待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
たまには甘味で昼食を済ませるのも悪くない。やけに大きな
儂と被身子で食べ切るには、中々苦しいものがあった。危うく残してしまうところじゃった。ぱんけえきも炭酸も、当分は口に入れたくないのぅ。
涼みながら甘味で腹を膨らませた後。少し休憩を挟んで、儂と被身子は支払いを済ませ喫茶店を出た。
さて、次は何処に行こうかの。折角の
じゃけど。じゃけどこの暑さはなぁ。また何処かの店に入るか? いやしかし、昨日と同じような流れになるのは勿体無い気がする。
「たまにはゲームセンターとか、行ってみます?」
「げえむせんたあ?」
何じゃそれ。ああ、確か小銭で遊べる場所じゃったか? 何度か見掛けた事は有るが、入ってみたことは無い。常闇が学校帰りに通っていた時期が有った気がするが、儂は下校中の寄り道などあまりしたことが無いからの。じゃって、登下校は常に被身子と一緒で家と学校の往復ばかりじゃったし。たまに食材の買い足しに連れ回されるぐらいで……。
うむ、じゃあ行ってみることにするか。げえむせんたあ、とやら。多少興味が湧いてきた。暑い中で散歩するよりは、快適かもしれんしの。
「円花ちゃんって、割りと無趣味ですよね」
「……そうかの?」
「そうですよぉ。趣味らしい趣味って、縁側で日向ぼっこぐらいしかなくないですか?」
「いや、散歩が趣味じゃが? お主が一人で出歩かせてくれんから行かないだけで」
「ミラクルな迷子になるから、行かせられないのです」
「……いや、じゃって……何も考えずに歩くの……楽しい……」
そう。何も考えずに行きたい方向に歩くのは楽しいんじゃ。歩くことが好き、と言うのも有るとは思うが……とにかくいい加減に歩くことが好ましい。それで道に迷ったとしてもいつかは帰れるんじゃし、別に一人で散歩したって問題無いと思うんじゃけどなぁ。どうも、一人で出歩くことを許して貰えぬ。
「……そんなだから方向音痴なんですよ。円花ちゃんは考えながら歩きましょう」
「……」
考えながら、歩く……? いや、そんな真似をする輩は居ないと思うが。
「あ、でも。円花ちゃんにはちゃんとした趣味が一個あるのです」
「何を言う気じゃ貴様」
いかん。ろくでもない事を言おうとしている。そういう感じの笑みじゃこれは。次の瞬間には、とんでもない発言が飛び出してもおかしくない。嫌な予感しかせぬ。こうなったら被身子の口を塞ぐしかあるまい。少しでも変な事を言い出しそうじゃったら、即座に口を塞ごう。
ってこら、近寄るな。耳元で囁こうとするな。抱き寄せるなっ。然り気無く両手を握るな!
「私とえっちするの、趣味ですよね?」
「何を言っとるんじゃ貴様!!」
それを趣味に数えるのは違うじゃろっ!!
「じゃあ、チウチウされるのが趣味とか」
「だから何を言っとるんじゃ貴様っっ!!」
それも趣味に数えるのは違うじゃろっ!!
訳の分からん事ばかり宣うなっっ!!
「でも、好きですよね?」
……! き、貴様っ。さては儂に恥ずかしい事を言わせたいだけじゃな!? 言わせたいだけじゃろっ!! 分かるんじゃからな!!!
い、いい加減にしろ!! 被身子の阿呆!!
◆
まったく。調子に乗りおって。何だってお主は、隙有らば儂を辱しめようとするのか。幾ら
まっったく! まっこと、仕方のない奴じゃっ。相手が儂だから良いものの、儂じゃなかったらとっくに嫌われておるぞ。そんなじゃから友達がおらんのじゃ貴様はっ。もう少し自重と言うものを学べ。もう嫌いじゃ被身子なんか。拗ねたぞ、儂は拗ねたぞ。それはもう完璧に拗ねた!
儂が拗ねると面倒な事になると思い知れば良いんじゃ! 被身子のたわけ!
