待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
うむ、迷った。悪党を制圧し黒沐死を祓った後、壁に開けた穴を通って被身子達と合流しようと思ったんじゃけど……歩けど歩けどめんてなんするうむに辿り着かん。取り敢えず目に付いた部屋を片っ端から覗いているんじゃが、それらしい部屋が見付からん。だいたい、何で地下にこんな沢山の部屋が有るんじゃ。無駄に廊下は長いし、曲がり角も多いし、そのくせ案内図も無い。見覚えが有るような無いような景色がずっと続いて、自分が何処をどう歩いているかも分からん。
おかしいのぅ。何故か壁に口紅で書いてあった被身子の
む、さっき居た道に戻ってきたような気がする。なるほど、右に三回曲がると戻ると。じゃあ次は左に二回ぐらい曲がってみるか?
……。……まぁ、今のところ悪党共が来る気配は無いし、少しのんびりと迷子になっていても良いか。良くない。早く合流したいのぅ。まだまだこの建物は悪党に占拠されているわけじゃし。被身子達が心配じゃ。悪党に捕まっていなければ良いが……。
「で、ここは何処じゃ?」
分からん。何も分からん。しかもつまらん。こうも同じような風景が連続して続いていると、流石に飽きる。めんてなんするうむは何処じゃ? あと何回似たような風景を眺めれば良い? 全員を先に行かせてしまったのは間違いじゃった。せめて一人残して……。いや、あの場面では子供達を逃がすことが最優先だったわけじゃし。
この状況、どうしたものかのぅ。何で儂はこうも道に迷ってしまうのか。遺伝か? さては母と父から遺伝したのか? いや、方向音痴は前世からじゃし今の両親は関係無いか……。
よし、疲れた。と言うかこの風景を見るのに飽きた。少し休憩して、それからまた歩き始めるとしよう。その辺の部屋に入って、椅子にでも座るか。何、さっきからずっと静かなんじゃ。多少気を抜いたって良いじゃろ。いい加減、念の為に維持していた赫鱗躍動も切りたいし。うむ、そうと決まれば……。
「ふぅ。休憩じゃ、休憩!」
目に付いた部屋に入り込むと、折り畳まれた椅子があった。勝手に広げて座り込むと、喉が渇いていることに気付く。まぁずっと動きっぱなしじゃったからな。喉くらい渇くじゃろう。何処ぞに自販機でもないか? いや、財布が無いか。まぁ最悪、自分の血を飲んで
それにしてもこの部屋、やたらと椅子やら
ええっと、何々?
うむ、まるで読めん。ああでも、水と書いてあるな。ちょうど良いから拝借して……。
『これよりI・アイランド全域の警備システムは緊急メンテナンスモードに入ります。住民の方、旅行者の方は規定の指示に従って―――』
部屋が暗くなった。と思ったら、淡い光で照らされた。更には喧しい
……いや。駄目じゃな。完全に事件が解決されるまで、気は抜けぬ。もしかしたらまた悪党共に警備
『あ、あー。てすてす。こちらメンテナンスルームのトガです。この放送はこの階だけに流してるのです。円花ちゃん、ナビしますから指示通りに歩いてくれます? て言うか監視カメラで見てましたけど、何で迷子になるんですか??』
『待ってください渡我先輩! ここは俺が迎えに行きます! 監視カメラで見守ってるとは言え、廻道くんを一人で歩かせるのは大変危険ですから!!』
……。被身子の声が聞こえたと思ったら、飯田の悲痛な叫びまで聞こえてきた。随分と失礼な物言いをしてるな貴様。幾ら儂でも道案内さえあれば大丈夫じゃ。まさか案内されてるのに迷子になるなんて、そんな馬鹿な事は無いじゃろ。
よし被身子、さっさと案内しろ。今直ぐ案内しろ。儂は喉が渇いたぞ。誰か何か飲み物を持っていないか?
『円花ちゃん、部屋を出て左に真っ直ぐです。良いですか? 真 っ 直 ぐ ですからね?』
いや、そんなに念を押すな。たわけ。一度言われれば流石に分かる。よし、さっさと被身子達と合流するとしよう。その前に水を拝借して……。
何じゃこれ。何で
『あ、私のもお願いします。その部屋、緊急時の防災グッズでいっぱいみたいなので。そのリュックサックを二つ……いや三つぐらい持って来てくれますか?』
……何だかよく分からぬが、取り敢えずこれを三つ抱えていけば良いんじゃな? ひとつひとつがそれなりに重い気がするが、まぁこの程度ならば余裕で持てるな。大量に抱えていくことは流石に面倒じゃけども。
荷物を抱え、部屋を出る。左に真っ直ぐと言っておったな? 左は……こっちか。こっちを真っ直ぐ行けば良いんじゃな?
