D×D 外道の悪魔   作:水飴トンボ

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まさかまたこの人物とのやり取りを書くことになるとは…。


第6話 冥府の最果てで

 冥界は悪魔と堕天使の領域である。一般的に想像される地獄のような禍々しさはあまり見られず、むしろ繁栄された街並みが印象的であった。

 芯から冷えるような雰囲気を感じさせるのは、冥界のさらに下層に位置する冥府の方だろう。死神の拠点であり、全ての者に訪れる死を司る存在が支配するこの地は、どれだけ名うての猛者であっても、生を抱く者達は足を踏み入れることを躊躇する。

 にもかかわらず、この日の冥府には2人の悪魔…現魔王であるアジュカ・ベルゼブブとそのお付として兵藤大一が来ていた。正装のローブを身に着けており、一切の油断を排除した表情をしている。その雰囲気はこれから起こることの深刻さを物語っていた。冥府最大の神殿に招かれていた彼らの視線の先には、ローブを纏った骸骨がいくらか高い場所に鎮座している。

 

《1年足らずで、この地に魔王…いや超越者が2人も訪れることになるとは》

 

 骸骨の口から洩れる声は身体を通り抜けるようでありながら覇気も感じさせるものであった。実際、目の前にいる存在は、世界の中でも有数の知名度と実力を持つ者であった。死神たちのトップに君臨する神…ハーデスは余裕な態度を崩さずに言葉を投げかける。

 

《妙な時代になったものだと思わんか?唯一、残った魔王よ》

「否定はしません。だが世界の未来のために必要な選択だと思っています」

 

 アジュカは臆せずにきっぱりと言い放つ。弱気な態度を見せればつけこまれるとはいえ、ここまで胆力を見せられるのは実力ゆえか立場ゆえか…。

 これに対してハーデスは小さく笑う。本気で笑っていないことは誰が見ても明らかであった。

 

《ファファファ、まあよい。私もこの場で事を構えるつもりはないのでな。さっさと本題に移らせてもらおうか》

「そうしていただけるとこちらも助かりますな。俺としてはこの場はかなり興味深いが、同時に長居する必要もないので」

《小うるさいコウモリが言いよる。しかし貴殿らの贈り物には感謝しよう》

 

 相手の指す贈り物とは、大一が先日捕縛した禍の団の残党であった。その中に死神が2人おり、彼らをハーデスに引き渡していた。

 

《あれは我々の中でも勝手にテロに加担した者でな。余計な噂が立つことや情報の漏洩が気がかりであった》

 

 ハーデスの発言について、アジュカも大一も全面的に信用することは不可能であった。すでに彼は英雄派の曹操にサマエルを貸す、最上級死神のプルートを遣わせる、当時クリフォトと協力関係であったアポプスと契約するなど、テロ行為に加担してきたと思われる要素はいくらでも挙げられた。

 しかし裏付けられる証拠は少なく、表向きな言い訳で関係の無いことを主張してきた。おそらく今回の一件も言い逃れのための尻尾切りか、不都合な存在のため排除を目論んでいたかといった目的が想像できる。現時点でも他の神から警戒されているような冥府の神を素直に信じることができる人物はいないだろう。それをハーデス自身も理解しているはずであった。

 それでもこの状況を利用して、アジュカは今回の交渉を勝ち取った。

 

「では、先日のお話通り、こちらの要求を呑んでいただきましょう。彼に会わせていただきたい」

《よかろう。ただし、こちらも勝手に陣地を闊歩されるわけにいかない。案内と監視に2人ほど死神をつける。そして会わせるのはそこの小童だけだ》

「ええ、わかっています。不本意ではありますが」

《ファファファ、そう言いながら貴殿も理解しているからこそ、小童と一緒にここに来たのだろう。超越者として私に睨みを利かせるために。以前、ここに来た奴らも同じようにしていたわ》

 

 ハーデスの脳裏に、半年近く前の出来事がよみがえる。魔獣騒動の際に、サーゼクス、アザゼル、デュリオがこの場に現れて、問題の終結まで共にいる状況を作り上げて動きを封じるという対応策を取られていた。その時はヴァ―リチームも乗り込んで、多くの死神を倒されたため、ハーデスとしてはお世辞にも好ましい思い出とは言い難かった。

 

《安心するがよい。私とてそんな小童をやろうなど思ってもいない》

「それでもあなた相手には用心するに越したことは無いでしょう?」

《残された立場とは難儀だな、現魔王よ》

 

