待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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逢瀬の時間。甘くて涼しい

 

 

 

 

 

 飛行機に搭乗する時間まで、あと四時間と少し。午前中の殆どを寝過ごしてしまったことが痛手となっている。が、時を巻き戻すなんて術はないから仕方ないと割り切ることにする。別に短い時間しかなかったとしても、逢瀬(でえと)逢瀬(でえと)じゃ。今日も被身子と二人きりで外を出歩けると考えたら……心が跳ねる。

 じゃって、どうしてもしたかったんじゃよ。逢瀬(でえと)。昨日もしたけど、あれだけじゃ物足りない。じゃから今日も、逢瀬(でえと)をする。儂はもうそう決めたし、実際その通りに動いておる。隣を歩く被身子も、同じ気持ちで居てくれたら嬉しいのぅ。まぁ表情を見れば、わざわざ聞くまでもないんじゃけど。何なら儂よりも喜んでいるように見える。そんな被身子も、愛しく思う。

 今日のこやつは、昨日儂が買い与えた服を着ている。被身子が着るには少々子供っぽいような気がしないでもないが、着ている本人が喜んでいるならそれで良しとしようかの。これこれ、気分が良いのは分かるがそんな落ち着きなくしていると、すぐ疲れてしまうぞ? まったく、仕方のない奴じゃ。愛らしい奴め。

 

「今日は、何をしましょうかっ」

「そうじゃの。何をしようか」

 

 折角の逢瀬(でえと)じゃけど、特に何処に行こうとか何をしようとかは決めていない。と言うか、儂はただ被身子と二人きりで外を出歩ければそれで良い。揃いの指輪をして人前を歩くのは少し気恥ずかしいが、いつか(まこと)の結婚指輪を買うまで外すつもりはない。

 ……それにしても。この島は日差しが強いのぅ。海の真上なんじゃから仕方ないとは思うんじゃが、どうにもこの暑さは苦手じゃ。何でこの時代の夏は、やたらと気温が高いのか。儂、暑いのは苦手なんじゃ。ううむ、着物にしたのは間違いじゃったか? 昨日の格好の方がまだ涼しかったような気がするが……。いやでも、今日は着物を着たかったんじゃ。洋服よりは落ち着けるからのぅ。

 

「どこか涼しいところで、甘いものでも食べませんか? お昼もまだですし、円花ちゃんは暑さに弱々なのです」

「……うむ。そうしよう」

 

 いかん、暑さで気怠くなってきた。昨夜の疲れが残っているのも有るが、どうにもこの暑さに慣れない。夏は嫌いじゃ。冬も苦手じゃ。過ごすなら、春と秋が良い。

 いっそ、血液の温度を下げてしまうか? いや、そんな真似をしたら体が冷えきって動けなくなってしまう。真夏に凍えるなんて真似はしたくないのぅ。それはそれとして……。

 

「ん!」

 

 右手を被身子に差し出す。暑いことには変わり無いし、手を繋いでもお互いの体温が鬱陶しいだけかもしれん。でも、手は繋いでいたい。逢瀬(でえと)じゃから、と言うのもあるが……こう、こやつと何処かに出歩く時は手を繋いでいないと落ち着かなくなってしまったと言うか。何と言うか。

 

「ふふっ。はい」

 

 手を繋ぐと、当たり前のように指を絡められた。こうされるのは嫌いじゃない。が、お主……今なんで幼子を見るような目で儂を見た? にやけ笑いをしおって。何のつもりじゃ貴様。ぽんこつ扱いしたら許さぬぞ?

 

「円花ちゃん、昨日からとっても甘えんぼなのです。そんなにイチャイチャしたいんですかぁ?「……は? 違うが……?」

 

 なに勝手な事を言っとるんじゃこやつ。にやけ面で儂を煽るな。喧嘩なら買うぞ? よぅし、たまには喧嘩するか。今日と言う今日は儂が勝つ。思い知らせてくれるわっ、このたわけ!

 

 で、この後。別に甘えん坊ではないと説き伏せようとしたんじゃが……駄目じゃった。途中で抱擁(はぐ)接吻(きす)して不敵に微笑むのは狡いじゃろ。そんなの勝てぬわ。ぐぬぬっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 涼しい。とても涼しい。暑さから逃れる為に、儂等は喫茶店に入り込んだ。まだ昼食を摂っていないから、ついでに食事を済ませることにしよう。夏は嫌いじゃ。何であんなに暑くなってしまうのか。これが地球温暖化とやらの影響か? 平安時代も暑かったが、外に出るのが嫌になる程暑くなかったと思うんじゃけどなぁ。

