待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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最後の悪党。

 

 

 

 

 

「……んんーーっ。これで、警備システムは元通りなのです……! メリッサちゃん、お疲れ様でしたっ!」

『ええこれで本当に、もう大丈夫。デクくんにブラッディ、渡我さん。お疲れ様』

 

 警備機構(しすてむ)をめりっさの指示の元で操作し終えた被身子が、肩から力を抜いた。一仕事終えた気になって、固く拳を握り真上に向かって腕を伸ばす。すっかり気が抜けてしまったようじゃ。もう表情に緊張はなく、油断しきっている。ここまでずっと、こやつなりに気を張っていたからのぅ。

 ここに来るまでに起きた戦闘では、被身子は何も出来ぬなりに儂や緑谷の邪魔にならないように努めていた。その後めりっさの指示の下で警備機構(しすてむ)を弄り回していたのじゃから、肉体的にも精神的にも疲れているじゃろう。

 慣れないことをして疲弊している姿を見ると、つい甘やかしたくなる。が、儂はまだ気を抜けん。あとひとつだけ、やるべき事があるからの。

 

「ご苦労。慣れないことをさせて、すまん」

「良いですよぉ。これは円花ちゃんには無理なことでしたし。でも、ホテルに戻ったらぁ……たぁっぷり労ってくださいね?」

「うむ。そのつもりじゃから、楽しみにしておれ」

「ほんと? んふふっ、楽しみですっ」

 

 本音を言えば、今からでも労ってやりたい。疲れが大きいのか、笑顔がいつもより暗いことが気になる。全てが終わって宿(ほてる)に戻ったら盛大に労って甘やかして、寝てしまうまで寄り添うとするか。その為には、まだ続く揺れと音をどうにかしなければ。いい加減おおるまいとも苦しくなって来ている頃合いじゃろう。

 早く、手伝いに行かなければ。活動限界の事を考えると、万が一が有り得る。

 

 警備機構(しすてむ)が復旧した今は、もう悪党共は自由に動けない筈じゃ。ここに来るまで、それなりの数の悪党共を制圧したしの。地下に置いて来てしまった九人も、もう心配しなくて良いと思いたい。

 

 ……ふぅ。さて、最後の仕上げに取り掛かるとしよう。もう少し被身子を連れ回すことになってしまうが、これについては素直に謝るしかない。

 

 ううむ……、これはいかん。少し気が抜けている。集中しなければ。

 

「……廻道さん」

「うむ。行くとするか」

 

 後はおおるまいとじゃ。手助けしてやらねばなるまい。まだまだ揺れも音も続いている。どころか激しさを増しているからの。とにかく屋上に上がって、加勢しなければ。ただ、そこに被身子を連れて行くことになるのは申し訳ない。もうこやつには何もさせたくないのに、結局は儂等のわがままに巻き込むことになってしまう。ここに置いていくと言う選択肢も有るには有るが、儂が側で守る方が安全じゃ。

 

「すまん被身子。もう少しだけ、付き合ってくれるか?」

「はい、何処にでも付いて行くのです。私は良妻なので」

 

 いや、じゃからお主はどちらかと言うと悪妻……。ま、まぁ良い。指摘するのは野暮じゃ野暮。下手に機嫌を損ねられたら敵わんし、良妻と言うことにしておこう。儂を立ててくれたり、支えてくれると言う面では間違ってはおらんからの。

 うむ、そういう事にしておこう。何だか冷や汗が出てきたような気がするが、これは気のせいじゃ気のせい。そう思うことにする。

 

 ……さて。ここからは切り替えろ。被身子も緑谷も守りつつ、おおるまいとに加勢する。危険も手間もあるが、気を付けていれば問題は無い。

 これ以上この事件を長引かせるのは良くないから、さっさと解決してしまおう。呪力にはまだまだ余裕が有る。体力も、多少疲れてはいるが全然動ける。何があっても良いように再び赫鱗躍動を使い、呪力を纏う。その時じゃった。

 

 雷のような轟音と共に、天井が崩れた。咄嗟に被身子を片腕で抱え緑谷の手を掴み、急いで部屋の外へと退避する。

 

「けほっ……。円花ちゃん、もう少し優しく扱ってください……」

「すまん。咄嗟故に気遣いを忘れた」

 

