青空と虹と太陽と(修正前)   作:七重

4 / 6
今回は短めです。


第4話 白い光、赤い瞳

 

 

 

 

 

「下村、よく頑張ったな。この成績なら秀華高は余裕だろう」

僕のクラスの担任教師、上田先生が成績表をひらひらさせながら口角をあげる。

12月にして初めて対面する担任とのやりとりに、まだどんな顔をすればよいか分からない。

「ありがとうございます」

僕は無表情を保ったまま少し頭を下げる。

 

「なんだ、嬉しくないのか?喜多の志望校と同じだぞ?」

この人は何か勘違いしているらしい。

まぁ、あれだけ喜多さんにはお見舞いに来てもらったし、教室でもよく話していた。

多少の誤解が生じていてもおかしくないだろう。

 

「いや、別に喜多さんと同じ高校に行きたいというわけでは...」

と否定すると、上田先生はその強面に似合わない、揶揄うような目線を向けてきた。

試験中の刺すような鋭い目つきはもうそこには無かった。

「ま、体にだけは気をつけろよ」

「はい」

もう帰っていいぞ、という先生の目を無視して質問を投げかける。

 

「ちなみに、下北沢高校は...」

恐る恐る尋ねると、先生はペラりと書類をめくり、何かを確認してから答える。

「あと一歩、ってところだな」

「そう、ですか」

あと一歩、か。あと一歩で虹夏と同じ学校に通えるのか。

僕は想像する"一歩"の感覚に大きな乖離がないことを祈りつつ一礼し、職員室を出た。

 

ー今日は母さんがいない日だ。帰ってじっくりテストを解き直そう。

そんなことを考えながら、夕陽の眩しい家路を早足で歩いた。

 

 

 

♪ ♪ ♪

 

 

 

「ただいまー」

誰もいない部屋の扉を開き、静まりかえった空間に向かって形ばかりの挨拶を投げかける。

 

「おかえり」

空っぽの部屋に反射した僕の声が、まるでおかえりと言っているように聞こえた。

...ん?今日は虹夏も喜多さんも呼んでいない筈では?

 

部屋の奥に目をやると、誰もいないはずのソファから青い髪ひょっこりと顔を覗かせていた。

 

「どうしてここに」

 

「一の母親に鍵を借りた」

「どうやって借りたんだ」

リョウを母に紹介した記憶はない。母は他人に平気で鍵を渡すような人でもない。

 

「一の婚約者って言ったらすぐ貸してくれた」

堂々と嘘を吐くリョウ。僕に婚約者など絶対にいないし、そもそも婚約を結ぶような年齢じゃない。

「人の母親をからかうんじゃない」

 

「ごめん、本当は生き別れの姉って言った」

真顔で嘘を重ねてきた。

 

「...で、用件は」

真実は後で母に訊くことにして、ここに来た訳を訊ねる。

一度部屋に入れたこともあるし、わざわざ追い出すこともないだろう。

 

「これ」

と言って、リョウはポケットから一枚の硬貨を取り出して僕の掌に乗せた。

そこにはくすんだ金色の500円玉があった。

「わざわざ返しに来てくれたのか」

「ん」

リョウは小さく返事をすると、何かを探すように部屋を見回し始めた。

 

「忘れ物か?」

と聞くと、スタスタとこちらににじり寄ってきた。顔が近い。

「な、なに?」

「私にもちょうだい」

「...だから、何を」

500円の対価を寄越せ、ということなのか?...いや、あれは僕があげたものだ。

何も言わないでいると、リョウがスマホを取り出して一枚の写真を見せてきた。

そこには、真っ赤なベレー帽をかぶって笑顔を見せる虹夏と僕の姿が映し出されている。

クリスマスイブに虹夏と撮った写真だ。

 

「もしかして、プレゼント...?」

「そう、それ」

「...ごめん、用意してない」

迂闊だった。先日まで男子だと勘違いしていたとはいえ、何か贈るべきだったか。

 

「じゃあご飯ちょうだい」

リョウが代替案を提示するようにこちらを見上げる。

「今日はカップ麺で済ませるつも...」

そんなに潤んだ瞳を見せられたら、断れなくなるじゃないか。

それに、僕の料理を求められるのは素直に嬉しい。

「簡単なものしかできないけど」

「一が作るものならなんでもいい」

 

こりゃ、張り切るほかなさそうだ。

 

材料が少ない時の救世主になってくれるのが、チャーハンだ。

中華鍋をしっかりと加熱して、油を馴染ませる。

卵を割り入れて素早くかき混ぜてから、ベーコンとネギを加えて素早く炒める。

温めたご飯を投入し、ラードや調味料で味を整える。仕上げに紅生姜を乗せたら完成だ。

 

リョウと二人で机を挟み、炒飯を口に運ぶ。

「うまい」

「それはよかった」

リョウの褒め言葉は、母とも虹夏とも違う...何か別物のように感じられる。

付き合いが浅いからこそ本音で認められたような気分がして、とても嬉しかった。

 

 

 

♪ ♪ ♪

 

「鳴り止まなくて何がわるーい♪ 青春で何がわる〜い♪」

 

扉のむこうから、虹夏の陽気な歌声が聞こえてくる。

幻聴、か?リョウが帰ってからずっと机に向かっていたからか、脳が疲れ果ててしまったようだ。

頬を叩いて気合いを入れ直す。

虹夏と同じ学校に通うために、今は頑張らないと。

 

 

 

目を開くと、ベットの上だった。しまった、と頭を掻きながら体を起こす。

いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

 

「ねぇどうして、止まらない、とめらんないリズムが♪」

幻聴は脳を走り続けて止まらない。まずいぞ、これは重症だ。

いくら虹夏が大切だからと言って、幻聴まで聞こえるのは相当な...

