D×D 外道の悪魔   作:水飴トンボ

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本編自体はあまり進んでいませんが、今後のためにこの手の話は書こうと思っていました。


第7話 懸命な努力

 まだ完全に日が上っていないような早朝、目を覚ました大一は隣で眠る朱乃を起こさないようにベッドから降りると、手早くトレーニング用のジャージに着替える。さらにタオルを準備すると、外に出て30分近く走っていく。朝特有の冷たい風は、汗をかいて火照る身体には心地よい。

 家に戻ってくると、今度は前日から冷やしていた飲み物を冷蔵庫から取り出し、地下の転移魔法陣からグレモリー領にあるトレーニング用フィールドに向かう。そこで柔軟運動で身体をほぐし、筋トレで負荷をかけ、黒影で創り出した錨を素振りしていく。右腕が無くなったため、まったく同じというわけではないが、彼は毎日のトレーニングをほぼ欠かさずに行っていた。淡々とひとつのルーティーンのようにこなしていく彼の姿を本当の意味で理解している人はどれほどいるだろうか。

 300回ほどの素振りを終えると、軽く息をついて額の汗をぬぐう。次に行うのは仙術の練習で、自然と一体化することを意識して瞑想を行う。仙術を学ぶにあたり基礎中の基礎であり、小猫もこの修行を行っていた。

 いつものトレーニングメニューに加えて3か月近く経っており、気の流れを意識することはかなり上達していた。

 

『でもまだ実戦的とは言い難いよね』

 

 肩から血走った目をぎょろつかせてシャドウが指摘する。実際、気の流れを意識するだけなら生命力の感知で似たようなことを行ってきたうえに、気を練って攻撃や相手に流し込むといった方法はいまだに出来ない。気の流れ自体が、目に見えない上に掴もうとしてもするりとすり抜けるような印象を受けるのだ。仙術によって扱えるものとして闘気もあるが、サイラオーグのような活力もなく発生することさえ出来なかった。

 

『正直さ、小猫や黒歌は猫魈だから出来るのであって、大一には向かないんじゃないかな?』

「まあ、感覚的だよな。俺の苦手とするところだ」

『それを知りながら、どうして特訓を…』

「黒歌が信じて教えてくれたんだ。やらない理由はないだろう?」

『…キミはそういう奴だったな』

 

 やれやれといった様子で首を横に振るような動きでシャドウは呟く。粛々と己を磨いていく男に、純粋に感心を抱くのであった。

 先日、コカビエルから得た情報はすでに冥界の上層部に伝えられていた。その際には期待していた情報を得られず、同様の魔力を持つ大一に当たりの強さが見られた。異世界とは別に謎の脅威が追加されることとなった現状、上層部の焦りももっともではあるのだが。

 この情報は同盟間で協議し取り扱うこととなったが、今はまだ上層部のみが知るところだ。いずれアジュカが整理して仲間達にも伝えられるだろうから、彼の方から皆にわざわざ話すつもりも無かった。

 かなりの重圧がかかっているはずだが、変わらずに特訓を続ける大一に、シャドウは相棒として一種の頼もしさすら感じていた。

 

「兄貴早いな」

 

 仙術の修行に移ろうとしていた大一に、フィールドに現れた一誠が声をかける。彼の後からも人が続いている。

 この日、大一が来ていたフィールドは以前から使っていたものではなく、一誠が上級悪魔昇格のお祝いとして用意されたフィールドであった。早朝にここで一誠達と特訓に付き合う約束をしていたため、いつものトレーニングをこの場所で行っていた。

 

「早いっていつも通りだぞ」

「いや俺らだって今日はかなり早いと思ったけど、それなのに兄貴いるし…夜遅いことも多いのに、どうしてそんな早いんだ?」

「まあ、ディオーグの件でろくに眠れていないことが多かったからな。それで身体が慣れてしまったのかもしれない。安心しろ、特訓の方は抜かりなく相手する」

 

 ハッキリと宣言する大一は、一誠が率いるメンバーに目を向ける。アーシア、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセ、レイヴェルと見知ったメンバーに加えて、ミニドラゴンや白く陶器のような肌の美少女、さらには快活そうな少年までいる。ドラゴンや少女については、彼も何度か見ていた。ドラゴンはタンニーンの息子であるボーヴァ、少女は以前吸血鬼の件で縁のあるエルメンヒルデだ。いずれも一誠のチームに加入している。

