D×D 外道の悪魔   作:水飴トンボ

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だいぶ期間が空いてしまいました。
今回は敵組の描写を。


第44話 天龍を狙う者

 コキュートスに位置する巨大な研究所の一室、そこでハーデスは椅子に腰を下ろしつつ、目元を抑えていた。あまりにも静かで生気の無い容姿も相まって眠っているようにも見えたが、そこには形容しがたい禍々しさが全身から溢れているようであった。

 

《おのれ…》

 

 昂る感情を抑えるかのように呟く彼は、数時間前の出来事を想起していた。神滅具持ちやアジュカ・ベルゼブブ、さらには厄介な他神話の主神を抹殺するために結成した「地獄の盟主連合」、その会議中に一件は起きたのだ。

 

『例外なくぶっ飛ばす!』

 

 兵藤一誠からの宣戦布告からは映像越しとはいえ本気の怒りが感じられた。タナトスの部下が彼の父やオーフィスたちを狙って行動したことにより、彼の逆鱗に触れたのだ。この宣戦布告には笑う者、警戒を強める者と反応は様々だ。

 ハーデス自身もいずれ彼を潰そうとしていた。そのためにバルベリスたちを筆頭に戦力を準備し、計画も立てていた。それをタナトスの部下が勝手に動いたことで、一気に狂わされたのだ。自身の勢力も一枚岩ではないのを理解していても、このように出鼻をくじかれては苛立ちも感じる。ただでさえ、失敗作たちの一件があったのだから尚のことであった。

 クリフォトが残していた研究所、そこにあったリリスの母体を使って複数の悪魔を生みだしてきた。特にバルベリスたちは上手くいって、実力は超越者たちにも劣らない。

 だが失敗した者たちも当然いる。最初の方に生みだした者は形を保てず、すぐに死んでいく者も少なくなかった。その中で回収した異界の魔力を持つ鎧の破片を利用した。大部分は反対派のタナトスが確保していたものの、残った破片に邪龍の研究データや魔力、身体の一部を組み合わせることで数人だけ蘇らせることに成功したのだ。実力もさることながら、バルベリスたち以上に従順な性格は扱いやすかった。

 だからこそ、計画が失敗したことにはため息も出た。同じ魔力を持つ者として兵藤大一がおびき出されたが、あくまで計画の第2ターゲットでしかない上に始末することもできなかったのだから。

 最大の狙いは異界の地に住む勢力の幹部クラスを表舞台に引っ張り出すことであった。支配者が北欧に関連しているため、今回の試合をどこかで傍観している可能性もあり、それを期待して失敗作たちを派遣したが…。

 

《失敗か》

 

 気の抜けるような長い溜息をつく。結局、理を外れた者たちを引きずり出すことは出来なかったのだ。今までのように隠れているのであれば無視も考えていたが、ここ最近になって活発になっている。それを見過ごすわけにいかなかった。

 タナトスの一派はことごとく不利益をもたらしていたが、収穫もあった。所在不明であった神滅具の2つを持っている者が動き始めたことが判明したし、異界の地に住む者が情報を収集しているため動きに気づいている可能性が高い。

 

《ふぅ…》

 

 一息ついて頭が整理されていくと、今度は沸々と煮えたぎるような感情が全身を駆け巡り始める。

 赤龍帝の宣戦布告も面食らったものの、元人間であるだけの悪魔が神滅具を持って力をつけてきただけで、神である自分を討つような言動は腹立たしい。かつてプルートを倒し冥府にも喧嘩を売った白龍皇同様に二天龍という存在は神経を逆なでする。

 いや彼らに限った話ではない。冥界の悪魔や堕天使たちも神滅具持ちも異界の地の者たちも、全員が同じような存在だ。全ての者に平等に与えられるはずの死という概念を、超常的な神という存在を、付きまとうべき闇や世界の理を壊そうとしている。それを受け入れている節のある他神話の神々すらも不快であった。

 ぐっと腰を上げると同時に、またもや一誠の宣戦布告が頭に反芻する。ぶっ飛ばす等と甘く見られたものだ。たかだか転生悪魔がおこがましい。自分を誰だと思っている。自分は…

 

《我は冥府の神…ハーデスだ》

 

 陽炎のごとくゆらめく怒りが語気を強め、彼は部屋を後にする。死を司る神は再び計画を進めるのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 アザゼル杯選手の宿舎にて、ヴェリネはベッドに腰をかけながらテレビを眺めていた。流れている映像は赤龍帝の試合、それもアザゼル杯よりも前のものだ。瞳には映るものの退屈さが織り交ざっており、床に座り込み目を輝かせているバルベリスとはまるで違っていた。

 

「そんなに面白い?」

「興味深いと言った方がしっくりくる」

 

