待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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逢瀬の時間。ぷりくら

 

 

 

 

 

 

 

 たまには甘味で昼食を済ませるのも悪くない。やけに大きな(ぐらす)に注がれた炭酸飲料(じゅうす)をやっつけるのは大変じゃったけど、追加注文したぱんけえきと合わせて何とか飲み進めた。ぱんけえきの味は、何とも言えん。不味くはないんじゃけど、美味くもない。普通と言うか、微妙と言うか。結局は被身子が作ったおやつの方が儂は美味く思ってしまう。それとひとつ、文句がある。炭酸飲料(じゅうす)と言いぱんけえきと言い、何で無駄に量が多いんじゃ。

 儂と被身子で食べ切るには、中々苦しいものがあった。危うく残してしまうところじゃった。ぱんけえきも炭酸も、当分は口に入れたくないのぅ。

 

 涼みながら甘味で腹を膨らませた後。少し休憩を挟んで、儂と被身子は支払いを済ませ喫茶店を出た。

 さて、次は何処に行こうかの。折角の逢瀬(でえと)なのに、特に予定を決めていない。と言うより、決められん。儂、この島の事は全然知らんし。逢瀬(でえと)の予定については、被身子に決めて貰っていたぐらいじゃ。特に宛もなく散歩するのも良いが、外は暑い。見知らぬ街中を歩くことは結構楽しく思うし、儂の数少ない趣味のひとつと言っても良い。

 じゃけど。じゃけどこの暑さはなぁ。また何処かの店に入るか? いやしかし、昨日と同じような流れになるのは勿体無い気がする。

 

「たまにはゲームセンターとか、行ってみます?」

「げえむせんたあ?」

 

 何じゃそれ。ああ、確か小銭で遊べる場所じゃったか? 何度か見掛けた事は有るが、入ってみたことは無い。常闇が学校帰りに通っていた時期が有った気がするが、儂は下校中の寄り道などあまりしたことが無いからの。じゃって、登下校は常に被身子と一緒で家と学校の往復ばかりじゃったし。たまに食材の買い足しに連れ回されるぐらいで……。

 うむ、じゃあ行ってみることにするか。げえむせんたあ、とやら。多少興味が湧いてきた。暑い中で散歩するよりは、快適かもしれんしの。

 

「円花ちゃんって、割りと無趣味ですよね」

「……そうかの?」

「そうですよぉ。趣味らしい趣味って、縁側で日向ぼっこぐらいしかなくないですか?」

「いや、散歩が趣味じゃが? お主が一人で出歩かせてくれんから行かないだけで」

「ミラクルな迷子になるから、行かせられないのです」

「……いや、じゃって……何も考えずに歩くの……楽しい……」

 

 そう。何も考えずに行きたい方向に歩くのは楽しいんじゃ。歩くことが好き、と言うのも有るとは思うが……とにかくいい加減に歩くことが好ましい。それで道に迷ったとしてもいつかは帰れるんじゃし、別に一人で散歩したって問題無いと思うんじゃけどなぁ。どうも、一人で出歩くことを許して貰えぬ。

 

「……そんなだから方向音痴なんですよ。円花ちゃんは考えながら歩きましょう」

「……」

 

 考えながら、歩く……? いや、そんな真似をする輩は居ないと思うが。

 

「あ、でも。円花ちゃんにはちゃんとした趣味が一個あるのです」

「何を言う気じゃ貴様」

 

 いかん。ろくでもない事を言おうとしている。そういう感じの笑みじゃこれは。次の瞬間には、とんでもない発言が飛び出してもおかしくない。嫌な予感しかせぬ。こうなったら被身子の口を塞ぐしかあるまい。少しでも変な事を言い出しそうじゃったら、即座に口を塞ごう。

 ってこら、近寄るな。耳元で囁こうとするな。抱き寄せるなっ。然り気無く両手を握るな!

 

「私とえっちするの、趣味ですよね?」

「何を言っとるんじゃ貴様!!」

 

 それを趣味に数えるのは違うじゃろっ!!

 

「じゃあ、チウチウされるのが趣味とか」

「だから何を言っとるんじゃ貴様っっ!!」

 

 それも趣味に数えるのは違うじゃろっ!!

