待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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逢瀬の時間。お邪魔虫

 

 

 

 

「ん、……ふわぁ、……あっ……。むぐむぐ……」

 

 よく寝た。気がする。どのくらい寝ていたか分からぬが、満腹感は薄まった。喉の渇きだけが強くなっているような気がするから、何か飲み物を飲みたい。珈琲以外で。

 欠伸をしながら体を起こすと、携帯電話(すまほ)を片手に何かしている被身子と目があった。まだ儂に変身中じゃから、見た目は儂のままじゃけどな。

 

「どのくらい寝てた?」

「ほんの三十分ぐらいじゃ」

「すまん。退屈じゃったろ?」

 

 三十分程度で済んだとは言え、逢瀬(でえと)中に寝てしまったのは儂じゃ。こやつに寝かされたのは事実じゃけど、それでも申し訳なく思う。どうにかして起きていたかったんじゃが、被身子に寝かし付けられると抗えん。

 

「いや、寝顔を撮影してたからそんなに暇でもなかったぞ?」

「そうか。まぁ退屈させてなかったなら、……は? 撮影……?」

 

 ……ん? 待て、今なんと言った? 寝顔を、撮影した? おい、何しとるんじゃ貴様。別に寝顔を見るのは構わんが、写真を撮る理由は無いじゃろうがっ。笑顔で頭を撫でれば許されると思うなよ!?

 

「うむ、撮影。ほら、可愛く撮れてるじゃろ?」

「……貴様……」

 

 画面を見せびらかして笑うな。何で大口を開けて寝てるところを撮影した。幾ら浮かれているからって、あまり調子に乗るなっ。流石にそれは、恥ずかしいじゃろっ。

 

「あれ、円花ちゃん?」

 

 聞き覚えのある声が後ろからした。誰じゃ、儂と被身子の逢瀬(でえと)を邪魔する輩は。今日ぐらいは見掛けても話し掛けずにそっとしておいてくれ。あと何度、長い接吻(きす)をするのかも分からんのじゃし。周囲に知り合いが居ると思うと、恥ずかしくなるじゃろっ。

 

「何じゃ、麗日か。何しとるんじゃ、こんな所で」

 

 周囲を見渡してみると、長椅子(べんち)から少し離れたところに人の姿が見えた。誰かと思ったら、麗日じゃ。耳郎と八百万まで居る。何じゃ何じゃ、何でくらすめえとが居るんじゃ。緑谷が来ていることはあやつやおおるまいとから聞かされておったが、他のくらすめえとまで来ているとは思わなかった。この分だと、他のくらすめえとが来ていてもおかしくないのぅ。被身子との逢瀬(でえと)を見られるのは、少し気恥ずかしいんじゃが?

 

「えっ、廻道が二人居る……」

「廻道さん、双子のご姉妹がいらっしゃったのですね……?」

 

 ああ、まぁそう見えてもおかしくはないか。さんどいっちを買った時も双子扱いされたのぅ。思い返してみれば、こやつ等は被身子の個性を知らんのか。変身を知っているのは常闇だけかもしれん。あやつ以外に話した覚えが無いからの。

 まぁそれに、なるべく被身子の事は人に話さないようにしている。別に被身子の話をするのは構わんが、そこから女子特有の会話(があるずとおく)に発展するのが好きではなくてのぅ。

 

 で? 何で見知った顔が此処に居るんじゃ?

 

 あと被身子。今悪どい笑みを一瞬浮かべたな? 顔は見てないが、気配で分かる。何をするつもりじゃ貴様っ。

 

「麗日達もあい・えきすぽに?」

「あい・あいらんどに居るんじゃから、それしかないじゃろ」

「うわっ、声もおんなじだ……! て言うか、どっちが円花ちゃんなん……!?」

「「儂じゃ」」

「……???」

 

 ……被身子。さては貴様、儂に成り済ますつもりじゃな? 儂のくらすめえとをからかって、楽しいのか?

 貴様が変な真似をするから、三人が混乱しとるじゃろ。後でややこしい事になりそうだから、妙な事をするなっ。

 

 どうやら、傍目から見たら例えくらすめいとでも区別が付かない程度に被身子の変身は完璧らしい。まぁ確かに、儂から見ても儂としか思えんからな。まじまじと見詰めていると、鏡の中の自分が飛び出してきた来たように感じてしまう。

 ううむ……。取り敢えず麗日達に変な誤解をされる前に、真実を伝えておくか。

 

「片方は被身子じゃよ。今は個性を使って、儂に化けとる。似てるじゃろ?」

 

 おい。儂が言おうとしたことを先に言うな。しかも儂を指差しながら言うな。それじゃ儂が被身子じゃと思い込まれてしまうじゃろ。

 

「えっ、渡我先輩……!?」

 

 おい、麗日が真に受けたではないか。耳郎も八百万も儂を見詰めて来る。貴様等、そんな簡単に騙されるでない。少し考えればどっちが被身子なのか分かるじゃろ?

