待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
金属片が、幾つも飛来する。それ等をひとつ残らず苅祓で撃ち落とす。そしてまた、金属片が飛んでくる。恐らくは最後の悪党との戦闘が始まってから、ずっとこの繰り返しじゃ。個性を増強する装置を使われているからか、まるで勢いが衰えない。あの悪党は儂や緑谷がおおるまいとに合流する前から個性を使い続けていると思うんじゃが、まるで疲弊しておらん。幾らおおるまいとが活動限界に近いとは言え、こうも暴れ続けているのはどういう訳じゃ? それ程までに、悪党が使っている装置の力が強いのか?
……どうにも、面倒じゃ。
こちらとしては、この戦闘は出来る限り迅速に終らせたい。儂とて、いつまでもいつまでも術式を使えるわけじゃないからの。失血の影響が出る前に
「うわぁっ!?」
しつこく迫ってくる金属片を撃ち落としていると、緑谷が悲鳴を上げた。体が宙に浮いている。足に何かの
とは言え、ひとつだけ問題がある。それは戦場を変えられたと言うことじゃ。今、儂が居るのは最上階。緑谷が連れ去られ、おおるまいとが向かったのは屋上。儂も直ぐに屋上へと向かうべきなんじゃが、こうなったなら被身子を連れて行きたいとは思えん。直ぐ真上には、何が待ち受けているか分からんからの。しかし困ったことに、ここに置いて行きたいとも思えぬ。
悪党はもう居ない、筈じゃ。何処かに隠れているかもしれんが、警備
……、迷っている時間が惜しい。
「行きましょう、円花ちゃん」
「良いのか? 上は危険じゃぞ?」
「円花ちゃんなら守ってくれるって、信じてますから。それとも自信が無いんですか?」
「は? 悪党なんぞに遅れは取らんが??」
貴様……。人の心配を鼻で笑いおってっ。許さん、そこまで言うなら連れて行ってやろう。後で怖がっても、儂は知らんからな!
まったくこやつは、こんな時に煽りおって。言われるまでもなく、側で守るに決まっているじゃろっ。たわけっ。
被身子の手を取り、しっかりと握る。それから一度こんとろおるるうむの中に戻り、穴の開いた天井を見上げる。まだ砂埃が舞っていて見え難いが、高さはそれなりにあるようじゃ。まぁ、特に問題は無い。赫鱗躍動・載による身体能力の上昇に、更に呪力強化を上乗せすれば被身子を抱えても余裕で届くじゃろう。
「よし、跳ぶか」
返事は待たん。そんな暇が有るなら口を閉じていろ。
「は、ぃいっ!!?」
被身子の手を掴んだまま、跳ぶ。穴を通り抜け、屋上に移動した儂の目に映るのは四方八方から襲い来る金属を相手に立ち回る緑谷とおおるまいと。どうやら緑谷は無事なようじゃ。先程は少し肝が冷えた。おおるまいとは……良くないの。体から出ている煙の量が、多くなっている。もう何分も戦えないじゃろう。早いところ、どうにかしなければな。
屋上に着地しながら、周囲に血を撒き散らす。目に付く金属全てに、出来る限り血を付着させる。と、同時に幾つかの苅祓を悪党に飛ばしておく。
この時ようやく、儂はまともに悪党の面を見た。何やら妙な仮面をしている。
「わ、と……とっ!?」
「これ、しっかり姿勢を保たんか」
着地の際、被身子が少し姿勢を崩した。ので、抱き寄せて転ばないようにしておく。悪党の前で隙を晒すことになるが、問題無い。この瞬間に金属が飛んでこようが、全て撃ち落とすことが出来るからの。
「随分と余裕だな? 自ら弱点を晒すとは!」
「その弱点を突けない悪党が何を言っておる。さては阿呆か貴様」
儂等の着地を狙った金属の礫を、ひとつ残らず撃ち落としておく。儂一人ならば造作もない事では有るが、被身子を守りながらとなると手間じゃ。こやつには傷ひとつ負わせない。この場に連れて来てしまった以上、絶対に守り通す。降り掛かる危険は、全て取り除いて見せる。
戦況は、あまり良くない。金属がそこら中を縦横無尽に飛び回っておるし、その数は段々と増えていく。しかも悪党がしてくるのは、遠距離攻撃ばかり。おおるまいとも緑谷も、距離を潰すことが出来なければ有効打が無いじゃろう。一応おおるまいとは拳で衝撃波を放てるが、金属の壁で阻まれているのぅ。儂の穿血も苅祓も、赤縛すらも仮面悪党には届かん。向こうの攻撃が、儂や被身子に届くことも無いがな。