「ほら、拗ねてないで楽しみましょう? 拗ねてちゃ勿体無いのです」
「……」
少しは反省して欲しいのぅ。拗ねた素振りを見せても、嬉しそうに笑いおって。そんな風に笑われると、何で拗ねてるのか分からなくなる。
たまには手を焼かせてやろうかと思ったが、どうやら拗ねた程度じゃ被身子は苦労しないらしい。儂は被身子の扱いに苦労しているのに、こやつは儂の扱いに苦労しないのはどういう訳なんじゃ。
やはり、何でもかんでも許してやるのは間違いか? いやしかし、でもでもじゃって。結局のところ被身子の笑顔に勝るものは、そうそう無くて。じゃからこやつが笑っていると、まぁ良いかと思ってしまう。
ぐぬぬ。惚れた弱みは厄介じゃ。どうして儂はこんな悪女に恋などしてしまったのか。解せぬ……。
「まったく。被身子の阿呆」
「てへっ」
「貴様……」
はぁ。まったく。調子に乗りおって。まぁ良い、許してやろう。拗ねていては勿体無いのも事実じゃし。せっかくげえむせんたあとやらに来たんじゃから、楽しむことにしよう。
それで、ここは何をするところじゃ? げえむってあれじゃよな、何か男子が好きな遊び……じゃよな? よく分からんが、やれば分かるか。
「取り敢えず、何からやりましょうか? 気になるものとか有ります?」
「何からって……、よく分からんから任せる」
げえむせんたあには、初めて来た。
「じゃあまずは……プリクラとか?」
「ぷりくら?」
ぷりくら……? 何じゃそれ。訳の分からん英語……? を話すな。日本語で訳してくれ。
ぷりくら……ぷりくら……。……ああ、小学校の頃とか中学校の頃に、くらすの女子が持ってた小さな写真か。証明写真みたいなやつじゃ。こんなところにわざわざ来て、写真を撮るのか? 奇っ怪な遊びじゃのぅ。まるで意味不明じゃ。あんな写真を撮るのが遊びと言うのなら、証明写真を撮ることも遊びみたいなものか。この時代の子供の遊びは、どうにも分からん。
「ここに立ってください。で、カメラをよく見ましょう」
人やら機械やら並んだ狭い通路を連れ回され、被身子に連れ込まれたのは幕で遮られた機械の中。雄英を受験する際、証明写真を撮った時の事を思い出すの。あの時は、まぁまぁ大変じゃった。三回ぐらい被身子に撮り直しをさせられたんじゃ。何でも、写りが良くないとか何とかで。儂からすればどれも良く写っているような見えたんじゃが、こやつ曰くどうせなら一番可愛く撮れてるのが云々。
後になって、証明写真とはそのようなものではないと思うことになった。証明写真に可愛さなど要らん。今にして思えば、あの苦労は何だったんじゃ……。
「はいじゃあ円花ちゃん、カァイイポーズ! 表情も!」
「は?」
かぁいい、
なら、
で、可愛い
いや、分からん。何も分からん。むしろ分かりたくない。
なんて考えていたら、
「もぅ、せめて笑顔になって欲しいのです。撮り直しますね?」
どうやら、被身子としては気に入らない出来らしいの。良く撮れてるとは思うが……、いやよく見ると変じゃ。儂はこんなに目が大きくないし、肌は輝いておらん。何じゃこれ、壊れてるのか?
「これ、変じゃないか?」
「まぁ補正とか色々入ってますし。プリクラなんてそんなものですよ?」
「……ううむ……。被身子、すまほ」
「……? はい」
「ん。かめら」
どうも、納得がいかん。儂が好きな被身子の笑顔は、こんな変なものではない。なので
「ほれ被身子、笑え」
「え? ……えっと、こうですか……?」
「いや、そうじゃなくて。あれじゃ、儂の血を吸う時のやつ」
「……。もぅ、急になんですかぁ……」
うむ、それじゃそれ。その笑顔が一番じゃ。役に立たんのぅ、ぷりくらとやら。
「撮影」
かしゃり。と、そんな感じの音が鳴った。撮影した被身子の顔は、儂が大好きな笑顔じゃ。人前では中々見せることのない、
うむ、やはりこやつはこうでないと。気が付けば、この笑顔が好きになっていた。最初はどうかと思っていたのに、今はこの笑顔じゃないと落ち着かないと言うか何と言うか……。
我ながら毒されていると思うが、こればっかりは仕方ない。いつの間にか好きになっていたんじゃから、仕方ないのぅ。
「お主はこうでないとな」
「ん、ふふっ。そう言ってくれて、嬉しいのです」
「言っておくが、人には見せるなよ。その笑顔は儂だけのものじゃ」
「分かってますよぉ。円花ちゃんにだけ、見せるのです」
分かっているなら、良い。この笑顔は儂のものじゃ。儂だけの笑顔じゃ。他の誰にも、見せてやるつもりはない。
「ん!」
両腕を広げる。直ぐに意図が伝わって、被身子は笑顔のまま儂に抱き付いて来た。じゃから、抱き締め返してやる。すると嬉しそうに吐息を漏らして、首筋に唇を重ねて来た。
「ちゅっ……。ん、もぅ……そんなに甘やかされると……我慢できなくなっちゃうのです」
「甘やかしとるからな。ほら、もっと」
「……! もぅっ、大好きですっ」
知っとる。いちいち言わなくても、分かってる。儂だって、そうじゃし。被身子の事が好きで、大好きで。じゃから、こうして独占する。笑顔も甘えも、何もかも。
前言撤回じゃ、ぷりくらとやら。こうして被身子を甘えさせることが出来るのなら、存外悪くない。まぁ、写真の腕はいまいちじゃけどなっ!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