待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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呪術師円花。

 

 

 

 

 

 さて。被身子が寝静まったところで、動くとするか。こやつを起こさぬように布団から出て、なるべく静かに家を出る。外は寒い。もう少し厚着すれば良かったかのぅ。

 それはそうと、廻道家は静岡に引っ越した。前は東京に住まっておったのじゃが、両親が転勤したからの。こっちに来るしかない。それに、前居た地域の呪霊は根こそぎ祓い尽くした。あっちこっちに儂の残穢が残っとるから、しばらく放っておいても大丈夫じゃろう。常闇は少しばかり心配じゃがの。

 で、新居の周りには……やはり呪霊がわんさか居るのぅ。引っ越し当日の晩に、粗方は祓っておいた。しかし、ちょっと家から出歩けば直ぐに呪霊が見付かる。(まこと)にどうなっとるんじゃこの時代は。ここまで呪霊が発生しとるのに、何故呪術師は動かん?

 

 いや……そもそも呪術師はどこに行った? 何故これまでの人生で、儂は呪術師に出会わない?

 御三家はどうなった? 宿儺は?

 

 一人で真夜中を出歩いておると、気になることがあれこれと思い浮かぶ。見当たる呪霊は雑魚ばかり。思考の片手間に祓える。苦戦することすらが難しい。

 

 ……張り合いが無い。つまらん。この時代、儂と張り合える呪霊はおらんのか?

 

 いや、前生より儂が強いのは確かだ。呪力量はあからさまに増えてるからの。やれることは多くなった。宿儺に殺される前は、反転術式(はんてん)の乱用なんざ出来んかった。それが今ではどうだ? 恐らく戦闘中に何度反転術式(はんてん)を使おうが、問題なく戦闘を継続出来るじゃろう。自分が巨大な呪力の水槽になった気分じゃ。

 

 

「今宵は、ここにするかのぅ」

 

 

 外を出歩き始めて……どの程度経ったかのぅ。道すがら雑魚呪霊を祓っていると、中学校が目に入った。こう言った場所は、まぁ病院なんかもそうなんじゃが、とにかく人の集まる場所は呪霊の発生源になりやすい。この国の年間行方不明者は、相当居た筈じゃ。全てが呪霊の仕業と考えても良いじゃろう。ならば呪術師として、それ相応の働きはしておかんとな。

 

「闇より出でて闇より黒く

 その穢れを禊ぎ祓え」

 

 帳は降ろしておかねばな。深夜とは言え、人目に付く可能性は零じゃない。この中学校の中で何が起こっているのか、外の人間に見られたくはないからの。

 恐らく、儂が一人で遊んでるようにしか見えんじゃろ。実際は呪霊が居るのじゃが、一般人に呪霊は見えん。母のような個性を持ってるなら話は別じゃが。

 

 ……よし。帳はちゃんと降りたな。いざ行かん、更なる猛者を求めて。儂を倒せる奴に会いに行く。っと、その前に……。

 

「ええっと……この中学校は……」

 

 表札を確認して、手帳に書き込む。こうしないと、また来てしまうかもしれんからな。東京に居る時はそれで何回か時間を無駄にした。こうなると良い散歩にはなるのじゃが、呪霊狩りにはならんからなぁ。

 実は儂の呪霊狩りは散歩も兼ねておる。家に居ると、ほぼ全ての時間を被身子と過ごすことになるからな。一人の時間が欲しいんじゃ。最近は受験勉強ばかりで鍛錬そっちのけになってる部分もあるからの。

 

「折寺中学校、と……」

 

 さあ、頼むぞ。今宵こそは儂を楽しませる呪霊がおってくれ! 雑魚の相手ばかりしておっては楽しくないのじゃ!

 

「おーおー、これまた仰山おるのぅ……」

 

 ……雑魚呪霊がな。

 

 校庭に校舎の壁、校舎の中。更には屋上や体育館まで。ところ狭しと赤子と犬を足して割ったような呪霊がわんさかおる。これだけ呪霊が発生してたら誰か呪われてもおかしくないのじゃが、その手のにゅうすは中々見ないのぅ。

 まぁ、この程度の雑魚に呪われてもちょっと気分が悪くなる程度じゃろ。集団で呪われない限りは体調不良で済ませられてるかもしれんな。

 

「赤縛」

 

