待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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逢瀬の時間。砂浜と写真

 

 

 

 

 

 人が居ない場所など、そうそう見当たるものではない。特にこの人工島は、あい・えきすぽとやらで人が集まっている。もっとも、昨日の事件によって開催延期になっているんじゃけど。

 ただ、それでも人は居る。元々この島に住んでいる者だったり、今日開催される筈だった催し事の為に入国した者だったり。つまりじゃ、完全に被身子と二人きりになれる場所など外に居る限りは見当たらない。残念な事じゃが、こればっかりは仕方ないことじゃ。

 とは言え変に人目を寄せたくはないし、なるべく人が居なさそうな方向に何も考えず歩いた訳じゃ。被身子の手を引っ張りながら、適当に。

 そうして儂等が辿り着いたのは、海じゃ。今が夏であること、あい・えきすぽが開催延期になったこと。この二つが重なって、壁に囲まれた海には人が大勢居る。幸いなのは、誰も彼もが遊ぶことに夢中で他人など気にしていないと言うこと。木を隠すなら、何とやらじゃ。この際、海辺を散歩することにする。気温は高いままじゃけど、多少の潮風があるからまだ涼しい。と、思うことにする。

 

 砂浜は、少し歩きにくい。波の音と人々の喧騒が合わさって、少し喧しい。それでもまぁ、存外悪くない。思い返してみれば、こんな風に被身子と砂浜を歩くのは……いつ以来じゃ? 確か小学生の頃に一度……。まぁ、今は過去はどうでも良い。逢瀬(でえと)の真っ最中なんじゃから、昔を振り返るより今この瞬間を大事にしたい。するべきじゃ。でなければ、こやつに失礼じゃし。

 

「んん……。水着、持ってくるべきでした」

 

 手を繋いだまま、何となく砂浜を歩いていると被身子が顔をしかめた。海水浴をしている輩を見て、少し羨ましそうにしている。今朝、儂が寝坊なんてしなければ現地で水着を買って海水浴が出来たかもしれんの。そう考えると、やはり今朝の寝坊は手痛い失敗じゃった。逢瀬(でえと)前日の晩に肌を重ねるのは良くないのぅ。

 まぁ、昨夜のは仕方ないとも思うが。じゃってほら、途中色々あったが逢瀬(でえと)した後じゃったし。気分が良くなって求めあってしまうのは、不可抗力みたいなものじゃ。結果大いに盛り上がったんじゃから……まぁ……。ううむ、思い出すと顔が熱くなる。

 

「そうか? 儂は嫌じゃぞ」

「泳ぐの嫌いでしたっけ?」

「いや。じゃってほら、海水浴と言えば水着じゃろ?」

「はい。そうなのです」

「……じゃからほら、嫌じゃ」

「水着、嫌いでしたっけ?」

 

 いや、そうではないんじゃけど。上手く伝わらんのぅ。直接伝えるのは気恥ずかしいから、そこは察してくれ。何で今だけ察しが悪いんじゃ貴様。

 つい被身子の顔を睨むと、目が合った。少し汗が滲んでいるが、疲れてはなさそうじゃ。物足りなさそうにしてはいるが、楽しんでくれていると思いたい。

 

「……あ、もしかして……」

 

 おい、そんな悪どい笑みを浮かべるな。思いっきり嬉しそうにしおって。察したなら口には出すなよ。出すんじゃない。頼むから胸の内に留めておいてくれ。余計に気恥ずかしくなってしまう。

 

「えへへ……。それ、言ってくれるともっと嬉しいのです」

「言いたくない」

「言ってくださいよぉ。別に怒ったりしませんから」

「言わんぞ。分かってるなら言わせようとするな」

「もぅっ。円花ちゃんは意気地無しです! そんなだからトガは言わせたくなっちゃうんですよ?」

「言 わ ぬ か ら な ?」

 

 少し強引に肩を抱き寄せても、絶対に言わん。言ったら絶対こやつは調子に乗るし、そうなったらもう止められん。別に今は外で接吻(きす)しても良いが、これだけ人が居る中でするのは少しだけ抵抗がある。何より、もう変に目立ちたくないんじゃ。せっかくの逢瀬(でえと)なんじゃから、誰も気にしたくない。

 

「じゃあ今度、円花ちゃんだけに見せてあげますね。私のぉ、水着姿」

「合宿が終わったら、海でも行くか?」

「それじゃ他の人に見られちゃいますよ?」

「……」

 

 ……。……、それは困る。ううむ、別に何でもかんでも独占したいわけじゃ無いんじゃけど。何かこう、こやつの肌を人に見せるのは嫌というか、何と言うか……。

 

「円花ちゃんのえっち。私を独占して、どうするつもりですかぁ?」

「ぅ、うるさい。被身子の阿呆。せくはらするな」

「してませんよ? ただの質問なのです」

 

 貴様っ。また調子に乗りおってっ! 何でいつもいつもそうやって儂を振り回そうとするんじゃっ。よぅし分かった、やられっぱなしなのは癪じゃ。儂がいつまでもいつまでも好き勝手にされると思うな。儂がその気になったら被身子なんてどうとでも出来るんじゃからなっ。今に見ておれ!