「廻! 道! くん!!」
左を向くと、全速力でこちらに駆けてくる飯田が見えた。貴様、何をそんなに大慌てになって……。まぁ良い、ひだりひだり……。とにかく左に真っ直ぐ、いやこれはさっき出てきた部屋の扉じゃな。真っ直ぐ行っても戻るだけ。左……む、飯田が消えたな。何故じゃ? さっきまでこちらに向かって駆けていた筈じゃが。
とうとう目に見えぬ速度で走れるようになったのかあやつ? 凄まじいの。今度その速さを体感したいから手合わせしよう。と、感心している場合ではないな。このまま真っ直ぐ行って被身子達と合流しなければ。
ところで、さっきから建物が少しだけ揺れているような気がするんじゃが……これは気のせいか?
『ちょっ、廻道! 逆だから! 回れ右して!!』
『何でそこで右に行こうとしてまうん!?』
回れ右? 何故? じゃって被身子が左に真っ直ぐ進めと言うから、左を向いて真っ直ぐ進もうとしたんじゃけど?
さてはあれか? 貴様等、儂で遊んでいるな? よぅし良いじゃろう。いい加減、一人でも迷子にならんところを見せ付けて……。
『もぅ、円花ちゃんはポンコツなんですから……』
『と、渡我先輩……。失礼ですがこれは、ポンコツとかそういう次元では……』
『迷子って医者に行けば治して貰えるのか?』
おい、誰が……ぽんこつ、じゃって? 八百万?? 轟も、何を言って……。
それと被身子、貴様もいい加減に儂をぽんこつ扱いするのは止めろ。儂はぽんこつではないと何度言えば分かるんじゃ。
「廻! 道! くん!! もう大丈夫だ! 俺が来たからには君をメンテナンスルームまで連れて行って見せる! ほら行こう! こっちだ!!」
「……?? いや、左はこっちじゃろ」
後ろから飯田に手を引かれた。何故か儂が行こうとした反対方向から現れ、その方向に連れて行こうとしている。おい貴様、勝手に手を繋ぐな。後で被身子が何をするか分からんじゃろっ。
◆
結局飯田に連れて行かれた方向が正しかった。おかしいの。儂はちゃんと左を向いた筈なんじゃが、気が付いたら右を向いていた。思い返してみれば左を何度も向く必要は無かったのぅ。
めんてなんするうむに入ると、子供達全員の呆れ顔が儂を待っていた。全員して可哀想なものを見たかのような目を向けるのは止めてくれ。うっかり右を向いてしまっただけじゃろっ。誰だって些細な失敗はするものじゃ。じゃからほら、そんな目で儂を見るなっ!
「良いですか? 円花ちゃんはポンコツです。はい、復唱してください復唱」
「いやもうほんと、円花ちゃんは一人で出歩いたらあかんよ……?」
「渡我先輩、苦労してますのね……」
「だ、大丈夫ですよ先輩っ。きっと迷子は直せます! 僕も協力しますから! ね、廻道さん!」
「これは由々しき事態だぞ諸君! 俺は廻道くんの方向音痴克服訓練を提案する! A組一丸となって、彼女の方向音痴を直そう!!」
「廻道、迷子を治してくれる病院を探してみないか? 俺も手伝う」
「いや、医者も匙投げるでしょこんなんさ。何で左って言われてるのに右向いたの?」
「なんなら、オイラが教えてやろうか?」
「マジで意味不明の連発だったよな。頭ん中どうなってんの?」
き、貴様等……。随分と好き勝手に言ってくれるな……? 何じゃ何じゃ全員してぽんこつだの方向音痴だの! 全ての道は繋がってるんじゃから迷子になったって問題無い! 景色も楽しめるし、散歩にもなるし、しかもいつかは目的地に辿り着けるんじゃから一石三鳥じゃ! それに普段は被身子と出掛けるから、方向音痴でも問題無いんじゃからな!
まったく! 貴様等全員許さんぞ!? 許さんからなぁ!?
「まったくもぅ。こうなったら、私が手取り足取り教えるしかないのです。いい加減、方向音痴は克服しましょうか。ポンコツが薄まるのは、ちょっと勿体無い気がしますけど……」
おい被身子っ。人前で
あと! ぽんこつが薄まるってなんじゃっ! そもそも儂はぽんこつではないっ!!
