待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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逢瀬の時間。買い物と赤い痕

 

 

 

 

 

 短い昼寝をした橋から歩くこと、十数分。儂と被身子は様々な店が並ぶ大通りにやって来た。ここも日本の商店街とは大分街並みが違う。どの店も大きな硝子が張ってあり、何を売っている店なのかが分かりやすい。特に、洋服を売っている店が多いようじゃ。被身子が来たがるのも分かる気がする。こやつは服に目がないと言うか、儂に服を着せたがると言うか……。とにかく、服に関しては色々と買い込む癖がある。ここ最近は寮生活で外出もままならない日々を送っていたから、知らぬ間に服が増えているなんてことは無かったが。

 

 ……いや? そうでもないの? 今儂が着ている服とか、いつの間に買ったんじゃ?

 

 ……、服については深く考えないことにする。そうしよう。知らぬが仏じゃ。

 

「ここに入ろうっ。ここが良い!」

 

 大通りを眺めながら歩いていると、急に被身子が腕を引っ張った。顔を輝かせて、欲しい玩具を前にした幼子のように気分良く騒いでおる。まっこと、服には目がない女子(おなご)じゃなお主は。気になる服を見るだけでこうも騒ぐ姿は、何だか可愛らしくも見える。

 まったく、浮かれおって。洋服を見るだけでこうなるんじゃから、もう少し服屋に連れていくべきかもしれん。

 

「これこれ。少し落ち着かんか」

「じゃって、この服着せたいっ!」

 

 被身子が指差したのは、硝子の向こう側に飾られた真っ白な服じゃ。今儂が着ているものと形は違うんじゃけど、ワンピとか言う括りであるのは間違いない。ただ、随分とひらひらしているような気がするの。お主、今度はこれを儂に着せるつもりか? 嫌とは言わんが、もう少し飾り気の少ないものの方が着易いんじゃけど……。

 まぁ、良いか。今は好きにさせてやろう。この後は被身子の着せ替え人形にさせられそうな予感があるが、それでこやつが笑っているなら儂はそれで良い。少しくらいは加減して欲しいものじゃけど、この様子だと言ったところで無駄じゃのぅ。

 

 そんなこんなで。被身子に引っ張られる形で店に入った。満面の笑みを浮かべて目を輝かせる姿は可愛らしいものじゃが、もう少し落ち着いてくれ。こうなったお主の手綱を引くのは、結構大変なんじゃから。

 

 ……いっそのこと、こやつの気が済むまで放置してみるか? いや、それは止そう。恐らく、取り返しが付かなくなる。

 

「これ! 試着してください!」

 

 浮かれているのぅ。儂の真似をする事を忘れてしまっているぐらい、派手に浮かれている。入店するなりお目当ての服を引っ掴んで儂の前に持って来た辺り、どうしてもこの白いわんぴを儂に着て欲しいようじゃ。

 まぁ、試着するのは構わん。構わんが、どうやって着るんじゃこの服。今着ているしゃつわんぴと比べたら、大分構造が違うような気がするんじゃけど。

 

 仕方ない。試着するのを手伝って貰うとするか。

 

「分かった分かった。着方が分からぬから、手伝ってくれるか?」

「もちろん! それは私の特権なのです!」

 

 

 まったくこやつと来たら、仕方のない奴じゃの。そうであることは知っているが、今は特に仕方のない奴じゃ。もうこうなってしまったら、満足するまで落ち着かんじゃろう。と言うか、落ち着くのか? 店を出るまでこのままな気がしてならん。

 浮かれきった被身子に連れられて、試着室へ。大きな幕を勢い良く開いて儂を連れ込んだと思ったら、勢い良く閉じおった。その後、秒も経たない内に(ぼたん)に指が掛けられた。

 おい、少し落ち着け。騒ぎたいのは分かったら、急に脱がそうとするな。服ぐらい自分で脱ぐわっ。

 

 

 その後、儂は被身子の着せ替え人形になった。着替えの全てを一から十まで手伝われるのは、何とも言えん恥ずかしさがあった。途中からせくはら紛いの事をして来たことに関しては、許さん。なんでいちいち、首や肩に吸い付いて痕を残そうとするんじゃ。反転術式(はんてん)で即座に痕を消すと、むっとするし……。

 

 何? きすまあくを付けたい……? 寝てた時にも付けたのに儂が起きたら直ぐ消えた……?

