「なんでこうなったんだか…」
椅子に座る大一は戸惑いながらつぶやく。目の前には大皿がいくつもあり、中華料理が盛られている。漂ってくる香りは食欲を刺激させる。
「むぐむぐ…ん?食わねえのか?」
「いや食べるけどよ、5人でこの量は多くないか」
「お腹すいているから問題ないにゃん♪大一も大食いだしね」
麻婆豆腐を掻っ込む美猴と中華まんを頬張る黒歌に促されて、大一も近くにあったチンジャオロースの皿を持つ。
外国ではぐれ悪魔討伐の任務を終えた大一はあまりの空腹に冥界にある適当な料理店に入ったのだが、そこにヴァ―リチームの美猴、黒歌、アーサー、ルフェイの4人がいたのだ。彼らも別の場所の調査を終えたところでこの店に寄ったらしい。そこでなし崩し的に相席となり、共に食事を取ることになった。
「ヴァ―リはいないんだな」
「彼は次の試合のために、ウチの新メンバーを鍛えてますよ。だから今回は我々だけで、ちょっとした伝説について調査していたんです。この後に合流しますがね」
「まだそういうことをやっていたのか」
「むしろそれが本分でもあったので。以前と違って堂々とできるのは良い気分ですよ」
アーサーが穏やかな笑みを浮かべながら答える。禍の団時代に行っていたヴァ―リチームの自由気ままな行動は、相変わらず続けている様子であった。強者の探索、各地に伝わる伝説の調査…のびのびと動ける彼らには一種の羨ましさも感じる。
「今回は吸血鬼伝説を調べていました。あれも一筋縄ではいかない伝説が多いですからね」
アーサーの隣でルフェイが説明を始める。まだ強烈な湯気が漂っている八宝菜を冷ましている間は、会話の方に集中しようとしていた。
「今じゃ、吸血鬼とも協力関係だからそこまで考える必要はないんじゃないか?」
「たしかに秘密主義の吸血鬼から情報を得やすくなったのは事実です。でも私たちが調べていたのは、そことは別の吸血鬼伝説なんですよ。英国以外の各地でこまごまと吸血鬼と思われる目撃情報がありまして、それについて調べていたんです」
「実際に吸血鬼なのか?」
「見たわけじゃないから何とも…ただ今回調べた吸血鬼伝説って、発祥時代がどれも300前くらいのものばかりで、各地で時代が近いのは興味深いですね」
まるで確定もしない推測の領域の話だ。趣味レベルといっても過言じゃないだろう。同時に興味をそそられるのも事実であり、彼らがのめり込むことも理解できる。
「伝説とはいえ、これらの調査の過程で強者が見つかれば、チームにも勧誘できますし一石二鳥です」
「その自由性の高さは羨ましいものだよ」
「自由性って言うけど、ただ伸び伸びやっているだけだぜ?そもそもお前だってアザゼル杯に出てないから、暇だと思っていたけど」
『暇なわけあるか!外国まではぐれ悪魔の討伐を命令されるわ、異界の魔力の調査を任されるわ、上層部の護衛に遣わされるわ…これで大一の方は大学の課題やレポートも仕上げなきゃいけないんだよ!』
ポロリと出てくる美猴の疑問に、大一の肩から出てきたシャドウが一気に反論する。ダムが決壊したかのような勢いで不満はぶちまけられた。いざ指摘されると実際の忙しさを吐き出したくなるのは当然であり、大一にも少なからずその想いがあるのは、相棒の主張に口を挟まないことが証明していた。
少し落ち着くために中華まんに手を伸ばす大一を見ながら、苦笑い気味でアーサーが話す。
「完全にこき使われてますね。今からアザゼル杯に出たところで、仕事も減らすような気づかいは受けないでしょう」
「むぐむぐ…俺もそうだと思うよ。まあ、残ったルシファー眷属の宿命なのかね」
「おっと、これはもしかして白音やおっぱい巫女ちゃんとも時間取れてないパターン?女を不安にさせるのはよくないにゃん」
「黒歌さん、そう言いながら大一さんの隣をしっかりキープしてますよね」
「チャンスは逃さないつもりよ♪今なら襲っても問題ないにゃん♪」
「意地でも拒否するわ!」
ニヤニヤする黒歌に、大一は渋い表情で答える。正直、彼女の奔放さは何度も目の当たりにしていたため、口にする行為がどこまで本気なのかはわからない。ただ彼女の魅力にまともに当てられると一気に緊張するため、努めて毅然とした態度を取っていた。
もっとも黒歌の方もそれを見透かしているように、意地の悪そうな笑顔を浮かべていた。彼女の見た目ではそれすらも美しさの方が印象付けられるが。
「ま、からかうのはこのくらいにして、今度は異界の魔力関連で堕天使達と会議もあるんでしょう?」
「なんで黒歌が知っているんだ?」
「ヴァ―リが言ってたのよ。私どころか、ウチのチームは全員知っているわ」
「ああ、堕天使繋がりか。納得したよ」
彼女の言う通り、大一は先日コカビエルから手に入れた情報を持って堕天使の会議に参加する予定であった。一誠とデュリオが戦う注目試合の翌日というスケジュールに、心労的なため息も吐きたくなった。彼の場合、バラキエルと会う必要があるのも緊張の要因ではあったのだが。
