待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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実家に帰省。家族団欒

 

 

 

 

 

 母の料理は美味じゃった。お陰で大変満足することが出来た。慣れ親しんだ味が嬉しくて、つい食べ過ぎてしまったが。お陰で、椅子の上から動けん。満腹感のせいか、気が抜けて来た。まぁでも林間合宿が始まってしまえば、また当面母の料理を食べる機会は無い。今の内に思う存分堪能しておかなければ、後で恋しくなってしまう。

 被身子の料理も大好きじゃが、母の料理も大好きなんじゃ。どうして被身子も母も儂の味覚を事細かに知っているのか。お陰で外食が楽しめん。どうしても比べてしまう。

 

 まぁ、良いか。別に外食出来なくて困るようなことはそうそう無いじゃろうし。多分。

 

「むー、狡いです輪廻ちゃん。簡単に円花ちゃんを骨抜きにして」

「母だもの。娘の扱いなんて手慣れてて当然」

「貴様等……」

 

 隣に座る被身子が唐突に拗ねた。何でじゃ。こやつの対面に座る母は余裕そうに笑って、被身子を煽りおる。止さぬか、後で儂が大変なんじゃぞ。

 

「ははは。母さんの料理は絶品だからね。でも被身子ちゃんだって相当出来るでしょ?」

「それでも輪廻ちゃんには勝てないのです。むぅ……」

 

 いや、拗ねるような事ではないと思うんじゃが。母の料理も被身子の料理も、儂は等しく美味いと思っている。ただ今日は久しぶりじゃったから、つい沢山食べてしまっただけで。あと、別に骨抜きになどされとらん。満腹で動きたくないだけじゃ。それに実家なんじゃし、気が抜けてしまうのも仕方ない。お主じゃって、すっかり気が抜けて眠くなってるくせに。隠してたって分かっとるんじゃからな。さっきから目を擦ったり、ひっそり欠伸を噛み殺してるのを。

 

「あ、そうだ円花。新しい着物は気に入った?」

「……あぁ、うむ。あの高いやつな……」

 

 あれは血まみれになった。とは言い辛いのぅ。あい・あいらんどの騒動のせいで、すっかり汚れてしまった。今は近場の呉服屋に預けて、綺麗にして貰っている最中じゃ。流石に儂の血で真っ赤に染まったなんて事実を話したくはない。……が、どうせ魂を見られてるんじゃろうな。こうして考えてしまった時点で、母には筒抜けか。

 

「まぁその、色々あって少し汚してしまっての……。今、綺麗にして貰っておる」

「色々あって、汚した……? まさかお向かいの子じゃないだろうな……?」

 

 対面に座る父が、それはもう険しい顔をした。舎弟を思い浮かべてしまうのは分かるが、今回汚れてしまったのはあやつのせいではない。誰が悪いかと言えば……まぁ強いて言えば被身子じゃけど。自分の血で汚れたなんて言ったら、怪我をしたのではないかと心配されそうじゃ。

 

「あやつは関係無い。あい・あいらんどで一騒動あっての。それで汚れてしまったんじゃ」

「口止めされてるので、詳しくは話せないのです。でも無事に解決したから、見ての通り円花ちゃんも私も大丈夫ですよぉ」

 

 あい・あいらんどでの騒動については、その殆どが口止めされている。これはあの島の警備機構(しすてむ)が万全であると世間に示しておく為に、必要な事らしいの。それと儂等学生が関わってしまったことが公になれば、色々と問題になってしまう。儂等の将来を考えた上で、おおるまいと及びたまたま現場に居た英雄(ひいろお)が協力して解決したことになっておる。少なくとも表向きは。

 じゃからまぁ、詳しくは話せん。相手が親でも、じゃ。

 

「……そういう事ね。なら、不問にしましょ。ちゃんとヒーローしてるみたいだし、お母さん安心したわ」

 

 いや、母よ。英雄(ひいろお)活動など、儂はしていない。ただ単に子守りをしただけじゃ。そもそも英雄(ひいろお)になど儂はならん。ならんったらならんのじゃ。儂が雄英に通っているのは個性の自由使用の為じゃ。免許が欲しいだけなんじゃ。

 

「まぁ、そういう事なら仕方ないか……。後でクリーニング代を出すから、幾ら掛かったか教えて被身子ちゃん」

「ああえっと……後日レシートの写真を送るのです」

「ん。二人とも無事で何よりだ。怪我なんかはしてないね?」

「しとらん」

 