 つい力加減をせずに抱えてしまった。強化した肉体で思いっきり抱き締めてしまったから、瞬く間の出来事とは言え、さぞ息苦しかったじゃろう。次からもう少し気を付けなければ。助けようとして怪我をさせたなんて、笑い話にもならん。

 

「……もぅ。助けてくれてありがとう」

「うむ、儂の側から離れるな。緑谷、無事か?」

「うん、廻道さんのお陰。ありがとう」

「礼は良い。それより、急ぐぞ」

 

 このままだと、この建物自体が崩壊するかもしれん。おおるまいとが手こずっているからの。誰と戦っているかは知らんが、早く加勢してやらなければ。あやつ、もうそろそろ活動限界じゃろ。

 こんとろおるるうむは、瓦礫で埋まってしまった。縛り上げていた悪党共がどうなったかは知らん。粉塵が酷く、部屋の中が見通せない。まぁ、悪党の生死は別に気にすることでもない。事故死していたなら、それはそれじゃ。

 

「待って廻道さん! オールマイトが……!」

 

 何? この砂埃の中に居るのか? ……ああ、居るの。姿は直接見えんが、溢れる呪力が見える。と言うことは、天井を突き破って落下してきたのか。もしくは叩き付けられて、落ちてきたか。耳を澄ますと、聞き覚えのある咳が聞こえた。状況は、良くないな。

 

「おい、無事か?」

「オールマイト! 大丈夫ですか!?」

 

 て、おい緑谷。砂埃の中に駆け込むな。おおるまいとの無事を確認したいのは分かるが、危ないじゃろ。

 

「げほ……っ。廻道少女に緑谷少年……? 何故ここに、いや……そうか。警備システムを取り戻してくれたのか。

 後は私に任せて、ここは下がっていなさい」

 

 煙の中から、おおるまいとの声が聞こえる。辛うじて見えた姿からは、やはり煙が上がっている。煙の量が多い。限界が近いのか、それとも限界を迎えて尚、あの姿を維持しているのか。どちらにせよ、状況は良くない。放っておく道理は無いのぅ。

 

「手伝います、オールマイト! その為に僕達は、ここに来ました……!」

「緑谷少年……。いやしかし……」

「でも、困っている人を救けるのがヒーローだから……! 放っておけないんです!」

「……HAHAHA、確かに今、私はほんの少し困っている。だから力を貸してくれるかい? 緑谷少年、廻道少女」

「はい!」

「最初からそのつもりじゃ、たわけ。それで、状況は?」

 

 おおるまいとに、こうも手を焼かせる悪党じゃ。当然それなりに強いのじゃろう。こんな状況じゃなければ真っ先に挑みたいところじゃが……今回ばかりはそうもいかん。ここには被身子が居る。緑谷もじゃ。事態を収拾するその時まで、傷ひとつでも負わせてはならぬ。

 

「屋上にヴィランが一人。金属を操る個性に、筋力増強系の個性……更に、デイヴの作った個性を増強する装置を付けている」

「個性の複数持ちに、博士の装置を……!?」

「そうか。で、その悪党とやらは?」

「屋上だ。今は、様子見しているってところかな……ごほっ」

 

 個性の複数持ち。脳無の類いか? じゃとしたら、おおるまいとが苦戦しているのも分かる。保須の時も、そうじゃったからの。

 

「―――ピンチに子供と相談か? オールマイト。平和の象徴も、地に墜ちたものだな」

 

 真上から、声が聞こえた。随分と音が響いている。上を見てみれば、突き破られ大きな穴が開いた天井の向こう側に、妙な姿の男が見えた。全身に金属を纏っている上に、頭には変な物が付いているの。あれが個性を増強する装置とやらか?

 何にせよ、様子見は要らんな。守る者が側に居る今、時間を掛けるつもりはない。のんびり事を構えていては、この建物がどうなるかも分からん。現に周囲の壁や床の中から、耳障りな音を立てながら金属が動いて悪党の体に集まって行く。

 

 

「さあ、それはどうかな? ここに居るのは、私の頼もしいヒーロー達さ!」

 

 

 おおるまいと、それは儂等への鼓舞のつもりか? 誰が貴様の英雄(ひいろお)じゃ。そもそも儂は英雄(ひいろお)になど……。まぁ良い、助けてやる。緑谷には効果絶大のようじゃし。それはそれとして被身子、こんな時でもむっとするな。貴様、ろくでもない事を言い出すつもりじゃなかろうな? おい、被身子??