 大一の視線に気づいた少年は軽く頭を下げる。

 

「どうも、百鬼勾陳黄龍です」

「なきり…おうりゅう…ああ、キミがアジュカ様から神滅具の調査を行っている子か」

「合わせて、生徒会もやってくれている。実力もあるし、ウチのチームに入ることになったんだ。黄龍はすごいぞ」

 

 隣にいたゼノヴィアは後押しするように、少年の背中をバシバシ叩く。駒王学園の2年生である彼の出自はなかなか得意であった。五大宗家のひとつである百鬼家の次期当主で、一族の中でもっとも強い力を持つ者に与えられる霊獣「黄龍」と契約して、その名前と力を持つ。異能を持つ五大宗家の中でもずば抜けた実力者である彼は、アジュカから半ば便利屋扱いのようにされていた。

 大一は焼け焦げたような皮膚をしている左腕を差し出す。

 

「兵藤大一だ。一誠の兄だが、どうかこいつのことを頼むよ」

「名前の方はたびたび聞いていましたよ、大一さん。俺の方こそよろしくお願いします」

「ん?そんなに俺の話題が出たのか?」

「塔城がたびたびあなたのことを話していましたので。指摘すると否定されますけどね」

『同学年には同学年の交流があるものってところだな』

 

 肩からぬるりと出てきた黒い影に、百鬼はびくりと身体を震わせる。

 

「ああ、気にしないでくれ。こいつは神器の『犠牲の黒影』だ。意識のある神器で俺にとっては相棒だ」

「そ、そうなんですね。いやはや兵藤先輩と同じように意識ある神器持ちだったとは…」

「黄龍はイッセーのことをすごく尊敬しているんだよ」

 

 さらりと放つゼノヴィアの言葉に、先ほどの百鬼のような反応をシャドウが取る。それだけで何を思っているかなど手に取るようにわかった。

 

『ほうほう…少年よ。どのあたりを尊敬しているのかな?』

「尊敬というか目標なんです。たしかに神滅具を宿していますけど、その身は普通の高校生だった。それでもあらゆる凶事を乗り越えてきた実力や精神…たくさん学ぶことがありますよ」

『なるほど、僕はどうやらキミとは仲良くなれなさそうだよ。名古屋コーチンくん』

「シャドウ、下がっていろ」

 

 小さな舌打ちと共に、シャドウは吸い込まれるように身体に入っていく。目を丸くさせた百鬼に対して、大一は謝罪する。

 

「気を悪くさせてすまない。ちょっと嫉妬深いんだ」

「大丈夫ですよ。俺の方は気にしていませんので」

「某は少し気にしましたがな」

 

 この会話に参加してきたのはボーヴァだ。「破壊のボーヴァ」の異名を持つ彼は、一誠に心酔している節があった。

 不満げなミニドラゴンにも、大一は続けてとりなそうとする。

 

「ボーヴァ、あまり本気で取り合わないでくれ」

「しかし直接的じゃないにしろ主を侮辱されたのは…」

「俺は気にしないから大丈夫だよ。それよりも特訓を始めようぜ」

 

 ボーヴァが不満を続けようとしたところを一誠が遮る。このままだと泥沼化するのは目に見えていた。さすがに主の言うことに背くわけもなく、ボーヴァは素直に引き下がった。

 特訓の準備を始めている間に、一誠は小声で大一に話しかける。

 

「兄貴、悪い。ボーヴァもいい奴なんだけどさ…」

「俺だって気にしないさ」

 

 大一は肩をすくめながら答える。荒くれ者として名を馳せているボーヴァは若い頃に片っ端から強者に勝負を挑んでいた。その理由を語ることは無いが、偉大な父親や上の兄たちへの想いは影響しているだろう。優秀な身内を持つ者ゆえの想いを、いちいち指摘するつもりなど彼には無かった。

 

────────────────────────────────────────────

 

「うおおおおっ!」

 

 力強く声を上げながらゼノヴィアがデュランダルとエクスカリバーを振っていく。両方とも大剣にもかかわらず、彼女は素早い速度で斬撃を入れこんでいった。

 これに対して龍人状態の大一は黒い錨でいなしていく。隙を見て打撃を入れこもうとするも、想像以上に剣を戻す速度が速く、防戦一方であった。

 

