待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
林間合宿が始まるのは三日後の話。それまでの間、雄英から帰省することを許された。とは言え、儂と被身子に警護は付いたままじゃ。当然、両親にも。まだ儂が
これは良くない。まっこと良くない。
このままだと、夏休みの間はずっと被身子としてしまうことになる。それはそれで悪くないと思ってしまうが、儂が手綱を握らないともっと大変な事になってしまう気がするんじゃ。
それに被身子は勉強しなければならないし、儂じゃって夏休みの宿題がある。やるべき事がまったく無いわけじゃないんじゃから、しっかりしなければ。
と、言うわけで。儂と被身子は実家に帰省することになった。もちろん被身子も、儂の実家に。そもそもこやつを渡我家に帰すつもりはない。帰す理由も無い。
「あはっ。何だか久しぶりなのです」
「うむ、久しぶりじゃ」
着替えと勉強用具を詰め込んだ大きな鞄を背負って、儂等は実に久しぶりに実家に帰って来た。儂と被身子は夏休みじゃけど、父も母も仕事がある。今は昼じゃし、家には誰も居ないじゃろう。家の鍵を使うのも、久しぶりじゃ。三ヶ月ぶりの実家は、特に何も変わっていないように思える。少なくとも外観は。中は知らん。ただ、嗅ぎ慣れた味噌汁の匂いがする。母が居るのか?
鍵を回し扉を開くと、まず目に入ったのは……何じゃこれ。何で玄関に横断幕が飾ってあるんじゃ。しかも大きく、文字が書いてある。何しとるんじゃ、儂の両親は。我が子を歓迎したい気持ちは分かるが、別にこんな真似をする必要は無いと思うんじゃが……。
まぁ良いか。深く考えないことにしよう。これはどうせ、父の目論見じゃ。ぽんこつじゃし。
「おかえり。円花、被身子ちゃん」
横断幕を前に頭を抱えていると、廊下の奥から父が姿を見せた。すうつ姿な上に、片手には缶びいるを持っておる。おい父、酒には弱いじゃろ。何で飲んでるんじゃ。後で母に怒られても儂は知らんぞ? あと、何で頭の上に眼鏡を? 分からん。父の目論見がさっぱり分からん。
まぁ、どうやら元気そうにやってるみたいじゃ。健康ならばひとまずは良しとする。母は台所に居るじゃろう。さっきから良い匂いが漂って来て、どうにも腹が減る。
「ただいま。久しぶりじゃのぅ」
「ただいまなのです、おじさん。これはおじさんが?」
「うん、そう。久しぶりに愛娘達が帰ってくるんだから、ぱーっとね。良い出来映えだろ? 夜なべして作ったんだ」
何しとるんじゃお主は。と言うか仕事は? 学生は夏休みでも、世間は平日じゃろ。大の大人が、平日の昼間から酒を飲むな。
「さ、入った入った。お昼まだだろ? お母さんが御馳走を用意してるから手を洗って来なさい」
「相分かった」
「はーい」
良い匂いで腹が減って来てはいるが、先に手洗いうがいを済ませることにする。これをやらんと父から拳骨が降ってきたり、母におやつを没収されてしまうんじゃ。下手をすると被身子に浴室まで拉致されるなんて事も……。どんな目に遭うのも嫌じゃから、帰宅したら手を洗ってうがいをする癖が付いてしまった。いや、付かされたと言うべきか。
靴を脱ぎ捨てて真っ直ぐ洗面所へ向かうと、何故か父が後ろから付いて来た。何事かと思い振り返ると、目を細めて儂や被身子を凝視しておる。目が悪いんじゃからちゃんと眼鏡を掛けろ、阿呆。何しとるんじゃ父よ。
「おじさん、どうかしました?」
「いや……久し振りに娘達に会えたのに、眼鏡が無くって。昨晩から見当たらないんだよ。おかしいなぁ。お陰で顔がよく見えなくて……困るなぁ……」
「それ、本気で言っとるのか?」
「えっ」
「おじさん、眼鏡は頭の上なのです」
「えっ!? あ、本当だ! いやぁありがとう。また失くしたのかと思ったよ。お母さんに怒られるところだった!」
「ぽんこつめ……」
「円花ちゃんのポンコツって、やっぱりおじさん譲りですよね……」
待て被身子、儂はぽんこつではない。こんな父と一緒にしないでくれ。侮蔑のつもりか? 喧嘩ならいつでも買うぞ? ん?? 後で覚えていろよ貴様。ごしごし、がらがらぺっ。
「まぁ、実際円花のポンコツはお父さん譲りよ。方向音痴なところもね」
「母??」
手洗いうがいを済ませるなり、母の声が聞こえた。振り返ってみれば、母まで洗面所に来ておる。
母の顔も、久しぶりに見た。相変わらず元気そうで安心した。それはそれとして、何で室内でも