 

「円花ちゃんは私のヒーローですっ!」

 

 おい、何でそこで張り合うんじゃ貴様。急に肩を抱き寄せるのは止めんか。時と場合を考えてくれ、頼むから。気が抜けそうになるんじゃよ。

 

 ……まったく、仕方ない奴じゃなぁ。後で構い倒してやるとするか。その前に、目の前の悪党をさっさと制するとするか。

 

「百斂」

 

 いつものように、準備を進める。未だに被身子が儂を離そうとせんが、まぁ良い。側に居てくれた方が守り易いからの。下手に距離を取るぐらいなら、いっそくっ付いていた方が都合が良い。

 取り敢えず、撃ってみるか。あれだけ金属に覆われていたら弾かれるかも知れんが、幸いにも生身が見えている部分がある。そもそも穿血の前では岩だろうが金属じゃろうが、何の盾にもなりはせんが。

 

「行くぞ、緑谷少年! 廻道少女!!」

 

 次の瞬間、おおるまいとが砂埃の中から緑谷と共に飛び出した。一直線に、悪党に向かって。緑谷はともかく、あの筋肉阿呆に合わせて動くのは骨が折れそうじゃ。この後で放つ穿血が、うっかり当たってしまうかもしれん。機を見るとしよう。

 悪党の前に、瞬く間におおるまいとが距離を積めた。続いて緑谷が、少し遅れて到達する。二人は拳を振りかぶり、次の瞬間には金属を寄せ集めて出来た壁に阻まれた。二人の拳を受けて軋んだりへこんだりしたものの、その壁は健在。どころか動き出し、二人を床へと押し戻そうとしている。寄せ集めで出来た壁にしては、相当の強度を持っているようじゃの。

 

 どれ、試してみるか。

 

「穿血」

 

 緑谷とおおるまいとが床に激突する前に、金属の壁に向かって血を放つ。貫くことは出来た。が、押し返すことは出来ぬ。長く血液をぶつけ続ければ押し返せるかもしれんが、それでは駄目じゃ。時間を掛け過ぎては二人が床に激突してしまう。どころか押し潰されてしまうじゃろう。

 じゃから穿血で貫くことは諦め、金属壁に血液を付着させていく。この硬い壁が出来上がる様を見ていて良かった。お陰で解し易い。

 

「よっ、と……」

 

 金属壁に付着した血液を操ることで、集まることで壁となっている金属片を多方向に動かす。これにより壁は欠片となり、あちらこちらへと飛んで行く。ひとまずこれで、金属と床に挟まれて二人が死ぬことはない。

 悪党の個性は中々に強力なようじゃけど、儂の血である程度は制御を奪える。となれば、そこら中に血を撒いて操ればあの悪党は何も出来なくなるのではないか? いやしかし、それをやるには膨大な量の血液が要る。幾ら反転術式(はんてん)で血液量を回復出来たとしても、呪力が有限である以上は限度と言うものがあるんじゃ。

 

「あ、ありがとう廻道さんっ」

「礼などいらん。次が来るぞ」

「っっ!!」

 

 金属が緑谷やおおるまいと、そして儂にも飛来する。今度は様々な形をしており、大きさも量も先程の壁とはまるで違う。

 これは穿血では無理じゃ。百斂が間に合わん。じゃから別の手で対応する。

 

 開いた両手を前に突き出し、手首や手のひらから血液を放出していく。儂や緑谷に向かって飛来するものは、ひとつ残らず苅祓で切り刻む。

 

「飛んで来るものは儂がなんとかしてやる。行け」

 

 被身子を守りつつ、緑谷も守る。おおるまいとに合わせて動くのは大変じゃけど、まったく無理ではない。少し神経をすり減らすだけじゃ。

 出来ることならさっさと終らせたいんじゃけど、これは少し長引くかもしれんの。

 

 

「被身子。儂から離れるなよ」

「はいっ」

 

 

 まだ、金属片が飛来し続ける。さてこの悪党、どう制圧してくれようか?

 

 

 

 

 

 









三人称による補完は要りますか?

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