 ハーデスが指を鳴らすと、部屋の入口から2人の死神が入ってくる。いずれも背筋を凍らせるような雰囲気は、並みの実力者でないことを物語っていた。

 大一はちらりとアジュカに視線を向ける。魔王はただ信頼の眼差しと共に小さく頷いた。それを確認した彼は心にのしかかる不安を取り払うように息を吐くと、気を引き締めて死神の後をついていくのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 地獄の最下層…コキュートスと呼ばれるこの場所は冥府の中でも特別であった。見渡す限りの氷の渓谷は、この世の生を許さないような過酷な環境であった。この冥府の最果ての地に縛り付けられるのは、大きな罪を犯した者や重大な裏切りが発覚した者など、世間からは決して歓迎されないような存在ばかりだ。

 

「広いですね。牢獄のようなものを想像していましたが、この規模は相当なものですね」

《小国くらいの大きさはある。歴史を重ねるほどに罪人も増えていくのだ。彼らを縛るのだから当然だろう》

 

 大一の問いに先導する死神が答える。これから向かうところへの緊張感を思うと、案内役の死神が一定の友好的姿勢を示してくれたのはありがたかった。もっとも彼の後ろについてくる死神の方は何も言わず、妙な動きをしたら即座に首を落とそうとしているかのように鎌を背負っていた。

 

『ちょこちょこ視界に入る奴らは何をしたんだろうね?ここに閉じ込められるくらいだから、調べたら出てきそうなものだ』

(悪趣味だぞ、シャドウ)

『純粋な興味だよ。僕だって伊達に世界を回ってこなかったからね。それに裏切りとかのような…道の外れたことばかりが起こるのを特に見てきたから』

 

 相棒の言葉に、大一はため息をつく。この寒さでは体から発せられる息は白かった。

 数十分ほど歩いていくと、巨大な氷壁の前にたどり着く。そこにはたったひとりの男が埋め込まれていた。身体のほとんどが氷壁に包まれており、首と頭だけが見える。それもうなだれてウェーブがかかった長い髪に隠れていた。あまりにも静かで、息をしているかも定かでなかった。

 

「まさか死んでいる…?」

《いや眠っているだけだ。コキュートスに来るような奴らは並の存在でない。だからこそここの環境でも死にはせず、大抵は衰弱しながら寿命を迎えることがほとんどだ》

 

 さらりと答えた死神は一歩前に出ると、その見た目に似合わない荒々しさを感じさせるような声で呼びかける。

 

《起きろ、面会だ!》

「…面会?」

 

 コキュートスに幽閉されていた男はゆっくりと顔を上げる。吊り上がった目は赤く、気怠そうであった。顔色は悪く、発せられる声からも衰弱していることが窺える。記憶と比べるとギラギラした闘争心と冷たい残酷性は朽ち果てたように見えたが、その顔は約1年前に戦争を画策し、戦いを繰り広げた相手であることは間違いなかった。

 堕天使コカビエルはちらりと大一に目を向けると、怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「悪魔だな。そんな奴が俺に何の用だ?」

「あなたにいろいろ聞きたいことがあってな。俺の力についても、最初に気づいていたのはあなただ」

「お前のような醜い顔の悪魔など覚えていない」

「1年前、駒王学園を攻めてきた際に、俺の錨を受け止めたあなたは歓喜に震えていたと思っていたがな」

 

 淡々とした大一の言葉を聞くと、コカビエルは一瞬だけ面食らった表情をして、すぐに口角を大きく引き上げる。その笑みは戦いの時に見せた歓喜と醜悪に満ちた悪意を感じさせるものであった。

 

「グレモリー眷属にいた、あの時の転生悪魔か。ずいぶんと変わったものだ。貴様の傷だけで同盟が上手くいかなかったものだと見える」

「顔の傷は関係ないことだ。そもそも同盟はあなたがコキュートスに閉じ込められた後の話だぞ」

「世界を揺るがすほどの出来事だ。こんな死の世界にも情報は届くさ。俺の行動がそのきっかけを作ったのは忌々しいことこの上ないが。まあ、アザゼルはその後に戦いの世界へと身を投じることになったんだ。少しは溜飲も下がった」

 

 想像以上に知っているコカビエルの言葉に、大一は目を丸くさせる。この男は極寒の地で世界の事件について耳にしていたのだ。

 だからといって、この人物が悪魔である自分に協力的になるとは思えない。あくまでこの男は堕天使至上主義なのだ。

 それでも大一はアジュカ同様に強気な態度でいるしかなかった。

 

「…あなたに聞きたいことがある。俺の力についてだ」

「ふん。俺の研究に今更ながら興味を抱いたか」

「堕天使陣営はなるべくあなたの『生命(アンク)』の研究についてかき集めたが、どうも数が少ない。本当はもっといろいろと調べていたんじゃないか?」

「…ああ、そうだった。そんな呼び方だったな」

 