「さらに上げていくぞ、先輩!」

 

 そう言うと、彼女の持つエクスカリバーに聖なる力が宿る。間もなく攻撃の速度はさらに上がり、いなすどころか後退を余儀なくされた。

 

『エクスカリバーの力で速度を上げたか』

「これなら実戦でも使えるからな」

 

 彼女なりに7本に統合されたエクスカリバーの特性を使いこなそうと研鑽を積んできた。実戦で使うには難しいものも多いが、単純な破壊力を重視したデュランダルに、複雑な特性をいくつも持つエクスカリバー、使いこなせれば彼女の実力は確約されたものになるだろう。

 しかしこのまま押し込まれるだけの大一ではない。一瞬の隙を見つけて、彼女の振り下ろしたデュランダルの上に錨を叩きつけて、その反動で彼女の上を飛び越える。その瞬間に翼の付け根から伸びる尾で攻撃も考えたが…

 

『おっと、危ない』

 

 素早く大一は尾を避けるように動かし、さらにゼノヴィアと距離を取る。彼女の手に持つエクスカリバーの刃は、擬態の能力でかぎ爪のように形状を変えており、先ほどの一瞬でカウンターを狙っていた。

 

『強い…』

「先輩に振り回されっぱなしにもいかないのでな。さあ、まだまだ行くぞ!」

 

 活力をみなぎらせながら、ゼノヴィアはさらに距離を詰めていく。これに対抗するように大一の方は、背中から複数の腕と錨を作り出し手数で攻めていった。ここからパワーによるぶつかり合いを大一とゼノヴィアは数十分続けることとなった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 ゼノヴィアとの模擬戦に区切りがついた大一はフィールドの脇で飲み物をあおる。彼女が張り切っていたのもあったが、一戦だけでここまで消耗させられたことに驚いていた。やはりアザゼル杯で強者と競い合っているためか、その実力はどんどん上達しているようであった。

 

「お兄さん、次は私だからね」

「わかっている。相手するよ」

 

 イリナのはつらつとした声に、少々荒れた息で反応する。今回の特訓において、大一がレイヴェルから打診を受けたのはゼノヴィアとイリナを中心とした模擬戦であった。剣を中心に扱う2人に対して接近戦を、それも同じように武器を使い、手数や自由性に富んでいる方法で相手をしてほしいと言われていた。鎧を身に着けて格闘が主体である一誠や龍の戦い方をするボーヴァとは違った戦法の近接特訓を目的としていたようだ。

 

「ゼノヴィアとは何度もやっているからね。無意識に太刀筋がわかっちゃうというか、慣れが出てきちゃうのよね」

「それはお互い様だぞ、イリナ。しかし先輩の格闘戦は、やはり消耗させられるな」

「そうは言うが、俺だってかなりやられたぞ。パワーはもちろんだが、細かいところで体の動きが素早い。いくらエクスカリバーの能力があるからって、あれだけの大剣を持って動くのは鍛え上げた証拠だ」

「そこまで褒められると…まあ、悪い感じはしないな」

 

 少し気恥しそうにゼノヴィアは頬を掻く。いつものキビキビした彼女らしくない反応に、イリナは眉を上げる。

 

「なんかシスター・グリゼルダに褒められた時みたいね」

「からかうなよ。でも将来的には義理の兄だからな。…頼れる相手がいるのは悪くない」

「むっ…でも私はゼノヴィアよりも前からお兄さんのことを知っているもんね。将来的にどころか、すでに義理の兄と言っても過言じゃないわ」

 

 先日の生島の店でのやり取りのような空気になる一方で、大一はフィールドで模擬戦をしている一誠と百鬼へと目を向ける。百鬼の戦い方は小猫、サイラオーグ同様に闘気を纏ったものであり、鎧姿の一誠ともまともに打ち合っているところを見ると、相当な練度なのは間違いない。龍の気と闘気を混ぜ込んだ塊も放っており、中距離にも期待が持てる。

 

「彼ならもっと凄い仙術を使えそうだな」

 

 口からこぼれ落ちた感想に、頭の中で舌打ちするような音が聞こえる。相棒の日常茶飯事の行いに、いちいち首を突っ込むこともしなかった。

 肉薄する模擬戦が繰り広げられている一方で、フィールド周辺をエルメンヒルデは走りこんでいた。近くをボーヴァが飛んでおり、彼女の応援をしている。

 彼の視線に気づいたゼノヴィアが説明を入れる。

 

