの接近を許してしまう。いち早く気づいたレイヴェルが鳥型の炎を撃ち出すも、それは滑らかな動きで回避された上に、その勢いを利用した蹴りを受けて後方へと飛ばされてしまった。
そのまま剣をロスヴァイセに振り下ろすが、彼女はミスティルティンの杖でその一撃を防いだ。
「よく反応したものです。ロセ、あなたが悪魔になって強くなったのはよくわかる。でもまだ甘い!」
鋭くも滑らかな太刀筋で、ブリュンヒルデは何度も斬りかかってくる。これに対してロスヴァイセは杖でいなすことで精一杯であった。
「これくらいの攻撃なら、あなたの彼氏は防ぎきってすぐに反撃に出ていましたよ」
「なんで先輩がそんなことを…」
「ヴィーザル様との戦いを見ていたからです」
隙を見計らってブリュンヒルデの蹴りが、ロスヴァイセの腹部へと入ってくる。寸前のところで小さな魔法陣を張って防ぐも、咄嗟の一撃であったため後退をしてしまった。
「…それにしても、あなたが彼とそこまで進んでいるとは」
「べ、別にいいじゃないですか!」
「意外だったんですよ。言ってはあれですが、複数の女性と関係を持つ男性とは…」
苦々しい表情でブリュンヒルデは言う。悪魔であろうが北欧神話であろうが、複数の異性と関係を持つのは、珍しい話でない。
それでも彼女は持ち合わせている奥手な貞操観念と、自身の後輩への心配が入り混じり、どこか納得できない様子であった。もちろん彼がロスヴァイセのために全力を尽くすのは先日のヴィーザルとの一件で理解していたが、それが心配を余計にこじらせることになってしまっていた。
そんな先輩の様子に、ロスヴァイセはわずかに息を吐くと柔和な笑顔で言う。
「大一くんといると安心するんですよ」
「月並みな…」
「そうかもしれません。でも大切なことですよ。困った時に頼れる、逃げ場にもなってくれる、私がありのままでいられるんです」
悪魔になってからの経験は彼女にとって人生を大きく変えた。仲間たちは優しく、教師という生きがいも見つけられた。同時に頼られることも増えていった。それがイヤなわけではないし、むしろ喜ばしいのだ。
しかし自分も完璧ではない。どうしても追い詰められてしまう時はある。それゆえに頼って欲しいと言ってくれた彼は、自身が心を開いて一緒にいられる相手であった。
そして彼が追い詰められた時に、自分が力になれたことも嬉しかった。苦楽を共有して紡がれてきた縁は、ロスヴァイセにとって特別になっていた。
「彼は白馬の王子様ではないけれど、私には特別な人です。だから一緒にいたいんですよ」
「悪魔になって変わりましたね、ロセ」
「ええ、彼や仲間のおかげです。それを先輩に証明するためにも、この勝負は勝ちます」
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大歓声の試合の一方で、大一たちの戦いは静かであった。せいぜい木が風に揺れる音や戦いの余波で倒れるような音くらいだ。そんな中だからこそ、シャドウの甲高い声は妙に響いた。
『僕は…欠陥神器じゃない…!』
「力は無いわ、それを認めることもしないわ、中身まで欠陥だなぁ」
『いや違う…これが僕の力になるんだ…!』
「あ?」
シャドウの絞り出すような言い方に、イータムとガルドワンは歩みを止める。奇妙な緊張感が辺りを包み込んでいるようであった。
「話も通じなくなったか」
『…いや正気だ。お前らの指摘したことなんざ、僕はいくらでも考えてきた。何度も何度も実感し、特にここ最近は酷いものさ。しかしその上で僕は強い神器であると答えを出したんだ!』
最後は無理やり奮い起こすように声を上げる。感情が芽生えた頃から己の不完全さを実感し、それが原因で幾度となく地獄を見てきた。ここ最近では神滅具の認定やヴィーザルとの対決でその感情は加速した。
他者への嫉妬を口にしながら行動に移し、同時に悶々と自分の弱さへの恨みを伴っていた。負の感情と行動が堂々巡りする状態だ。
そしてひとつ気づいた。初めて憑りついた大一と同様に、シャドウ自身も凄まじい自己嫌悪を抱えていることを。
自己嫌悪こそが己の力をもっとも引き出す、その特性は所有者だけでなくシャドウ自身も例外ではないかもしれない。そう推測したからこそ、彼は完全に弱さを認めなかった。認めてしまえばそこで考えるのを止めてしまう。自分は強い、自分は認められるべき存在だと行動に出すことで、己の弱さと常に向き続けることができるのだと考えたのだ。
『神滅具や神なんかに負けるものか!僕は不完全だが欠陥神器じゃない!』
「あーあ、みっともないことで」
「実力も伴わない雑魚が…虫唾が走る」
『うるさい!僕は…僕は強い!』
『ああ、そうだ。シャドウ、よく言った』
口元に笑みを浮かべながら、大一は同意する。
『お前はそのままで十分だ。その想いも含めて、一緒にやっていくと決めたんだからな』
その言葉を聞いた瞬間に、シャドウは安堵の気持ちがあふれてくる。以前と決定的に違ったのは、今は自分を扱える相棒と最強の龍からの頼みがあった。それが支えとなり自分が孤独でないことを実感するからこそ、己の負の感情にも向き合って考え続けることができるのだ。
「時間つぶしにしてもつまらない話だ。ガルドワン、まだ少し離れているが力を近づいているのを感じる。もしかしたら北欧以外にも援軍はいるかもな」
「ちょうどいい。ぼちぼち終わらせにかかるか」
イータムとガルドワンは呆れたように再び力を溜めていく。向けられるギラついた殺意はここまでの比ではなく、決着が近づいてくるのがひしひしと感じる。
これに対して、大一とシャドウは先ほどよりもだいぶ余裕を取り戻していた。
『なあ、シャドウ。お前があいつらと話している時に気づいたんだ』
『僕はもっと早く気づいていたよ』
『だろうな。お前自身のことだもの』
先ほどからシャドウの扱いにズレがあったが、それは動揺によるものでないことに気づいたのだ。
彼が思いだしたのは去年の夏、初めて黒歌と戦った時のことであった。一誠の神滅具が上手く機能せずにピンチに陥っていた。後で聞けば、禁手が近かったようで一誠がリアスの乳首をつついたことがスイッチとなり覚醒へと至った。それと同様のことが今まさに起ころうとしている。
『なにが決め手になったのかまでは分からないけど』
『お前が悩みぬいた末に答えを出したこと…にしておこう』
『まあ、これからもいろいろ悩みそうだけどね。さあ、覚悟しろ!僕が欠陥神器でないことを証明してやる!』
シャドウが高らかに宣言すると同時に、大一は黒影で形成した右腕を上げていき、敵に手の平を向ける。頭には情報が流れ込んでいき、相棒の強さを実感していく。間もなく彼は静かに、しかしハッキリと言葉を紡いだ。
『禁手化』
やっとだよ、この神器…。