 コカビエルの発言に、大一は引っ掛かりを覚える。アザゼルの話では彼がひとりで研究を進めていたほどだ。堕天使陣営は聖剣と同じくらいこだわっていたと考えていたようだ。それほどの研究題材に、思い出したかのような反応をするのは違和感しかなかった。

 その瞬間、パズルがかちりとハマるように思いつく。可能性の話でしかないが否定する理由も無いので、質問の方向性を変えていく。

 

「…『異界の魔力』について知っているか?」

「ほう、その辺りまでは気づいていたのか」

 

 すでにコカビエルは、大一の力の由来がそこに通じるものがあることに気づいていた。今までこの単語を知っていたのは、その地に強い繋がりのある者達だけであった。コカビエルが彼らに関係しているとは思えない。独力でここまで調べ上げたのだ。それを踏まえると、彼が持っている情報は想像以上に大きなものである可能性が高い。

 大一は高ぶる気持ちを冷ますように、ゆっくりと息を吐く。この魔力の成り立ちについて、彼は知っていた。聖書にも残らない旧魔王の血筋と戦った際に、もろもろの真実を聞いて胸に納めていた。この魔力が余計な混乱を引き起こさないことを願いながら。

 それでも力がより重要視される今の時代では、この魔力にも調査が向けられることは必然であった。ゆえに、現時点でこの魔力を持っている大一が、その魔力の繋がりを知っていたと思われるコカビエルから情報収集することを命じられたのだ。

 

「その特性は感知しづらく、同じ力を持つ相手とは引き寄せやすい。ある程度の身体能力や自然回復の強化もある。同盟はこの魔力の入手方法や活用法を知りたがっている」

「無意味なことを。あの魔力には期待するほどの特別性は無い。得るにしても、例の地に行く必要があるしな」

「しかしあなたはこの魔力が力の鍵になると考えていたはずだ」

「…ああ、その通りだ。魔力の特性や入手方法、その生まれた経緯まで調べていた。しかしその中で、俺はこの魔力を持つ者達にも興味を持っていた」

 

 異界の魔力の持ち主については、彼も思い当たる節はいくつもあった。歴史から消え去った英雄と融合した魔王の血筋、世界に絶望した高名な天使、炎の精霊やサメの魔物、魂が宿った人形、人体実験を受けた悪魔…いずれも道理を外れた実力者で、「D×D」は苦しめられてきた。

 だがほとんどは全滅し、残った者の中でひとりは牢獄に、もうひとりは行方をくらましているが敵対していない相手だ。

 あまり期待しているような情報は得られないかもしれない、そんな想いがよぎった大一であったが、言葉を続ける堕天使に覆される。

 

「あの地にいる戦力と聖剣があれば、再び戦争になっても悪魔や天使に負けることは無かったと断言できる。超越者が相手にいたとしてもな」

「なんだと…?」

「俺がサーゼクスやアジュカへの対抗策を考えていないと思っていたか。あの地にはそれに対抗しうる力を持った者がいる。超越者など、しょせんは俺らの世界で決めた枠組みでしかない。それに匹敵しうる存在が…あの地にはいるんだ」

 

 大一が見てきたサーゼクスの実力は本物であった。いつもの姿はもちろんのこと、別れ際に見た滅びの魔力そのものになった姿は、近くにいるだけでも規格外の存在であることは想像つく。戦ってきた異界の魔力を持つ者達は確かに強いものの、あれに匹敵する実力があるとは思えなかった。コカビエルがサーゼクスの真の実力を知らないとも考えられない。それこそ彼は長年多くの戦いを経験した上に、堕天使の中でもずば抜けて悪魔や天使との戦いを求めていたのだから。

 それに考えてみれば、大一自身はあの地のほんの一部にしか足を踏み入れていない。彼が知らないだけで、他にも魔力を持った人物がいてもおかしくないはずだ。それこそアリッサのようなクリフォトに協力しなかった人物が。

 様々な疑問と不穏さが駆け巡る中、大一は口を開く。

 

「…あなたはどこまで知っているんだ」

「そこまで教えるほど、悪魔に対して俺が親切だと思うか。まあ、堕天使として警告だけはしておこう。テロの脅威が去ったからといって油断していれば、足元をすくわれるぞ」

 

 狂気的な輝きを取り戻したコカビエルは、露悪的な笑みを浮かべつつ答える。

 リゼヴィムと邪龍による異世界の存在、先日に一誠から教えられたハーデスへの警戒、世界的な規模であるアザゼル杯…これほど人々の感情を掻き立てられる中、新たな脅威の可能性に胸をぐっと握られたような感覚を抱くのであった。

 




原作の敵もどんどんインフレしていくから、オリ設定も盛ってしまうジレンマ…。
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