そんな心労を抱える彼のことなど露知らず、美猴が話を続ける。
「なんか、異界の地関連で分かったら教えてくれよ。俺っちたちも興味あるからな」
「それを言うくらいなら、お前らも参加してくれればいいのに」
「いやーまだ調べていないから無理だわー。大事な試合も近いから無理だわー」
「美猴の言う通りだにゃー。本当に残念だにゃー」
美猴と黒歌のコンビは明らかに適当に答える。面倒な会議は省いて、おいしい情報が欲しいという魂胆が分かりやすかったし、彼らの方も隠すつもりも無いようであった。アーサーも面白そうにくすくすと声を出さずに笑っているだけであり、ルフェイだけは申し訳なさそうに頭を下げる。
「えっと…失礼な感じでごめんなさい」
「その一言だけでもありがたいよ。まあ、情報の共有自体は必要だしな」
「私たちの方もいろいろ回っているので、なにか分かれば教えますよ」
「頼むよ。正直、俺もコカビエルから話を聞いたとはいえ手詰まり気味なんだ」
「うんっ…ん…ならば、参考程度にちょっとしたアドバイスを送りましょうか。対象の素性を調べてみることです」
笑いを区切るように軽く咳ばらいをしたアーサーが話す。
「手掛かりになる人物を調べるのは大切なことですよ。その人物の人となりや経歴を知ることで、欲しい情報に繋がることもあります。我々は消えた伝承や英雄を調べるのに、そのあたりも気をつけてますからね」
「素性…しかし会ったことある相手が謎だらけだしな…」
「あれ?でもたしか高名な天使がいましたよね」
ルフェイの指摘に、ひとりの紳士が頭に浮かぶ。かつてミカエルと肩を並べた大天使ハニエル…直接対峙したことは無いが、一誠やヴァ―リと戦い、最後はゼノヴィア、イリナ、グリゼルダ、デュリオを相手に散っていったという。実力もさることながら、現時点では素性が明らかになっている人物であった。
考えてみれば、堕天使の会議なのだから彼を知っている人物はいてもいいはずだ。会議で深める価値のある話題を得たことに、ここでの話し合いも不思議な満足感を与えていた。
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一誠率いる「燚誠の赤龍帝」チームとデュリオ率いる「天界の切り札」チームの対戦は、大いに観客を盛り上がらせていた。どちらも知名度、実績共に抜群であり、冥界と天界の2大チームの激突に世間は湧きだっていた。
試合内容は、「ランペイジ・ボール」。広大なゲームフィールドのどこかに現れるゴールへ向かい、ボールを入れるというものであった。入れた人物によって得点も変化し、最終的に点数の多い方が勝利となる。
この試合に大一も観客席で見ており、その行く末を見守っていた。ゲーム自体はクライマックス近くであり、両者ともに激しい攻防を繰り広げていた。
「イッセー、そこだ!パスして…あー、ダメだ!…えっと5点取れるのはゼノヴィアさんかイリナちゃんだっけ?」
「いや2人は『騎士』だから3点だよ。5点は『戦車』だからロスヴァイセさんやボーヴァだな」
「まだ覚えられないな…」
隣で父親ががしがしと頭を掻く。一誠がチケットを渡しており大一と共に観戦に来ていたのだ。母親にも渡していたのだが、さすがに息子や娘同然の一行が傷つくのを見ることにはためらっており、試合観戦には二の足を踏んでいた。
「しかし試合時間が2時間というのもすごいな。イッセー達も相手の人達も、よくここまで走ったり、戦ったりできるものだ」
「悪魔や天使となれば、並の人間よりは遥かに身体能力は向上されるからね。一誠達の方はロスヴァイセさんが身体強化の魔法をかけてみるみたいだし、デュリオのチームだってこれで倒れるような鍛え方はしていないはずだ。
とはいえ、それでもこの時間をフルで戦うにはスタミナ管理は重要だよ。倒されても復活できるこの競技は、そのあたりが肝だね。ましてや相手の監督のリュディガー様は冥界きっての技巧派でもあるし…だいぶ消耗させられてるな」
お互いにかなり疲労の色が見えていた。一誠のチームもゼノヴィアが赤龍帝の鎧を身に着ける合体技を披露したり、一誠が一部分を龍神化するなど新たな一手を見せていたが、相手も神器や強力な光で妨害しており、一進一退の攻防を繰り広げていた。点数ではわずかに相手の方が有利だが、ここで決めればまだ十二分にチャンスはある。
「お前もよく知っているよな。そこまでして大会に出ていないことが不思議だよ」
分析している横で、父は感心するように息を吐きながら話す。もはや耳にタコができてもおかしくないほど言われ続けた内容であったが、まるで関係ない父親から指摘されるのは新鮮な気分であった。
一方で父の方は慌てたように付け足す。