 視線を外さずに答えるバルベリスに、彼女は小さくため息をつく。先日の赤龍帝と神々の試合が終わってからずっとこんな調子であった。「父」を求めていたバルベリスにとって「乳」という単語が琴線に触れたらしく、赤龍帝への興味はこれまで以上となっていた。元よりハーデスからの命令で戦うことは宿命のようなものだし、実質的な宣戦布告までしているのだから関心を持つのは間違っていない。意味の分からないパワーアップは確かに面白いが、バルベリスの場合は興味の方向性が予想外のベクトルへと振り切っているようであった。今見ている映像も対策を立てるためというよりも、別の目的があるようにしか見えない。

 そんな中、ヴェリネはちらりと視線を天井に向けると口を開いた。

 

「わざわざここに来て何か用?」

 

 その言葉に呼応するように天井に黒い影が広がっていくと、そこからひとりの女性…イータムが出てきて音も無く降り立った。

 

「様子を見に来ただけさ。いよいよ本戦なのだろう」

「お祝いでも言いに来てくれたの?」

「誰がお前らなんかにするかって。ハーデス様の命令をしっかり遂行しろというだけだ」

「そっちは出来なかったのによく言う」

 

 テレビから視線を外さずにバルベリスが呟く。先日、異界の地の関係者を引っ張り出す作戦での失態は彼らの耳にも届いた。作戦失敗だけでも呆れていたのに、第2ターゲットであった兵藤大一に阻止されたものだから尚のことだ。

 もっともイータムには、その皮肉も特別響いた様子はなく元来の冷たい視線をバルベリスへと向ける。

 

「ハーデス様からの処罰は済んでいる。言われる筋合いは無いね」

「それはお互い様だろうよ」

「どうだか。あんたの価値観は気に食わない」

 

 イータムの指摘をヴェリネはすぐに察した。バルベリスは生まれてきた意味を知りたがっている。超越的な力を持つゆえの親への期待を抱いている。感情を持つ生物としてはいたって普通と思えるような考え方であるが、彼女はそれを抱くことが許せないらしい。

 

「あたしらはハーデス様の駒であり、全てが終わったら消えるだけなんだ。それこそが生きる意味よ。くだらない思想にふけっていないで、命令を遂行することに集中しろ」

「それで納得できるか?この力を手にして生まれたからには、なにか意味があると思うのが悪いことか?」

「意味なんてあるかよ。あたしらという存在がこの世界で矛盾しているんだから。身の程を知りな」

「まともに動けもしなかった失敗作が言わせておけば…!」

 

 売り言葉に買い言葉、気づけばバルベリスも立ち上がり、イータムと睨み合っていた。ハーデスの命令もあるため一戦交えることはありえないが、威嚇するかのように魔力を高めることは互いに可能だろう。そんなことをすれば隠密性に優れる彼女でも、すぐに見つかってしまうだろう。

 彼女も立ち上がると2人の肩に手を置く。

 

「はいはい、お互いに落ち着いて。イータム、用が終わったら帰ってちょうだい。宿舎に侵入者ってことで私たちが疑われたら、それこそハーデス様に迷惑でしょう」

「あんたに言われなくても、すぐ消えるさ。とにかくターゲットに入れこみすぎるな」

「そっちも今度は上手くやるんだな」

 

 憎まれ口をたたき合いつつ、イータムは天井へと消えていき、バルベリスは再び腰を下ろして見逃した部分へと巻き戻す。

 やれやれといったように首を振ると、ヴェリネは飲み物を取りに退室する。彼女としてはバルベリスの意見に同意していた。彼ほど家族へ執着はないが気になるのも理解できるし、せっかく生まれてきたのだからそれを楽しみたいではないか。

 そういう意味では、楽しみすらも感じられないイータムには一種の虚しさを抱くのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 同時刻、アリッサは静かに紅茶を飲んでいた。香り、温かさ、味とどれをとっても素晴らしい。ただこれは紅茶だけでなく、場所も影響していると思われる。周辺には木製の家具が立ち並んでおり、樹木が壁のように立ち並んでいる。それを強調するかのような広さに、わずかな風で揺れる音も心地よく穏やかな気分にさせられる。

 いつもの手狭な研究所と違って、木々によって造り出された広い客間は一息つくのにベストな空間であった。

 

「待たせた」

 

 静かな空気に切れ込みを入れるかのような鋭い声が耳に届く。きっちりとした白色の軍服を身にまとった女性が歩いてくる。肩にロングコートをかけ、手袋もきっちりとはめて肌の露出を極力抑えているのにも関わらず、グラマラスな体系は服の上からでも明らかであった。帽子を深く被っているが、後ろから見える薄紫色のウェーブヘアーがひとつにまとめられて短めのポニーテールにしており、滑らかに揺れている。筋の通った鼻、薄い唇、切れ長の目、それらが全て整った形で顔に配置されており、凛とした美しさを醸し出している。

 

「キミがお茶を飲んでいる姿は何度見ても不思議だ」

「差別的な発言よ、エリーム。人間らしさは私にとって魂と同じくらい、特別な研究テーマなんだから。ところで彼は?できれば、直接話したいんだけど」

「あの方は研究室にこもっている。しかし珍しいな。会うたびに口説かれるから煩わしく感じているのかと」

「思っているわよ。でも今回は私が失敗した身。謝罪の筋は通さないと」

 