 この時代の夏はどうにも暑いが、幸いなのは文明の利器が有るということ。冷房は偉大じゃ。外がどんなに暑くとも、室内では快適に過ごせる。もういっそ、外も冷房で冷やしてしまえば良いのでは? ほら、全ての建物が冷房を全開にして窓を開ければもしかしたら外も涼しく……。いや、まぁ……無理か。気温を意図的に下げられるなら、地球温暖化など問題になっとらん。阿呆な事を考えていないで、昼食をどうするか考えよう。

 

 店員に案内されて腰掛けた机の上には、そこそこ大きな献立表(めにゅう)がある。一面(ぺえじ)を捲ってみると、品数はやたらと豊富じゃ。豊富なんじゃけど……正直、あまり嬉しくはない。じゃって、どうせ儂の舌には被身子の手料理か母の手料理しか合わんし。どうにも外食は楽しくない。好きな料理が有っても、好きな味じゃないのは精神的に堪える。

 

 まっこと、儂は被身子に胃袋を掴まれているのぅ。それを悪いとは言わん。何なら少し、嬉しいと思っている……気がする。気がするだけじゃ。

 

 大して(そそのか)されない献立表(めにゅう)を片手に、何となく被身子を盗み見る。この席に着いてから……いや、着く前から、こやつは楽しそうじゃ。喜んでいると言っても良い。逢瀬(でえと)じゃからのぅ。儂だって、この時間を嬉しく思う。

 

「何にするか、決まりました?」

「決まらん。どれも美味そうには見えなくての……。食指が動かんのじゃ」

「んふふ。円花ちゃんの胃袋はがっちりトガが掴んでますから。もうそこらのお店じゃ満足出来ない体にしちゃったのです」

 

 舌先を出して笑うのは止さぬか、はしたない。

 得意顔をするのは構わんが、お主はもう少し慎みと言うものをじゃな……。そんなじゃから儂が苦労するんじゃぞ? その辺り、もう少し理解してから振り回して欲しいのぅ。

 

「私が選んであげるのです。円花ちゃんでも美味しく食べれそうなもの」

「任せた」

「実はひとつ、お店に入る前からこれって決めてるのが有るんですけど……」

「そうなのか?」

「はい。でも、それって炭酸ジュースなんですよね……」

「……」

 

 炭酸、炭酸水か……。あの口の中で弾けるやつじゃ。飲み物の中では、珈琲の次くらいには飲みたくない。一番飲みたくないのは牛乳じゃけど。炭酸は、初めて飲んだ時以来飲まぬようにしている。口の中で水が弾ける感覚が嫌いでの。飲み込むと胃の中に空気が溜まる感じも好きじゃない。

 ううむ。しかし被身子が気にしているようじゃ。まぁ飲み進められなければ、こやつに飲んで貰えば良いか。

 

「まぁ、良いぞ?」

「ほんとですかっ!?」

(まこと)じゃ。頼んだら良い」

 

 何で炭酸なんかが気になったのか分からぬが、そんな風に嬉しそうに笑ってくれるなら、たまには炭酸を飲むのも悪くない。牛乳や珈琲を飲まされるより、辛うじて炭酸水の方が良い。と、思う。多分じゃけど。

 

「すみませーん! このカップル限定のドリンクをひとつ!」

 

 ……何て? おい被身子、何て言った?

 

 いや、まぁ……。儂とお主は(つがい)じゃけど。じゃからってそんな大声で注文をするな。と言うか、(かっぷる)限定の飲み物って何じゃ。何でこの喫茶店は、そんな物が献立表(めにゅう)に載ってるんじゃ??

 どうも、嫌な予感がするのぅ。しまった、炭酸を頼んでも良いなんて言うべきではなかった。儂は今、大切な選択肢を間違えた気がする……!

 

 

 

 

 

 で、この後。儂と被身子の前に配膳されたのはやけに大きな(ぐらす)に注がれた、炭酸飲料(じゅうす)じゃった。緑色の液体にあいすくりいむが浮いていたり、底の方には白玉が沈んでいたりと見た目が派手じゃ。果実なんかも飾ってあるしのぅ。それで、何でこの飲み物は捻曲がった透明管(すとろお)が二本も刺してあるんじゃ? 何でそれが、はあとを描いているんじゃ?

 

 これを二人で飲めと? 顔を突き合わせながら飲めと?

 

 えぇ……? 何でそんな奇っ怪な飲み物が存在しているんじゃ……。

 

 ちなみに、味は悪くなかった。あいすくりいむと白玉は美味かった。でも、緑の炭酸は美味くなかった。変に甘ったるいし、そもそも炭酸じゃしの。

 

 でも、被身子が楽しそうにしているから良しとしよう。お主が笑顔なら、儂は何だって良いんじゃからな。

 

 

 

 

 

 








思い付きで円花の嫌いな飲み物に炭酸ジュースが追加されました。可愛いね。

三人称による補完は要りますか?

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