 訳の分からん事ばかり宣うなっっ!!

 

「でも、好きですよね?」

 

 ……! き、貴様っ。さては儂に恥ずかしい事を言わせたいだけじゃな!? 言わせたいだけじゃろっ!! 分かるんじゃからな!!!

 

 い、いい加減にしろ!! 被身子の阿呆!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まったく。調子に乗りおって。何だってお主は、隙有らば儂を辱しめようとするのか。幾ら逢瀬(でえと)の最中でも、やって良い事と悪い事が有ると思うんじゃが?

 まっったく! まっこと、仕方のない奴じゃっ。相手が儂だから良いものの、儂じゃなかったらとっくに嫌われておるぞ。そんなじゃから友達がおらんのじゃ貴様はっ。もう少し自重と言うものを学べ。もう嫌いじゃ被身子なんか。拗ねたぞ、儂は拗ねたぞ。それはもう完璧に拗ねた!

 儂が拗ねると面倒な事になると思い知れば良いんじゃ! 被身子のたわけ!

 

「ほら、拗ねてないで楽しみましょう? 拗ねてちゃ勿体無いのです」

「……」

 

 少しは反省して欲しいのぅ。拗ねた素振りを見せても、嬉しそうに笑いおって。そんな風に笑われると、何で拗ねてるのか分からなくなる。

 たまには手を焼かせてやろうかと思ったが、どうやら拗ねた程度じゃ被身子は苦労しないらしい。儂は被身子の扱いに苦労しているのに、こやつは儂の扱いに苦労しないのはどういう訳なんじゃ。

 やはり、何でもかんでも許してやるのは間違いか? いやしかし、でもでもじゃって。結局のところ被身子の笑顔に勝るものは、そうそう無くて。じゃからこやつが笑っていると、まぁ良いかと思ってしまう。

 

 ぐぬぬ。惚れた弱みは厄介じゃ。どうして儂はこんな悪女に恋などしてしまったのか。解せぬ……。

 

「まったく。被身子の阿呆」

「てへっ」

「貴様……」

 

 はぁ。まったく。調子に乗りおって。まぁ良い、許してやろう。拗ねていては勿体無いのも事実じゃし。せっかくげえむせんたあとやらに来たんじゃから、楽しむことにしよう。

 それで、ここは何をするところじゃ? げえむってあれじゃよな、何か男子が好きな遊び……じゃよな? よく分からんが、やれば分かるか。

 

「取り敢えず、何からやりましょうか? 気になるものとか有ります?」

「何からって……、よく分からんから任せる」

 

 げえむせんたあには、初めて来た。(まこと)にこのような場所に来たことがない。入店してみて分かったかとは、何かと騒々しいことぐらいか。ところ狭しと並んべられた、よく分からない機械の前に誰も彼もが立って、何かしておる。何してるんじゃあれは? 硝子箱の中のぬいぐるみを……、……?

 

「じゃあまずは……プリクラとか?」

「ぷりくら?」

 

 ぷりくら……? 何じゃそれ。訳の分からん英語……? を話すな。日本語で訳してくれ。

 ぷりくら……ぷりくら……。……ああ、小学校の頃とか中学校の頃に、くらすの女子が持ってた小さな写真か。証明写真みたいなやつじゃ。こんなところにわざわざ来て、写真を撮るのか? 奇っ怪な遊びじゃのぅ。まるで意味不明じゃ。あんな写真を撮るのが遊びと言うのなら、証明写真を撮ることも遊びみたいなものか。この時代の子供の遊びは、どうにも分からん。

 

「ここに立ってください。で、カメラをよく見ましょう」

 

 人やら機械やら並んだ狭い通路を連れ回され、被身子に連れ込まれたのは幕で遮られた機械の中。雄英を受験する際、証明写真を撮った時の事を思い出すの。あの時は、まぁまぁ大変じゃった。三回ぐらい被身子に撮り直しをさせられたんじゃ。何でも、写りが良くないとか何とかで。儂からすればどれも良く写っているような見えたんじゃが、こやつ曰くどうせなら一番可愛く撮れてるのが云々。

 後になって、証明写真とはそのようなものではないと思うことになった。証明写真に可愛さなど要らん。今にして思えば、あの苦労は何だったんじゃ……。

 

「はいじゃあ円花ちゃん、カァイイポーズ! 表情も!」

「は?」

 

 かぁいい、姿勢(ぽおず)……? いや、写真を撮るのにそんな必要は無かろう。ぷりくらは、証明写真みたいなものなんじゃろ?