「それより、この後はどうするんじゃ?」
このままだといつまでもぽんこつだの方向音痴だの迷子だの何だの言われるから、くらすめえと達を睨みながら話を逸らす。こんな緊急事態の最中、くだらん話で盛り上がるのも時には必要じゃ。しかしいつまでもこうして居るわけにはいかん。そろそろ、これからの事を考えるべきじゃろうて。
取り敢えず、全員無事にこの部屋に辿り着くことが出来た。先程の
「その事なんだけど……、みんな聞いてくれるかしら?」
神妙な面持ちで、めりっさが片手を小さく上げた。緊張が見て取れる。儂等の狙いは上手く行ったのにも関わらず、気が抜けていない。しっかりしているの。
「取り敢えずメンテナンスモードに入ったことで、警備システムは一時的に停止したわ。でもいつ、コントロールルームからシステムを復旧されるか分からない。
だから、やっぱり確実なのはコントロールルームに行くこと。また警備システムを乗っ取られたら、同じ事の繰り返しになっちゃうから……」
……、なるほど? まぁ詳しいことは分からん。儂、機械のことは全然分からんしの。警備
とにかく、じゃ。まだ安心は出来ないと言うこと。油断は禁物。めりっさの言葉に項垂れている場合ではないぞ、峰田と上鳴。終わった気になるのは、まだまだ早過ぎる。
「メリッサさん、コントロールルームは最上階でしたよね?」
「ええ、二百階に。でも、警備システムが止まってる今ならエレベーターで直ぐに行けると思う。だけど問題は……」
「いつ警備システムがまたヴィランに乗っ取られるか、分からないってことか」
現状、警備
確実に、悪党共はここに来る。壁一面の画面を見ると、そのように動いている。ように見える。
「おおるまいとはどうなった?」
「オールマイトなら、さっき拘束から抜け出してパーティー会場のヴィランを制圧したよ。今は最上階に向かって走ってる……けど……」
緑谷が指し示した画面には、おおるまいとが映っておる。廊下や階段を全速力でダッシュし、場合によっては隔壁を拳で殴り砕きながら突き進んでおる。なるほど、じゃから少し揺れていたのか。今も僅かに揺れておるしのぅ。あの筋肉阿呆め。そろそろ筋肉と個性で物事をどうにかしようとするのは止めぬか。非常事態の最中ではあるが、そんな景気良く隔壁を壊して良いのか……?
まぁ、取り敢えずおおるまいとは自由に動けるようになった。この事件が解決するまで、そう時間はかからないじゃろう。あの程度の悪党が相手なら、苦戦することすら難しい筈じゃ。
こうなってしまったら、あとは待つだけで良い気がするの。この分じゃと警備
……、ただ。ひとつだけ問題があるのぅ。おおるまいとの活動限界が近い。動きが速すぎて儂や緑谷以外は気付いていないようじゃが、おおるまいとの体から煙が出ている。悪党を完全制圧するまであと数分も無いじゃろうが、あと数分もあの姿を維持出来るのか怪しい。
「廻道さん、僕……」
「儂は気負うなと言った筈じゃが?」
「分かってる。でも……っ!」
おおるまいとの活動限界に、まだ予断を許さぬこの状況。最悪を思い浮かべてしまえば、緑谷が気負うのも無理はない。流石に二度も止めるのは無理そうじゃ。そもそもこやつを言葉で止めること自体、無理じゃからの。もう、行かせてやるしかない。しかし今この状況で、放っておくわけにもいかん。
と、くれば……。
……付き合うしかあるまい。万が一を考えて、おおるまいとの助太刀に入る。じゃけど、他に無視出来ないこともある。
それは、儂はこの場から離れ難いということ。まだまだ悪党は居て、そろそろこの部屋に攻め込んできてもおかしくない。となると、他の者に危害が加わるかもしれん。下手をすれば命に関わる。じゃから、子供達を守ろうと思ったら儂はこの部屋から動けない。
この緊急事態の中で、これ以上の別行動は取らない方が良いじゃろう。じゃけど緑谷を放っておけば、こやつがどうなるか分からない。最悪死ぬかもしれんと考えたら、放っておくことは儂の主義に反する。かと言って再び全員で動いてしまえば、また警備
さて、どうしたものか。何か良い案は無いか? おおるまいとを助太刀しつつ、子供達全員を守る。そしてこの部屋を悪党に占拠されない為にはどうしたら良いのか。何もかもを無事に終わらせる為には、どうするべきかのぅ。
……いや、実は分かっている。そんな都合の良い手段は、有り得ない。何処かで何かを切り捨てるしかない。
緑谷一人を行かせ、ここに残る。もしくは全員でおおるまいとの助太刀に向かい、ここを放棄するか。選ぶとするならどちらかひとつ。
じゃとしたら……決まっている。子供の命を、何一つ取り零すつもりは無い。ここを放棄し、悪党に占拠される前におおるまいとの助太刀に向かう。それが最も、儂好みの選択じゃ。
「全員で、最上階に行くぞ」
ただ、この選択には問題がひとつ。それは……。
どうやって緑谷以外を納得させれば良いのか、まるで分からんと言うことじゃ。
あ、あと数話で終る……筈……(白目)
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