「おかえり。ちょっと見ない間に指輪なんかしちゃって。結婚はまだ早いわよ円花」
「輪廻ちゃん! ただいまなのです!」
「被身子ちゃんもおかえり。円花はどう? ポンコツしてる?」
「してます。この間だって、道案内してるのに迷子になったんですよ?」
「お父さんもそうだったのよねぇ。目を離すと直ぐ迷子になって……。お陰で私、迷子探しの達人になっちゃった」
……。よし、少し放っておくとしよう。そうしよう。この会話に混ざってはならぬ気がする。混ざってしまったが最後、儂は盛大にぽんこつ扱いされるじゃろう。
それに、被身子じゃって儂の母と話したい筈だじゃからの。二人は仲良しじゃから、久しぶりの再会を楽しんで貰おう。じゃから儂は、静かにここを離れなければ。取り敢えず荷物を部屋において、先に
ってこら、被身子。抱き寄せるんじゃない。儂をこの場に留めるな。があるずとおくは苦手なんじゃっ。まぁ母が少女と言えるかは微妙じゃけど、少女と言うことにしておこう。もう三十歳後半の筈じゃが、面が良いからの。相変わらず実年齢と外見が一致していない。父は老け始めているのに、不思議なものじゃ。
「まぁまぁ、積もる話は食事の席でしようか。お父さんも学校での事は色々聞きたいし」
「そうね。じゃあご飯にしましょう。どうせ食べて来てないんでしょ?」
「えへへ……。今朝は寝坊しちゃったから、何も食べてなくて」
「夜更かしは程々にね。まぁ学生の二人暮らしなんて羽目が外れて当然だけど、学校にはちゃんと行きなさいよ」
これは助かっ……てはないか。があるずとおくの場が
「あ、そうそう円花。弟と妹だったらどっちが欲しい?」
「……は?」
「出来ちゃったのよね。多分だけど、双子」
は? いや、何を言っとるんじゃ母。出来ちゃった? そ、そうか……。
「輪廻ちゃん……! おめでたですか!?」
「そうなのよ。ね、お父さん」
「そうそう。お父さんとしては男の子でも女の子でも大歓迎なんだけど、円花的にはどう?」
いや、どうと聞かれても。儂はどちらでも構わんが。弟でも妹でも、扱いには慣れているからのぅ。そうか、家族が増えるのか。おめでたい事じゃ。廻道家の未来は安泰のようじゃ。少なくとも血は残るじゃろう。
ほら、儂と被身子は子を残せないじゃろうし……。
「……父よ、酒を飲んでる場合ではなくないか?」
「いや、実は妊娠が分かったの今朝の話で。円花も被身子ちゃんも帰ってくるし、今日はもう飲むしかないなって」
「駄目夫め。母を労らんか母を」
「今からそんなに心配してたら疲れちゃうわよ。お腹が膨らむまでは大丈夫だから」
「……まぁ、それなら良いが……」
しかしまぁ、驚かされた。まさかこの歳になって弟か妹が出来るとはの。母曰く双子らしいし。何の因果じゃ? 儂、前世でも弟と妹がおったぞ。しかも双子で。まさか……儂のような産まれ直しなんて事は無いよな? もしそうだとしたら……。
悪くはない。この両親の下に二人が産まれてくるなら、それは喜ばしい。廻道家は呪術師とは関係無いからの。今度こそ、幸せに生きていけるじゃろう。別に産まれ直して欲しいとは思わんが、産まれ直してしまったならその時はその時じゃ。
で、母よ。何で儂を見詰めるんじゃ? さては魂を読んどるな? おいこら、止さんか。見ようとするなっ。何一人で勝手に納得してるんじゃ!
「良かったですね円花ちゃん。家族が増えるのです」
「お主もな」
「……! はいっ!」
うぐっ。これこれ被身子。そんなに抱き付くな。流石に親の前では恥ずかしいんじゃ。まったく、何がそんなに嬉しいんじゃ貴様。少し落ち着かんか。仕方のない奴め。まぁ良い、笑顔だから許してやる。
仕方ないのぅ被身子は。ほれほれ、抱き締め返してやろう。
合宿の前に帰省編を挟みます。
まぁ今回の話はエピローグで書くことの前振りと、円花父の紹介でもあります。逆に帰省編が終わると廻道夫妻の出番は日本崩壊まで無い予定なので。やったね円花、かなり年下の弟妹が出来るよ!
円花父は真面目だけどポンコツ、ポンコツだけど真面目です。ちなみに方向音痴。でも克服済みです。あと名前は決まってるけど、漢字が決まってない可哀想な人です。良い感じの字が見付かればいつかお披露目するかもですね。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