 なら、姿勢(ぽおず)する必要は何処に無い。写映機(かめら)の前に立つなり被身子は調子付いて、儂に抱き付いてくるし。これ以上調子付かれたら手に負えん。どうにかしたいところじゃけど、どうにもならん気がするのぅ。仕方ない、付き合うとするか。

 

 で、可愛い姿勢(ぽおず)とは何じゃ? 儂にどうしろと……?

 

 いや、分からん。何も分からん。むしろ分かりたくない。

 

 なんて考えていたら、写映機(かめら)の音がした。目の前の画面に映されたのは、仏頂面の儂と笑顔の被身子なんじゃが……。

 

「もぅ、せめて笑顔になって欲しいのです。撮り直しますね?」

 どうやら、被身子としては気に入らない出来らしいの。良く撮れてるとは思うが……、いやよく見ると変じゃ。儂はこんなに目が大きくないし、肌は輝いておらん。何じゃこれ、壊れてるのか?

 

「これ、変じゃないか?」

「まぁ補正とか色々入ってますし。プリクラなんてそんなものですよ?」

「……ううむ……。被身子、すまほ」

「……? はい」

「ん。かめら」

 

 どうも、納得がいかん。儂が好きな被身子の笑顔は、こんな変なものではない。なので携帯電話(すまほ)を使って、撮影してみるとする。電話も出来て写真も撮れると考えると、携帯電話(すまほ)とは多機能で便利なものじゃ。ろくに使わんけど。じゃって連絡を取りたい相手など、母か父ぐらいのものじゃし。

 

「ほれ被身子、笑え」

「え? ……えっと、こうですか……?」

「いや、そうじゃなくて。あれじゃ、儂の血を吸う時のやつ」

「……。もぅ、急になんですかぁ……」

 

 うむ、それじゃそれ。その笑顔が一番じゃ。役に立たんのぅ、ぷりくらとやら。

 

「撮影」

 

 かしゃり。と、そんな感じの音が鳴った。撮影した被身子の顔は、儂が大好きな笑顔じゃ。人前では中々見せることのない、(まこと)の笑顔。

 うむ、やはりこやつはこうでないと。気が付けば、この笑顔が好きになっていた。最初はどうかと思っていたのに、今はこの笑顔じゃないと落ち着かないと言うか何と言うか……。

 我ながら毒されていると思うが、こればっかりは仕方ない。いつの間にか好きになっていたんじゃから、仕方ないのぅ。

 

「お主はこうでないとな」

「ん、ふふっ。そう言ってくれて、嬉しいのです」

「言っておくが、人には見せるなよ。その笑顔は儂だけのものじゃ」

「分かってますよぉ。円花ちゃんにだけ、見せるのです」

 

 分かっているなら、良い。この笑顔は儂のものじゃ。儂だけの笑顔じゃ。他の誰にも、見せてやるつもりはない。

 

「ん!」

 

 両腕を広げる。直ぐに意図が伝わって、被身子は笑顔のまま儂に抱き付いて来た。じゃから、抱き締め返してやる。すると嬉しそうに吐息を漏らして、首筋に唇を重ねて来た。

 

「ちゅっ……。ん、もぅ……そんなに甘やかされると……我慢できなくなっちゃうのです」

「甘やかしとるからな。ほら、もっと」

「……! もぅっ、大好きですっ」

 

 知っとる。いちいち言わなくても、分かってる。儂だって、そうじゃし。被身子の事が好きで、大好きで。じゃから、こうして独占する。笑顔も甘えも、何もかも。

 前言撤回じゃ、ぷりくらとやら。こうして被身子を甘えさせることが出来るのなら、存外悪くない。まぁ、写真の腕はいまいちじゃけどなっ!

 

 

 

 

 

 









三人称による補完は要りますか?

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