 エリームと呼ばれた女性が意外そうに眉根を上げる。その姿にアリッサは内心ため息をついた。また律儀だなんだと思われているのだろう。独立者の中でも新参者だが、いまだに外の世界への繋がりも完全に断ち切れていない。迷い込んだ者を助けたり、自身の作品のケジメをつけようとしたりなど、この地に長くいる者であれば首をひねるような言動が多いのだ。彼女も自覚はしているが、この性分を変えようとは思わないし、いちいち他の連中に反応されるのも癪であった。

 エリームは対面の席に座り込むと、テーブルに魔法陣を展開させる。間もなくそこから紅茶のカップとお替りの入ったポッドが現れた。彼女はカップに自分の分を注ぎながら問う。

 

「ベルディムは?」

「反対側に喧嘩を売りに行ったわ。ちゃんと見届けたから大丈夫。真面目な話を邪魔されたくないものね。それで謝罪の件なんだけど…」

「その口ぶりだとギガンは引き入れられなかったようだ」

「まあ、そうね。それにもうひとつ、リアス・グレモリーと接触したけど倒せなかった」

 

 先日の一件についてアリッサは説明していく。淡々としているように見えるが、言葉の裏にはどこか苦々しい雰囲気が漂っていた。

 

「本当にごめんなさい。私の力が及ばなくて」

「いや、気にかけることじゃない。グレモリーの彼女は確定では無いし、ギガンが戻る気がないと分かったのも大きい」

「しかし三大勢力側に私たちを感知できる相手が増えるのは厄介でしょう?」

「異界の魔力はあくまで付随的なもの。私たちにとって今更な話だ。そもそも冥府もできるようだ」

「冥府に?まさか…」

「キミの作った鎧武者の破片だろう。解析したのか、それとも人工悪魔に適応させたのか…クリフォトの奴らはこちらの手も焼かせてくれる」

 

 エリームの発言に、アリッサは表情をより険しくさせる。死神が無角の残骸を回収していたのは知っていたが、ここまで利用されるのはケジメをつけきれなかった自分の情けなさを痛感させられた。もっとも無角が魔力を身につけたのはサザージュの仕業なのだが。

 

「ちなみにどこからの情報?」

「ヴァルハラに噂の人工悪魔が現れた。それをこちらの幹部が確認した」

 

 あっさりと答えるエリームであったが、アリッサの方はそう思わなかった。口をあんぐりと開けて驚きを隠そうともしなかった。間もなく頭を振ると、盗み聞きを警戒するかのように声のトーンを落として問う。

 

「…つまり冥府は知っているの?彼が北欧神話関係者って」

「驚くことじゃない。ハーデスは死を司る。死に損ねた者が多数いるこの地の戦力を、外の世界ではもっとも把握しているだろう」

 

 背筋に冷水がかけられたような感覚を抱く。元人形である彼女としては数える程度しか経験していない感覚だ。そしてこういった時には、たいてい状況は悪い方向にしか行かないのも分かっていた。

 この地の軍勢にとって有利な点のひとつは、戦力を把握されきっていないことだ。しかしギガンにしろ、冥府にしろ、その利点をすでに潰しかけている。

 アリッサの不安そうな表情を見て、エリームはわずかに語気を強める。

 

「これ以上の謝罪は不要。そもそも回収された鎧のことを無視してギガンに目的を切り替えたのは、こちらの依頼だ」

「それでも失敗したわ」

「先ほども言ったが、気にかけることではない。むしろ好機と捉えるべきだ」

「ずいぶんな自信ね。なにか手はあるの?」

「彼はこの地の勢力関係について、ある程度は知っている。ゆえに思わないはずだ。我々、3勢力が協力することなど」

 

 エリームの発言に、アリッサは小さく頷く。中途半端に情報を持っているからこそ、かく乱に繋げることは期待できそうだ。隙が生まれれば、そこを突いて目的を達成できる可能性もあるだろう。

 

「ただそれだけでは成功しない」

「慢心するつもりはない。ひとつひとつ使えそうな材料を利用し、作戦を展開させていこう。そもそも冥府とはやり合う必要は無いんだ。今のところは」

「…手を組むのはやっぱり難しいかしら?」

 

 淡い希望であるのは自覚しつつ、アリッサは遠慮がちに訊く。冥府と同盟を組めば、戦力としては申し分ないだろう。

 しかし予想通り、エリームは小さく首を横に振る。

 

「無理な話だ。あっちからすれば我々は死ぬべき存在なのだから。もっとも今後は無理にやり合う必要は無いだろう。少なくとも現時点は。あくまでも目的は…」

 

 そこでエリームは言葉を切って瞑目する。次に発する内容が彼女にとってどれだけ特別で悲願なのかが察せられた。

 間もなく目を開けると、改めて決意するようにハッキリと宣言する。

 

「二天龍の首を取ることなのだから」

 




次回あたりが25巻の区切りになりそうです。
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