手段は、無いわけではない。開けた場所に立った今ならば、使える手はある。あんな悪党如きにこの手を使うのは、気が進まんが。
まぁ、とやかく言っている場合では無いか。あの悪党は被身子が儂の弱点であることを知っている。
「あの方が言っていた! オールマイトよりも警戒すべき存在が居るとっ!」
宙を舞う金属が、一点に集約される。それは巨大な壁のような、それでいて武器のような……。とにかく、巨大じゃ。そんなものをわざわざ作り上げた目的はひとつじゃろう。悪党の目が見ているのは、おおるまいとでも緑谷でもない。儂じゃ。
その判断は、間違ってはいない。おおるまいとはそろそろ動けなくなる頃合いじゃからの。
集約され天を貫きそうな程に巨大となった金属が、儂に向かって倒れてくる。被身子を連れて避けようにも、屋上を埋め尽くす程の大きさじゃ。下の階に待避しようとも、建物ごと押し潰されてしまうのぅ。
この場に居るのが儂ひとりだけじゃったなら、それなりに手を焼かされたかもしれん。……が、今の儂は一人ではない。
「っ、廻道少女!」
「廻道さん!!」
二人の声が聞こえると同時に、儂はしゃがむ。手を引くことで、被身子もしゃがませる。
次の瞬間には、儂等の前におおるまいと緑谷が駆け付けた。念の為、二人の背中に血を付けておく。
「DETROIT……」
「スマーーッシュ!!!」
おおるまいとは左腕で、緑谷は右腕で。それぞれが全力で、倒れ来る金属を殴り付けた。こんな状況とは言え、どちらも無茶をする。
特に緑谷。お主、何の加減もしておらんな? この一撃で、間違いなく右腕が折れた筈じゃ。おおるまいとも、吐血しながら拳を振るった。この無茶をした甲斐が有ってか、金属はへこみ、砕け、粉々に吹き飛ぶ。
視界が開けた。すかさず二人は悪党に駆け寄り再び拳を振るおうとする。が。
「邪魔だ!!」
砕いた金属が、再び蠢く。破壊されようが金属は金属。どれだけ砕かれようが、操るのに支障は無いらしい。大小入り交じる金属片が、緑谷とおおるまいとを襲おうとしている。じゃから早速、二人の体を手元に引き寄せる。血を付けておいて正解じゃった。
「うわ、とっ、と……!?」
「これは……。君が引き寄せてくれたのか。ありがとう」
「礼は良い。で、この金属をどうする?」
「正直、手を焼いているよ。けど、大丈夫! 私は依然平和の象徴! こんな程度のピンチ、幾らでも乗り越えて見せるさ!!」
……虚勢じゃ。笑って見せては居るが、余裕が無いのは見てれば分かる。もう、時間が無い。おおるまいとが動けなくなってしまえば、状況は悪くなる一方。
「オールマイト、でも……っ!」
「緑谷少年。こういう時こそ、ヒーローは笑っちまって挑むんだ! だから君も、笑って挑め!」
「……! はいっ!!」
まったく。仕方がない奴等じゃよ。被身子と良い勝負をしておる。おおるまいとがこの調子では、もう心配するだけ無駄じゃ。となれば、やはり儂がやるべき事はひとつ。丁度視界も開けているし、悪党との距離もそう遠くはない。残りの呪力量を考えると長く維持は出来ぬかもしれんが、それでも問題は無い。
「あの金属は、儂がどうにかする。お主等は何も考えず、殴りに行け」
「ああ、援護は任せるね。行くぞ、緑谷少年!!」
「はい! オールマイト!!」
緑谷もおおるまいとも、駆け出した。強い踏み込みで足場がひび割れる。相変わらず無茶苦茶な個性じゃ、わん・ふぉお・おおるは。あれだけの身体強化に、呪力強化。並大抵の呪霊等、及びもつかん。
二人が悪党との距離を潰す。悪党は即座に反応し、金属の礫を放つ。が、それでは甘い。その殆どに儂の血が付いている。じゃから、少しばかり軌道を逸らしてやる。空間を埋め尽くさんばかりの礫に、人ふたり分の穴が開く。
「馬鹿な……!?」
驚いている暇があるのか? 目の前の二人に集中するべきじゃ。おおるまいとも緑谷も、個性を使えば儂より遥か上の力を出せる。急いで備えねば、待っているのは敗北じゃ。どんな目論見が有ったかは知らぬが、それは果たされることなく潰えるぞ?