「おっと、誤解するなよ。父さんは別に参加してほしいとか思っているわけじゃないんだ。むしろ母さんと一緒に、出場してないことに安心しているくらいだよ」
「どういうこと?」
「どういうことってお前…親からすれば、腕を失ったり、治らない傷だらけの身体になった子どもが、戦いに向かわないことを知ったら安心するさ」
その言葉に大一は納得を示すように小さく頷く。リゼヴィムとの戦いの際に、両親は一誠が龍の姿になったことを目撃している。それでも龍の気を逸らすことを筆頭に様々な方法で、普段はいつもの少年の姿であった。一方で大一は右腕を完全に失うわ、身体の半分近くが変化するわとお世辞にも安心を与える見た目とはかけ離れていた。そんな彼に対して、親が抱く感情は心配以外の何物でもないだろう。もっとも彼の場合は、兄として負担をかけさせてしまったことへの想いもあるだろうが。
「…ま、そんなものか」
「そんなものって…お前はもうちょっと自分を大切にしろ。それが大事な人たちを、安心させることにもなるのだから。さっきのイッセーみたいになるのも、心配にさせるとは思うけどな」
先ほど試合中に、デュリオやリュディガーが戦術のひとつとして組み込んだのは、一誠を封じるためにガブリエルの様々な水着姿を、例のシャボン玉で見せるものであった。そして案の定それなりに足止めを食らっており、これには大一も父も戸惑いを隠せなかった。
「俺もあれは戸惑ったが…」
「兵藤家の人間ならば、あれに引っかからないとも言い切れないけどな」
「子供としてはそういう発言聞きたくないから、マジでやめてくれ」
「いやでも一時期本当に心配したんだぞ。お前がそういうのに興味あるのかって。だから朱乃さんと付き合ったことを知って、母さんと一緒に心底ホッとしたんだから」
「なんで、一誠の試合中にまでその話題を持ち込まなければならないんだよ。それより試合の方だろ」
バッサリと切り捨てる大一は、フィールドを見据える。ゲーム終盤のこの状況で、ボールの取り合いのために激戦を繰り広げていた。お互いに肩で息をしており、その消耗具合は容易に察せられる。しかし点数をリードしているデュリオのチームであるディートヘルム(ラファエルのAで「女王」ポジション)がボールを持っており、それを奪うために一誠とビナーが攻めていた。これに対してデュリオも参加したため、「王」と「女王」が入り乱れた戦いとなっていた。
『…なんかゼノヴィアが赤龍帝に話していないか』
シャドウの呟きに大一は目を細める。彼女は新たな合体技で一誠の鎧を身に着けており、顔も隠れている。大一には分からなかったが、多くの生物を見てきたシャドウは目ざとく身体の動きを察知していたようだ。
そしてゼノヴィアはフィールドに響き渡るような大声を上げた。
『我が「王」ッッ!兵藤一誠ッッ!私をッッ!嫁にしてくれええええええええええええええッッ!!』
ゼノヴィアの告白に、会場は大きくざわめき立つ。当然、大一たちも例外ではなく口をぽかんと開けて、二の句が継げなかった。
ただでさえとんでもない爆弾発言であったが、そこにもうひとり…イリナがゼノヴィアにも劣らないほどの覚悟を決めた言葉を紡ぐ。
『ま、待って!じゃ、じゃあ、私も───紫藤イリナのことも、お嫁にもらってくださいッッ!お願い、イッセーくんッッ!』
まさかの2連続の逆プロポーズに、会場は一層沸き立つ。実況は興奮した様子で矢継ぎ早に話しており、解説のアジュカは面白そうに笑っている。
大一の脳内には生島の顔が浮かんでいた。先日の一件で、彼が2人の背中を押した面はあるのだろう。いや、それがなくてもゼノヴィアとイリナは一誠に告白したはずだ。片や眷属に、片や転生天使なのに悪魔のチームに入ることを選んだのだから。
大一の隣では、父が祈るように手を合わせていた。小声でぶつぶつと呟いているのが聞こえる。
「イッセー、甲斐性を見せろ…男だろ…」
大一はゆっくりと息を吐く。無用な心配だ。そもそも弟が悪魔の目標として掲げていたことを、何度も目の当たりにしてきたのだから。
『…ったく!わーったよっ!責任はまとめて俺が全部取ってやるっ!俺のところに来い、イリナ、ゼノヴィアァァァアアアアッッ!』
一瞬の静寂と共に、会場は今日何度目かというほどの大歓声に包まれる。周囲では祝福の声が上がり、父は横で嬉しそうにガッツポーズを取る。ゼノヴィアもイリナもこの終盤で俄然動きが良くなり、一気に相手を押し込んでいった。さらに一誠とレイヴェル血を飲んだエルメンヒルデがパワーアップして、相手を怯ませた。
ついには一瞬の隙でフリーとなったアーシアのゴールにより、たった2点差まで詰め寄った。
弟が戦う姿と魅力は多くの人たちに安心感と興奮を与えている…この試合で改めて実感するのであった。
さて、オリ主はこの試合を見終わって何を思うか。
絵は描けないですけど挿絵とかあれば、もっといろいろ伝えられるのでしょうか…。