 

 ……。よく分からんが……、今日ぐらいは反転術式(はんてん)せずに居るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 被身子に着せ替え人形にされた後。首やら肩に赤い痕を付けられた儂は、白いわんぴを二着購入することにした。意匠(でざいん)の凝った洋服はそれなりに値が張るものでのぅ。被身子の手持ちでは手が届きそうに無かったので、今回は儂の小遣いから出すことにしたんじゃ。特例ではあったが、雄英での実習訓練期間(いんたあんしっぷ)の際に給料が出たからの。費用はそこから捻出した。

 二着買ったのは、一着を被身子用にする為じゃ。こやつは様々な物を儂と揃いにしたがるから、ちゃんと被身子が着れる寸法(さいず)の物を選んで貰った。

 

「……ありがとう。大事にする」

 

 店を出ると、服が入った紙袋を抱き締める被身子が嬉しそうに笑った。安い買い物ではなかったが、こうして喜んで貰えたなら買って良かったと思う。せっかくの逢瀬(でえと)じゃし、何よりあの時の夏祭りと同じ目で服を見ていたからのぅ。

 今回買い与えた服も、長年大事にされそうじゃ。

 

「別に、古くなったら捨てても良いぞ?」

 

 服なんて、いつかは駄目になってしまうものじゃ。汚れたり破けたり、解れたり。どんなに大切にしても、いつかは着れなくなってしまう時が来る。

 物と言うものは、いつかは壊れてしまう。その形を失ってしまう。じゃから、いつかは捨ててしまうしかない。これは仕方のない事じゃ。まぁ呪具にしてしまえば話は別じゃろうけど、わざわざ服を呪具にする理由は無いしのぅ。

 

「絶対に捨てん。一生大切にするからの」

 

 笑顔が眩しい。服の一着ぐらいでそこまで大袈裟に喜ばんでも良いと思うが、こうも笑ってくれるのならそれはそれで喜ばしいものじゃ。また今度、何か贈り物(ぷれぜんと)をしても良いかもな。何を贈っても盛大に喜ばれるような気がしないでもないが。

 

「……そろそろほてるに戻るか?」

 

 夜になったら着物に着替えて、催し事に参加しなければならない。それを考えると、そろそろ宿(ほてる)に戻るべきなのかもしれん。じゃけど、少し物足りない感じがするのも事実じゃ。もう少しぐらい、逢瀬(でえと)を続けたいと思う。

 まだ一緒に散歩をして、遅めの昼食を食べて、服を買っただけ。せっかくの外出なんじゃから、もう少し思い出作りがしたいと言うか……何と言うか。

 

「……やじゃ。もう少し、でえとしたい」

「そうじゃの。もう少し、でえとするか」

 

 れせぷしょん・ぱあてぃいとやらが始まるまで、もう少し時間がある。携帯電話(すまほ)で今の時間を確認すると、もう一時間ぐらいは逢瀬(でえと)を続けられそうじゃ。宿(ほてる)に戻って準備する時間を考えなければならないのは、気に入らんが。

 

 まぁとにかく、逢瀬(でえと)は続行じゃ。次は、何処で何をしようか。この街の事は何にも分からぬし、かと言って事前に調べるなんて真似はしておらん。それは被身子がやってたからのぅ。

 

「実はもう一件、見てみたい店があるんじゃけど」

「相分かった。何処に行くんじゃ?」

 

 また手を繋いで、歩き始める。本音を言うと、まだまだこの逢瀬(でえと)を終わらせたくない。被身子も同じ気持ちのようで、何だかそれがとても嬉しく思う。

 

 もう少し。もう少しだけこの時間を楽しんでも良いじゃろ? せっかくの逢瀬(でえと)なんじゃから。

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

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  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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