もっとも、今から何かしようとしても無駄に終るが。
「領域展開」
悪いが、時間を掛けてやることは出来ぬ。非術師の悪党相手にはやり過ぎと言える一手じゃが、儂等には時間が無いからの。いつまでも付き合ってやるつもりはない。じゃから……。
貴様の操る数多の金属。それを、無かったことにしよう。
「奉迎赭不浄」
儂の世界が組み上がる。招く対象は、この場に居る者全て。じゃけど、金属は招き入れぬ。儂の血が付着している金属は、全て弾く。結果、どうなるか。
赤暗い領域の中に残った金属は、悪党が纏う僅かな量のみ。こうなってしまうと、もうあの悪党に出来ることは僅かじゃ。あやつがおおるまいと相手に善戦する事が出来たのは、膨大な数の金属が有ったからこそ。しかしこの領域の中には、それは僅かしかない。
突然世界が切り替わったからか、或いは支配下に置いた金属が消え失せたからか。悪党は焦り、そして困惑したようじゃ。しかしそれでも直ぐに思考を切り替え、身に纏う僅かな金属を目の前の二人に放つ。が、それだけの量ではな。おおるまいとどころか、緑谷すら止められん。
儂の援護は、もう必要ないのぅ。
「デトロイトぉ……!!」
「SMAAAASH!!!」
二人の拳が、ようやく悪党の顔面を捉えた。儂も儂じゃが、貴様等もやり過ぎじゃ。下手をすれば死ぬぞそれ。
……まぁ、悪党がどうなろうと知ったことじゃないが。
「赤縛」
顔面殴られ吹き飛んだ悪党を、すかさず縛り上げる。非術師とは言え、呪力は僅かに有るからの。個性があろうが並みの人間である以上、領域の内に居る者は全てが必中の対象じゃ。いつぞやに聞いた話によると、完全に呪力を持たぬ者は別らしいが。
何はともあれ。一件落着じゃ。吹き飛ばされ領域の縁に激突した悪党は、もう微動だにせん。あの二人に全力で殴られたんじゃ。生きている方が不思議に思える。当分意識を取り戻すことは無いじゃろう。
さて、そろそろ領域を解くとするか。ここで呪力を空にしてしまうなんて真似はしたくない。念の為に、少しでも戦える分を残しておきたいからの。
「……あ、は……♡」
「被身子?」
不穏な気配を感じた。背筋に冷たいものを感じる。思わず被身子の顔を見てみると、それはもう嬉しそうに笑っておる。口許は両手で隠しているが、それでも満面の笑みを浮かべているのは確かじゃ。
貴様、何をそんなに嬉しそうにして……。て、あぁ……。そういう事か……。しまった、領域を使うべきではなかった。儂の領域は、こやつの理性を消し飛ばす猛毒みたいなものじゃ。い、いかん! これはいかん……!
お、落ち着け被身子! 今は儂の首を、そんな目で見るなっっ!!
「凄い……。これ、とっても……!」
「お、おい被身子……。少し落ち着かんか……」
いかんぞ。これは
「円花ちゃん……! 円花ちゃん、円花ちゃんっ!」
「んぐっ、こら、被身子……!」
勢い良く、押し倒された。血が跳ねて、儂も被身子も赤く染まる。咄嗟に領域を解いたが、もうこやつの目には儂の首しか映っておらん。
ま、待て被身子っ。ここでするなっ。後で幾らでもさせてやるから、人前でそれをするのは……!
「んっ、ひみ、……っっ!」
噛み付かれた。問答無用で、容赦なく。待て、待たんか貴様っ! これは、人前でして良い事じゃないじゃろっ!!
「っはぁ……! んふふっ。いただきまぁす……♡」
あ、もう駄目じゃ。どうしようもない。こうなったら、こやつの気が済むまで放っておくしかない。直ぐ近くに、緑谷やおおるまいとが居るのに?
……どう、言い訳すれば良いかの……。何を言ったらあの二人は納得して、この事を秘密にしてくれるじゃろうか?
「か、廻道さんっ!? 渡我先輩!!?」
ああ、いかん。見られてしまった。緑谷が慌てて駆け寄って来ている。これ、儂はどうしたら良いんじゃ。頭が痛くなってきた。
どうにかして、どうにかして言い訳しなければ……!
……、ど、どうやって!!?
領域展開させるか悩みましたが、トガちゃんに奉迎赭不浄を見せたかったのでして貰いました。結果、ウォルフラムさんは呆気なく倒されました。そしてこの始末。トガちゃんには刺激が強過ぎましたね。あーあ。
バトルパートは三話で終らせたかったんですけど、気が付いたらその三倍は話数が掛かっていてびっくりです。次回からデート&日常パート挟んで、それから夏合宿編に入ろうかなと思います。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