 

「起きた?」

目の前にエプロン姿の虹夏が立っていた。

「ああ神様、愚かな僕に素敵な夢を見せていただき...

「夢ちぁがう!私は正真正銘の虹夏だよ!」

よかった、僕の頭はまだ使い物になるようだ。

 

「お、おはよう」

「試験が近いからって無理しすぎ。こんなに根を詰めたら脳が壊れちゃうよ」

「ごめん、でもどうしても虹夏と同じ高校に行きたくて」

「それは嬉しいけど、また体を壊して入院なんてことになったら元も子もないでしょ?」

「ごめん」

「ほら、もうご飯できてるから。早くおいで」

母さんみたいなことを言うなぁ、と思いながら目を擦り、食卓へ向かった。

 

 

 

 

午後5時。僕は数学の難問に頭を悩ませていた。

「そんなに睨んだって答えは浮かんでこないよ」

虹夏が苦笑する。

「もう5時間もずっと勉強してるんだし、少しは気分転換したら?」

虹夏は机の上で腕を組み、僕の顔を覗き込むように言う。

また母と同じことを言われた。虹夏は妹属性だとばかり思っていたが、もしやママなのか?

 

そうだ!、と何か悪戯でも思いついたかのような顔をして虹夏が手を叩く。

「スターリーにおいでよ!今日は有名なバンドも来るからぜひって、お姉ちゃんも言ってたし!」

「じゃ、行こうかな」

内心、この時を楽しみにしていた。

入院中はイヤホンでしか音楽を聴けなかったから、久しぶりに全身で音を感じてみたい。

それじゃあ早速いってみよー、と虹夏が僕の手を引いて席をたつ。

 

 

マンションを出て、地下へと繋がる階段を下る。

"STARRY"と書かれた看板を囲う小さなランプだけが、暗闇を彩っている。

虹夏が重い入り口の扉の把手を掴んで、こっちだよ、と手招きする。

暗い部屋の中に、たくさんの機材が並べられている。

早くも集まっているお客さん達の風貌は、地上のそれとは全く異なる、不思議なオーラを放っていた。

虹夏と一緒とはいえ、少し怖いな。

足をすくませる僕の耳に、遠くから聞き覚えのある声が飛んできた。

 

「あら一さん。お久しぶりですね」

長い黒髪の奥からチラリと昏いインナーカラーを覗かせるその女性は、PAさん。

バンドの演奏を影で支える、縁の力の力持ち的存在だ。

「2年ぶりですね、ご無沙汰しています」

「大きくなったねー」

「そうだろ?それに、料理まで作れるようになってやがる。生意気なもんだよ」

カウンターから星歌さんが顔を出して会話に混ざる。

 

「今日はありがとうございます、星歌さん」

「虹夏の頼みだ。気にするな」

そう言って星歌さんは笑顔を向ける。そこに先日のような酔っ払いの姿は無い。

 

「じゃ、お姉ちゃん。私は受付やってくるから、一をよろしくね♪」

虹夏は小さく手を振ってドアの向こうへ駆けて行く。

「ここでは店長と呼べって言ってるだろ」

星歌さんは呆れたような声で閉まるドアをみつめた。

 

「もうすぐライブ始まるから、それまで奥で座ってな」

そう言って星歌さんは扉の隙間から見えるテーブルを指差す。

「何か手伝いますよ。ジュースを注ぐくらいなら僕にもできます」

「いいから座っとけ」

「でも」

「中学生を働かせるわけにはいかないだろ」

「...それもそうですね」

わかりました、と言って一礼し、僕は椅子に腰掛ける。

 

 

照明が落とされ、ただでさえ暗かった空間がより一層闇に近づく。

ステージのライトが点灯すると共に、観客からワアっと歓声が上がった。

「みなさんどーもこんにちはー!INSHUROCKでーす!」

ギターを抱えた女性が、マイクに向かって叫ぶ。

再び歓声が沸き起こった。

「それじゃあ早速最初の曲、行っちゃいましょー!」

ドラムスティックが刻むリズムと共に、音楽が暗闇を駆け抜けた。

 

 

『踏みつけられた道端の雑草 無意識に蹴られ転がる小石ー』

力強い声が、コードを伝って大きな振動板を震わせる。

腹の底に響くようなドラムの音。肩を揺らすようなギターの音。

 

 

「どう?久しぶりのライブは」

いつの間にか虹夏が隣に立っていた。照明に照らされて輝く横顔が眩しい。

 

 

『いつか散るなら今すぐにでも そう決めて越える何度目の夜ー』

 

 

 

 

 

「私も、いつかこんなふうに輝きたいな」

そう呟いた虹夏の眼差しは、いつになく真剣だった。

 

「虹夏にならできるよ」

心からの本音だった。

虹夏のドラムはきっと大勢の人々の心を掴むだろう。

虹夏ならどんな苦難も乗り越えて見せるだろう。

虹夏なら、どんなに大きな夢だってーー

 

 

 

 

「いつか、夢を叶えられるかな」

 

 

 

 

 

 




歌詞部分は適当に考えたやつなので特に意味はないです。
ぼっちちゃん...その作詞力を分けて...

結束バンド=結束バンド、飲酒ロック=SICKHACK、タイラップ=?
そのうち鯛のラッパーが登場したり...?。

虹夏に似合うのは?

  • 1話の水色カーディガン
  • 4話の紫シャツ
  • 5話の黄緑パーカー
  • 7話の結束バンドTシャツ
  • 全部!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。