「あいつはレイヴェルから言われて体力の底上げなんだ」

「へえ…でも吸血鬼ってそんな体力無いものか?」

「いちおう、海外でエージェントをやっていたからそれなりにはあるが、レイヴェルとしては充分じゃないそうだ。それに私はギャスパーを鍛え上げたことをよく覚えているぞ」

「そういえば今でこそあれだが、前はギャスパーって体力無かったな」

 

 デュランダルをぶん回しながら、ギャスパーを追いかけるゼノヴィアの姿が想起される。まだ1年経っていないはずなのに、妙に懐かしく感じられる光景であった。

 とはいえ、いつまでも見ているわけにもいかない。ぐっと身体を伸ばすと、イリナに手招きする。

 

「よし、イリナ。そろそろやるか」

「OK!私の実力、見せちゃうんだから!」

「お前もゼノヴィアも最近かなり気合入っているな」

「相手は天界チームだからね。私たちにとって特別な相手である彼らに、ダーリンの…イッセーくんのチームに入ったのは間違いでなかったことを証明したいもの」

「ああ、それに私たちも…」

 

 はつらつとした雰囲気でイリナは答え、ゼノヴィアの方は言葉を濁しながらも決意するような面持ちであった。後輩たちの著しい成長に、彼の方はただ感心の息を吐くのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 模擬戦が繰り広げられる一方で、アーシアはロスヴァイセと共に特訓を行っていた。回復の神器や龍の扱いを持つ彼女には、肉体的な特訓よりも魔力や魔法に主軸を置いた特訓が優先されていた。

 現在はアーシアがロスヴァイセの披露した魔法について説明を受けていたのだが…。

 

「…アーシアさん、大丈夫ですか?」

「ふえっ!?な、なにかしましたか?」

「いや、かなり顔が険しかったので。今回の魔法はそこまで解除方法は難しくないから、そこまで緊張しなくても大丈夫ですよ」

「そ、そこまででしたか?」

「眉間にしわが入っていました」

 

 ロスヴァイセの言葉に、アーシアは咄嗟に顔を抑える。顔から火が出るような気分であった。どうやら彼女が背負っている感情が、無意識に顔に出てしまったようだ。

 アーシアは悩んでいた。オカルト研究部の部長になったものの、その責務をしっかりと果たせているのか、期待に応えられているかが不安になっていた。祐斗が朱乃の後任として副部長を立派に務め上げていること、ゼノヴィアが独自のやり方で生徒会長を頑張っていることを知るからこそ、不甲斐なさを感じてしまう。そしてリアスと自分を比較してしまうことも多かった。

 しかし同時に努力を惜しむこともしなかった。球技大会では個人練習を積んでおり、レーティングゲームの特訓も手を抜くどころか、ノルマ以上の量をキッチリとこなしている。当然、オカルト研究部の部長としての仕事も手探りながら努力していた。

 正直なところ、かなり手いっぱいであった。自分のやり方で模索して努力することはどこまでも難しいものであった。それでも信頼する仲間が、心の底から愛を感じる彼が傍にいると、どこまでも力が湧いてくるものであった。

 アーシアはちらりとフィールドで模擬戦をしている一誠に目を向ける。自分にとって特別な人への想いが沸き上がった後に、ゆっくりと息を吐いてロスヴァイセに笑顔を向ける。

 

「心配してくれてありがとうございます。ロスヴァイセさんのおかげでもっとやれそうです」

「いえ、私は…」

 

 ロスヴァイセはそこで言葉を切る。アーシアの表情の輝きは、彼女の強さを目の当たりにしたような気がした。

 迷いながらも強くなっている、それを理解するほどに自分の心配は杞憂であったことを実感する。

 それと同時に一瞬だけフィールドに視線が移ったことを見逃さず、この少女が自分と同じ気持ちを抱いていることを察した。彼女の想い人は一誠だ。恋愛関係において、自分がライバルになることはまずない。だが同時に恋が人を強くさせるということも知っている。

 それを感じたロスヴァイセも、アーシアを勇気づけるように言葉をかける。

 

「私たちは私たちで、ベストを尽くしましょう」

「はい!」




原作とはロスヴァイセの立場が若干異なるため、お姉さん的な立場でも頑張っています。
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