 しても直ぐ治る。儂の場合は、じゃけど。そもそも被身子は無傷じゃ。まぁ着物は血やら埃やらで汚れてしまったがの。

 

「ところで、その指輪は? どっちからプレゼントしたのかしら?」

「私からです」

「……円花、貴女は本当にヘタレね。甲斐性の無いままだと、嫌われるわよ?」

「でも輪廻ちゃん。円花ちゃんはワンピースをプレゼントしてくれたのです。指輪はそのお礼ですから」

「ふーーん? ほーー? 円花がねぇ……。へーー?」

 

 おい、なんじゃその目は。なんじゃその顔は。儂を馬鹿にしてるのか? 儂だって贈り物のひとつやふたつぐらいするが?

 だいたい、甲斐性が無いとはなんじゃ。今までじゃって、被身子に贈り物のひとつやふたつ……。……誕生日やばれんたいでえの贈り物を除くとふたつしかしとらんの。いかん、もっとするべきか? した方が良いのか?

 

「円花、もっと妻には感謝しないといけない。大事なら尚更だ」

「いやしてるが」

「愛の言葉のひとつも囁けないのに?」

 

 うるさい。たまには言ってるんじゃから、それで良いじゃろ。面と向かって口にするのは、まだ照れが残るが。

 愛してるなんて、儂は被身子のように簡単に口には出来ぬのじゃ。どうも気恥ずかしくて、言葉に詰まってしまう。

 

 じゃからほら、仕方ないんじゃ。仕方ない仕方ない……。……ううむ、顔が熱くなってきた。

 

「そうねぇ。どっかの誰かさんみたいになるのは良くないわねぇ」

「な、直したじゃないかっ。もう許しておくれよ……!」

「いいえ、死んでも許さないから」

「そ、そんな……!」

「なるほど……。円花ちゃんが意気地無しなのは、おじさんの遺伝……」

「いや、別に遺伝などしとらん」

 

 自前じゃ、自前。そもそも儂の性格や思想は、両親とは似ても似つかん。二人は善人で、何より今の儂の親。母も父も悲しませまいと殺人は視野に入れても行わないようにしているが、そもそも殺人を思い浮かべてしまう時点で儂は善人には程遠い。世の中、殺してしまった方が手っ取り早い人間も居るのを知っているからこそ、場合に依っては後先を考えずに殺すべきと思ってしまう。

 そんな事を考えてしまうのが儂じゃ。ほら、似ていない。かつての父が方向音痴じゃったのは意外じゃったし、愛を伝えられなかったのも驚いた。が、それはただの偶然じゃ。決して父から遺伝したわけじゃない。

 

 ……前世で経験が無かっただけじゃ。ここまで本気で人を愛したことなど、儂は被身子が初めてで……。

 

 ううむ、取り敢えず茶を飲もう。少し頭を冷やしたい。ここ最近は、直ぐに顔が熱くなるから困る。もしや熱中症か……? 夏は暑いからの。水分補給は欠かさないようにしなければ。

 

「おほん。ま、まぁとにかくっ。円花はもっと被身子ちゃんに愛を伝えるべきだ。お母さんもそう思うよなっ?」

「そうね。照れてないで、もっと伝えてあげなさい」

「もっと言ってあげてください。トガはまだまだ不満なのです」

「や、喧しいわ。何じゃもう、三人して……!」

 

 いかん、雲行きが怪しくなって来た。このままじゃと、両親の前で被身子に愛していると伝える羽目になってしまう。流石にそれは避けたい。人前でも親の前でも好意を伝えるなんて、ただただ気恥ずかしいだけじゃ。

 

 ど、どうにかして話題を逸らさなければ。取り敢えず茶でもすするか、そうしよう。

 

「ずず……。そ、そう言えば、子供の名前は決まっとるのか? それともまだ早いかのぅ……?」

「今お父さんと議論中。私は男の子なら頼人(よりひと)、女の子なら比奈(ひな)にしたいんだけど」

「んぐっ!? げほっ、ごほ……っ!」

「ちょっ、円花ちゃん!? 大丈夫ですか?」

 

 い、いかん。驚いて()せてしまった。お茶を口に含みながら聞くことではなかった。お陰で被身子に心配されてしまった。気を付けねば。いやしかし、今のは驚くなと言う方が無理じゃって。

 

「お父さんは男の子なら回成(かいせい)、女の子なら周子(しゅうこ)かなって思うんだけど、お母さんのとどっちが良いかな?」

「……ち、父の方が良いと思う……」

 

 と言うか、父の方にしてくれ。頼人と比奈は……前世での弟と妹の名じゃからな。まさか儂のように産まれ直すなんてことは無いよな……? 母が頼人と比奈と名付けたいと言い出したのは、ただの偶然じゃよな?