 いや、分からんか……。変身はともかく、儂の真似事まで完璧にこなしておるからな……。常闇なら儂が本物じゃと分かってくれるとは思うが、生憎あやつはこの場に居ない。

 

「いや違う。被身子はこっちじゃ」

 

 ひとまず被身子を指差して事実を告げるが、直ぐに信じてはくれなそうじゃ。まったく、こやつと来たら面倒な事をしおって。

 

「……どっちが廻道さんなのか、まるで区別が付きません……」

「人に化ける個性、かぁ……。こうもそっくりだと判別無理じゃない?」

「うん。まったく分かんない」

 

 そこは分かって欲しいんじゃが? 貴様等がそんな調子で居たら、余計に被身子が調子に乗るじゃろ。

 さてこの事態、どうしたものかの。答え合わせをしたいところじゃが、被身子に変身を解かせるわけにはいかん。そんな真似をさせれば、こやつが裸になってしまう。

 

 ……いや待て、八百万が居るのじゃから服を創造して貰ったら良いのでは?

 

 我ながら名案じゃ。よし、その方向で話を進めよう。そうと決まれば……。

 

「でも、どうして渡我先輩は廻道さんに変身しているんですか?」

「……」

 

 口を開こうとしたところで、返答に困る質問をされた。別に、その質問に答えるのは簡単じゃ。何でと聞かれたら、被身子の趣味嗜好としか言いようがない。じゃけど、これを勝手に口走っても良いものか。人の趣味嗜好を容易く話すような趣味は儂には無い。まして、被身子の事なら尚更じゃ。わざわざこやつの事を、くらすめえとに教えたいとは思わん。

 

 儂の被身子じゃ、儂の。儂だけのものじゃが? 誰であろうと、こやつの事を赤裸々に話すつもりはない。

 

 取り敢えず、今の質問は適当に誤魔化しておくか……?

 

「ほら、ひいろお科と違って普通科は個性を使う機会が無いじゃろ? ここは個性を自由に使って良いんじゃから、たまにはと思ったらしくてのぅ」

「ああ、なるほど。ところでお二人は、もしかしてデート中?」

 

 いきなり来たな……。麗日は、時折そういうことをする。物怖じせずに聞きたい事や言いたい事を口にする。この辺りは、割りと被身子に似ているような気がしないでもない。梅雨も思ったことは口にしてしまう類いじゃけど、あやつの場合は言う前に一言断りを入れる。

 

 麗日よ。少し口を慎んだ方が良いのでは? いつか誰かと、揉め事になるんじゃないか?

 

「うむ、でえと中じゃ。じゃから、今日はもうそっとしておいてくれると助かる」

「そうじゃな。久し振りのでえとじゃから、邪魔しないでくれると嬉しい」

 

 別に、くらすめえとと話すことは嫌いじゃない。とは言え今日と明日は、被身子との逢瀬(でえと)だけに時間を使いたい。今日も明日も、儂は被身子が優先じゃ。学友との親睦は、教室で深めれば良い。

 

「じゃあ、そっとしておくよ。クラスのみんなにも邪魔しないよう言っておくからさ。安心して楽しんで」

「ありがとう。耳郎は気が利くのぅ」

「どういたしまして。じゃあ、また」

 

 最後に笑顔を見せて、耳郎は麗日と八百万の手を引いて歩き出した。遠ざかっていく三人を少しだけ眺めた後で、被身子を軽く睨む。すると、また舌を出して笑いおったわ。やはり反省はしていないようじゃ。

 

 まぁ、良い。お邪魔虫は居なくなったことじゃし、被身子との逢瀬(でえと)に戻るとしよう。腹は満たした、昼寝もした。さて、これから何をしようか。催し事まで、まだまだ時間は有る。逢瀬(でえと)の時間は、沢山残っているんじゃ。

 

「これからどうする?」

「行きたいところがあるんじゃけど、良いか?」

「良いぞ。何処に行くんじゃ?」

「ここから少し歩いたところに、店が並んだすとりいとが有るんじゃよ。そこを見て回るっていうのは、どうじゃ?」

「相分かった。では、そうしようかの」

 

 今日は、幾らでもお主のしたい事に付き合うぞ。まぁ外で答えてやれるのは接吻(きす)までじゃから、それ以上のせくはらは駄目じゃけど。逆にそれ以外であれば、それこそ何でも。

 

「ん!」

 

 長椅子(べんち)から立ち上がり、手を差し出す。ほら、嬉しそうに笑うだけじゃなくてさっさと手を繋げ。今日は逢瀬(でえと)なんじゃから、もっと近くに寄らんかっ。

 

 

 

 

 

 









※しばらくトガちゃんのスマホのホーム画面はすやすや円花です。なお円花本人はそれを知った時、複雑な顔をする模様。

三人称による補完は要りますか?

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