 

 たまには! 貴様も! 恥ずかしくなってしまえ!!

 

「ま、円花ちゃん?」

「うるさい。少し黙れ」

 

 被身子の首に両腕を回す。少し屈ませて、少し背伸びする。そうすると、こやつの顔が直ぐ目の前に来る。あと僅かでも動けば、お互いの唇が触れ合いそうな距離じゃ。しばし目を見詰めてやると、……何じゃ貴様。少しは慌てんか。何で嬉しそうにして……。

 

「ん……っ、こら、ひみっ、んん……」

 

 待て。おい待て。接吻(きす)するな。背中に腕を回して抱き締めるな。

 

「んんっ、ひみこ……! ん、ちゅっ。ま、待て……! んっ」

 

 おいっ。何で儂が接吻(きす)されなければならないんじゃっ。そもそも! 儂の方からするつもりだったんじゃが!?

 

「んふふっ。積極的な円花ちゃんも、カァイイのです」

 

 じゃから! 儂がするんじゃ儂が! 少し大人しくせんか貴様! そんな風に接吻(きす)するなっ、被身子の阿呆!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰か被身子に勝つ方法を教えてくれ。絶対に勝てぬと分かっていても、じゃからって負け続けるのは癪なんじゃ。いつか儂が主導権を握ってやる。この阿呆を盛大に振り回して、辱しめてやりたい。少し反省しろ。許さぬ、まっこと許さぬ。被身子の阿呆。たわけ、へんたいっ。外で好き勝手に接吻(きす)しおって。唇まではまだ許してやるが、舌を絡めるのはやり過ぎじゃ。お陰でその気になってしまうところじゃった。

 ああもう。顔が熱い。流石に人前でああも激しい口付けをされるのは、気恥ずかしいどころの話じゃない。

 

 ぐぬぬ、被身子なんか被身子なんか! 許さんからな!? 絶っっ対に、許さんからなっ!!?

 

「流石に、ちょっと恥ずかしかったですね。途中から見られてましたし」

「そう思うなら止めんか貴様。長々としおって……!」

 

 人目を集めたくないと言うのに、結局儂等は人目を集めてしまった。逃げるように砂浜を後にして、今は橋の上を歩いているが……まだ顔が熱い。これは、しばらく落ち着けんかもしれん。また被身子が調子に乗りそうじゃからどこかで頭を冷やしたいところじゃが、こやつと逢瀬(でえと)し続けている限りは無理かもしれぬ。

 これ以上の接吻(きす)は避けるべきかもしれんの。流石にこれ以上は、色々と始まってしまうのではないかと思わないでもない。流石に外でするような趣味は無いんじゃ。

 

「ね、円花ちゃん。大好きです」

「急になんじゃ? 気恥ずかしいからいちいち言うな」

「んふふっ。照れちゃってカァイイのです」

 

 また調子に乗っておる。どうすることも出来ぬから、こうなったら放っておくしかない。しかしあまり好き勝手させていると、どうなるか分かったものじゃない。やはりどうにかせねばなるまい。……どうやって?

 

「そうだ、写真撮りませんか?」

「今度は何じゃ? 写真ならさっき……。それにぷりくらも撮ったじゃろ」

「輪廻ちゃんとおじさんへの報告用です」

「やじゃ」

「まぁまぁそう言わずに。撮りましょう!」

 

 ……何じゃもう。逢瀬(でえと)していることを親に見せびらかすような趣味は無いんじゃが……。

 

「ほら、こっち来てください。撮りましょう、写真。たまにはおじさんに元気な姿を見せてあげないと、面倒くさいですよ?」

「分かった分かった。手を引っ張るな」

「やったー!」

 

 ううむ。何で写真程度でそこまで喜べるのか。たまにこやつが分からん。いや、分かることの方が珍しい気がするが。まっこと、したい事には一直線じゃよお主は。いつもいつもそうやって自由に動きおって。そんなだから儂が大変なんじゃぞ? その辺り分かって……なくとも良いか。

 結局、こやつに振り回されること自体……幸せみたいなものじゃし。

 

 肩を抱き寄せられる。被身子は片手で携帯電話(すまほ)を掲げて、笑う。

 

「ほら、円花ちゃんも笑って笑って」

「……まったく。お主と来たら……」

 

 

 まっこと、仕方のない奴じゃ。

 そしてこんな悪女が愛しくて仕方ない儂も、仕方ない奴じゃ。

 

 かしゃり。と、音がした。画面の中の儂等は笑っていて……。

 

 ああもう、(まこと)に。お主が愛しくて堪らんよ。責任取れ、被身子の阿呆。

 

 

 

 

 

 

 

 

 









という訳でツーショット撮って、デート編は終了とします。次回からは帰省編を予定しております。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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