 そうであって欲しい。また弟妹に会いたくないわけじゃないが、もう終わった事じゃから。次は無いんじゃよ、次は。

 

「お、そう思う?」

「えー? 輪廻ちゃんの方が良くないですか?」

「やっぱりそうよねぇ。だって夢で円花がそう呼んでるのを見たんだもの」

「母、その夢は霊能に依るものか?」

 

 だとしたら、(まこと)に双子が産まれてくる上に結局名前は頼人と比奈になってしまいそうじゃ。正直、勘弁して欲しい。この歳になって出来た弟妹が前世と同じ名と言うのは……こう、変な気分になる。あの二人はもう居ないのに、名前だけ残ってものぅ……。

 

「そういう時もあるわよ? 予知夢なんて見ても何も楽しくないから、見ても忘れるようにしてるんだけど」

「ただの夢じゃよ。きっと」

「いやぁ、予知夢なんじゃないかな。円花の名前だって、予知夢で決めたんだし」

 

 そんな名付けの理由なんて聞きたくなかった……。いや、(まこと)に。何なんじゃ儂の親は。さては母までぽんこつなのか? 両親二人がぽんこつなのは止めて欲しい。儂まで被身子にぽんこつ扱いされるじゃろっ。

 

「じゃあここは公平に、じゃんけんで決めましょう。私と輪廻ちゃんチーム、円花ちゃんとおじさんチームで。恨みっこは無しですよ?」

「いや待て、名付けじゃぞ? そんな適当に決めて良いものでは……」

「よしやろう」

「そうね、勝った方の案を採用するということで」

「貴様等……!」

 

 駄目じゃこやつ等。何でそんないい加減に、これから産まれてくる子供達の名前を決めようとするんじゃ。名前は大事なんじゃぞ、名前は。

 

「じゃーんけーん……!」

 

 待て、始めるな。音頭を取るな被身子。まだ儂は同意しとらんが?

 何で母も父もその気になって拳を振りかざしているんじゃ。被身子に乗せられるなっ。ろくな事にならんのを知らんのか!?

 

 

「ぽん!!」

「ぽん!!」

「ぽん!!」

「……」

 

 ……。…………。

 

 敗けたわ。儂も父も、被身子と母に。

 

 何で儂等、二人して(ぐう)を出した? どちらかが(ちょき)を出してれば相子になったんじゃけど? おい父、勝つ気は有るのか?? おいったら。

 

「まぁ一回戦は敗けとして。二回戦を始めようか! 我が家の勝負は三回勝負だからね!」

 

 いや、そんな決まりは初耳じゃけど。

 父? いきなり敗けたからってそれは往生際が悪過ぎると思うんじゃが?

 

「受けて立ちましょう。次は……神経衰弱でどうかしら?」

 

 母、今その絵札(とらんぷ)を何処から取り出した? おい、儂の前で巨乳自慢か? 実の親でもそれは許さんぞ??

 あと、被身子がそっちに居るのに神経衰弱を選ぶのは狡じゃ狡。そんなの、儂等が勝てる筈が無い。父よ、分かってるな? 乗るなよ?

 

「乗った! 次は勝つ!」

 

 駄目じゃこの男。正気じゃない。どう見ても敗ける勝負なのに、何でそんなに楽しそうに笑って……。これだから酔っ払いは。

 

「んふふっ。家族で遊ぶって素敵なのです……!」

 

 ……。仕方ない。付き合ってやるとするか。予言するが、この神経衰弱は勝てないぞ。被身子相手に記憶力で勝負するなど、無謀でしかないんじゃ。

 父よ、被身子が学力特待生であることを忘れていないか? 忘れてそうじゃな。ぽんこつじゃし。

 

 

 で、じゃ。この後、儂と父は被身子と母に何度も挑むんじゃけど……。まぁ、結果は悲惨なものじゃった。けど、結構楽しめた。

 

 たまにはこうして家族と遊ぶのも、悪くはないのぅ……。

 

 

 

 

 






三人称による補完は要りますか?

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