 術式を以て自らの血を操り、儂はひとまず目についた呪霊を全て縛り上げた。まぁ穿血で軒並み貫いても良かったんじゃが、それやるとうっかり校舎を壊しかねないからの。前にやらかして校舎の壁に風穴が出来てしもうた。あれは背筋が冷たくなったもんじゃ。呪霊狩りの為とは言え、周囲の建物に被害を出すのは良くない。

 過去を振り返りながら反省しつつ、儂は行く先々で視界に入る呪霊を縛り上げる。その後、身動きの取れぬ呪霊共を呪力で強化した膂力で校庭に投げ飛ばす。

 こんな作業を繰り返すこと……何度じゃったかな。校庭に呪霊の山が出来た。ったく、人手が欲しいのぅ。こんな事をして居ると時間が過ぎるのが早い。今宵はこの中学校で終わりじゃ。

 

「もう弱っとるのか。堪え性が無い。あの頃は貴様等のような呪霊でも骨があったぞ?

 まったく。最近の呪霊と来たら……」

 

 縛られただけで弱るな。平安の呪霊はこんなことで弱る事はなかったぞ。既に半分祓われている奴がちらほらとおる。

 さて。後はこいつらを纏めて祓うだけじゃ。しかし殴って潰していたら面倒じゃ。穿血では回数をこなさねばなるまいて。

 

 試すか。例えば百斂で圧縮した血液を球状に操作し、解き放ったらどうなる? こう、あちこちに向かって血の雫が飛んでくれんかのぅ?

 

「百斂」

 

 物は試しじゃ。赤血操術使いは、血を臨機応変に自由自在に操らなければならない。そうして手数を増やし、意外性を持った攻撃をしなければ直ぐに殺される。まぁこれは反転術式(はんてん)を持たぬ者の話じゃがな。儂も反転術式(はんてん)が出来るようになるまでは、そうしていた。

 何せ赤血操術は、血液とは臓器として扱う。じゃから反転術式(はんてん)で、回復・補充が出来るのじゃ。そうやって考えると……儂は被身子に内臓を啜られておるのか……。ちいと猟奇的な考えをしてしまったの……。

 居なければ居ないで儂を振り回す悪女め。本当に末代まで呪うぞ……。

 

「こんなもんかの?」

 

 あまり圧縮し過ぎてしまうと、血の針が飛んでいくだけじゃ。弱くし過ぎず、けれども強くし過ぎず。良い塩梅の圧縮を済ませた儂は、重ね合わせていた両手を離す。そして、圧縮された血液が高速で飛び出した。

 

 速度は……穿血よりちょいと遅いか? で、威力の程は……。

 

 

「まぁ、悪くないの」

 

 

 儂に縛られ、山のように積み重なっていた呪霊は軒並み消失した。飛び出た血液が粒となり、あちらこちら飛んだのじゃ。これは近距離での攻撃範囲に優れるのぅ。名前は後で付けるとしよう。強そうなのが良いぞ儂は。こういうの、常闇辺りなら良い感じの名付けをしてくれるんじゃないか? 奴は厨二病とか言う病らしいからの……。もしかしてこれ、反転術式(はんてん)で治してやった方が良いか? やはり反転術式(はんてん)の外部出力は出来るようになっておくべきかのぅ。

 

「そろそろ帰らねばな」

 

 帰るのが遅くなると、被身子が起きてしまうからの。夜に出掛けていることは既に知られているが、儂が呪霊狩りしてることは知らん。余計な心配はかけん方が良い。まぁ夜分に一人で出歩いている時点で、心配はかけているんじゃがな。あやつ、まだ儂を方向音痴扱いするのじゃ。まったく……。

 

 で、儂はどの道からこの中学校に来たんじゃっけ? はて……?

 

 

 

 

 

 朝日が眩しいのぅ。

 それで? ここはどこじゃ?

 

 どうして道って言うのは、どこまでも繋がっとるんじゃろうなぁ……。

 

 

 

 

 




何度でも言うぞ。続きなど無い(挨拶)

うっかり単行本勢に呪術本誌のネタバレするところでした。確認して良かった……。
未成年が夜間外出・不法侵入・器物損壊でスリーアウト。朝帰りに迷子で駄目押しのファイブアウト。公の場で個性(術式)使用でシックスアウト。まぁ呪術師ムーブしてる時、円花に常識は無いです。そも呪術師はどこかイカれて無かったらやれませんからね。

あ、円花の呪力量はリカちゃん無し乙骨程度です。反転術式ガンガン使えるけど、術式の都合上血液補充しなきゃいけない分、乙骨より呪力切れ早い感じですね。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

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